カード社会の米国に比べればまだまだ現金社会である日本で、クレジットカードを使わない、はそう稀でもないが、“銀行口座を持ってない”はほとんど聞いたことがない。しかし、それは先進国の話であって、世界銀行の調べによると、世界の貧困層の4人に3人が銀行口座を持っていないという。その多くは、身分証明できる書類、ましてや住所も持たない「難民」たちだ。
パスポートも身分証も持たずにヨーロッパに流入してきた、“銀行口座を作れない”難民たちに手を差しのべるのが、ドイツ発のスタートアップ「Taqanu(タカヌ)」。「#bank4all(みんなのための銀行)」と銘打つ通り、銀行口座開設の際に必要なIDや住所がなくても口座開設できる、難民のための銀行アプリだ。
タカヌの創設者バラージュ(Balázs Némethi)は、祖国ハンガリーが難民流入阻止のため国境にフェンスを立てていることに憤りを感じ、難民のために何かできないかと考えた末、タカヌを立ちあげたそう。ちなみに、聞き慣れない「タカヌ」とは、古代メソポタミアの言葉で「念のため」の意。
ID・住所不要の銀行口座なんて、大丈夫なの? 身分証明一切なしで作りますよ、という訳ではなく、難民でもほとんどが持っている「スマートフォン」が、銀行口座開設の際に必要な身分証明に取って代わるのだという。専用アプリをインストールさせSNSやネット上のデジタルデータや家族や友人からの信用履歴で本人確認し、デジタルIDを発行・銀行開設。さらにブロックチェーン技術(*)を用い、送金や受け取り、融資などのサービスも検討中だ。
*ビットコイン(貨幣通貨)の基盤技術。世界中に点在するコンピューターにデータを分散して監視し合い、破壊・改ざんが困難なネットワーク(データを分散させたすべてのコンピューターが破壊されない限り、複製できる)を作る。
マイクロソフトなど大手企業からも支援を受けているタカヌ。一人の男のアイデアではじまった銀行が、ヨーロッパ全土に広がる難民の口座問題、ひいては身分証明問題解決の一助になるか。まずはそのサービス配信を待とう。
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All images via Taqanu
Text by Shimpei Nakagawa
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine