近ごろになって新しい「お芝居×ライブ演奏」がイギリスで話題沸騰中だという。その名も、「ギグシアター(gig theatre)」。ギグシアターによって、若者に振り向いてもらえなかった劇場が賑わっているらしい。
「ギグシアター」ってなんだ?
コンサート、ライブのスラングである「gig(ギグ)」と「theatre(演劇、シアター)」で、ギグシアター。ライブハウスのステージで繰り広げられるギグにも、ドレスコードに従ってかしこまって観賞する演劇にも当てはまらない。ザ・舞台演劇よりも肩の力が抜けていてカジュアル、そこに生演奏の音楽と語り、演技が混ざりあったパフォーマンスアート。ギグと演劇のいいとこ取りといった感じ?
では、ミュージカルとはどう違う? なんせ筆者もギグシアターを観たことがない(動画を探してみたが無かった)ので、「こう違う!」とは断言はできないが、いくつかのギグシアターの紹介記事を読む限り、ミュージカルのように「演劇を中心に、音楽にダンスにと大所帯のビックプロダクション」というよりは、バンドの演奏する音楽から派生したパフォーマンスが展開されていく、という印象を受ける。ギグシアターはバンドにとっての作品発表の場にもなっているようで、新曲のお披露目やニューアルバムのショーをギグシアターで、というミュージシャンもいる。
ニューアルバム披露もギグシアター
実際、演劇の国イギリスで最近公演されたギグシアターはこんな感じ。
・『Cover My Tracks(カバー・マイ・トラックス)』:元ロンドンのインディーバンドのフロントマンが自身の同名ニューソロアルバムを披露。ギターを弾き語る彼と女優の演技で、行方不明の作詞家が主人公のストーリーが展開される。
・『Cotton Panic!(コットン・パニック!)』:産業革命時代の綿工場に材を得た歴史ストーリー。劇中では70年代に活躍したエレクトロニックバンドのメンバーが演奏。
・『Music Is Torture(ミュージック・イズ・トーチュアー)』:レコーディングスタジオを経営している男の苦悩がコメディタッチで描かれる劇。物語のバンド役には、実在するバンドを起用。
・『If You Kiss Me, Kiss Me(イフ・ユー・キス・ミー、キス・ミー)』:80年代、英・ポストパンクをテーマにシンガーが劇中で歌う。
さらに、“ミレニアルズ”をテーマにしたギグ・シアターの公演を控えている劇団も。場所は劇場を飛び出して地元のバーで、地元バンドが生演奏するなか、劇を観賞、ビール片手に踊って、おしゃべりもOK、という自由度。
ライブ好きな若者が新規客。劇場「若返り作戦」
「ギグシアターのおかげで、普段劇場に足を運ばない客層を招くことができる」「シアターに行くことがあまりなくなってしまった若い世代にも来てもらえる」。ギグシアター関係者からの声だ。というのも、演劇のオーディエンスは年々高齢化しており、若者の劇場離れが進んでいるから。
一方で最近の若者が好きなものといったら、音楽ライブ。世界最大級のコンサートプロモーター会社(Live Nation ライブ・ネイション)の調べによると、2015年度の収益は前年に比べ11パーセント増加、コンサート/フェスティバルの参加率も8パーセント上昇した。同じく、大手チケット販売会社(Ticketmaster チケットマスター)の取引額も12パーセント増加。レコード売り上げは減少している一方での、ライブコンサート人気だ。その理由の一つ「音楽とのつながりをフィジカルに体感できるから」が、まさにギグシアター人気にも通じるというわけか。
さらに、レコードやCD全盛期のひと昔前と違い、いまは一曲単位で曲を聴き、自分のプレイリストもSpotifyでささっと作れてしまう。だから、ニューアルバムがまるっと演奏されるギグシアターなんかでは、一本の劇で一枚のアルバムが聴ける、と若者には目新しいのかもしれない。百聞は一見に如かずということで、今年の夏はギグシアター参戦・イギリスの旅、なんていうのもアリかも。
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Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine