鏡が導く、奇妙なキャラクターたちの不気味でにぎやかな世界。誰しもに眠るダークな感情は、メルヘンな「異界」でダンス

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スウェーデン、ストックホルム。海峡に浮かぶ大小さまざまな島で構成され、「水の都」とも称される都市だ。なかでも中世の街並みが残り、映画『魔女の宅急便』の舞台のモデルにもなった美しい旧市街・ガムラスタンにほど近い場所に建つのが、アートギャラリー「GALLERI MAGNUS KARLSSON」。今週は、同館でつい先日まで行われていたスウェーデン出身のビジュアルアーティスト、ピーター・ケーラー(Peter Köhler)の個展『Through the Looking-Glass』を紹介する。

展示名に含まれている「Looking-Glass」とは、鏡の古い呼び名。かつて鏡は霊界に通じる入り口と考えられていたそうだが、作者のケーラーも自身の内に秘める異界の景色を作品に描きだしている。鏡は異界への入り口であると同時に、見かけからは想像できないような広大な土地への入り口でもあるのだ。ここでは、自然と超自然が織りなす不思議な舞台で不気味なキャラクターたちが、にぎやかに、華やかに、そして奇妙に交流している様子がじつに緻密な線で描かれている。

この「異界」では、目を凝らすほど、最初に自分の目が捉えたものとは異なるものが見えてくる。『Witch’s Bowl』では、一見すると暖かな照明を浴びてキャラクターたちがダンスを繰りひろげているようだが、その照明のあかりから浮かびあがってくるのはおそろしい骸骨のシルエット。また、ありとあらゆる姿のキャラクターが集う『Folks and Fiends』では、すべてのキャラクターが平和的に共存しているように見える一方で、作品の左上に描かれている悪魔が待ちうける扉へとカラスや人々が吸いこまれていく様子を見ることができる。ケーラーの作品には、ダークでメルヘンな世界観を象徴する死や悪の権化のモチーフ、そして不吉な動植物がいたるところにその姿を潜めているのだ。

グロテスクさとうつくしさが絡みあうなかに、なにを見るのか。それは誰しもが内に持つ不安やおそろしいものへの興味を、まさに「Looking-Glass(鏡)」のように映しだす。ケーラーの作品世界に没入することで、見る者は自身のなかに存在する異世界を旅し、普段は蓋をされて見えることのない深層心理や感情のことなるありさまを、のぞくことができるのかもしれない。


peter köhler
Owl’s Nest, 2021
Ink and acrylic on paper, 36×26 cm


peter köhler
Folks and Fiends, 2021
Ink and acrylic on paper, 75×109,5 cm


peter köhler
Witch’s Bowl, 2021
Ink and acrylic on paper, 20×20 cm


peter köhler
Mr Crabapple, 2021
Ink and acrylic on paper, 20×20 cm


peter köhler
Spider Chair, 2021
Ink and acrylic on paper, 20×20 cm


peter köhler
Before the Day is Done, 2021
Ink and acrylic on paper, 36×26 cm


peter köhler
Wild Adversary, 2021
Ink and acrylic on paper, 23,9×32 cm


peter köhler
Baba Yaga, 2020
Ink and acrylic on paper, 65×62 cm


peter köhler
Oak King, 2021
Ink and acrylic on paper, 43×61 cm


peter köhler
A Tale from an Acorn, 2021
Ink and acrylic on paper, 23,9×32 cm


peter köhler
Out of the Hollow, 2021
Ink and acrylic on paper, 43×61 cm

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Text by Iori Inohara
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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