日常の時間をあぶりだしたら。普通の瞬間から大混乱を、現実から非現実をつくりだす現代のストリートフォト、真実の延長線

埋もれていく数々の不思議で奇妙な瞬間に、主題と同じくらい大切なものがあったりします。
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無数の選手にボールでごった返しになったフィールドの一枚。これは試合というよりは大乱闘、戦争に近い気がする。競技のスポーツ写真では、もはやない。だが、これらはすべて実際の試合のフィールドを撮った写真のみからつくられている。プレイの瞬間5000枚、それを一枚のモーメントに凝縮した。

「ありふれた瞬間を、ドラマチックじゃないリアルを、寄せ集めるんです。スポーツに関していえば、シークエンス(連続性)を持ち込んでいる。ただし、一人の動きを順当に追うものではなく、そこにあったあらゆるシークエンス、瞬間をバラバラに持ち込んでいる。ある一定の時間の中で、そこで起こったさまざまなリアルの瞬間を入れ込んでいるんです。それはまた、一つのリアルな一枚といえると思いませんか」

ストリートフォトグラフィーの延長、“一瞬では弱い”ものを見せる

 大混乱のスポーツ写真シリーズ『Crowded Fields(クラウデット・フィールド:2018ー)』で、一躍話題を集めた写真家、ペレ・キャス(Pelle Cass)の作品の特徴は「日常から非日常」をつくること「現実から非現実」をつくりだすことだろう。数千枚の写真をフォトショップで重ねて編集していき、一枚につくりあげる。しかし、やたらめったらに作為性をくわえるのではなく、ある一定のルールのもとで、普段は見えないものをあぶりだしていく。

 彼が扱うのは一つ「瞬間」だ。連続する動き・行為や瞬間、つまり「時間」を写真に入れ込んでいく。真っ直ぐな時間軸ではなく、前後させたとんでもない無秩序にすることで、一瞬の一枚からは見えてこない現実を、ユーモラスに見せてくれる。なんだか言葉にするとなぞなぞみたいになってくるが、ペレ・キャスのいうところでは「70、80年代のストリートフォトグラフィーの延長のようなものだと思います。ストリートフォトグラフの現代版、といいますか」。

 名前などつかない市井のありふれた瞬間を切り取るという行為で、それら瞬間を目をとめるべきモーメントにした70年代、80年代のストリートフォトグラフィ。これらがストリートで起こった一瞬の一枚だとすると、ペレ・キャスの写真は「ストリートで起こったある一定の時間でのあらゆる瞬間」だ。たった一枚では強さをもたない瞬間を寄せ集めて、現実から非現実をつくりあげる一枚。「いつも、制限された“一枚”に満足できていなかったんです」。

「なんてことない観光スポットにいって写真を撮ります。そこには、たくさんの普通の人がいますね。ただし、私はこのような普通の人たちこそみな興味深いと思っていますが。私はここで、彼らありふれた人たちのなんてことない瞬間、歩いているところなんかをキャプチャーします。なにもドラマチックではないしおもしろくもなんともない。観光スポットでは、“歩いた”ことを覚えている人はいないでしょう。これを(写真の上で)一斉に人を歩かせると、意味のないモーメントが、ある意味を持ちはじめてくる」

Pelle Cass, Esplanade, “Selected People.”

 埋もれる日常の瞬間を、さらに細かくしてペレ・キャスは引っ張りだしていく。「ライターという仕事では、気にもとめないことや瞬間を小説の一部に書き入れることができるでしょう。写真は(一枚では)ドラマチックではない瞬間だけれども、そこには重要なことが起こっているんですね」。

 ペレ・キャスの現実、非現実、秩序、無秩序についてを、ランダムに会話した取材から項目ごとに見ていこう。

Pelle Cass, AOG-Water Polo at Harvard-closeup Flat, “Crowded Fields.”

瞬間:

ミルクの滴が落ちたときにできるクラウンの形を初めて写真に収めた人物、ハロルド・ユージン・エジャートンを知っていますか? 有名な“ストップ・アクション写真”です。彼はミルクの滴が飛び散る、その“一瞬の動き”を静止させたんですね。僕は、それに似た、その延長の制作をしているような気がします。瞬間のヒストリーを保存しているみたいな。

スポーツ写真では、瞬間を集めることで「競争のスポーツ写真」から脱却したと思います。スポーツといえば、競争でしょう。それよりも遊び心を求めました。スポーツにおいて、ほかのことに注目できる写真にしたんです。

Pelle Cass, Dartmouth Basketball Side View Balls, “Crowded Fields.”

Pelle Cass, AOG-Harvard Football from End Zone, “Crowded Fields.”

秩序・無秩序:

(先ほど触れた)大勢を歩かせる、という写真。ここに小さな秩序を入れ込みます。列をなして歩いている人を2、3人入れ込む。すると、とてもよくなるんですよ。絵のあちこちにハッシュマーク(#)を入れていくイメージです。

Pelle Cass, Quincy Market I.

(時間を写真に入れ込んだ)有名な写真家、エドワード・マイブリッジの『動く馬(The horse in Mortion)』のように、馬の高速走行を連写で捉えた写真みたいなものは、あまりやりたくない。作品批評ではなく、同じことをしたくないという意味で、です。なので「プレイヤーの動きが、順序通りではない」ことに注意します。時々、撮影した写真があまりにも順序通りになっていると、作品を完成させられないときもあります。また、同じプレイヤーをリピートさせることはあまり好みません。リピートさせる場合はできるだけ同じ人が隣同士にならないようにしています。そして、重複回数はできるだけ均等に。

Pelle Cass, Futures from Baseline Ct6 Thurs, “Crowded Fields.”

この作品では、動きの順序を感じさせないようにかなり留意しました。無意味なものを作り上げるということを意識して。ジャンプ台に立つ、飛び込む、水の中に落ちる。この流れを空中に“空中に浮かぶ彫刻”のように表現したかったのです。

Pelle Cass, Diving Championships at MIT, “Crowded Fields.”

ルール:

写真の人物の位置は、一切変えないようにしています。写真はどれも本物である、ということが重要です。たとえば鳥が飛んでいるとして、それをよく撮りたければ、(鳥を動かすのではなく)私が鳥がいるしかるべき瞬間を捉えます。

ストリートフォトグラフィーは、そこにある真実を伝えます。70、80年代のストリートフォトグラフィーでは「誰か、そこに行ってくれ」とは言いませんよね。つくられないありのままの瞬間を撮るために、撮り手は空気でいる必要がある。光を足したりもしません。

私は、そのあたりの、真実の延長線にいると思います。そこで起こったリアルを伝える。私がつくる一枚には、確かに起こったことがたくさんある、ということ。そこにあった瞬間や真実を凝縮した、リアルな写真です。

いつも“驚き”をあたえられるような写真にすることも、大切にしています。

Pelle Cass, Tree, Boston Public Garden 2.

パターン:

『Selected People』ではパターンが実在するものが多い。パターンがないといけないというルールは設けていないので、パターンがないものもときにはあったりもします。コロナ禍では、たくさんの人を撮影して「6フィート(約1.8m)」離して配置する、ということもしました。

Pelle Cass, O shorts.

Pelle Cass, Faneuil Hall Crosswalk 2017/2020, “Reworked.”

プロセス:

撮影は、まず三脚を設置して、1000から5000枚ほどの写真を撮る。1時間、2時間くらいかかります。時には20分で終わることもあります。写真の構図は決めません、なぜなら、それが実現できるかはわからないから。道の真ん中は誰も歩かないでしょう。なので、撮影してから構図がわかります。

フォトショップの編集では、まずすべての写真をチェックして、特徴のある人物を見つけ出し、その人の特徴と似たような傾向のある人物を探していく。写真のすべての箇所が同じだけおもしろくなるまで続けますので、編集作業は大体1、2週間かかります。写真が多いときは1ヶ月、それもフルタイムでその作業にかかりきりになります。

数年後にまた作業に戻って、新しいバージョンを作ったりもします。2008年にはじめた『Selected People』はまだ新しいシリーズを足していっています。自分でも何をしているかよくわかっていないのですが、あといくらかは続けていかないと、と。

Pelle Cass, Crosswalk Rose Kennedy Greenway I, “Selected People.”

好み:

撮影を口実に外にでることはいいこと。いつも、人が大勢いるところで撮影をします。夏は好きですね、観光客がたくさんいて、それぞれが家族の写真や鳥の写真なんかを撮っていて、僕もその一人に混じれるから。あまり勇敢な写真家ではないので、人がわからないようにさくっと撮影します。なので、シンプルな場所より、複雑な場所がいい。いつも、高いところから撮影するようにしています。

苦手:

時には(撮影していると)嫌悪感満載の顔で睨まれることがありますね、外での撮影のそういうところがどうしても苦手です。公共の場に出て、通行人が僕に視線を向けるというシチュエーションがどうしても嫌いなんです。そういう写真が実際に幾つかある。せっかくだからその写真も無駄にはせず、作品にします。目立つのは、恥ずかしくて仕方ない。

ディレクションはしませんし、人が怖いから、人には話しかけられません。同じく、人に話しかけられることもないように行動している。何度かに一度、「撮らないでくれ」と人に言われることがあって、そんなときはカメラを持って何処かへ逃げます。

Pelle Cass, street photography flat.

美学:

自分の手で作品を作るのが好きです。画家のように、大きな作品を完成させるめに少しずつ、少しずつ作業を進める。目に見えるプロセスが好きで、そういう瞬間に幸せだなと感じます。

気づきの瞬間も、幸福感に包まれます。普段は人が何を身につけているかなんて気に留めないものですが、カーキのパンツを履いてオレンジのシャツを着ている人たち、というパターンを見いだしたりする。喜びを感じながら、彼らを写真の中に集めていくんです。

Pelle Cass, Hi Res – Rawson Road


取材に応じてくれたPelle Cass(ペレ・キャス)。
PelleCass, portrait.

Interview with Pelle Cass

All Photos via Pelle Cass
Interview by Ayano Mori
Text by HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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