人気大衆映画にニュース映像、YouTubeビデオも織り交ぜて。ベトナム人現代アーティストが先住民族の歴史を探る〈第五の映画〉

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ベトナム人アーティスト、グェン・チン・ティ。2009年にベトナムの首都・ハノイを拠点にする「ハノイ・ドックラボ」を立ち上げ、ドキュメンタリーを中心とした映像制作の教育機関として、ベトナム現代アートシーンでの重要な役割を果たしている。また、アーティスト集団「ニャサン・コレクティブ」の一員でもあり、記憶と歴史、そして社会における芸術家・アートの役割について問いつづけながら次世代の育成もおこなっているのも彼女。アメリカ・ミネアポリス美術館で開催中の『Nguyen Trinh Thi: Fifth Cinema』と題された展覧会では、2018年に制作された彼女の映像作品『Fifth Cinema』が取り上げられている。

同作品でグェンが描いているのは、先住民族の歴史や土地の重要性。それも欧米や国内部にある植民地主義、植民地化からどうやって逃れられるのか、という答えのない問いを探っていくことだ。題名は1990年代にニュージランド先住民マオリ族の映画制作者、バリー・バークレーによって提案された「Fourth Cinema(第四の映画)」から派生したもの。第一=アメリカンシネマ、第二=アートシアター(芸術性の高い映画)、第三=後進国シネマ。これらの枠組みに反して定義された先住民族による彼らのための映画が第四の映画。グェン自身はベトナムの民族的・政治的多数派の「キン族」であるため、バリーの定義においては、第四の映画を作ることはできないものの、その先をいく「Fifth Cinema(第五の映画)」として今回の作品を制作した。

映像のベースとなっているのはアーティスト自身の素材だけではなく、人気映画、政府映画、ニュース映像、ドキュメンタリー素材、eBayで販売されているホームビデオ映像、そしてユーチューブビデオなどネット上で簡単に発見できる動画たち。その中でも特に面白いのが、あえてアーティストではなく二重国籍を持つ娘を登場させているところだ。グェン自身、ベトナムで生まれながらもアメリカで学び、アメリカ人と結婚しており、映像にも出演している娘はアメリカとベトナムのミックス。彼女の存在は「入植する者:抑圧される者」の二分法を完全に超えたアイデンティティをより一層強調し、混沌としたグローバル社会を象徴しているようにも思える。

美術館キュレーターのガブリエル氏は彼女の作品について、「この映像は視覚的なエッセイのようなものであり、彼女特有の視点から見た、感じた先住民族の映像作品である一方で、娘の目線を通して世界を眺める母親のような、現在から想像できる未来のフェミニストビジョンだ」と語る。ベトナム、そして世界の市民として、映像制作者として、アーティストとして。そして女性、母親として。自分は一体何者で、どこから来て、誰のために声を発しているのか? そんな疑問をあらためて提示してくれる。

Image via Minneapolis Institute of Art

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Text by Haruka Shibata
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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