編集部が選ぶ今月の1冊。日本の年末年始にやってきた人、見つめた東京。嘘のように変わる街、静けさ、愛、観察紀行

クリスマスにはギュッと腕を組むカップルが増える。初詣では皆きちんと並んでいる。誰も割り込まない。
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寒さが一段と増す今日この頃。年末年始の忙しさを抜け出したあとは、正直、休日は家でぬくぬくしていたい。コタツにひっついてジン作り、悪くないでしょう? お供はあっま〜いホットチョコレートで。

HEAPSでは毎月、2冊のインディペンデントな出版物を取りあげています。1冊は雑誌から、1冊はジンから。いずれも個人たちの独立した精神でつくられる出版物だが、特にジンからの一冊は、時代性、社会性、必要性などの存在意義も問わずに、世界一敷居の低い文芸・ルールが存在しない世界一自由な文芸「ジン(ZINE)」のおもしろさを探っていきます。

さて、今月の一冊は、オーストラリアから訪れた若者が、日本の年末年始をフィルムカメラと言葉で観察を紡いだジン。

***

ミッドナイト・オショウガツ
MIDNIGHT OSHOGATSU

作った人:Aaron Eames(アーロン・イームス)

遅ればせながら、明けましておめでとうございます(ギリギリ1月中に間に合いました)。2022年もヒープスをよろしくお願いいたします。さて、新年を祝う日本の文化、お正月。今月紹介する『MIDNIGHT OSHOGATSU(お正月観察紀行、とでも訳そうか)』は、オーストラリアから日本を訪れた作者が、年末年始に東京の街と行きかう人びとをカメラ片手に観察して作りあげた一冊。日本のクリスマス・お正月って、外国人から見るとこう見えるのか。

———オーストラリアから日本に。季節が真逆だから、太陽ギラギラの夏からキンキンに凍える冬に飛んできたんですね。

私のパートナーは、日本とフィンランドにルーツがあるから、せっかくだから年末年始の休暇で東京を訪れようとなってね。以前にも東京を舞台にしたジンを作ったことがあったんだけど、今回のジンではもっと「写真の語り方」を追求して、写真と語りがしっかり融合する一冊にしたんだ。

———以前作ったジンとは『Midnight Tokyo Blues』のことですね。うっとりするほど素敵なタイトル。

そうそう。96ページのモノクロフォトジン。

———なかなかのボリューム。

でも、前作では「東京のお正月感」を思う存分表現できなかったなって感じてたんだ。お正月の東京って、街のリズムが変わって、人々も静かになって、いつもよりゆっくりした時間が流れているよね。

———だから今回の『MIDNIGHT OSHOGATSU』では、その様子をより深く切りとったんだね。写真は昔から好き?

うん。小さい頃に英国からオーストラリアに引っ越した自分にとって、英国での思い出を見返す唯一の方法が写真だったからね。僕の写真は、アンディ・ウォーホルや森山大道からインスピレーションを受けてるよ。

———モノクロのきっぱりしたコントラスト、あえて荒れてる粒子、潔い刹那のブレ。被写体はどう選んだの?

直感かなあ。街なかや小さな路地を歩きながら、自然でも人でも、目に入るものすべてのなかから「これだ!」と感じた直感を頼りに、シャッターを切った。1枚(もしそれがダメなら2枚)だけ撮ることに、こだわった。撮った写真は翌日まで見ずに、あとから冷静に見なおしてピンときたものを選んだ。

———ページをめくってみると、「不二家の店前に立っているペコちゃんさえも、サンタ帽をかぶっている。なんの宗教的要素もなしに」「クリスマスが近づくにつれて、腕をギュッと組んだカップルがどんどん街に現れる」という観察が。私たち日本人にはない「日本のクリスマス観」が垣間見れておもしろい。なかでもとくに不思議と感じたことってある?

初詣!東京大神宮に行ったんだけど、みんなが整然と同じ体験を共有している様子は感動的だった。静かにきちんと並んでいて、誰も列に押し入ろうとはしない。個人主義が目に見える文化圏から来た僕にとって、それは溢れるような謙虚さを感じる体験だった。

———そういうの聞くと、うれしいなぁ。

あとね、クリスマス翌日に街並みが一変していたことにも驚いた、ほんとに。前日まで人でごった返していたのが嘘のようだった。オーストラリアの街もクリスマス後は人通りが少なくなるけど、日本ほど極端には変化しないし。

———積極的に街に出て、自分の目で街の様子を観察していたのが伝わってくる。

駅のホームで男性が英語で話しかけてくれたこともあったよ。彼は昔、英語教師をしていたらしく、外国人観光客を見かけるといつも声をかけるんだって。普段の通勤時間帯だったら、あんな風にゆっくり話すなんてできなかっただろうね。

———「太陽は一番高いところまで昇っている。やがて沈み、寒い夜が訪れる。私は通りを歩いていて、人もそれぞれの方向に向かっている。それぞれの、個人的な旅。それらはいまここで、そしてこれからも交じりあいながら進んでいく」、ある1ページから抜粋です。淡々とした描写がフィルム写真とよく合ってる。

語り方に悩んでいたときに、日本の私小説スタイルを思い出したんだ。すべて一人称で語ってみたら、これがうまくハマったんだ。

———異国の地でカメラを手に作りあげたジン。作ってみて、どうだった?

英語しか話さない私は、ほとんど誰とも話さず、当然まわりから聞こえる会話もわからない状態だった。だからこそ、言葉のある世界から切りはなされて、視覚に集中していった。観察し続けて見えてきたこともあります。

———なんでしょう。

みんな、愛する人と過ごす時間を求めてるんだなぁ、って。平和を求めて、大切にされているという感覚を求めて、未来への希望を思っている。

Eye Catch Image via MIDNIGHT OSHOGATSU
Text by Iori Inohara
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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