「牛のマスク」で女性を守る。あの根深い社会問題に、報道写真より「シュールな風刺アート」が効くのはなぜか
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牛のマスクを被ったインドの女性たち。「これを被れば怖くない。私たち、神様みたいでしょ?」。これ、おふざけではない。彼女らは切実だ。

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©Sujatro Ghosh

女性よりも「牛」の方が大切ですか?  
 

 インドでの女性に対する暴力問題。特に、2012年に報道された23歳の女子大学生がバス車内で集団レイプされ死亡した事件の全容は、その深刻さを如実に示し人々を驚愕させた。国内では抗議行動が活発化、当局には有効な防止策を求める声が内外で高まっている。だが、それでもレイプ事件は後を絶たない。
 そんな中、インドの首都デリで撮影された、牛のマスクを被った女性たちの写真が、SNS上で世界中から注目を集めている。「国内でのプロテストやデモ行進は熱を増している。プラカードを持って街を練り歩くやり方を決して否定はしない。ただ、ぼくは違ったやり方で訴えたかった」と話すのは、現在は首都デリを拠点とする報道写真家のスジャトロ・ゴッシュ、23歳だ。

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@sujatroghosh

 たとえば、街で男性から卑猥な視線や言葉を投げかけられて不快な想いをしている女性をみかけたら「見ぬ振りをせずにその男性に殴りかかろう、とか、そういった行為は、ぼくの選択肢にはありませんでした」。でも「この国の現状を変えるために、何かしらの行動を起こさなければならない。ぼくにできることは何か。その答えを探すのに、やや時間がかかった」と明かす。そんな彼が見つけた答えが、社会風刺アートプロジェクト。この報道写真家は今回、現状そのままの写真を世間につきつけるのではなく少しひねりを加える。女性に牛を被らせて写真を撮った

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©Sujatro Ghosh

自分の国の矛盾をスマートに客観視、世界に向けて発信

 ヒンドゥー教の人々にとって牛は「神の使い」。神聖な生き物として大切にされている。「この国では、牛を守ることを成文化しこれほどまでに熱心になれるのに、なぜ同じように女性を守ることを成文化することができないのか」。
 
 この疑問こそが、社会風刺プロジェクトの発端だという。長年の間、インドのほとんどの州で、牛を傷つけることや殺すことは法律で禁じられてきた。最近ではインド西部のグジャラート州の議会で、牛を殺した場合の最高刑が終身刑にまであがったことが記憶に新しい。

 動物を大切にする。いちヒンドゥー教徒として「そこに異論はない」という。だが、「牛を殺傷した場合、すぐに逮捕・投獄されるのに、女性に対するレイプや暴行事件は、評決が出るのに5−7年もかかるというのは、明らかにおかしい」。リベラルかつ上等な教育を受けたスジャトロのような国民にとって、この状況は「明らかにおかしい」。そして、インドは多宗教国家であるにも関わらず、非ヒンドゥー教徒にも「牛を食べるな、殺すな、販売するな」と、自分たちのルールを押しつけるのも「おかしい」のだ。自分の国を客観視し、世界のリベラル派が「それはおかしい」と思うであろう「牛への(過剰な)信仰」と「女性蔑視」、この二つを掛け合わせたところに彼のスマートさが光る。

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©Sujatro Ghosh

   

目を背けられそうになったら「風刺アート」が効く  

世間の問題を真正面から真面目に批判するモノにはいまいち力の持続性がなく、真面目であるほど弱りやすい、というパラドックス」について、以前、ミレニアルズ・オブ・ニューヨークの記事でも触れたが、ここでも同じことが言えると思う。
  
 デモ行進を行う人々の姿や、辛い体験を涙を流しながら語る被害者女性の姿を真正面から切り取った映像や写真は、確かに重要で訴求力もある。しかし、SNSの特性を考えたとき、人々はそれを毎日繰り返し目にするわけで、そうなると問題の根が深いだけに目を背けたくなった人も少なくないのではないか。“目を背けられる”、それを一番避けたいのに。その疑問があったから、報道写真ではなく風刺アートでインドに住む女性たちの声を切り取ることを決めた。
 無表情の牛マスクを被った二足歩行の人間が、街中にひょっこり。決して笑いを狙っているわけではないはずなのだが、どの写真もクスッと笑えるシュールさがある。それゆえか、いつ何枚見ても気分が沈むことはない。

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©Sujatro Ghosh

「最初は友人や知人女性に、モデルになってほしいと頼んでいた」が、いまでは「あなたのプロジェクトに参加したい」と、インド全土からたくさんの志願者がSNSを通じで連絡をくれるようになったそう。仮面を被ることでモデルの匿名性が保てることも大きい。写真が拡散されても、モデルの女性が身の危険に晒される可能性は稀だ。参加する女性については「中学生から自分の母親くらいの女性まで年齢層は様々。そして、ヒンドゥー、ムスリム、クリスチャンと彼女たちの宗教観もいろいろ」。

 インド国内には、「自分の想いを世に伝えたいが、仕返しが怖い。また、そうすることで家族を心配させたくない」という女性たちがたくさんいる、という。2015年のインド犯罪記録局(National Crime Records Bureau)によると、少なくても34,651件のレイプが報告されているが、「実際は、報告件数の約10−13倍のレイプ事件が起こっている」とのこと。スジャトロは、写真を通して、実際のモデルの女性の声を伝えている。入り口はシュール、そこから見た人にしっかりと声を届ける。

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©Sujatro Ghosh

“このマスクを被って通学すれば、いままでのように男性からハラスメントを受けることはなくなるでしょう。
だって、マスクをかぶった私の見た目は『神様』でしょ? 神様にハラスメントをする人なんて、いないもの。

この国では、信じられない数の女性へのレイプや痴漢、暴行事件が起こっています。
国の半分もの人間(女性)が、自分もレイプ事件に巻き込まれるのではないかと怯えながら生活をしています。
宗教の教えに従い、牛を大切にすることに熱くなれても、
女性の人権を尊重することができないなんて。
それはこの国の深刻な病です。

このマスクを被ると心が安らぎます。
それは卑猥な言葉や淫らな視線を浴びせられる日常から解放された気分になれるから。
そして、しなやかな強さがみなぎってくるのは、
この間違った世の中に対して
怯えることなく自分の意見を発信することができるから”

 現在、スジャトロはクラウドファンディングサイト「BitGiving」で、インド全土をまわるための資金を募っている。インドの市井の女性たちの声をSNSを使って世界中に伝えるために。

Interview with Sujatro Ghosh

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Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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