編集部が選ぶ今月のZINE3冊。テーマは〈恋を抜ければ〉心理的虐待と別れられなかった3年間、失恋ポストの慰めコメント集

熱愛中の「会いたくて仕方ない気持ち」を、お腹が空いた感じ、喉が乾いた感じ、どっち? みたいな心理テストあったよね。
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外出禁止令発令中のニューヨーク。暇なもんでネットサーフィン(死語)してたら、製本キットとやらを見つけたんです。それは「Bookbinding Kit: Japanese Sewing」という、日本の製本技術「和綴じ」のキット(スペイン製)。中身は。ハードカバーになる厚紙、その厚紙に貼る和紙5種、本を綴じる糸2種、製本用の糊など。家でのたのしいことが必要ないま、ハードカバー付きジンでも作ってみるのもありですね。

世界一敷居の低い文芸で、ルールが存在しない世界一自由な文芸「ジン(ZINE)」。今月紹介するのは「女の恋愛事情」を綴った3冊。待てど暮らせど一向に現れない白馬の王子。ならばこちらから出向くまで、とスワイプしまくる日々。

***

恋人探しって、一筋縄ではいかない。
出会い系アプリのジレンマ『Dating Dilemmas

作った人: imajanation(イマジャネーション)


Image via imajanation

出会い系アプリで運命の人を探すのは至難の技。作者が感じた周囲からのプレッシャーやこれまでデートを重ねた相手のことなどなど、恋人探しへのジレンマを綴ったのが「Dating Dilemmas (デーティング・ジレンマ)」。スワイプ経験者なら、共感できるかも。

———自らの出会い系アプリ遍歴を綴ったジン。

毎回デート後に、友だちや家族に報告するたびに爆笑されて。「おもしろいからイラストにしたらいいじゃん」なんて言われて、試しに自分のデートをネタにした短編集をインスタに投稿したら大評判。で、ジンも作ってみるかという流れ。

———出会い系アプリって、何使ってたんです?

Tinder(ティンダー)Happn(ハップン)Bumble(バンブル)Hinge(ヒンジ)。デザインが気に入らなくて消しちゃったのもあるけど。仕事がデザイナーだからか、ついついそういうところに目がいっちゃって。

———洗面所で自撮りする半裸マッチョタイプ、グループ写真1枚しかないからどれが本人かわからないタイプ、赤子を抱く写真をあげといて紹介文で「僕の子ではないよ」と強調するタイプ。このカテゴライズ、本当その通り(笑)

あと、いきなり連絡が途絶える「ゴーストタイプ」とかね。

———さぞジンの評判はいいことかと。

たくさんの人から「共感できておもしろい。なんなら心を揺さぶられた」って感想もらった。スワイプ経験者なら誰もが共感できる内容になってると思う。

———ではスワイプ玄人から、現在進行形でアプリを愛用している女性にアドバイスを。

いろんな人と会うことって、すごくいいことだと思う。デートを重ねることで自分の理想が明確になることもあるし。でも、スワイプに時間をかけ過ぎるのからは抜け出した方がいい。時間がもったいないし、自分磨きや好きなことにもっと専念したほうがいいよね。

心理的虐待を受けても、別れられない。
恋人との正しい距離の取り方って?『The Colours of Our Relationship

作った人: Sasha Stowe(サシャ・ストウ)


Image via Sasha Stowe

「恋は盲目」とはよく言ったもので、ときに常識を失い、冷静な判断ができなくなってしまうことがある。「The Colours of Our Relationship(ザ・カラー・オブ・アワー・リレーションシップ」は、恋人から心理的虐待を受けながらも別れられなかった3年間を回想する。

———過去の恋愛をジンにしたんですね。

過去に付き合ったひとりに、虐待をする人がいて。虐待といっても暴力の方ではなく、精神的な方。

———と、いうと?

わざと嘘の情報を伝えたり、些細な嫌がらせを繰り返して精神的に追い込む「ガスライティング」を受けていたの。

———具体的にどんなことをされたんでしょう?

私は母子家庭で育ったから、母とはすごく仲良くて。それを良く思わなかった元恋人は「君のお母さんは過保護過ぎる」と、母との距離を遠ざけようとしてきた。あと、その人はミュージシャンだったんだけど、私の好きなバンドの曲を「こんなのクソじゃん」と罵ってばかりいて。そのせいで曲を聞くのを止めた。

———小さな否定を積み重ねていくんだね。つき合った当初から虐待の兆候はあったの?

3年ほどつき合ったんだけど、心理的虐待を受けてるという自覚がなかった。本当に小さなことの繰り返しだったから、決定的な確信がなくて。積み重なることで追い詰められていく。

———いつ、傷つけられていることがわかって、辛いと自覚したの?

恋人以外の他人と関係を持つことを容認したうえでつき合う「オープン・リレーションシップ」を持ち出された頃には、私にしてくる虐待ももっと明らさまになっていて。どこまで私を苦しめるつもりなのかと思った。それに、私自身の自立心とかそういう、インデペンデントでいようとする気持ちがすごく侵食されているかがわかったんだ、彼を失うことが何よりも信じ難いことで。結局、その時はオープン・リレーションシップを認めてしまった。

———ジンでは、カラーを取り戻していく内容だけど、そうなるにはどんな日々が?

ダークタイムがひたすら続いてた。何をしても気分は晴れないし、とにかく一人でただ部屋にいたかった。どんどん酷くなるからセラピーを受けたんだけど、そこでやっとこのまま彼と一緒にいてもダメだと気がついて。彼は自分のしていることがどんなことなのかを知ろうともしないだろうし、きっと変わらないし、別れるしかなかったんだって。真っ暗になった私の生活に、色を取り戻すにはそこから抜け出すしかないって、やっとわかったの。

「くたばれ、あんなクソ野郎!!」
SNSの失恋投稿への、慰めコメント集『Messages From Your Friends Upon the Announcement of Your Breakup

作った人: Amy(エイミー)


Image via Amy

フェイスブックに投稿されていた、友人の「別れちゃいました」ポスト。書き込まれていたのはたくさんの慰めコメント。こりゃ興味深いとスケッチブックに書き留めて、ジンにしちゃいました。「Messages From Your Friends Upon the Announcement of Your Breakup(メッセージ・フロム・ユア・フレンズ・アポン・ジ・アナウンスメント・オブ・ユア・ブレイクアップ)」。

———まずアイデアがおもしろいね。

実際にコメントを読んでるときに思いついたんだ。もうたーくさんのコメントがあって。その失恋投稿に。

———どんなのがあったの?

「こんないい女を手放すなんて馬鹿な男だ」系の、怒りを代弁してあげるタイプ、「ワオ。まじで?」系の驚きタイプ、「もっといい人見つかるよ」系の励ましタイプ。

———個人的には「Screw him. Bastard!!(くたばれ、あんなクソ野郎)」のコメントが清々しくて好き。「これはないわ〜」みたいなコメントってあった?

「いつかきっと、私の彼氏みたいな素敵な人と出会えるから」ってやつ。

———うわあ…

恋人と別れて悲しんでるのに、もっと思いやりのあることを言ってあげられないのかね。

———もしいま友人の失恋投稿を見たら、なんてコメントする?

悲しい顔の絵文字だけ残して、直接メッセージして話を聞く。

———ちなみに、これまで自分でも失恋投稿したことってある?

昔はしてたねぇ。でもいまの時代、誰がみてるかわからないじゃない? 職場の同僚や親戚、パーティーで1回しか会ったことない人とか。だから個人的なことは前ほど投稿しなくなった。

———確かに。投稿して、それをネタにジンを作られちゃう可能性だってありますもんね。ははは。

Eye Catch Image via imajanation
Text by Ayano Mori
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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