青二才、二十一人目「美しいものを凍らせてみたい。 野菜や果物に草花を、カクテル氷に閉じ込めるのが好き」

【連載】世界の新生態系ミレニアルズとZ世代は「青二才」のあれこれ。青二才シリーズ、二十一人目。
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「最近の若いのは…」これ、いわれ続けて数千年。歴史をたどれば古代エジプトにまで遡るらしい。
みんな、元「最近の若者は……」だったわけで。誰もが一度は通る、青二才。

現在、青二才真っ只中なのは、世間から何かと揶揄される「ゆとり・さとり」。米国では「ミレニアルズ」「Z世代」と称される世代の一端だが、彼らもンまあパンチ、効いてます。というわけで、ゆとり世代ど真ん中でスクスク育った日本産の青二才が、夏の冷やし中華はじめましたくらいの感じではじめます。お悩み、失敗談、お仕事の話から恋愛事情まで、プライベートに突っ込んで世界各地の青二才たちにいろいろ訊くシリーズ。

***

どうも先月ぶりです。あんなに積もった雪もやっと溶けきり、少しず〜つ春の兆しが感じられる今日この頃……はい、春先にすすめた記事をいま、この真夏にあげているのでございます。

二十一人目に紹介するのは、ロサンゼルス在住のアイス・キューブ・アーティスト、レスリー・キルホフ(Leslie Kirchhoff)、29歳。

元N.W.A.(ヒップホップ・グループ)のラッパー、アイス・キューブではないんでね。アイス・キューブ・アーティストとは、文字通り「キューブの氷を作る」アーティストのこと。1本の氷柱を削る氷の彫刻家とも、極寒の地で天然氷を作る氷職人とも違います。レスリーが作るのは、ハーブや野菜、ブランドのロゴや不恰好な植物といったものを閉じ込め、“いまの感覚”で作りあげる〈カクテル用の氷〉

2018年にカクテル用の氷をデザインする「DISCO CUBES(ディスコ・キューブス)」を創業して以来、カクテルを味覚的にも視覚的にも楽しめると大評判。顧客にはルイ・ヴィトン、ラルフローレン、モエ・エ・シャンドンなど高級ブランドが名を連ねる。しかもこれ全部、営業も広告も出さずして、自身の繋がりとソーシャルメディアから仕事を得てきたという。

グラスに入れるカクテル氷を、二度とない姿形で作りあげる仕事。独特の世界観と、溶けゆく氷に対する彼女の制作のこだわりが知りたい。ヴォーグの誌面を撮る写真家でもあり、世界中のダンスフロアを沸かせるDJとしても活動するレスリー。多忙だろうなあと思いながら連絡すると「I’d love to participate(是非とも)」。さていきましょう「青二才・アイスキューブ・アーティスト、レスリー・キルホフのあれこれ」。


レスリー。

HEAPS(以下、H):こんにちは!レスリーの作る氷、ずっとインスタグラムで見てきたんです。現在はロサンゼルス在住なんだよね?

Leslie Kirchhoff(以下、L): ディスコ・キューブスを本格始動するために、3年前にロサンゼルスに越してきた。 ニューヨークには7年間住んでたよ。

H:カクテルの氷に興味を持ったきっかけは、ニューヨークにある某ホテルのバーでの出来事。カクテルとラベンダー入りの氷を注文した際、その氷の形が残念だったのを機に、自宅キッチンで氷作りの研究をはじめたんだよね。

L:研究を始める前は、氷の知識なんてな〜んにもなかった。カクテル用の氷の作り方をググったりもしたけど、あんまりヒットしなくて。だからネットに頼ることもあまりせず、ただただひたすらにアイデアを出しては試行錯誤を重ねていた。

H:とりあえずやってみる、という感じだったんだ。そしてその研究は4年にも及んだという。どんなことしてたの?

L:最初はキングサイズの製氷皿を使って、5センチ程の大きな氷を作っていた。実験要素を入れながら作っては凍ったら確認、ていうのを数日ごとに繰り返してた。ひたすら。

H:地道な作業の繰り返しだったんだ。研究をはじめたのは探究心から? のちのディスコ・キューブスに繋がるようなアイデアはあった?

L:最初は興味本位で楽しむために実験してたけど、そのうち商品化の可能性に気づいたんだよね。それからビジネスにできたらいいなとは考えていたんだけど、まだ早いんじゃないかとも思ってた。

H:なんで?

L:当時は仕事も旅行もたくさんしてたから! それにビジネスとして拡大させるスペースも、成長させる準備も整っていなかったし。ニューヨークでローンチするのは現実的ではないなって思ったのもあるかな。

H:それでより広いスペースを確保できるロサンゼルスに引っ越したわけか。そもそもカクテル用の氷市場って、ものすごくニッチなイメージだったけど、実はレスリーがディスコ・キューブスを創業した2018年には盛り上がりが見えていた。たとえば、水道水ではなく精製水を使用し純度の保証された高級カクテル用の氷を割高で販売したり、職人が作ったカクテル用の氷を自宅でも楽しめるようにとクラフトアイスを販売したりと、市場は賑わいを見せていたもよう。レスリーから見た当時のカクテル用の氷ってどんな印象だった?

L:人気ではなかったイメージかな。だから逆に「まったく新しくて楽しいもの」を作る機会だと思ったんだ。

H:なるほど、質を上げてこだわっているけど、「新しくて楽しい」ものではなかったんだね。だからこそ、レスリーがはじめたさまざまなアイデアが新鮮で注目を集めた。特にレスリーのシグネチャーといえば氷の中にハーブや野菜、ブランドロゴやアグリーな植物といったいまどきの感覚を詰め込んだ作風。これ、どうやって素材を中心にキープしたまま凍らせてるの?

L:それは教えられないなあ(笑)。企業秘密。

H:やっぱしダメかあ(笑)

L:素材を氷の中心にキープしたまま凍らす方法は、考案するのに一番時間がかかったもの(笑)

H:こういった独特のアイデアやインスピレーションってどこからくるの?

L:食べ物や果物、花を凍らせたときの美しさにとても感銘を受ける。いつもカクテルのことを考えているわけではなく「美しいものは何でも凍らせてみたい」と思ってしまう。

H:その「美しいもの」を選ぶ基準、気になる。

L:特に目を引く野菜や果物、草花を選んで、氷に入れるのが好き。氷の中での質感や色味が綺麗でね。

H:特にハーブや花は一段と綺麗。レスリーの作品は見ていて飽きない。

L:ハーブや花は自分で摘んだものを使っているんだ。庭でたくさん育てているから。でもそこにはない多様な色や特定の色が必要なときは、地元の農家に注文する。

H:ほかにも、ハバネロや唐辛子、えのきやラディッキオ(チコリの一種のイタリア野菜)など「それ凍らす?」ってものもあって、かなりバラエティに富んでます。これまでにやってみたけど失敗したり、物理的に無理だったものとかある?

L:クルミを入れたときは、見た目がよくなかった(笑)。氷って、予測不可能なの。気泡が入ったり曇ったり、入れた素材が凍結中にその氷の中で動き回ったりと、どうしても失敗してしまうことがある。だから受注品を作る際は失敗作ができたときのことを考慮して、15パーセントほど多めに作るのがコツ。

H:でも、気泡が混じったランブータン(ライチに似たトロピカルフルーツ)の作品は、植物の呼吸を表現しているみたいで逆に美しいと思いました。

L:気泡は自然に発生するものなの。凍ってる途中に発生すると、3D要素が加わったみたいで、実は私も好き。

H:ウェブサイトでは、100種類以上のオリジナルカクテルレシピを紹介する本も販売。が、ソールド・アウト。中身が見れないのが残念…。掲載レシピのから、レスリーのお気に入りのカクテルとそれに合う氷を教えてほしい。

L:唐辛子のテキーラドリンク「GraceOnFifre(グレース・オン・ファイヤー)」に合う、パイナップルジュースで作る氷が大好き。あとは、ジンとスナップエンドウのカクテル「The Al Green(ザ・アル・グリーン)」に入れる、スナップエンドウとミントで作る氷も。

H:もう組み合わせだけで突飛で素敵だ…。そういえば昨年のパンデミック中、シカゴのカクテルバーThe Sixth(ザ・シックス)では、ミーム画像(ネット上で拡散されるネタ画像)を中に入れたおもしろカクテル用氷をオンライン販売していたけど、レスリーみたいな、いまどきの感覚を詰め込んだ作風のアイス・キューブ・アーティストって他にいる? アグリーな植物を使ってみたりとか。

L:世界には美しい作品を作る氷ビジネスがたくさんあるけど、この作風の人はいないんじゃないかな。私がやってるみたいに、デザインと花やハーブをうまく組み合わせ、さらに氷の真ん中で凍らせるスキルを持つ人はいないと思う。

H:ディスコ・キューブスは、SNSでの見せ方も含めて世界観がある。氷をただいい感じに見せるというよりは、その世界観の中で氷が存在感を放っている感じ。これも全部自分でやってるの?

L:ありがとう! うん、全部自分でやってる。世界観のコンセプトは「“レトロな未来のディスコ”と“実験室”が、出会ったら」。「サイエンス、プラス、パーティー」みたいなね。でもディスコ・キューブスが一番大事にしているのは、氷を見てる人に楽しい時間を過ごしてもらうこと。

H:そんな科学とパーティの世界観に魅了され氷を注文するのは、ルイ・ヴィトン、ラルフローレン、モエ・エ・シャンドンなど高級ブランドばかり。

L:氷は高いしまとめて作るのが難しいから、こうした高級ブランドのイベント用にのみ販売しているんだ。

H:高いとは、おいくら?

L:氷ひとつで10ドル(約1,000円)から20ドル(約2,000円)以上。

H:カクテル一杯と同等、もしくはそれ以上の値段だ。さっき話した水道水じゃないカクテル用の氷一つが約700円だから、結構お高め。

L:だから、レストランやバーには販売しない。私が作るカクテル用の氷って、マーケティングツールや写真撮影用として役割を果たすから、ゲストを驚かせたいブランドイベントに需要が集まるんだ。

H:なるほどね。他にもミュウミュウやプレイボーイ、下着スタートアップのパレード、それからニューヨーク発の大人気コスメブランドグロシエーなど、たくさんのブランドが名を連ねる。どうやって1人でこれだけの顧客を獲得できたんだろう?

L:営業も広告も出したことがないから、すべてコネクションやソーシャルメディアを介して繋がったの。ニューヨークに住んでいたときに、友人やブランドとのネットワークを構築していたから。

H:どんなデザインの氷が人気のなんでしょう。

L:一番人気のデザインは、ブランドのロゴに花を添えたもの。これはデザインの中でも一番、値も張ります。おまかせでゼロから自由にデザインさせてくれる顧客もいれば、ただ希望のデザインが欲しいだけの顧客もいる。私はやっぱり、自分のクリエイティビティを活かせる方が好きかな。

H:でもさ、儚いかな、氷っていずれは溶けてしまう。

L:だから写真を撮るのも見るのも楽しいんだよね、きっと。

H:ほぅ。

L:永続的に存在しないってわかっているからこそ、魅力的なんだと思う。

H:最終的になくなってしまう氷に対して、どんな思いで作品を作っているの?

L: 青果や草花を氷の中で凍らせて透明な3Dキャンバスを作ることって、自分で撮影する被写体を作る、楽しくて実験的な方法だと思ってる。それはほかのどんなクリエーションとも違って、つねに驚きの連続。

H:そんな想いがあったんだ。これから挑戦したいことってある?

L: もっとたくさん動画を作りたい。氷のタイムラプス動画(時間を凝縮することで変化が一目で見える、コマ送りのような映像)とかね。他にもまだまだアイデアはたくさんあるよ。

H:氷ができるまでの過程か。おもしろそう。最後は、レスリーの「カクテルにとって氷はどんな存在か」の持論で締めてもらおうかな。

L:氷は、飲み物をつめたく冷やすだけじゃない。美しさや風味をあたえて、カクテルをもっと楽しむことを教えてくれる、新たな手掛かりだから。

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Aonisai 021: Leslie Kirchhoff


レスリー・キルホフ(Leslie Kirchhoff)
1992年生まれ。
2018年にカクテル用のオーダーメイド氷をデザインする
「ディスコ・キューブス」を創業した、アイス・キューブ・アーティスト。
顧客にはルイ・ヴィトン、ラルフローレン、モエ・エ・シャンドンとハイブランドが名を連ねる。
アイス・キューブ・アーティスト以外でも、ヴォーグの誌面を撮る写真家として
世界中のダンスフロアを沸かせるDJとしても活動する。

@discocubes


All images via Leslie Kirchhoff
Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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