「二度の内戦」と「エボラ出血熱発生」。戦争と疫病、それに伴う経済不振に蝕(むしば)まれた悲運の国が西アフリカにある。“米黒人解放奴隷たちが建てた国家”、リベリアだ。
内戦は10年以上前に終結、エボラ出血熱も昨年に終息。二つの危機を乗り越えた現在、リベリアはいつになく経済活性化を急いでいる。そして、その活性化を引っ張っているのは「若手女性起業家」たちだ。
Image via World Bank Photo Collection
国民の半分が失業。スタートアップに乗りだした女性たち
2014年は、リベリアにとって悪夢の年だった。1万人以上の死者を出したエボラ出血熱により世界は震撼。いつの間にか報道されなくなっていたが、その傷跡は、同国にはしっかりと残っている。投資家が去り市場は閉鎖、そのためリベリア経済は荒廃し、国民の半分が職を失った。現在でも、同国民の男性20パーセント、女性にいたっては35パーセントが失業中(国際労働機関調べ)。さらに国連の調べでは、若者の85パーセントが職なしの状態だという。
にっちもさっちもいかなくなった経済を救おうと立ち上がったのが、先進国の投資家でもなく大企業でもない「リベリアの若い女性たち」。彼女たちによるスタートアップシーンが盛り上がりをみせている。
Image via United Nations Development Programme
とはいえど「犬も歩けば“スタートアップ”に当たる」ではないが、アプリ開発にアパレル業界、サステナブルビジネスで、と若い女性たちのスタートアップがなんら珍しくないご時世。別に特別なことではないんじゃない?と思うかもしれないが、リベリアでは少々ワケが違う。それは、同国の女性の経済的、社会的地位は圧倒的に低いという歴史があるからだ。
「男性よりも教育機会が少ない・経済的に弱い立場にいる」にくわえて、10代の10人に3人が妊娠し、6、7割の女性が性的暴行を受けたことがあるという、女性の尊厳が無惨にも失われた国が、リベリアなのだ。
Image via United Nations Development Programme
「5万円で起業」。注目は、清掃&衛生ビジネス?
昨年ある26歳の女性が「500ドル(約5万7000円)で起業」した。“家族からでた初の大学出”である彼女は「社会変革の一員になりたい」と、ハウスキーピングサービスのスタートアップを創業。
“男性優位社会でミレニアル女性が起業”というだけでも画期的だが、若き女社長は「恵まれない女性の雇用」に積極的に力を入れる。会社では彼女たちに制服を与え、清掃のプロになるためのトレーニングを提供。1年ですでに以下を成し遂げている。
・61の顧客と65人の契約社員を抱えるまでに拡大
・女性従業員に家族を養えるだけの給料を支給(月150ドル=約1万7000円)
・給料の一部を“貯金”として差し引き、子どもの教育費や緊急時の備えにできるシステムも導入
経済システムから疎外されてきた女性たちに財産の貯蓄という概念を植えつけ、一緒に守っていく手厚いケアを施している。
Image via Juan Freire
また、別のリベリア人女性は「仕事が見つからないから自分で仕事をはじめよう」とハンドサニタイザー(手の除菌消毒液)のスタートアップを起業。エボラ大流行を受けて見直された衛生の重要性に目をつけ、「すべての国民に“清潔へのアクセス”が平等に行きわたるように」と、センサーで便利に使用できるハンドサニタイザーの設置を国内規模で目指している。
さらに家族代々続くヘアサロンを経営する女性は、アフリカ系女性特有のナチュラルカーリーヘア用のヘアケアプロダクトを開発。近隣諸国への輸出を視野に入れるなど、ビジネスウーマンたちの目は国外にも向いているようだ。
女性が「平和」をつくった国
力強い若き女性たちのスタートアップシーンだが、リベリアで「女性の力」が国を変革しようとするのはこれがはじめてではない。14年続き、25万人の命を奪った流血の内戦を終わらせたのも「女性たち」だった。
麻薬漬けの少年兵が戦場に送り込まれ、女性が兵士に合歓され命を奪われるという惨状が日常茶飯事の内戦(※1)。そこへ、女性平和活動家リーマ・ボウイー(Leymah Gbowee)が一人声をあげた。キリスト教徒の彼女は、イスラム教徒の女性警官と協力、両宗教の女性を集めて戦争反対のデモやストライキを実行。平和の象徴である白色の服とターバンを纏って、プラカードを掲げ、歌い踊り祈る。停戦を訴え、座り込みの非暴力抵抗運動を行い、政府軍と反乱軍の和平交渉まで導いた。
(※1)リベリアでは、部族間の対立や独裁政治が原因で反政府軍が武装蜂起し、1989年から96年、99年から2003年に二度の内戦を経験している。
Image via United Nations Photo
結果、武器の回収がすすめられ、国連平和維持軍の駐留、内戦を率いた大統領の国外追放、暫定政府による民主選挙が実現し、2005年、エレン・サーリーフ(Ellen Sirleaf、※2)がアフリカで初の女性大統領となった。民族や宗教を超えて手を取りあった女性たちのパワーは、すでにリベリアという国を動かしていたのだ。
(※2)リーマとサーリーフ大統領は、リベリアの平和と女性地位向上に貢献したとして、2011年にノーベル平和賞を受賞している。
政府も海外企業家もビジネス研修でサポート
若きビジネスウーマンの育成に努めるため、先月、同国のジェンダー・児童および社会保護省は、起業したい女性やビジネスを拡大したい若手起業家を対象にサポートやトレーニング、現金給付などを行うプロジェクトを立ち上げた。
さらに、英企業家のリチャード・ブランソン(ヴァージン・グループ創設者)は「ブランソン奨学金プログラム」をスタート。リベリアの若者に、1年間のビジネス基本講習のほか、海外のメンターの紹介、海外トレーニングプログラムを提供する。これまでに15人がトレーニングを修了したという。
Image via Multimedia Photography & Design
武器を一切使わず国を平和に導いたリベリアの女性たち。男性からの抑圧と救いようのない崩壊社会から湧き出た女性たちの底力は、いまビジネスシーンを興隆する女性たちにしっかりと引き継がれている。
—————
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine