新しいプロジェクトからは、バラエティにとんだいまが見えてくる。ふつふつと醸成されはじめたニーズへの迅速な一手、世界各地の独自のやり方が光る課題へのアプローチ、表立って見えていない社会の隙間にある暮らしへの応え、時代の感性をありのままに表現しようとする振る舞いから生まれるもの。
投資額や売り上げの数字ではなく、時代と社会とその文化への接続を尺度に。新しいプロジェクトとその背景と考察を通していまをのぞこう、HEAPSの週1のスタートアップ記事をどうぞ。
ようやくあちこちで「撮影現場」が戻っている。モデルに取っ替え引っ替え服を着せるファッションの現場、タレントや俳優の服を何着も用意するテレビや映画の現場。「つねに清潔」がマナーとなったポストコロナの世界で、撮影現場のメンバーとしてとあるロボットが新たに加わった。〈5分で除菌・ドライクリーニングをしてくれるロボット〉だ。
#KEEP SETS SAFE(撮影セットを安全に)
年内いっぱいリモート勤務という会社がある一方で、物理的に集まらないと仕事として成り立たない業種がある。テレビや雑誌などの撮影をともなうマスメディアやファッションの仕事だ。人気写真家・蜷川実花が、デジタルスクリーンを通した“リモート撮影”なるものを実行し話題になったが、それは1対1の息のあった撮り手と被写体がいてはじめて実現されること。何人もが参加する大掛かりなファッション撮影やテレビのプロダクションは、じゃあリモートで、とはなかなかいかないことが多い。その物理的に集まらざるを得ない撮影現場に現れたのが、“安全”で“清潔に”保つことを誓うスタートアップ「Presso(プレッソ)」。
同スタートアップは、2018年にジョージア州アトランタにて創始。映画スタジオや撮影のロケーションが密集し「南部のハリウッド」の異名をとるエリアだ。
プレッソが開発したのが「5分で完璧なドライクリーニングができるロボット」。出張等でホテル滞在をするビジネスマンたちのための「時短・格安ドライクリーニングサービス」としてはじまったが、次第にもっぱら活躍の場は「撮影現場」に。クリーニングサービスの外注で起こる「予定日に服が返却されない」「服を紛失・破損されてしまう」というリスクを回避する。が、いま、何より「5分で済む」ことそのものが撮影現場で価値を生む。
今回パンデミックの影響を受け、本来の5分ドライクリーニングに「除菌クリーニング」をくわえてさらにパワーアップ。撮影スタジオなど、服とタレントが入り乱れる現場でつねに清潔な服を用意できるようになった。
ロボットの中に服を入れると、霧状の消毒スプレーが直ちに服に付着。スプレーは、目や肌への刺激もなく安全なもので、漂白剤のような服の腐食を引き起こすこともないという(アメリカ合衆国環境保護庁の認可済み)。多くの衣服を分刻みで消毒しなくてはならないポストコロナの撮影現場で、たった5分でプロ級の洗濯、アイロン、乾燥、そして消毒を済ませた、ウイルスのリスクを最小限に留めた服を次々と用意できる。コロナ感染を危惧しつつも多くの人と関わらなければ成り立たない現場で、プレッソは除菌クリーニングのプロフェッショナルとして仕事をこなしている。
各地の映画やテレビ業界では、ワードローブを消毒するように規定がされているなか、プレッソの消毒はアメリカ疾病予防管理センター(CDC)の規定にも沿っている。
ワードローブを“プロ”に保ち、エンタメ・ファッション業界を救う
コロナが次第に明けてきた6月末のニューヨークで、筆者は撮影現場に行く機会があった。大量の衣服が用意された大きな撮影だったのだが、やはり前にはない緊迫感があった。個人間でのフェイスカバーやマスクだけでなく、プレッソのような「ウイルスリスクを最小限にする」ツールは、現場の不安をやわらげるという意味でも製作陣のケアとなる。また今後は、以前までのシワのない整った状態のみならず、「除菌されたクリーンな状態」も撮影現場の“プロフェッショナルな衣服”に求められるスタンダードになりそうだ。
エンタメの中心地カリフォルニアでは、5月から撮影プロダクションを以前の状態に戻すプランを発表していた。エンタメやファッション産業に支えられた街においてプロダクションの早期復帰は、経済の回復にも繋がる。現在、プレッソは受注を毎月2倍ずつ増やすほど需要を伸ばし、ディズニーやマーベル、HBO、CBS、FOXなどの大手制作プロダクションやテレビ局の現場でも活躍中だ。
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Eyecatch Image by Midori Hongo
All Images via Presso
Text by Aya Sakai
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine