暗闇の中ヘリに追跡され、4リッターの水とたった2枚のトルティーヤだけで砂漠を四日間さまよい、拳銃を持った国境警備隊とマフィアの間で板挟みになりながらも、人生で5回、メキシコから米国に不法で移民した男、ミッキー氏(仮名)。
波瀾万丈すぎた越境のストーリーを、メキシカンレストランでワカモレ(メキシカンといえば、のアボカドディップ)をともに食いながら数時間にわたって聞いた。
▶︎メキシコ移民は語る「ヘリに追われマフィアに挟まれたギリギリの不法入国バナシ」その1
ミッキー氏。
H:ところで、メキシコから移民する理由ってやっぱり出稼ぎなんですか? 「メキシコって危ない」というイメージはあるんですけど、現状はどうなんでしょう?
このワカモレ、うまいね。アボカドはメキシコだと、普通に買えば一箱1ドルくらいなんだよ。1ドルは、プランテーション農場の収入で、もう1ドルはマフィアが上乗せして業者に渡す。
H:ピンハネされちゃうんですね。
そう。でも、米国ではその一箱が20ドルで売られている。マフィアより搾取している人たちがいるな、この国。ハハハ。
「ムーチョビンボー」。ミッキー氏は、なぜか「ビンボー」という日本語を知っていた…
H:メキシコの経済状態はどうなの?
「ムーチョビンボー」だね。だいたい、毎日朝から晩まで働いて一週間で60ドル(約6000円)。ニューヨークなら、1日で稼げちゃうよね。だから出稼ぎがしたいんだ。メキシカンは、そのために米国に来たがるんだよ…
たいていのメキシカンは貧乏だけど、カルロス・スリムとか、ビル・ゲイツより金持ちな奴もいるんだよ…(カルロス・スリムはメキシコの富豪。長者番付で2010-13年度4年連続、ビル・ゲイツを抑えて世界一)。
あと、場所によっては、治安も悪いし、ミチョアカンなんて、カオスな状態だよ。
H:ミチョアカン! それ、映画カルテル・ランドの所だよね。
そう。警察も軍隊も政府も機能しなくって、マフィアが牛耳っているから、お医者さんが自警団を組織して戦っている。
H:でも、その自警団もおかしくなってきちゃってるって聞きました。
マフィアと警察と政府がグルになっちゃっているから、ヤバイ状態なんだ。マフィアの麻薬戦争で、相当な数の人間が死んでいるよ(4万7,515人が殺害されている)。
あと、誘拐が酷い。マフィア同士が抗争しているから、誘拐を働いたマフィアを別のマフィアが殺して、その人質を奪って身代金を要求したりする。もう、カオスだね。
誘拐とレイプと人身売買……
H:娘さんをメキシコから呼び寄せたりしないんですか?
ああ、それは、一番危険なんだよ。
なぜなら、先に話したコヨーテみたいな越境エージェント、まあこれもマフィアなんだけど、そいつらと誘拐をするような極悪なマフィアがつるんでいる時があるから、女の子なんか一番ヤバイよ。越境させられない。
(ミッキーの娘さんは、先日、15歳の誕生日を迎えたばかり、スマホで、誕生日会の様子を見せてくれました)
H:その越境エージェント、つまりマフィアに頼らずして米国には行けないんですか?
基本的にはないな。マフィアが一番、越境のルートを熟知してる。越境は、メキシコマフィアの金儲けの一つ。最初に出てきたように越境の際にバンを用意したり砂漠を案内してくれたり、川を船で渡したりしてるんだが、お金を取る。それから、越境をするにはすでに米国にいる知人を頼ると話したけど、その人に電話をさせてお金を要求したりね。
途中で越境エージェントマフィアから、凶悪なマフィアに売り飛ばされたら、身代金200万円だ。それくらい要求されるんだ…。女の子はレイプされてしまうときもあるから、越境は絶対ダメ!
ミッキー氏、少年時代。
ミッキー氏、近所の子どもたちと。
マフィアと警察は、「アミーゴ(友だち)」!
H:ミッキー氏のホームタウンはどんな感じでしょう?
俺のホームタウンは、トラスカラ州のサンタ・アナ・チアウテンパン、メキシコの東南部の町(Tlaxcala, Santa Ana Chiautempan)。ミチョアカンのようにクレイージじゃないけど、まあ良くはない。
ある時、マフィアに所場代を取られたから警察に行ったんだ。
警察は調書をとってくれた。でも翌日、その調書が我が家の前の道路に、これ見よがしに放置されてあったんだよ。
つまり、マフィアと警察はグルなのさ。警察が「こうこうこういう奴が来たぜ」と書類をマフィアに渡して、マフィアが警告として書類を家の前に置いといたんだな。平和な町でもこんなもんだよ…。
ニューヨークのポリスはいい奴ら。だって、物取らないもん。
ああ、あと、もっとヒドいこともあった。
俺の町は田舎だから、電化製品なんか売っていないんだ。だから、隣町に行って大量の電化製品を買い込んで、自宅で売っていたんだよ。近所に向けた商売だね。電話とか、テレビとか、ラジカセとか、ソニーとかよく売れたんだ。
H:メキシコって堂々と転売していてもOK?
メキシコじゃ路上で物売っている人も多いから、まあ、そんなこと問題ないんだよ。でも、ある時、警察が自宅にやってきて、俺が苦労して隣町から運んだ品物、ぜーんぶ押収していきやがった。
で、あいつら、それを横流しだぜ。
H:・・・・。
ニューヨークに来たとき、俺は心から思ったね。
ニューヨークのポリスは、なんていい奴らなんだって。だって、物取らないもん…。