自分の死後のことまで、地球のことを考慮する人のための「エコ葬」。以前、「私が死んだらキノコにあげて」というキノコ葬についてを取り上げた。土葬や火葬のような環境負荷をかけることなく、キノコに食べられ、キノコの栄養素となって地球の土に還るのだという。
自分を栄養素にして地球のエコに還元するという考えが浸透する中、歩みを進めているのが“遺体の堆肥化”だ。「私が死んだら種を植えて。きれいな花を咲かせて」ということなのか?
世界初。「人間の遺体を堆肥化できる」施設
気候変動への爆発的な関心の高まりも後押しとなって、少しでも環境に配慮しよう(しなければ)という動きは、葬儀方法にもあらわれている。もとより、人間の最期の選択をポジティブにしていこうというデス・ポジティブムーブメントの流れで、2兆円の市場価値(2017年)をもつ一大ビジネスとなっていた葬儀業。その中でとりわけ成長しているのが、環境に配慮した選択をする「エコ葬」で、昨今大きな歩みを進めるのが「堆肥(たいひ)葬」だ。言葉のまんまだが、“遺体を堆肥化”する。
一瞬ギョッとするものの、実はスウェーデンではすでに合法。広大な土地を必要とし土壌汚染が懸念される、欧米で主流の「土葬」や、大量の燃料を消費し大気中に有害物質を放出する日本で一般的な「火葬」とは異なり、「堆肥葬」は環境にやさしい葬い方だと話題を集めている。
昨年の5月には米国でもワシントン州が「人間の遺体の堆肥化」を認める法案を可決。そして、今年5月から、実際に「堆肥葬」という新しい選択肢がくわわる予定だ。これにともなって、同州のシアトルには、遺体を堆肥化する〈遺体堆肥化センター〉をオープンする。世界初となるこの施設では、堆肥化と葬儀をおこなうのだという。「愛する人の最後の瞬間の選択肢を増やす」ことを目標に掲げるシアトルの「Recompose (リコンポーズ)」が手掛けている。
白を基調としたセンター内には自然光が差し込み、草木が点々としてあかるい。ここで実際におこなわれる堆肥化と葬儀についてを、詳しく見てみよう。
1、遺体はセンター内にある、六角形のモジュール式の鉄鋼製容器に1体ずつ収容され、木材チップや藁(わら)で覆われる。
2、容器に空気を送り込み、微生物を活性化させる。
3、遺体は徐々に微生物に分解され、約30日で骨や歯までをも土に変える(歯に詰める金属製インプラントなどは分解不可なため、処理過程で取り除かれる)。
分解までの過程に必要なエネルギーは、火葬の8分の1。一つの遺体からできる堆肥の量は、荷車2台分だ(遺体の大きさにもよるとは思う)。
葬儀場としての利用も含めて、遺体堆肥化センターでの費用は1体につき5,500ドル(約60万円)。米国における土葬の費用は7,000から1万ドル(約77万円~110万円)だ。環境にもよく家計にもやさしければ、その観点からでも新たな選択肢になるかもしれない。
創業者のカトリーナ氏いわく「リコンポーズのニュースレターには、すでに1万5,000人が登録している」とのこと。同センターは今年12月のオープンに向け、20から25個の収容容器を備えたいと意気込む。
「あの人の堆肥」で咲かせた花に、手を合わせる日が来る?
遺族は、故人の遺体からできた土を持ち帰ることが可能だという。「最後は、一生涯を通してともにあり、お世話になった地球に恩返しするべきではないでしょうか。論理的であり、うつくしいことだと思います」とカトリーナ氏はコメントしている。土が不要な場合は、リコンポーズと地元の団体が協力し、州内の土地を育てることに使われる。
持ち帰った堆肥を使い、花壇で花や野菜(食べるのは賛否両論だろうが…)を栽培でき、庭に木を植えることもできる。墓場まで足を運ばずとも、四季折々に色づく植物の前で手を合わせる。
以前紹介した「キノコ葬」では、実際に俳優のルーク・ペリー(大ヒット海外ドラマ『ビバリーヒルズ高校白書/青春白書』のディラン役で知られた)がキノコ葬で埋葬された。新しい命を育む堆肥となり「コンポストされる未来の自分」を選べるようになるのは、あと1ヶ月後だ。
—————
Eyecatch Image by Midori Hongo
Text by Ayano Mori
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine