青二才、二十三人目「世の中のいろんな靴をセラミックで作ってみたい。失敗したら仕方ない。毎回、少しずつ改善していくだけ」

【連載】世界の新生態系ミレニアルズとZ世代は「青二才」のあれこれ。青二才シリーズ、二十三人目。
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「最近の若いのは…」これ、いわれ続けて数千年。歴史をたどれば古代エジプトにまで遡るらしい。
誰もが一度は通る、青二才。
お仕事の話から、お悩み、失敗談、恋愛のことまで、プライベートに突っ込んで世界各地の青二才たちにいろいろ訊くシリーズ。

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二十三人目は、久々に編集部拠点のニューヨークから。ブルックリン在住のセラミック・アーティスト、ダイアナ・ディディ・ロハス(Diana “Didi” Rojas)、27歳。“ディディ”の愛称で親しまれる。


ディディ。

米国のアートの名門大学プラット・インスティテュートの授業で出会ったセラミック・アートに度肝を抜かれて、その道へ。ただし、彼女が作るのは靴、靴、靴。とにかく大量の靴。

 スタンスミスにエアフォース、「コンバース」や「バンズ(Vans)」のスニーカーに「クロックス」「アグ(UGG)」や「ドクター・マーチン(Dr.Martens)」のブーツ。それから「バレンシアガ」や「グッチ」などのハイブランドの靴を。小さくしたり大きくしたり、とにかくこの世に存在するあらゆるブランドの靴を、セラミックでふたたび形にする。彼女が手作りしたたくさんの「重くて履けない靴」は、さまざまな企業やブランドとのコラボを果たしている。

本格的にセラミックでの靴作りを始動させたのは、同大学を卒業して間もない2015年。アディダスとのコラボレーションで試作した「巨大スタンスミス」が注目を浴びたことが大きな後押しに。

セラミックアーティストではなく、ピンポイントに深く「セラミックで靴をつくるアーティスト」。前代未聞の職業。その実態を知りたいし、セラミックの靴も直に見てみたい。実は2020年の頭に取材の約束をしていたものの、パンデミックが起こり無期延期…2年越しでついに対面取材ができました。

改装したての、彼女の共同アートスタジオにお邪魔します。それではいきましょう「青二才・セラミック・アーティスト、ダイアナ・ディディ・ロハスのあれこれ」。

Heaps(以下、H):新しいスタジオにお招きいただきありがとう。すてき。

Didi(以下、D):初めて個室作業スペースを手に入れたの! いままでより作業に集中できる。

H:いいね。じゃあ早速。まず、ディディがアートに興味を持ったきっかけは?

D:父がアーティストというのもあって、母や祖母が私たちにもお絵かきをさせたのを覚えている。

H:私たちって、兄弟?

D:うん。いつも一緒に居て、いまもとても仲良し。父がドラフティング・テーブル(製図台)に向かって絵を描きはじめたら、私たちも一緒に父の両隣に座ってクレヨンや色鉛筆で真似してみたり。

H:双子だったんだね! かわいいエピソード。セラミック(陶器)アートに打ち込みはじめたのは大学に入ってから?

D:そう。大学ではもともとイラストレーション/コミュニケーションデザインを専攻していたんだけれど、出会っちゃったんだ。なぜかセラミックの授業を取っている自分がいて。

H:セラミックアートのどこに惹かれたんだろう。

セラミックってとても肉体的な感じがするというか…。泥のような粘土で形を作りあげていって、それを焼きあげるとなにかができあがる。その感じがおもしろくって。

H:最初に作ったクレイアート作品は何?

D:セラミック製のホットドック。

H:器などじゃなく、まさかのホットドック。独特のユーモアが感じられるよ。セラミックで靴を作ろうって発想は、いつでてきた?

D:2015年、大学を卒業して間もない頃。スタジオではいつもナイキのAir Force(エア・フォース)を履いて作業していたんだけど「セラミックでこの靴を作ってみても、おもしろいかも!」って思ったのがはじまり。

それからはとにかく街で見かけるいろんなスニーカーに目が行くようになって。当時はスタンスミスやコンバースを履いている人をよく見かけた気がする。で、ふとこう思ったんだよね「ほかにもいろんな靴を、セラミックで作ってみたい」って。




H:世の中にはいろんなものがあるなかで、なぜ「靴」だったんだろう?

D:靴って、たっくさん種類があるでしょう?人の足を保護するという実用的な目的を果たすものが、いまこんなにさまざまな姿形で存在している。もはや靴は、履いている人のアイデンティティの一部みたいなものだとも思う。ストーリーを語る、その人のセルフポートレートのような。靴は日常そのものでもある。よく歩いている靴、仕事で履いてる靴、遠足に行く靴。その人の毎日が靴に投影されている、そんな気がしてなんだか興味深くて、靴にハマっちゃった。

H:同じ靴でも、履いている人によって全然違って見えたりするしね。

D:私、最近は同じ靴を何足も繰り返しつくるのが好きなんだ。スタジオに同じ靴が8足くらい並んでいるでしょう。でも、私にとっては一足一足どれも違うように感じる。この靴の色塗りやコーティングは大変だったな、とかそんなのもあるし。

H:セラミックの靴が一足誕生するまでの過程を、教えて。

D:シューズブランドのウェブサイトに行って、直感で靴をひとつ選ぶ。色に惹かれがちな気がする。特に赤い靴は好き。
作る靴を決めたら、いろんな角度の写真をパソコンに保存。それを見ながら「ソールはこんな感じに…」とかを想像しながら、靴のスケッチしていく。セラミックで靴の形をつくっていくのには、コイリング・メソッドっていう方法を用いるんだ。粘土を細いひも状にして、それを積み重ねていく方法。

だいたい3、4時間かけて形成して、2週間ほど乾燥させる。そのあとに絵具や光滑剤で色を塗る。そのあとは、24時間かけてセラミックを焼きあげて、完成。作品が大きいときはもっと時間がかかるけど。



H:どの作業工程が好き?

D:形をつくる作業。とっても瞑想的だから、一番好き。ほかの作業はそんなに。「OK」って感じかな(笑)

H:実物を見ながらではなく、写真を見てつくっていくとは驚き。想像力がとてもいるね。

D:厳密に再現せずに、というか同じじゃない方がおもしろいと思う。手作り感が残っている方が私は好きだし。その不完全さが作品を特別にしてくれると思うから。


犬もいました。ディディは飼っているチワワの散歩が好きで、道路のコンクリートに犬の足跡がついているのを見つけたら思わず写真を撮っちゃうらしい。

H:魂がこもっているハンドメイドって感じがする。ちなみに、スニーカー、ブーツ、サンダル、ハイヒールなどいろんな靴があるなかで、一番神経を使うのは?

D:スニーカー! ロゴ、靴紐、靴紐を通す穴とかとにかくいろんな細かいパーツがあるから大変。スニーカーの繊細なところが魅力なんだけれどね。それに比べて、ブーツは少し縫い目があるだけだから簡単。


H:スニーカーの繊細さ、あんまり考えたことなかったよ。アディダスやナイキなどのスポーツブランドから、グッチやバレンシアガなどのハイブランドまで作り、企業やブランドとコラボも果たしている。みんなどうやってディディのこと、作品のことを知るの?

D:インスタグラムやオンライン上で私の作品を見たってみんな言ってくれる。それって、とっても近代的よね。

H:コラボのなかでおもしろかったのは?

D:グッチでは、私がグッチのスニーカーをセラミックで製作しているところを動画で撮影したんだけど、自分が製作している姿を撮影されるのは初めてだった。ニコール・サルダナでは新しいコレクション用の靴の巨大版を製作したり。

H:ナイキでは、少し変化球で靴紐につけるチャームを制作したんだよね。ディディの作る巨大な靴は、迫力があってとてもアイキャッチング。

D:大きい靴に挑戦してみたかったんだ。小さい靴に比べて、製作プロセスがだいぶ大変(笑)

H:アディダスが出版した本「Stan Smith: Some People Think I’m a Shoe」でもディディの巨大スタンスミスが掲載されていたよね。バレンシアガとのコラボでも、巨大スニーカーを制作。大きい靴のどんなところが大変?

D:形をつくるのも、乾燥させるのもかなりの時間がかかる。なによりとにかく重い。たまに街を歩いてる人に「手伝ってください」って声かけたくらい(笑)。20キロ以上もの重い粘土を運んだりしているから腰を痛めちゃった。いまは体を気を使って、できるだけ小分けして運ぶようにしてる。

H:ディディが、人々が毎日使う靴というものをセラミックでつくって、今度はそもそもそれを作った企業やブランドが、ディディの作品とコラボして人々にアプローチする。

D:完全な循環ができあがるよね。私が既存の靴という商品をセラミックでふたたび作りあげている時点で、それは消費カルチャーや人の物への執着を投影している部分があると思う。今度はそれを、再びブランド側が製品の宣伝に私の作品を起用してくれる。

H:にわとりたまごみたいな循環になっていく。おもしろいね。コラボや展示会などがあるときはやっぱり多忙になる?

D:スケジュールはかなりタイト。コラボなどが決まるといつも急に大忙し。早ければ2週間で完成させないといけなかったりするから。製作にかける時間も限られてくるから、一つひとつの工程にどれくらいの時間がかかるのかというのを把握して…。



H:そこが自由な制作とは違うね。

D:実は、いまはまだセラミックスタジオを手伝うパートタイムも続けてるんだ。それ以外の時間で自分のスタジオに来て、製作に勤しむ。将来的にはアーティスト一本で生きていきたいし道のりは容易じゃなさそうだけど、いまクリエイティブな仕事をもらえていることがとてもありがたいと思ってる。

H:2015年から続けてきたセラミックでの靴づくり、振り返っていま自分が変わってきたと感じる部分は、ある?

D:「何事も全力でやる精神」かな(笑)。いつも失敗から学んでの繰り返し。結局そうやってこれまでやってきたから。失敗したら仕方ない。毎回、少しずつ改善していくだけ。


***
Aonisai 023: Diana “Didi” Rojas


ディアナ・ディディ・ロハス(Diana Didi Rojas)
1993年生まれ。
コロンビアで生まれ。4歳のときに米国ニュージャージーに家族で移住。米国のトップアートスクールプラット・インスティテュート(Pratt Institute)卒業生。
2015年からセラミックでの靴作りを開始。
彼女が手掛けた写真や動画はインスタでも公開中。

@0h_heck




Photos by Kohei Kawashima
Text by Ayano Mori
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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