パレスチナ問題と揺れるアイデンティティ、TikTokからの不思議なペナルティ。米国に住むユダヤ系10代の悩み【XVoices—今日それぞれのリアル】

ある状況の一人ひとりの、リアルな最近の日々のことを記録していきます。
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かしこまらないときにこそできる話があって、そういうものは大抵、理想の行数にはおさまらない。これだって取材ではあるものの、いつものより肩の力を抜いて、メモにとらわれず記事のできあがりも気にせず、ただ話してみたらどんなことを聞けるんだろう。
数字のことやただしさも一度据え置いて。もしかしたら明日明後日には変わっているかもしれない、その人が今日感じている手前のリアルについてを記録していきます。とりとめのないことこそ行間の白にこぼさないように、なるべくそのまま。

 最近、欧米に住むユダヤ系の若者のアイデンティティが揺れているらしい。今年5月以降のことだ。

 端を発するのは同月の250人以上の死亡者を出したイスラエル・パレスチナ間の軍事衝突。当事地域にとどまらず、欧米に住むユダヤ系の若者たちにも影響が出ている。特に人権など社会問題への意識がいままで以上に高まった米国では、多くの若者が反イスラエル・親パレスチナを表明し、デモが起き、実際にユダヤ系へのヘイトクライムや暴行事件が増えたと報道された。

 イスラエル・パレスチナ問題が、なぜ欧米のユダヤ系に影響をおよぼしているのか。まず、100年以上も続くイスラエル・パレスチナ間の紛争(パレスチナ問題)をここで、もう一度。

パレスチナ問題とは?

パレスチナにおけるユダヤ人国家イスラエルと、アラブ系パレスチナ人およびアラブ諸国の対立を軸とした国際紛争のこと。

原因は、第一次世界大戦中に中東を支配していた英国の「三枚舌外交」。英国がアラブ人とユダヤ人両方に「ここをあなたたちの土地にしてあげます」と宣言したことで、アラブ人が住んでいた土地(パレスチナ地域。英国統治下のパレスチナ委任統治領)にユダヤ人が流入。さらに英国は、フランスには「戦争が終わったらここを自分たちで分けよう」とも約束していた。三者にいい顔をした政策がこの土地に混乱を引きおこし、アラブ人とユダヤ人の溝は深刻化していく。

その後、第二次世界大戦にてドイツでのユダヤ人迫害を機に「ユダヤ人のための国が必要だ」と、米国の支援のもとパレスチナ地域でユダヤ人のためのイスラエル国の独立を宣言。これによって、パレスチナ地域に住んでいたアラブ人の多くが土地を失い、ヨルダン川西岸地区やガザ地区、またはレバノンやヨルダンに避難するパレスチナ難民に。土地を取り返したいアラブ人との衝突が絶え間なくなり、戦争(第一次中東戦争)へ。

結果、
「イスラエル国」V.S. 「パレスチナ自治区(ヨルダン川西岸地区・ガザ地区)」
「イスラエル人(イスラエルに住むユダヤ人)V.S.「パレスチナ人(パレスチナ自治区に住むアラブ人)」

という現在の構造が生まれ、対立は激化している。

 イスラエルとパレスチナの対立は、ユダヤ系やアラブ系という民族やアイデンティティにまで関わる話。そのため冒頭の通り、この対立が欧米に住むユダヤ系の若者のアイデンティティの揺れに関係してくる。

 一連のパレスチナ問題を通して、イスラエル政府の行動に反対する米国のユダヤ系の若者も実際増えているという一方で、こんな“揺れ”も。

「まわりの急進派たちが突然反ユダヤ・反イスラエルの態度を示すことに戸惑いを隠せない」
「パレスチナ問題に対して、パレスチナの人々へ心が痛むものの、ユダヤ系として誇りをもっているため反イスラエル的な発言を聞くと心が乱れる」
など。自身のユダヤ系としてのアイデンティティに悩んでいる若い世代が目立っている。

TikTokで起こる誹謗中傷、TikTok側からのペナルティ

  10代や20代に根強い人気のソーシャルメディア・TikTokでも、ユダヤ系の若者が誹謗中傷を受けている。ユダヤ系のアイデンティティを積極的に発信する英国在住のジョシュ・コーエンや、ユダヤ系の文化や歴史をユーモアを交えて紹介する米国在住のジュリア・マッセイ、41万フォロワーを抱える20代と30代の米国在住の義理兄弟コメディデュオ、ジュークレイジーなど、ユダヤ系としてのアイデンティティや歴史、伝統、文化などについてを投稿する欧米在住のユダヤ系ティックトッカーたちは、特に5月以降に急増した反ユダヤ主義的なコメントに悩まされている。
 それだけではない。それらのコメントに反論すれば、TikTok側からペナルティという制裁を受けるという。多いときには、2、3日に1回などの頻度で投稿を制限され、時にアカウントの停止まで。

 反ユダヤの差別発言コメントをされ、それに反論しようとするとTikTok側からペナルティを受ける。
否定された自分たちのアイデンティティに対して声をあげてもそれが広まらない。表現や拡散が規制された若い世代のユダヤ系ティックトッカーが、TikTok上で安心できないという。

 人種問題への意識の高まりから各ソーシャルメディアプラットフォームらがアルゴリズムの再検討を続けている昨今。パレスチナ問題という時事とそれに対しアイデンティティに悩むユダヤ系の若者たちの裏で、ソーシャルメディアによる発信が制限されているユダヤ系ティックトッカーのリアリティを、「飼い猫の投稿でペナルティを食らった」というジュリア・マッセイに聞いた。


ジュリア・マッセイ。

HEAPS(以下、H):ジュリアさんのTikTokからは、ユダヤ人というアイデンティティへの愛と誇りが伝わってきます。プロフィールには「all things jewish(ユダヤに関するすべてのこと)」、ポストにはユダヤ教徒が安息日や祝日に食べる伝統的なパン「Challah(ハッラー)」を手作りする動画も。

Julia(以下、J):1年くらい前から、ソーシャルメディアのポストで「自分がユダヤ人であること」をオープンにしはじめたんだ。そしたらすぐに、愛のこもった反応をたくさんもらったんだけど、同時にもっとたくさんの憎しみにあふれたコメントももらった。「ヒトラーは正しかった」「すべてのユダヤ人に死を」とか。これくらいの批判は想定内だったから、そこまで大変じゃなかったけど。

H:今年のイスラエルとパレスチナの衝突以前から、ソーシャルメディア上にすでに反ユダヤ主義の声が多かった、と。衝突後に、反ユダヤ主義が強まったと感じた?

J:TikTok上では、確実に増えているよ。前は、反ユダヤ主義は一部の過激派が唱えていただけのものだったけど、いまじゃメインストリームの考えにもなってきている印象。

@juliamasseyy

please share this. i’m seeing it posted everywhere and people are being threatened. ##palestine ##israel ##jewish ##jerusalem

♬ original sound – jules

H:今年に入って新パレスチナ派が、ユダヤ系の店に向かって暴言をはいたりユダヤ系を暴行するなどユダヤ系に対するヘイトクライムが増えたということも報じられています。反イスラエルを表明する急進左派の政治家の影響からリベラルな若者のあいだで親パレスチナ反イスラエルが強まっていることも。
世相が揺れるなか、ジュリアさんはユダヤ系カルチャーに関するコンテンツをコンスタントに出していますよね。

J:自分の家族の歴史やユダヤ教の祝日について共有したり、反ユダヤ主義に対する非難の声をあげたり。私も含めユダヤ系は、自分たちのことを“生まれつきのアクティビスト”だと思っている節があるんじゃないかな。パレスチナ問題が激化する前にだって、ユダヤ系に対するヘイトクライムは急激に増加していた。私は、自分の文化をみんなに教えて、凶悪な(差別)行為に対してみんなの意識を向けさせることに力を入れているんだ。

H:学べる動画も多くて興味深いです。米国初ユダヤ系女性としてミス・アメリカに選ばれたベス・メイヤーソンの話や、パスオーバー(過越祭、イスラエル人が隷属から解放され、エジプトを脱出したことを祝うユダヤ教の休日)を初めて祝う日の投稿、そしてユダヤ系であることやユダヤ文化についてなんでも知りたいことをコメントしていいQAセッションなど。

J:ユダヤ教の伝統も歴史についてのコンテンツもできる限り投稿している。世界的に見るとユダヤ系の人口って少ない。無知のうえで繰り広げられる反ユダヤ主義が植えつけさせないように、ユダヤ系ではない人たちに私たちの文化を教えることが大切だと思ってる。まあ、どんなコンテンツだったとしても、嫌な感じのコメントやメッセージは届くけど…。

@juliamasseyy

thank u guys 4 the luv on the last one! <3 #jew #jewish #jewtok #antisemitism #challah #bread #baking

♬ Send Me on My Way – Guy Meets Girl

@juliamasseyy

bess was also 5’10”, and people found particular beauty in her height! #jew #jewish #antisemitism #jewtok #MyTeacherWins #MicroRaveWithRoni

♬ original sound – jules

H:たとえば、どんな?

J:一番はじめにもらったメッセージは、まだ覚えてる。「第二次ホロコーストがやってくる。この地球からユダヤ系を一人残らず抹消する」というもの。私がどんな気持ちになったか想像できるでしょう。
なにがショックだったかって、なんの気もなしにこんなあからさまな怒りをぶつけてきたこと。これには、人生で一人の人間に対してこれほどの怒りを覚えるのはないってくらい怒りを感じた。こういうメッセージを受けとるときは戸惑いや絶望も感じるけど、ポジティブなコメントがくればそれが帳消ししてくれる。

H:ジュリアさんだけでなく、他のユダヤ系ティックトッカーも同じような反ユダヤ主義的なコメントを受けとっていると聞きます。彼らとはそのことについて話したことはありますか。

J:ユダヤ系ティックトッカー仲間が、私が体験したこととまったく同じことについて話してくれたことがある。いま起こっているクレイジーなこと(反ユダヤ主義的な世相)についてお互い話せるのに、TikTok上では黙らざるをえないのは、すごくもどかしい。

H:TikTok上では、ユーザーから反ユダヤ的なメッセージを受けとると同時に、TikTok側からも“検閲”があるそうですね。

J:もう本当にそうなんですよ! 日常茶飯。だから、言い回しや投稿する写真などにかなり慎重にならなければいけない。たとえば、私のEtsy(ハンドメイド中心のショッピングサイト)が反ユダヤ主義者たちにハックされたあと、TikTokにハッキングされたことを報告する写真を投稿した。そうしたら「ヘイトフルなコンテンツ」として速攻で一時的にコンテンツを停止させられたんです。“ヘイトフルなコンテンツ”を受けとったのは私なのに。
あとは、自分の投稿についた反ユダヤ主義的なコメントに返答したときも非表示にされたり。基本的にTikTokは文脈関係なく、スワスティカ(ナチズムやネオナチのシンボル)や差別的な誹謗中傷、反ユダヤ主義的な脅しなどの投稿を削除しているんだと思う。

H:それ自体はむしろ良いことでは。

J:問題なのは、ユダヤ系のクリエイターたちが、(反ユダヤ主義者からの)誹謗中傷を含むコンテンツを投稿している目的は、自分たちが受けた誹謗中傷を共有することにあること。

H:なるほど、それがまずできなくなりますね。自分たちが受けた差別や中傷を共有するとき、コンテンツ内の用語やシンボルがTikTokのアルゴリズムに自動的に引っかかって、コンテンツ内容関係なくペナルティを受けている。
TikTok側には、自動的に引っかかったり報告があったものを確認する“人間”がいるはずですよね。それにアルゴリズムがあるのなら、まずはユダヤ系ティックトッカーに向けた反ユダヤ主義的なコメントがそもそも削除されていないのが不思議。

J:(反ユダヤ主義者からの)反ユダヤ主義的なコメントが取りさげられるのは本当にごく稀なこと。TikTok側の問題は、反ユダヤ主義的なコメントを投稿するユーザーより、ユダヤ系ティックトッカーのコンテンツを幅広く禁止にすることなんじゃないかな。

H:禁止用語のアルゴリズムに引っかからないような、たとえば誹謗中傷に関する言葉を含まない投稿でも検閲されることはありましたか? 

J:そうそう、確か、飼い猫のためのバル・ミツワー(ユダヤ教における成人式。男子は13歳、女子は12歳)をしたときの動画でもペナルティを食らった。

@juliamasseyy

two more hours until the bar meowtzvah!!!! join my live at noon today pst! #barmitzvah #jewish #jew #jewtok #kittens #cats

♬ Fiddler On The Roof – Lado

H:なんで!? TikTok側からペナルティが来るときって、その理由も教えてくれるんですか。

J:「コミュニティガイドラインの違反」。いわゆる、ヘイトスピーチね。だいたい1週間くらいペナルティが続いて、最後の日になるともう1週間延長されるのが普通になってきている。あるときは、これが数ヶ月も続いたんだ。サポートチームに5回以上メッセージをしたけど、なんの返答もなし。

H:“ユダヤ系っぽいツイスト”をかけたコメディコンテンツで人気のユダヤ系ティックトッカーデュオも、数日間で4回アカウントを停止させられたと別の取材で話していました。サポートチームに連絡したら停止が取りさげられたけど、次の動画を挙げたらまた停止させられたとのことで、「ユダヤ系である僕たちを禁止するな」と訴えていた。

イスラエルとパレスチナの問題が今年も起きてから、特にユダヤ系のティーンのあいだではアイデンティティ・クライシスが起こっていると聞きます。

J:パレスチナ問題において「ユダヤ系がどのようにこの問題を見ているか」ということには大きな誤解が存在しているんだ。私がこれまで出会ったどのユダヤ人も、イスラエルとパレスチナの和平を望んでいる。イスラエルに住んでいる私の親戚ですら同じ気持ち。それにユダヤ系の若い世代は先進的になってきている。“イスラエル”が絶対に必要なものであると感じる時代に育ってこなかったから。

H:というと?

J:前の世代は、ユダヤ人の民族浄化(他の民族を一掃すること)に対しての大きな危機感があったから、イスラエルの扉が常にユダヤ人のために開かれているということを、胸の内に隠し通さなければいけないかった。でもいまの私たちの世代は恵まれていて、祖先よりももっと安全な環境にいる。もちろん個人個人によるとも思うけど。

@juliamasseyy

pls 4 the love of all things holy be respectful <3 #jew #jewish #jewtok #antisemitism

♬ Lupine Freak by Surf Curse cover – Lupine

H:ジュリアさん含め、ユダヤ系ティックトッカーたちは、ユーザーから反ユダヤ主義的なコメントを受けとったり、TikTokからも謎の扱いを受けたりしています。それでもユダヤ系であることへの誇りや反ユダヤ主義に対してユーモアで切りかえすような投稿を続けてます。なぜでしょう。

J:ソーシャルメディアって、良い方向、あるいは悪い方向、どちらかに作用するよね。私は自分のTikTokというプラットフォームを通して、拡散された(反ユダヤ的な)無知なイメージを食いとめて、ユダヤ教やユダヤ文化の美しい部分についてみんなに教えたい。
「ユダヤ系であること=避けられないリスクがある」ということは知っているし、ユダヤ系であることに大いに恥を感じていたこともあった。でも、ユダヤ系が守ってきたものに対するプライドの方が大きい。いつでもユダヤ文化に対して強い結びつきを感じるんだ。

Interview with Julia Massey

Julia Massey/ジュリア・マッセイ


米国の大学で法学を学ぶ大学生。ソーシャルメディアを通して、ユダヤ系文化や自身のユダヤ系としてのアイデンティティについて、またメンタルヘルスなどについて発信している。ハンドメイドのキャンドルやジュエリーの制作、販売活動もおこなっている。

Eyecatch Portrait via Julia Massey
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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