時代の変容とともに、その姿カタチを変えてきたフェミニズム。その表現・主張方法もさまざまで、あるときは小説、あるときはアート、そして音楽をプラットフォームに訴える。フェミニズム史の中でも少し毛色の違ったムーブメントに「ライオットガール(Riot Grrrl *)」がある。彼女たちの武器は「パンクとジン」だった。特にジンは、ムーブメント下のコミュニティ形成に大きく寄与した。
*米国ワシントン州のオリンピアにて1990年代に生まれ、のちに全米に広がったフェミニズム・ムーブメント。Bikini Kill(ビキニ・キル)といった地元のガールズパンクバンドが中心となって性差別のない社会、女性の社会的・政治的・経済的地位の向上を目指した。
ライオットガールムーブメントにいたバンドらが作ったジンは、ザ・DIY臭が香ってくるカット・アンド・ペースト、コラージュ、修正液の跡、スペルミス満載。紙も安ガミでモノクロ刷り。特有の粗野さが印象的なそれらは“ライオットガールのマニフェスト”だったとも言えよう。
その粗野なライオットガール期のジンを、心酔する先輩フェミニストたちのスピリットを受け継いだ。若きパンク女子デイジーちゃんがかつてのジンを現代版にアップデート! それが、ジン『Women Who Rock!(ウィメン・フー・ロック!)』だ。
パンク、ブルース、ソウル、ディスコ、R&Bにカントリーにフュージョンなどなど、年代、ジャンル、肌の色を越えてロックンロールに生きた女性ミュージシャンたちを集約。その例を挙げてみると…、
ライオットガールムーブメントを牽引したバンド「ビキニ・キル」のフロントウーマン、キャサリン・ハンナ。
説明不要な“パンクのゴッドマザー”ことパティ・スミスに、ブリティッシュパンク界の嬢王スージー・スー、
作者が一番好きな女性アーティストに挙げる、LAパンクガール、アリス・バッグ。
ジャズやアメリカンポップス、ソウルミュージック、R&Bを横断した伝説のシンガー、ニーナ・シモンに、
クイーン・オブ・ディスコのドナ・サマー。
その他にもエリカ・バドゥやクィーン・ラティファなどパワフルなブラックシンガーたちの姿も。
現代版、についてデイジーちゃんから一言。「ライオットガール期のジンもとても好きだけど、作り手はだいたい白人で“人種”はあまり語られてはいなかったわ。有色人種の女性、ワーキングクラスの女性、トランスジェンダーの女性の目線でもなかった。だから、有色人種である私のジンは、DIYパンクやジンカルチャーが欠いてきた多様性を表現していると思う」。白人パンクロッカーたちが女性にもっと権利を!と訴えていたフェミニズムから20年。現代パンクガールがジンで体現したいのは、女性であることと同様に大切な多様性だ。
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All images via Daisy Salinas
Text by Shimpei Nakagawa, edited by HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine