私はこういう人間である、と同じくらい、もしかするとそれ以上に「こうありたい」「こうあろう」という表出が、自己表現にはあると思う。とりわけソーシャルメディア上(セルフィ、フィルムカメラでの1枚、何を食べるか、何を着るか)の自己表現には、それらが込められ、露わでいるからこそ多様だ。近年ではジェンダーにおけるフルイディティ(流動性、移ろい)、さらには一人の人間、生物としてのフルイディティを表現する人たちがいる。どちらでもあること、どちらでもないこと(この二つは違うし)、“どちら”にとらわれないこと、あらゆるものであろうとすること——自分という存在の移ろいと確かさについて、そしてその表現についてをそれぞれのリアルや思うことを聞いていくシリーズをはじめます。
「人間離れした自己表現」と呼ばれるものがある。宇宙人のようなルックのメイク・ファッションを身に着ける人がいて、彼らを「エイリアン・ビューティー(宇宙人の美しさ)」と呼ぶらしい。インフルエンサーデュオの「Fecal Matter(フィーカル・マター)」や「サルビア」がこの分野で有名だ。宇宙人のように広い額を持ち(時にツノが生えてたりもする)、白塗りされた顔、真っ黒の目(白目がない)が、はとても奇怪でありながらも美しい。意図的に人間を超越しようとする自己表現が、「エイリアン・ビューティー」だ。
「人間と動物の壁を越えた、生き物としてのフルイディティ、その表現に惹かれている」と話すのが、一人目に話を聞いたハティ・リース(Hatti Rees)、24歳。自己表現をはじめたと自分で覚えているのは「10歳から」。
英国の田舎町で生まれ、いまはロンドンを拠点に活動中。世界でもアートやデザインの部門でトップ3の名門と名高い「University of the Arts London(ロンドン芸術大学)」のファッション科を昨年卒業。現在は、ミュージックビデオの制作と個展の準備を進めている最中。モデルとしても活動し、英国のファッションマガジン『LOVE(ラブ)』で、美容部門の編集者としての経験もある。
彼女もまた、かなりのパンチが効いた写真をインスタグラムに投稿している。彼女のスタイルは「宇宙的」「ホラー」「グロ」「生き物」といったビジュアルでありながらも、どこかコミカルでかわいさを残すのが特徴。「目がギラっと光った傷だらけのウサギ」「レインボーカラーのメルヘンな髪と真っ黒の目、唇が縫い付けられたヤバイくまさん」「目の周りが真っ黒の白目の天使(もはや悪魔?)」「角が生えた頭で、四つん這いになって威嚇している鹿」などなど。ホラーな生き物や宇宙人的なものに変身している。摩訶不思議、変身願望と彼女の自己表現を紐解くべく、自己表現の起源やインスタグラムでの表現の背景などを聞いてみました(そして、この記事用に小さなエイリアンになって探検(ネズミにものって)する作品を撮って送ってくれました)。
HEAPS(以下、H):自分を表現しはじめたのはいつ頃だと思う? 幼い頃はどんなことが好きだった?
Hatti Rees(以下、R):10歳の頃の1番のお気に入りのお洋服が「ヒョウ柄のジャケットとレギンスのセットアップ』。お洋服やアクセサリーを制作して、写真撮影をしたり、ご近所さんを観客にファッションショーもした。幼い頃から私はクリエイティブだったよ。英国の田舎ですくすく育って、何より家族がとても自由で。私のやりたいことをいつも尊重してくれた。おさがりのお洋服を自由に切ってアレンジしたりして。母の80年代の大胆なドレスや、母の友だちから譲り受けた80年代の奇抜なお洋服を集めて、妹とドレスアップをして遊んだり。
H:自分を表現するのは自然に身についていったようなものなのかな。
R:私が育った家庭はいつも音楽やロックスターで溢れていて、それを見て育った私にとって、自分を表現するというのは自然なことだったんだと思う。7歳か8歳のとき、ママにフィルムカメラをもらって、そのカメラで私は自分のポートレイトを撮ったり、ドキュメンタリー動画を制作したりもしたんだ。
H:初めてのセルフポートレイトが8歳か。学校ではどんな感じだった?
R:学校ではいつも孤独だったかなあ。小学生のときは妄想に明け暮れていたよ(ま、いまもそうなんだけどね)。頭の中で自分だけの宇宙を作ったり。あと、赤のマントをいつも身に付けているペリーっていう名前の空想の友だちがいて、ママがそのペリーについての映画を作ってくれたのを覚えてる。
H:溢れ出る想像力はいまのインスタグラムからも見て取れるよ。宇宙人なのか、天使なのか、ゾンビなのか、見たことのないビジュアルの生き物たちがいる。こういう表現が好きなのはなぜ?
R:グロテスクや宇宙人のビジュアルをしてみることは、タブーとされている事柄を疑問視することも含めて、より自由な表現をできるから。ちなみに、私はサイコスリラーの映画がすごく好きなんだけど、“めちゃくちゃ”なものにこそ美しさを感じる。ティム・バートンや、デヴィット・リンチ、リドリー・スコットなどの映画監督は、タブーに近づいていくキャラクターと世界観を生み出しているよね。美しさって、想像して描いてみてはじめて生まれるもの。
H:グロテスクさや宇宙的な表現を「Ailien Beauty(エイリアン・ビューティー)」と呼ぶと聞きました。この表現は、性別の壁を壊すだけでなく、ヒューマニティそのもの(人間性、人間としての魅力)の限界を超えていくようなものなんだってね。
R:2017年頃、誰かが私のやっていることは“「エイリアン・ビューティー」なんだよ”って教えてくれるまで知らなかったよ。私はただいろんなものを試してみて、毎回どこまでさらなる表現ができるのかを探るのが好きだっただけなんだもん。私を私たらしめているのは、「一つのコンセプトに捉われていない」ってことだけ。
H:「エイリアン・ビューティー」を意識してるわけではないのか。でも、確かに、何にも捉われない表現をしているのにそれをカテゴリで呼ばれるのはちょっと変かもね。
R:私は、動物が大好きで、結構な時間を動物と一緒に過ごすんだ。どちらかといえば、人間と動物の壁を越えた、生き物としてのフルイディティ、その表現に惹かれているんだろうね。
H:なるほど。生き物の垣根を越える、生き物の枠にとらわれない美しさか。なぜ人間でない生き物を体現しようと思ったの?
R:人間の肉体って、たんなる容器のようなものだと思うんだよね。だから、いまの私たちが見ていこの世界は一時的なものに過ぎなくって、人は死ぬと同時に、魂を違うものに宿すと私は信じてる。ほかの生き物かもしれないし、植物や石かもしれないし。
H:生まれ変わったときの姿の体現として、他の生物になっているのか。ところで、いつもなにからインスピレーションを受ける?
R:自分の身の回りのものからインスピレーションを受けるよ。たとえば、音、視覚、夢、興味深いキャラクターやシーン、グロくて暗いコミック、映画、服、生物、自然、神様、街の人々。あと、友だちとの会話も。
H:ハティの世界は、グロテスクで宇宙的、ホラーで、その中に人間性とかわいらしさが残っているのが印象的だと思った。
R:私は、存在のあり方の自由、その表現の自由を大切にしていて、平等性に重きを置いているんだ。バイナリー(性別を男性・女性のどちらかに限定すること)の考え方は、何を考えるにしても危うい影響をあたえると思う。だって二者択一が前提で、物事をどちらか一方に見なすことだから。私は、存在のあり方の自由とその表現の自由でもって、そこから逸脱しようとしているの。
H:いつ頃からノンバイナリーの思考を持つようになったんだろう。
R:18歳の頃かな。クィアの人々やアーティストの多様な種類の人々と出会って、私のすべてが変わった。アートや自分と同じような感性を持つコミュニティーの意識を通じて、いまの自分になっていったって感じかな。
H:そうか。その前の、学生時代はどうだった? 特に10代初めには、突然、女性・男性というのがわかれる時期。男女で違う制服ができて、友だちのグループも男女で別れるようになったり。当時、性別に対して、早々に何か思ったり、葛藤したりなどはあった?
R:13歳の頃に自分の胸が膨らみはじめて、そのことに違和感を覚えたんだよね。生まれ持った性別が、自分に合っているものだと思ったことはなかった。当時の私にはそのことがうまく理解できなくって、訳もわからず恥ずかしかった。自分の胸なのに、自分のものではないような気がして。
H:そうだったんだ。
R:田舎の小さな町で育ったから、インスタグラムどころとかインターネットが無くて、自分に起きていることが一体なんなのかわからなかった。勝手に“女性”になっていく体と自分が、衝突している感じ。自分を表現することを続けていけるかわからないとも思った。でも、さっき話したコミュニティとの出会いを通して自分で考えていけるようになって。
H:性別を超えて、人間であるということも超えようとしているのは、そういった葛藤があったからなんだね。表現において、ルールというか、流儀みたいなのある?
R:私のマントラは、“Fuck what anyone else thinks!(他人が何を思うなんて気にするな!)”。自分らしく、大胆不敵になる。リスクを負いながらでも自分がたのしめることを追い求める。だって、やりたいことがあるのなら、やるのが1番だもの。
H:10年後の目標は?
R:アイコンになること。あと、世界を変える。グラミー賞とオスカー賞やらを受賞、英国の美術館「テート」で個展を開催。それから、ロサンゼルスに住んで、リッチで幸福な生活をする。
H:賞総なめ(笑)。その勢い、好きです。
Interview with Hatti Rees
Images by: Lotus Lasco @fayrei
Images by: Lotus Lasco @fayrei
Images by: Lotus Lasco @fayrei
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Photos via Hatti Rees
Text by Ayano Mori
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine