新しいプロジェクトからは、バラエティにとんだいまが見えてくる。ふつふつと醸成されはじめたニーズへの迅速な一手、世界各地の独自のやり方が光る課題へのアプローチ、表立って見えていない社会の隙間にある暮らしへの応え、時代の感性をありのままに表現しようとする振る舞いから生まれるものたち。
投資額や売り上げの数字ではなく、時代と社会とその文化への接続を尺度に。新しいプロジェクトとその背景と考察を通していまをのぞこう、HEAPSの(だいたい)週1のスタートアップ記事をどうぞ。
毎日のシャワータイム。サクッと終わらせる人もいれば、シャワーのなかで熱唱、ブリトニー・スピアーズの『Toxic』なんて流れてきたら、足元のシャンプーボトルを蹴り飛ばして独りライブ状態、なんて人もいるでしょう。ところでこの手元足元のボトルが「無くていいもの」だとしたら?
「Less waste, more magic(ムダは少なく、代わりに魔法を)」。シャワールームに新しい体験をくれるボディウォッシュが誕生。それはパッケージまで“跡形もなく、泡とともに消えてゆく。
水に溶ける(か、土に戻る)ボディウォッシュ
シャンプーやボディソープなどのボトル、平均してひとシャワールームに11個ほどあるらしい。「多くない!?」と思ったが、自分のシャワールームをよく思い出してみると、あれ、意外とそれくらいあるかもしれない。米国では毎年400億以上ものボトルが製品として運ばれているが、一つのシャワールームに11本ほどのボトルがあって、無くなれば買い換えて捨てて足して、いつも11本もあるのだとしたら… 驚きの数字にも合点がいく。にしても、これは多すぎる量だ。
世界規模では毎年3億トン以上のプラスチックゴミを排出しているが(経済協力開発機構、2015年)、その半分以上が包装を用途とした使い捨て製品。もちろんシャワールームのボトルたちもここに含まれている。
さらに、一般的なボディウォッシュの90パーセントは「水」。多くの水とプラスチックが使われ、輸送するためにたくさんの二酸化炭素が排出されている。ノリノリなシャワータイムの裏側に潜んでいる現実だ。
この状況を “水とともに流してしまおう” と、「すべて泡、詰めもの(水)はなし」を合言葉に「流せるボディウォッシュ」を開発したのが、今年4月に創業したばかりの「PLUS(プラス)」。消費大国・米国の大都市ニューヨークのブルックリンを拠点にするスタートアップだ。ちなみに、共同創業者は、以前ヒープスで紹介したニキビの概念をガラリと変えるニキビパッチを開発したジュリー・ショット氏。美容系編集者として働いていた際に、美容製品やパーソナルケア用品から出る莫大な量の廃棄物を目にした経験からPLUSを立ち上げた。
PLUSを持ってシャワールームに飛び込んでみよう。一番のワクワクは、なんといってもそのパッケージ。シート状のボディウォッシュを取り出したら、パッケージはそのままシャワールームの床にポイッ。体をキレイに洗い終わるころにはすっかり溶けきって排水溝の中に流れている(パッケージはFSC*森林の木材パルプで作られた完全水溶性。パッケージに印字されているインクも無毒で、アメリカ食品医薬品局承認済み)。シート状のボディウォッシュは、水に触れればたちまち泡だらけに変身。香りも最高だ。
*持続可能な森林活用・保全を目的として誕生した「適切な森林管理」を認証する国際的な制度。 認証を受けた森林からの生産品による製品にはFSC認証マークがあたえられる。
PLUSの徹底ぶりはまだまだある。同製品のパッケージを入れるジップポーチや郵送パッケージは、完全にコンポスト可能。排水溝だけでなく、裏庭の家庭菜園の土でもポイッ。「水に溶けるか土に戻るか」のサステナブルな二択で、跡形もなく消えていく。
*製造過程では、従来のボトル式シャワージェルに比べて約38パーセントの水を節約している。また、排気量に配慮した郵送システムを使用することで輸送におけるCO2を80パーセント削減。森林再生プロジェクトPachamaと提携することでCO2排気量を110パーセント相殺している。
「やってみたい」を引き出す、“FUN(たのしい)!”な新体験
エコへの意識が高まるここ数年、“環境に良い=我慢しなくてはいけない”という方程式を破るような環境へ配慮したアイテムが登場した。PLUSはこの次、と言ってもいいかもしれない。環境にいいことは「新しい体験をくれる」という好例だからだ。
純粋に「ボトルなし」のシャワールームはいいだろうし、パッケージを破ってそのまま流れていくのを実際に見てみたいし、シート状のボディウォッシュも試してみたい。包装紙はベランダのプランターにポイッとして、本当に跡形も無くなるのかも確かめてみたい。
環境を意識することはなにかを我慢することでもなければ、いままでいままでにない体験や発見をくれることでもある。オルタナティブなことを追求するというのは、そもそも刺激的でたのしいことなのだという純粋な喜びをくれるPLUS。ノリノリのシャワールームでポジティブバイブスを全開にしよう。
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All Image via PLUS
Text by Iori Inohara
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine