IT先進国のダークホースはルーマニア。ミレニアルズが牽引、テック・スタートアップシーンの成長は止まらない
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ちょっと治安が悪くて…あ、ドラキュラの生まれ故郷?
はっきり言ってここ最近までルーマニアという国名を聞いて浮かぶイメージなんてそんなものだった。

あんまり馴染みのない人の方が多いと思うが、いま注目したいことがある。それはルーマニアの若手起業家で盛り上がる「テックスタートアップシーン」だ。

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海外企業のITアウトソーシング(コンピュータやインターネット技術に関連した業務の外部委託)先として定評があり、多く受け入れてきたルーマニア。そのアウトソーシングで培ったスキルを手に、スタートアップを起業する若者がいま増えているというのだ。

テックスタートアップや起業家が集まる首都ブカレストにあるシェアオフィス「TechHub(テックハブ)」で働く、二人のITミレニアルズにシーンの全貌を聞いた。

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海外企業アウトソーシングから「自国スタートアップ」へ

 現在ヨーロッパでアイルランドに次ぎ2番目に経済成長が著しい国、ルーマニア。2007年にEU(ヨーロッパ連合)に加入した同国、まずここ5年でのテックスタートアップの急増には驚いた。5年前は120ほどだったものの今年は300を超え、急速な成長を遂げている。

 急成長のわけをずばり、「ルーマニアが培ってきたテクノロジー技術とノウハウ」と答えてくれたのはAdrian Fako(エイドリアン・ファコ)。アプリ会社「Accelerole(アクセレロール)」を立ち上げた28歳の若きテック起業家だ。

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写真はエイドリアン

 テックスタートアップシーンが盛り上がりを見せる前から、安い労働力と運営コストを理由にOracle(オラクル)やHP(ヒューレット・パッカード)、IBMなどの海外IT大企業が参入してきた。
 数々の大企業の下請けをしてきたからこそ築いてきたテックビジネスのノウハウや海外市場への理解。東欧の小国にはいまのスタートアップシーンを作る基盤がしっかりとあった。

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 そんな過去を経て、このIT国家の過渡期はいま。「大企業のアウトソーシング事業では飽き足らない人たちが、自分たちでやりたいビジネスをスタートしているんです」とAlexandra Anghel(アレクサンドラ・アンゲル)。モバイルアプリのスタートアップ「Appticles(アプティクル)」の共同創立者で33歳のITウーマンは、スタートアップシーンが盛り上がる理由をこう語る。

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写真左上がアレクサンドラ

フェイスブック、ツイッターも注目

 ルーマニアテックスタートアップシーンの中心スポット、テックハブ。約80の企業、200から300人のメンバーがいるこのシェアオフィスでは、スタートアップ同士が情報交換できる場を設けたり、アドビやマイクロソフト、グーグルなどの現地支社がビジネススキルや海外市場への進出などについてアドバイスするセミナーを開催している。

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 エイドリアンの注目スタートアップは、顧客のデータ分析アプリを開発するInner Trends(イナー・トレンズ)やキックスクーターを製作するscooterson(スクーターサン)、ソフトウェア開発スタートアップCloudHero(クラウドヒーロー)、医療系アプリを提供するReflex(レフレックス)など。 投資資金を50万ドル(約5100万円)まで集めたスタートアップもあるらしい。さらに、ここ数年では大企業からのルーマニアのスタートアップへの注目は高まっており、フェイスブックやツイッターもルーマニア人によるテック系スタートアップを買収している。

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 と、急成長を続けるスタートアップシーンだが、以前から根強く残る大企業のアウトソーシングシーンと比べるとまだまだ小さいのが現状だ。その状況でいち早く発展したいスタートアップたちは、人口およそ1900万人の小国の市場では物足りず、欧米やアジアへの海外進出を視野に入れている。

米国を抜いて、現在世界6位

 昨年のルーマニアのネット回線速度は最速で57.7Mbpといわれ、これは世界で第6位。ちなみに大国アメリカ(第17位)を余裕で超えるネット回線だ。

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 しかし、もとをたどればネットサービスには随分遅れをとっていた。80年代からネットサービスのあった諸外国に対して、同国がインターネットを開通したのは93年と遅い。
 それを数段飛ばしで追いついたのは「はじめからブロードバンド・インターネット接続サービス(大容量通信ができる)」を開始できたから。
 というのもその頃、先を行っていた欧米はダイアルアップ・インターネット接続(電話回線による低容量通信)を使用中。ブロードバンド・インターネットが普及しはじめて諸外国がアップデートしている中で、同国はさらっと開始。まだ基盤も何もなかったからこそ、最新への対応は早かった。数年の遅れは帳消し、いまではアメリカを抜くほどになったというわけだ。

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 この恵まれたネット環境が生んだのが「ITキッズ」たちだった。エイドリアンも例に漏れず、幼い頃からパソコンの組み立てやウェブサイト作成はお手の物で、中学生からパソコン持ち。IT系に特化した高校、大学とITキャリアへのステップを着実に踏みアウトソーシングで経験を積んだ後、2年前に現在のスタートアップを起業した。

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彼のスタートアップが開発するモバイルアプリは、会社の経営者向け。本社の社員と国内に散らばる同社のスタッフのコミュニケーションを円滑にできるようなアプリサービスを提供する

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ヨーロッパ連合に属しているため英語教育も幼い頃からばっちり。事実、IT業界で働く約90パーセントが英語を話せるらしい

女性IT進出・先進国。背景にあるのは共産主義時代の女性像

 さらに。ルーマニアは、単なるIT先進国ではない。“女性のIT進出”先進国でもあるのだ。IT業界で働く29パーセントが女性、ヨーロッパのなかでは第3位にランクインしている。

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 その背景にあるのは、同国の共産主義時代の女性の働き方。男女平等に勤労することが求められていたその時代、女性がそして母親が家の外で働くのは当たり前だった。1970年代アメリカでの女性就業率が52.7パーセントであったのに対し、ルーマニアは75パーセント。

「家庭を守りながらも外で働く母親たち。その背中を見て育った娘たちは、母親の働き方に影響を受けたのでしょう」とアレクサンドラは言う。

 物理学教師だった母を見て育った彼女はプログラマーとして働く傍ら、IT教育のメンタープログラムにも参加。スカイプでJavascript(読み)など国内外の女性にプログラミングなどITスキルを教えている。女性が手に職を得て、社会に進出する。それは昔ながらの価値観なのだ。

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共産主義時代の親世代と違う。ミレニアルズの価値観

 教師になる者、工場で働く者、徴兵される者。共産主義二よって民間企業の存在しない社会で、卒業校や国が斡旋した職場で安定した仕事に就き、同じ仕事を何十年も続けるのがミレニアルズの親世代の生き方だった。
 男女共に働くのが当たり前だが、職を選ぶ自由はない。お金をもっと稼ぎたくてもその方法がなかった。

 共産主義が崩壊したのちは、親世代が重きを置いていた「安定した職」に対する価値観も変わった。一か八かのスタートアップも、いまの世代の目にはリスキーなものというよりは、成功できる大きなチャンスとして映っているのだ。

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 事実、テックミレニアルズの平均年収は1000ユーロ以上(約11万5000円)。国の平均年収400〜500ユーロ(約4万6000円〜5万8000円)というから、倍以上稼いでいる。

 彼らはよく働く。実際エイドリアンが指定してきた取材時間は現地時間で夜の10時。まだオフィスにいてその後も仕事関連の電話があるのだそうだ。「会社を早く成長させたいから残業は仕方ないよね」。それでもいまの仕事が楽しいと語る。

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「5年後には、多くのスタートアップがヨーロッパやアメリカ、アジア市場に進出できると思う。ネクスト・シリコンバレーにはそう短期間ではなれない。50年はかかってしまう。だからグローバルマーケットに出てくんだ」

 確かなITスキルに、伸びしろのあるビジネス開発、そしてがつがつした意欲。東欧の小国ルーマニアのテックミレニアルズには海外での成功チャンスが無限に、すぐ目の前に広がっているのだ。

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All images via TechHub Bucharest
Text by Risa Akita

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