海でゆらゆら揺れる草を屋根に。雨にも風にも負けず、火にも強い「海草葺き屋根」世界で10人しか知らないデンマークの伝統建築を現代へ

海に揺れる草で、頑丈な伝統の屋根をもう一度つくる。
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「海の草でつくる屋根」は、雨にも風にも負けない。そして、燃えにくいともいう。縄文文化の縦穴式住居にも用いられた、草を敷いた分厚い屋根(茅葺き屋根)。日本にも伝わる古き建築技術だが、現在では、この茅葺屋根が新たに建築されることはない。茅が「燃えやすい」ためだ。

いま、古くから伝わる“葺屋根”がデンマークで新たに開発されている。それが「海草を敷いた海草葺き屋根」。耐久性はもちろん、耐火性にも優れているという。

時間が経てば頑丈になる。海の植物、海草(うみくさ)の屋根

 日本の茅葺屋根といえば、「茅(かや)」と総称されるイネ科植物の「ススキ」や「ヨシ」だった。対し、海中に生息する「海草(うみくさ)」を使う。ちなみに、海草は海藻とは異なる。海域でユラユラしているのは同じだが、海藻がも類なのに対し、海草は陸の植物同様に種から育つ。花を咲かせることもある。海に咲く花、ロマンチックだ。

 現在、その海草を使って開発を進めるのが「海草葺き屋根」だ。昨年、デンマークに住むアメリカ人のキャサリン・ラーセンが大学の卒業制作プロジェクトとして「Seaweed Thatch Reimagined(シーウィード・サッチ・リイマジンド)」を始動。現在は大学院に通いながら、同プロジェクトを実用化に向けて研究を進めている。


キャサリン・ラーセン(Kathryn Larsen)

 なぜ、海草なのか。「海草の一種、アマモを使います。アマモは他の建築素材に対して、CO2をつくりません。CO2を使うんです」。耐久性としては「アマモと木で家を作ったら、コンクリートのものよりも頑丈ですよ」。なぜ火に強いのか。「アマモは海の草ですから塩を含みます。その塩が、耐火性となります」とキャサリン・ラーセン。
 実はその昔、デンマークのレス島ではアマモで屋根作りが行われていた。気候変動によりレス島の「アマモ」が枯渇したため、1930年代には海草葺き屋根も消えていった。現在のデンマークにはアマモが復活し十分に生息しているため、再び海草葺き屋根をつくることが可能だという。


「200歳にもなる屋根の家が、レス島にあります。100年ごとに新しい屋根をつくるんです。でも、つくる方法を知っている人は、世界に10人もいない。だからコストが高すぎます。時間もかかりすぎます。でも、アマモはたくさんあるしアマモ農家もいる。伝統の建築も、ずっと続く農家も、持続するためにこの建築をすすめたいと思ったんです」。

 自然由来でやさしく強い伝統の屋根を「コストを下げてたくさん作るにはどうしたら良いか」。その改善策として、建築方法も大幅にアップデートした。最たるは、海草を敷き詰めたパネル作り、そのパネルを組み合わせて屋根を作る点。この「パネル式」であれば、素人でも設置が簡単にできるという。「約5平方メートルのパネル設置には、2人で約4時間かかりました。初めてだったので手間取ってしまいましたが、器用な人だともっと早く設置できると思います」。


アマモが詰められたパネル。


組み合わせていく。


 パネル式にしてなお、耐久性はどれだけ保たれたのか。「海草葺き屋根パネルを使った試作品の小屋(小さなバス停くらいの大きさ)を約8ヶ月屋外で観察観察しました。パネルには、損傷がほとんど見られなかったんです」とキャサリン。さらに「アマモの中には接着剤のような成分があります。雨が降れば少しずつ固まり、約1年後には完全な防水機能が期待できます」。茅葺き屋根は経年によって劣化し定期的な修繕を必要とする一方で、海草葺き屋根パネルは放っておいても、雨が降れば腐るどころか頑丈になっていく。

 プロジェクト始動のきっかけは、キャサリン自身が18歳の頃に日本に滞在し、古民家の建築に触れたこと。「日本の茅葺き屋根に使う材料はサステナブルそのもの。だから、世界でもっと取り入れるべきだと思ったんです」。そこから茅葺屋根や伝統の建築に興味をもち、デンマークの伝統の、海草の葺き屋根にもたどり着く。「デンマークの建築家は、伝統的な方法を使いたがらない節があるように思います。それは、伝統というロマンのようなものよりも、現代の現実的な建築方法を突き詰めようとするからではないでしょうか。でも、私は伝統のものはサステナブルだと思います。アマモを使った屋根はデンマークにしか伝わっていない。だから、デンマーク語を勉強して、屋根の作り方を学びました」

 そこからいまでも研究を続け、今後誰にでも使えるようパネル式にアップデートした建築方法で、新たなサステナブルな屋根の実現に、草を幾重にもするように少しずつ近づけている。「アマモは、世界のいろんなところにあります。ローカルな調達ができますよ」。現在はプロトタイプの段階だが、将来は大量生産も視野に入れていると意気込む。自然の草を敷いた優しく強い古来の屋根たちが、世界の街並みに戻ってくるかもしれない。

Interview with Kathryn Larsen
Photos via Kathryn Larsen
Text by HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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