「“らしさ”がごちゃ混ぜ、それでなおセクシーなゴスが好き」ノンバイナリー、さまざまな“二者択一”を越える自己表現について

どちらでもあること、どちらでもないこと、“どちら”にとらわれないこと、あらゆるものであろうとすること。自分という存在の移ろいと確かさについて、その表現についてを聞くシリーズ。
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私はこういう人間である、と同じくらい、もしかするとそれ以上に「こうありたい」「こうあろう」という表出が、自己表現にはあると思う。とりわけソーシャルメディア上(セルフィ、フィルムカメラでの1枚、何を食べるか、何を着るか)の自己表現には、それらが込められ、露わでいるからこそ多様だ。近年では、ジェンダーにおけるフルイディティ(流動性、うつろい)、さらには一人の人間、生物としてのフルイディティを表現する人たちがいる。どちらでもあること、どちらでもないこと(この二つは違うし)、“どちら”にとらわれないこと、あらゆるものであろうとすること——自分という存在のうつろいと確かさについて、そしてその表現についてをそれぞれのリアルや思うことを聞いていくシリーズをはじめます。

***

 今回、二人目に紹介するのは、パルマ・ハム(Parma Ham)。ロンドン在住。ダークテクノを基調としたバンド「ニュー・フレッシュ(New Flesh)」のDJとして活動するだけでなく、アーティストやデザイナー、プロデューサーとマルチに活動中。彼の特徴は、なんといってもそのゴスファッションだ。タクシーに乗り込めないほど(本人曰く)の大きなモヒカン、黒ずくめのPVCフェティッシュ*の衣装(テカテカ生地の、タイトなスーツ)、顔面蒼白のいかついメイクが、トレードマーク。自身のセクシャリティを「ノンバイナリー(ここでは、男性と女性いずれにも当てはまらないこと)」と公言していて、その「一つに限定されず、リミットをかけず、どちらでもありたい」ための表現として、ゴスを選んだパルマ・ハム。彼が考えるゴスの魅力やジェンダーについて、今回はビデオ電話を繋いで聞いてみます(途中、ハプニングあり)。

PH by Darren Black June 2020

PH by Darren Black June 2020

HEAPS(以下、H):今日は時間をありがとう。パルマ・ハムで、名前あってるよね…?(プロシュートの通称がパルマ・ハムだった気が)

Parma Ham(以下、P):そう。昔は親が名付けてくれた名前を名乗ってたんだけど、いまは正式にパルマ・ハムへと改名したんだ。パルマ・ハム(Parma ham)っていうイタリアの加工肉と同じ名前。ちょっと馬鹿げてるでしょ? しかも、僕はビーガンっていう(笑)

H:ヴィーガンなのに、パルマ・ハムって名前を選んだの、シュールですね(笑)。キャッチーで覚えやすいです、もう忘れない。

P:よく友だちやファンがレストランとかスーパーのパルマ・ハム(肉のほう)の写真をインスタで僕のタグ付けしてあげるんだよ(笑)。みんなパルマ・ハムを見たら僕を思い浮かべるでしょ? だから割とこの名前は気に入ってるんだ。これも1つのマーケティングのテクニックだよ。

H:ハハ。いま、ゴスファッションではアイコン的な存在のハムさんですが。大きなモヒカンヘアーに黒ずくめの服をいつも身につけているけど、いつ頃から自分の見せ方や見られ方を意識しはじめたんだろう。まず、幼い頃の話を聞かせて。

P:幼い頃はね、すごく孤独な子どもだった。まったくもって学校でイケてるやつなんかじゃなかったし、かといって頭が良いワケでもなく。よく補習組に入れられちゃったりしてた方。なんていうか、人と関わるのが得意じゃなかったから、いつもひとりだった。だから、学校は苦手。

H:補修組って万国共通なんだなあ。ゴスファッションに興味を持ちはじめたのはいつ?

P:自分の服装や見られ方を気にし出したのは、多分12歳ぐらいの頃だったかな。学校のみんなはカラフルな服を着ていたけど、僕は全身黒ずくめの服を着るようになった。だから、逆にクラスで僕だけ目立ってたよ。

H:どうして黒ずくめに惹かれたんだろう。

P:1番最初に惚れ込んだのは、マリリン・マンソン。彼が音楽、ファッション、サブカルチャーの世界へと導いてくれたんだ。彼のような、過激でグロテスクな独自の世界観を持つ人がメインストリームで活躍していること、老若男女が通うスーパーマーケットにさえも彼のCDが置いてあったこと。それ、本当に素晴らしいことだなって思ってさ。

H:“異質なもの”が、表の大衆の生活にあるってすごいよね。そこからゴススタイルにハマり出したのか。

P:12歳の時にコンピューターを手に入れて、それからはいろんなジャンルの音楽を調べたり、たくさんの人とオンラインで繋がって、僕の世界はぐんと広がった。僕の住んでた町はキリスト教徒の白人と中流階級の家庭しか居なくて。本当に、冴えないところだったんだ。コンピューターが僕を他の世界へと誘ってくれたんだよ。人生の選択肢と可能性を知ることもできた。そのおかげで、いまの僕がここにある。

H:いま、12歳の頃の自己表現を振り返ってどう思う?

P:12歳の頃もいまも変わらない気持ちで自己表現しているつもりだけど、でもやっぱり昔は少し控えめな自己表現だったと思うよ。よく他人から「勇敢だね」とか言われるんだけど、僕はそんなつもりじゃなくて。勇敢だって思って欲しいから「違うなにか」になろうとしてモヒカンにしたり、着飾るわけじゃないんだよ!

H:人からどう見られるかを気にして、自己表現をするのが怖くなったことっていままであった?

P:昔、男の僕がネイルを塗ったりメイクしたりしたときに、まわりのみんなに「間違ってる」って否定されたんだ。でも、それっておかしくないか、ってすぐに思った。僕は、ただ好きな服を身に纏って、たのしんでるだけじゃん、って。友だちや親から言われた言葉や冗談は、本質的なところでホモフォビア(同性愛嫌悪)やトランスフォビア(トランスジェンダー嫌悪)を含んでいた。

H:その考え方を知らずに、無意識で固定概念を持って接してしまう人もいる。

P:そう、気づいてさえいない。それって、ダブルで寂しい。だから僕は、12歳の頃からセクシャリティについては自分自身を信じて乗り越えていかないとダメだって悟ったんだ。まわりのみんながいう性別の固定概念が、僕にはきっと間違っている。ゴスにはダークネス(闇)の要素があってそこも好きなんだけれど、僕は昔から暗いものや不気味なものに惹かれる傾向があった気がする。多分、僕の過去の自分のアイデンティティがまわりに受け入れてもらえなかった経験が関係していると思う。

H:セクシャリティの話だけど、12歳頃から自分の生まれ持った性別に対して、考えたりするようになったということなのかな。それは自然に?

P:うん、12歳、13歳くらいくらいから、自分のセクシャリティーや、生まれ持った自分の体について考えるようになっていた。社会一般の性別に対する考え方を自分で咀嚼して気づいたのは、僕は男性、女性、どちらにも当てはまらないんじゃないかということだった。でも、ノンバイナリーという考えた方があると知ったのは、数年前。僕はずっと前からきっとノンバイナリーであって、それが僕に“一番近いもの”なんだろうと思う。でも実際のところ、セクシュアリティを特定して用語でラベル付けしたがっているのって僕じゃなくて社会だと思うんだけどね、やっぱり。

H:あくまでも、“一番近いものを選ぶなら”ということなんだね。ゴスは、自身のノンバイナリーなジェンダーを表現するのに合っている?

P:みんながどのようにゴスを認識しているかはわからないけど、僕は、ゴスファッションにはジェンダー・フルイディティー(性の流動性)の要素があると思っている。ゴスファッションの美学っていうのは、アート・音楽・ファッションの要素を取り入れながら、性別の壁がない。男がメイクしてもいいし、女が髪を刈り上げても、性別気にせずにドレスやパンツを着てもいい。男らしくも女らしくなるのも自由で、それらをごちゃ混ぜにするのも自由。だから多くのジェンダーレスの人にゴスはウケている。男らしさも女らしさも混ざり合って、それでいてなおセクシーだから、ゴスは素敵なんだ。世に定められたデタラメなバイナリー(二者択一)に当てはまらないものに惹かれる。そのこと自体に危ないくらいの魅力があるよ。

H:確かに、ゴスを纏っている人には性別という枠が存在しない気がする。ぱっと見てどちらかわからない人も多い。ハムさんはスタイルがありながらも、日によって違いもある。気分によって?

P:そう、ムードで試したりたのしんだり。自分のセクシャリティのムードで、表現も揺れることも時々ある。たとえば、なんだか受け身の心もちのときはフェミニンに振れたり…。だけど男性らしすぎたり、女性らしすぎたりすると、一つの方向に行きすぎている感じがして、あまり心地よくないんだ。日に日に思うんだけど、やっぱり僕には“間”が心地いいみたい。

H:一般的に性別ごとのそれらしいスタイルや色というのがあるけれど、そういった固定概念や、そのうえで生まれる表現の枠について、どう思う?

P:そういう概念に、僕は真っ向反対。固定概念って人の成長を妨げているよ。さまざまなチャンス失うことになると思う。もし、昔からジェンダーに関する固定概念がなければ、世界には優れた女性科学者、発明家、アーティストが生まれていたはずだとも考える。これは今日で言えば、黒人やトランスジェンダーの社会問題にも繋がっているよね。

H:固定概念があるゆえ、変わっていいのに“変えない”方向に引っ張られたままのことも多い。

P:昨今、絶え間なく物事が動いているけど、その多くがネガティブな気がする。だから、僕は僕なりにのやり方で工夫して発信するように努めているよ。僕には特に決まった性別がないのに、僕は性別で分けられた社会に生きている。僕は政治家や環境学者でもないけど、僕みたいな人が生きやすい社会になって欲しいから、できることをするよ。

PH by Darren Black June 2020

PH by Darren Black June 2020

H:ハムさんを見ていると、なんか、新しい生き方を見ているような感じを受けるというか。いまはもう他人の目を気にしてしまうことはない?

P:最近になってやっと、自分を表現をすることに対しての恐怖心を持たなくなったって言える。基本、気にしないように務めるんだ。ほとんどの人は別に僕のファッションに口出ししてこないけど、僕のことを興味本位でジロジロと見ている視線を察することはある。でも、そんなことをいちいち気にしてたら生きていけないからね。他人の目を気にしすぎるあまり、自分を失うなんてもってのほかだから。

H:ソーシャルメディアでもいろんな意見がきたりするのかな。

P:「悪魔みたい」「不愉快だ」みたいなことを言ってくる人もいる。そういったオンラインの批判も気にしないようにするけど、そんなヤツらにはこう言ってやりたいところ。「僕はただファッションをたのしんでるだけ! この世の中には、僕よりずっと卑怯に人を差別をする悪魔みたいなやつがいるんだよ?」

H:ところで、ハムさんは休みの日もジーンズとTシャツみたいな格好をすることはないの?

P:ジーンズにTシャツなんてのは、僕のスタイルじゃないな。僕がそういう格好をすると、なんだかブサイクになった気分になっちゃう。でも、人がそれを着ているからってジャッジはしない。だって、みんながそれぞれ好きな服を着るのがいいと思うし。

H:ゴスロリ(ゴス・アンド・ロリータ)って聞いたことある? ゴスとロリータを融合させた日本特有のファッションスタイルなんだけど。

P:ゴスロリ、かわいいよね。あまり主流じゃない、ユニークなファッションスタイルをしている人にはいつも好感を持つよ。あと、ゴスロリはゴスファッションと日本の独特の文化(ロリータファッション)が混ざっているよね。文化や社会性が融合されている様子、僕好きだな。

H:なんだかうれしいな。ごめんね、ちょっと話がそれちゃった。現在、ゴスファッション、DJ、アーティスト、デザイナー、様々な方面で活躍中のハムさん。

P:最近では、ギャラリーのプロデュースを手掛けたり、自分の展示会をキュレートしたり、アート作品制作、音楽制作、パフォーマンス・ブランド「Nullo(ヌル)」で服やアクセサリーのデザイン、DJ、クラブイベント「Wraith(レイス)」の運営・雑誌「Inertia(イナーシャ)」で書いたり、編集をしたり。

H:なにをしているときが一番しっくりくるとかはある?

P:僕のキャリアに対する考え方もノンバイナリーと同じで、“一つに定義しないでいい”に基づいているんだと思う。自分がやりたいって思えることをできる限りやっていたい。それらすべてのことがあって僕の自己表現が成り立っていると思う。どれか一つのことに集中し過ぎたら、他のことに集中するようにする。

Photos by Parma Ham

New Flesh by Dani Mejia

H:勝負服や髪型があれば、教えて。

P:やっぱり、“フルルック”をしたとき。自信が漲る。巨大なモヒカン、派手なメイク、PVCフェティッシュの服。毎日こんな格好ができたらいいけど、やっぱり不便で大変だし、髪の毛や肌にダメージになるから無理。僕の本気モヒカンは高さがあるから、ドアを通り抜けるのもひと苦労なんだよ(笑)

H:そんな苦労もあるんだね(笑)

P:タクシーにも乗れないよ。あと、風をすごく受けるから特に雨の日は辛い(笑)。スキルも忍耐も必要だから、みんなができる髪型じゃない。そんなところもモヒカンの美学なのかもね。

(突然、ガシャンと物音)
ハムさん、画面からいなくなる。
自宅の床が椅子の重みでブチ抜けてしまった。
(怪我はなかった様子)

H:気を取り直して(座り直して)。どうして自己表現が大事だと思う?

P:自己表現っていうのは誰もがしていること。人の行動、発言のひとつひとつが自己表現だと僕は思うんだ。そりゃ、表現の大小はあるけどね。自己表現というのはお互いを理解し合う方法、世界を探究する方法だと僕は思う。それは僕たちそれぞれにできる大切な行動。

H:もしも、ゴスがなかったら?

P:うーん、なんかそういうのじゃなくてね、僕は本当に、ただただ自分の人生をたのしんでいるだけなんだ。ゴスのルールブックに基づいて生きているとか、ゴスになりきるために努力しているとかじゃない。僕はファッションや音楽が好きで、それがたまたまゴスっていうジャンルのものだったってだけ。僕が着ている服装は客観的に見ればゴスなんだろうけど、僕は“ゴスだから”この服を買うみたいなことはしない。ラベルは特に気にしないんだ。生きにくいこともあるけど、僕はこの調子で生きていくよ。

Photos by Parma Ham

Wraith poster by Hila Angelica

Interview with Parma Ham

PH by Darren Black June 2020

Eyecatch Image: PH by Darren Black June 2020
Text by Ayano Mori
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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