青二才、二十人目「人生はソニックゲーム。レベルをあげて服を作って着る人を幸せにする。上司のために働いているわけじゃないからね」

【連載】世界の新生態系ミレニアルズとZ世代は「青二才」のあれこれ。青二才シリーズ、二十人目。
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「最近の若いのは…」これ、いわれ続けて数千年。歴史をたどれば古代エジプトにまで遡るらしい。
みんな、元「最近の若者は……」だったわけで。誰もが一度は通る、青二才。

現在、青二才真っ只中なのは、世間から何かと揶揄される「ゆとり・さとり」。米国では「ミレニアルズ」「Z世代」と称される世代の一端だが、彼らもンまあパンチ、効いてます。というわけで、ゆとり世代ど真ん中でスクスク育った日本産の青二才が、夏の冷やし中華はじめましたくらいの感じではじめます。お悩み、失敗談、お仕事の話から恋愛事情まで、プライベートに突っ込んで世界各地の青二才たちにいろいろ訊くシリーズ。

***

青二才シリーズ、二十人目。人間でいう二十歳は人生の重要な節目であるからして、青二才でいう二十人目も、いやはやめでたい。さて、そんな回に紹介するのは、コネチカット出身・ニューヨーク在住のデザイナー、フィリップ・ポスト(Philip Post)、25歳。

ストリートブランド「Dertbag(ダートバグ)」の創始者でデザイナー。その若さにして既にコネチカットとニューヨークに店舗を2つ構えるキレ者。は12歳のとき、自宅ガレージにて独学でティーシャツを刷りはじめたことからキャリアをスタートし、16歳で最初のコレクションを製作。ラッパーのタイラー・ザ・クリエイターやトラビス・スコットが着用したことで人気急騰した。米国の高級百貨店チェーンのバーニーズ・ニューヨークやドーバーストリートマーケットでも取り扱いされている(日本のセレクトショップでも販売中)。

21歳のときには、カニエ・ウエストから直々に声がかかり、ブランド「Yeezy(イージー)」のコレクションにクリエイティブディレクターとして参加。そこで多くを学び、ゆえに自称 “Yeezy(イージー)大学卒” を名乗り、独自の路線をひた走るフィリップ。23歳では、ストリートブランドでは珍しくニューヨーク・ファッションウィークに参戦し、ランウェイにてコレクションを発表した。

その唯一無二感に惹かれ早速連絡すると、数分で「I’m in it(やろうよ)」。自粛生活が開放されつつあった蒸し暑い8月(そう、取材は夏だったのである…!)。実家のコネチカットに帰省中のところ、わざわざニューヨーク店まで来てもらい、図々しくお邪魔させてもらいました。いきましょう、「青二才・デザイナー、フィリップ・ポストのあれこれ」。

HEAPS(以下、H):フィリップくん、こんにちは。

Philip Post(以下、P):いらっしゃい。お、そのバッグ(筆者私物)いいね、ちょっと見せて。

(ごそごそ)

ふぅん、中がデニムになってるんだ。


(筆者私物)

H:デザイナーの目に留まるとは光栄。自粛期間中、なにしてたんです?

P:コネチカットにある店舗兼アトリエで、次のコレクションの製作。新しいカットを取り入れて顔を隠せるようなものだったりと、コロナに対応できる服をデザインしている。パンデミック当初はアートやコラージュ、絵や音楽なんかをたくさん制作していた。ニューヨークのブッシュウィックの自宅ではなかなかできないからさ。
コネチカットのアトリエは、地元のラッパーやアーティストが集まって服やアートを見たり作ったり、音楽を聞いたりできる、安全な隠れ家みたいな場所なんだ。


フィリップくんのアート。店内に飾ってある。

H:服作りに目覚めたのはその、コネチカットのアトリエだよね。12、13歳とかだっけ?

P:そう。シルクスクリーンでクローン病*を患っていたから家にいることが多くて。その時間を使って服をつくってたんだ。自分でなんでもできる服づくりで、まったく「新しい世界」をつくる必要があったんだ。

*口から肛門までの全消化器官に非連続性の慢性肉芽腫性炎症を生じる原因不明の炎症疾患。

H:シルクスクリーンからはじまるストリートブランドは多くありますが、フィリップくんも。

P:スクリーンプリントでできるってことは、製造業者がいらないでしょ? やっぱり服を考えでつくるところまで、全部自分でできるようになれるから。要所要所で誰かから教わることはできるけど「ブランドをつくる」というのは教わることって、できないものだよね。

H:「立ち上げ」はその人の頭の中のものを最初どう形にするか、ですからね。教わってできることはそのあとだ。ちなみに、その頃好きだったブランドとか、ある?

P:ギャップはアツかった!オールドネイビーも、かっこよかった。あの頃の動物と恐竜プリントで、いまの自分になにか作りたいって考えたりするよ。あと、ポロも。

H:お、振れ幅ありますね。

P:私立の学校に通っていて、中学では制服があったんだけど、コネチカットのプレッピーな部分に影響を受けているよ。いまのデザインにもそれが含まれていることもあるし。あとは、バスケットボール部では僕が唯一の白人で、ジョーダンを履いたり、ズボンが短すぎないように気をつけてたっけ。

H:着こなしは学校でうまくやっていくための一つですよね。憧れのファッションアイコンって、いた?

P:ファレル、カニエ、ニゴ!

H:この中学時代、傍らではゴリゴリと服づくりをすすめて、16歳でコレクションを発表。

P:服だけじゃなくて、そのまわりも全部ね。フォトショップの使い方も、ウェブサイトの作り方も、全部。このロゴ、10年以上経ったいまでも愛用しているわけだけど、14歳のときにフォトショップで作つくたものなんだよ。


これがそのロゴ。

H:おお、このロゴを使ったティーシャツやパーカーはブランドのシグネチャーです。最近はこのロゴ入りマスクも販売中。さて、21歳ではフィリップの言うところの “Yeezy(イージー)大学”へとすすむわけです。カニエに指名され一緒に仕事をすることに。どんな経緯でそんなことに?

P:カニエがアルバム『ザ・ライフ・ オブ・パブロ』のレコーディング中に僕の服を着ているのをたまたま見つけたんだよね。で、彼のアシスタントの連絡先をゲットして、箱いっぱいの服を送ったんだ。そしたらその中のフレンチテリー素材のモックネックを気に入ってくれたらしく、本人から電話が。

H:わーぉ。

P:僕が送ったモックネックのこと、彼がそれについて思ったこと、アートや服づくりについて40分程話したかな。おまけに会いたいとまで言ってくれて。早速その週末にニューヨークで会って、翌週にはカリフォルニアに飛んだ。

H:展開が速い。カニエは常々、いいデザイナーを探しているのかな?それともただフィリップくんに惚れ込んだのかな。

P:両方だと思う。僕が若くて、自分の目で見極めてやっていることが気に入ったんだと思う。色合いやグラフィックなんかは特に、僕が昔つくっていたものをいまよく見るし。色やグラフィックなんかに関してね。彼は僕に独自の服づくりを見射出して、それが欲しかったんだと思ったよ。いっこ、ちょっと飛んだ話していい?

H:どうぞどうぞ。

P:昔、二人の友だちと話しているとき、僕は「カニエをライブで見たくない」って言ったんだ。「いつか彼と働くつもりだから」って。18歳ぐらいだったかな、2013年のイージーの頃だね。

H:なんと。その3年後に現実になった。イージーではどんなことをしたんですか?

P:シーズン4と5のスニーカーライン「カラバサス」のクリエイティブディレクターとして仕事ができたんだよ。自分でデザインもしたし。

H:独学でやってきた実力を発揮だ。自分ではなく人のブランで実践。だから「イージー大学」。

P:ほんとそう。サンローランやメゾン・マルジェラといったハイブランドで働いていた人たちと一緒に働く機械にもなったし。それに、自分がデザイナーとしてどんな存在なのかもわかった。まわりのハイブランドで仕事をしてきたデザイナーはみんな素晴らしいし、僕は自分を彼らより優れているとは思わないけど「リアルだ」とは思った。優れていないけど、いいやり方はしっているというか。

H:なるほどなあ。イージー大学を振り返って、よかったこととか難しかったことは?

P:大変だったのは、時間と戦うこと。いいことは数え切れない。自分に自信がついたこと、そしてその自信から展望を得られたこと。あと、自分の居場所を持てること、制作できること、自己表現できること、そういう些細なことに幸せを感じられたことかな。カニエは僕に、学んだり作ったりできる環境をあたえてくれてた。お金もしっかりもらえたから、稼いで、ニューヨークに店を持つこともできた。

あとね、ただ自分自身でいるということの尊さ。

H:ほう。それは?

P:一緒に働いているときに感じたんだけど、ある意味でカニエは、僕が持っているものが欲しかったんだと思う。それは「有名ではなくて、ただ服をつくっていて、自分自身でいる」っていう。

H:イージー大学での一番の実感。

P:そう。制作できること、自己表現すること、自分らしくい続けること、誰かが受け入れてくれること。それそのものを幸せに感じたんだよ。

H:カニエとはいまでも連絡を取っている?

P:うん、先月ワイオミング州で会ったよ。また仕事をするけれど、とりあえずいまは自分のことに集中。

H:フィリップくんのブランド「Dertbag(ダートバグ)」は、“Divine energy radiates through beauty and genius(神聖なエネルギーは、美と知を通して光り輝く)”の頭文字を取ったものなんだよね。名付けたのは、最初のコレクションを作った16歳のとき?

P:ううん、去年だよ。

H:え?

P:このニューヨーク店を開店した去年の10月。「D.A.R.E」ってロゴのティーシャツ知ってる?

H:“Drug Abuse Resistance Education(薬物乱用を防止する教育)”の頭文字を取った、子どもを薬物乱用や暴力から守る団体のティーシャツだよね。着ている人、よく見かける。

P:そうそう。友だちにそういうの作ったらいいじゃんと言われ、その場で作ったんだよね。まずは「“D”がdivine(神聖な)で、“e”がenergy(エネルギー)で…」って感じでどんどん足していった。この意味は、僕が持つ哲学の要素でもある。「僕が神聖なエネルギーを作り、それは美と知を通して光り輝くものなんだ」ってね。

H:神聖なエネルギー。なんか、いままでのストリートブランドとそのへんも違いますね。

P:そうだね、僕は自分のブランド、ストリートブランドだけど、ストリートウェアではなくアートウェアって呼んでいるんだ。ストリートウェアだけど、ハイブランドとアートの影響を受けて要るからどちらの要素もあって。他のブランドと比べて、僕のつくりたいものはよりソウルフルなものだと感じるんだ。

H:へえー、なんか、そのソウルフルっていうあたり、製作にも込められていたり?

P:うん、つくりかたにもそこらへんは工夫を凝らしているんだよ。たとえばTシャツだったら、上から下までの丈が27インチで、袖から袖への横幅も27インチ、エンジェルナンバー(神秘的な世界で、天から神聖な愛や知恵を運んでくれるとされる数字)。こういうのを使いたいんだ。それが癒しになるんだよ。そういうのにハマってる。

H:制作中はどんなことを考えてるんだろう。

P:ものを作るときはあんまり考えていない。考えすぎるのはよくないから。その瞬間に入り込んで、やり直しはせず、フィーリングに従って、ありのままでいさせる。このあたりのペイントをつかったスニーカーは全部一点モノ。自分の指先で作れば、もっと感情の込もったものに仕上がるから。

H:そういえば2年前には、ニューヨーク・ファッション・ウィークに参戦して、ランウェイにてコレクションを発表してたよね。ストリートブランドでは珍しい。

P:NYFWに参加した2018年は、服をつくって10年経ったタイミングで、節目だったんだよ。コネチカットに住む友人に協力してもらい、過去5年間に作ったすべての服を発表したんだ。モデルはコネチカットからの友人、そして姉。スタイリングも全部自分でやった。

H:やっぱり、自分でやることを大切にして要る。どんな経験になりました?

P:うーん、いい経験ではあったけど、またやるかはわからない。いまの時代には、もっとベストな方法があると思う。たとえば、アートショーや服をキャンパスに飾る、みたいなやり方でのプレゼンテーションとか。あとはね、コスチュームデザイナーとして服を短編映画みたいにするのもありだと思う。もっとみんながブランドにアクセスできるでしょ。


H:フィリップのつくるものは、ストリートウェアでありアートウェアだからこそ、見せ方や届けかたも自分なりの方法を見つけないとなのかもね。
ダートバグって、どれも手の届きやすい値段設定だよね。ティーシャツは40ドル(約4,100円)、ハットも40ドル(約4,100円)、靴下は15ドル(約1,500円)。デザイン◎、着心地◎、お値段◎。この三拍子を揃えるのって簡単じゃないと思うんだけど、どうやって実現している?

P:僕、ブランドで金儲けをしようと思ってないんだよね。だから金銭的にリッチにはなれないかもしれない。でもいいんだ、だって僕は人生においてめちゃくちゃリッチ(恵まれている)だから。このブランドは、僕の人生なんだよね。服を作り、着る人を幸せにする。上司のために働いているわけじゃないし。最大の贅沢って、欲しいものを余裕を持って手に入れられることだと思うから。

H:だから多くの人の手に届くブランドを作ることに、強いポリシーを持っているんだ。

P:人生ってさ、ソニックみたいだなと思うんだ。あ、ソニックって知ってるでしょ?

H:セガのビデオゲームのキャラ?あの青いハリネズミの。去年、映画版のソニックのデザインが原作とかけ離れ過ぎてて、痛烈な批判を浴びてたね。

P:そうそう。ゲームでは、スターやリングを集めれば集めるほどレベルアップする。僕も働けば働くほど、自分のレベルアップできる。それで服をつくって、自分のやり方を見極めていくんだ。

H:自分のやり方、つまり信念を持ってものづくりをするには、まず自分のレベルアップが必要か。なんか、そりゃそうなんだけどグッときたよ。いまどんな新しいことをしてる?

P:ちらっと最初に言ったけど、ジョシュというデザイナーと一緒に、コロナ禍と今後に向き合った服づくりをしているだよ。さっきあげた機能性だけの話じゃなくて、ヒーリング服のような新しいコレクションに取り掛かって要る。

H:ヒーリング服?

P:クリスタルや宝石を使って服を染めたり、治癒周波数をシンボルとして使っているんだ。着た人がみんな、ある程度の癒しを感じることができるんだよ。たとえば、396ヘルツ、417ヘルツ、528ヘルツ、これらが全部違うパワーで癒してくれるんだ。あとは、霊気のシンボルも深く関わっている。そういう癒しのためのコレクションなんだ。

H:なるほど。新しい意味での、着心地。新しい取り組みだ。

P:そう、ヒーリングのある着心地がいい服。ポスト・コロナへ向けた服をデザインしようとしているよ。僕の苗字、ポストじゃん?

H:うん。ポストには「〜後の」という意味があるね。

P:僕がデザインする服は、“ポスト・ウェア(〜後の服)”だって思ってる。要するに、以前から存在するデザインを吸収して、より良いものに昇華していきたいなって。いつもそう考えてるんだ。

***
Aonisai 020: Philip Post


フィリップ・ポスト(Philip Post)
1995年生まれ。
スクリーンプリントやデザインを独学し、12歳で自身のストリートブランド「Dertbag(ダートバグ)」を開始。
18歳でフラッグシップ店舗設立とともに公式デビューを果たす。
21歳のときカニエ・ウエストのブランド「Yeezy(イージー)」のコレクションに、2シーズンに渡りクリエイティブディレクターとして参加。
現在、彼の作る服はアートを融合した“アートウェア”として注目を集める。

@philiplpost


ダートバッグで働くジョッシュと、フィリップ君のお姉さん。


Photos by Kohei Kawashima
Text by Aya Sakai
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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