「ニューヨークの“ローカル・スラング古着Tシャツ”」が売れる、思ったよりも複雑な理由。Tシャツで告げる地域への気持ち

本棚の本と、パーカー下のTシャツ。共通点は、言葉にせずとも「こんな人間です」って伝えるところかなあ。
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Tシャツは口ほどに物を言う。それを着た途端に「自分は、こういった趣味やテイストを持つ者です」と、周囲に勝手に話しかける節がある。それが狙いであれば、とても便利なコミュニケーションツールである。と同時に、それを避けたければ「やはり無地が無難」ということになるのだろうか…。

「わかる人にはわかる」「刺さる人には刺さる」という高度なTシャツは、言葉にするより物を言うかもしれない。ここでの高度なTシャツとは、「地元の人には通じるさまざまな事柄(ローカル・スラング)がデザインに含まれた古着Tシャツ」のこと。いま、このローカル・スラング古着Tが流行りを見せている。文化エリートたちの、あえてブルーカラーのユニフォームTや、あえてブートレグっぽいTを選ぶメンタリティと似たようなものなんでしょ? と思いきや。

注目の古着のTシャツ屋。シグネチャーは、ニューヨークの地元スラング

 ここ数年、店の住所や電話番号を入れたオリジナルTシャツを販売するブランドが増えていることが気になっていた。まるで、配達員や水道修理士が着ているユニフォームのように…。以前、なぜグッチの“パチモンっぽいTシャツ”は売れたのかという記事を書いたときには、「あえてブートレグっぽいものを選ぶ」というトレンドの背景にあるメンタリティを、ファッションにさほど明るくない関係者外の視点で好き勝手に取り上げてみたが、今回は「ローカル・スラング」が含まれた「古着のTシャツ」の人気の背景を探ってみたい。

 ローカル・スラング、直訳すると「地元の俗語」。その地域の人ならわかる、標識や店、チーム、企業名、時事ネタ…といったところだろうか。なので、「ニューヨークのローカル・スラングが含まれた古着T」とは、地元の飲食店のTシャツだったり、塗装屋のTシャツだったり、地元企業のキャラクターがプリントされたTシャツだったり、あるいは時の市長を揶揄したり、話題になった時事を文字ったTシャツだったり…、ニューヨークの “地元あるある” を知っている、響く人にだけ響く、いまはもう作られていないTシャツ(古着)だと解釈できる。
 この「ローカル・スラングの古着屋」として注目を集めているのが、ニューヨークのブルックリンに小さな店を持つ「ファンタジー・エクスプロージョン(Fantasy Explosion)」。シグネチャーは、地元ニューヨークに関連するローカル・スラングもので、どうやらそれがウケているようだ。
  

Fantasy Explosion

 注目のきっかけはインスタグラム。店を構える前はオンラインショップで、2018年からジワジワと話題になっていた。創業は「2017年。ちょうど新しい仕事を探していた時期で、食い繋ぐために持っていた古着をオンライン上で売ったのがきっかけ」と、オーナーのケビン・ファロン氏。フランク・オーシャンなどのセレブリティの目にもとまりはじめていて、これからさらなる伸びが期待されている。

カオスに見えるけど。「ローカル・スラング」フィルターで選定

 週に50着、半月で約100着をインスタグラムのストーリーに投稿するといい、それをみたファンからDM(ダイレクトメッセージ)が届く。「〇〇ドル払うので、取り置きしてほしい」「サイズ感は」「他の色は」など、最近は「一日に30〜50通ものDMが届く」反響っぷりだそうだ。Tシャツのすべてはオーナーのケビンの眼鏡にかなったもののみで、ファンからの信頼は厚い。

 ニューヨークのローカル・スラングのTシャツへの目利きとくれば生粋のニューヨーカーかと想像するが、出身は、ニューヨークから車で3時間半ほどのところにある全米で最も小さなロード・アイランド州。ニューヨークへ移住したのは約6年前。当時から、スリフト(リサイクル)ショップなどで掘り当てたレアな古着は「それなりの量を持っていた」という。


Kevin Fallon(ケビン・ファロン)

 ニューヨークに関連する古着を集めるようになったのは、「ニューヨークとの繋がりを感じたかったから」。この街の“新入り”ならば誰もが一度は抱くであろう、そんな想いからだったと話す。最初は、好きなバンドやアーティストのニューヨーク公演の記念Tシャツ関連のものから入って、徐々に「より自分にとって重要なもの、たとえば、よく行くデリやピザ屋のユニフォームTやキャップ、サンドイッチ屋に食材を卸している食肉会社の企業Tなんかも集めるようになった」。

 そのほか、80〜90年代のNYCマラソンや全米オープンの記念品、アメリカ同時多発テロ事件後に作られたメモリアルグッズ、2000年代までにニューヨークでおこなわれてきたデモ関連のアクティビズムTシャツ、地元民に長年愛されたいまはなきバーやレストランのロゴTシャツなども取り扱っているのだが、そこに「セックス・アンド・ザ・シティ」のキャップが混じっていたりするのがおもしろい。サブカルチャーもメインカルチャーもごちゃ混ぜだが、「ローカル・スラング」のフィルターにかけて収集している。もう一つ商品に共通するのは、いずれのTシャツも、ブランドものでもオートクチュールでもない、“作者不明のアイテム”である、ということだ。




計算されたブートレグのブートレグ。途方もないデタラメな感じが人気

 
 オリジナルのアイテムも作っている。コンセプトは「ブートレグのブートレグ」。土産屋などで売られているチープな模倣品をさらに模倣したデザインがウケて、こちらの売れ行きも絶好調だ。
 たとえば、このNYの地下鉄「MTA(Metropolitan Transportation Authority)」の「ブートレグのブートレグ」バッグ。もちろんロゴには商標を意味するTMマークはない。デタラメなMTAのロゴと、電車やバスのイラスト、そして、ラッパーでソングライターのリュダクリスの名曲『スタンド・アップ』の名フレーズ「When I move you move, just like that」を、サンプリングしているのだが、まず、ローカル・スラングであるNYの地下鉄「MTA」が何なのかがわからなければ、チンプンカンプン。


これが、MTAバッグ。

 彼のオリジナルアイテムの作り方は、いわゆる元ネタがあってどうサンプリングしていくかという、とても音楽的な作り方をしているのだが、使う元ネタがローカル(この場合はニューヨーク)・スラングなだけに、まずはそれを知っているかどうか、そして、他のネタとの掛け合わせを「おもしろい」と感じるかが、刺さるかどうかのポイントだろう。

 つまり、MTAが何かや、このフレーズが過去の名曲からの抽出であること、またリュダクリスというラッパーが纏うちょいダサな感じなどが、わかる人しか刺さらない。いわば「笑いのツボ」のようなもので、地元に関するニッチなおもしろさを共有できるかどうかが、お互いの“魂の番地の近さ”を知る術となる。
 また、ニューヨークにある美術館「グッゲンハイム」の文字をカレッジ・ユニフォーム風にアレンジしたフーディー(パーカー)があったが、これはインスタグラムに投稿するやいなや即完売だったそうだ。


NYのブルックリン発、ピンアクセサリーブランド「PINTRILL」も置いてある。


プレイ・ボーイ、『NYPD NUDE(New York Police Department ニューヨーク市警察の、ヌード?)』でやっぱりニューヨークネタ。

 

希少性もニーズもあるのに、リーズナブルな価格で提供する理由

 以前、ドラッグディーラーみたいなビンテージTシャツディーラーを取り上げたが、ケビンの商品の入手方法も彼と似ている。仕入先は「企業秘密」。独自の入手ルートを持ち、トレード(物々交換)などを駆使して、限られた予算で「欲しいもの」を入手する。


“ローカル・スラングキャップ”も。こちらはNYCの郵便局を施したデザイン。


 
 ただ、ファンタジー・エクスプロージョンの価格設定は、Tシャツ一枚30〜40ドルと驚くほどにリーズナブル。ニーズがあるのだから、それなりに高くすることもできるはず。にも関わらず「5,000円以下」で販売しているのはなぜか。それについて聞くと、慎重に言葉を選びながら「それが僕らにとっては重要なんだ。何をいくらで提供するかはブランドのアイデンティティに関わることだからね」と答えてくれた。
  
 何をいくらで提供するかは、社会や人に対する、そのブランドのアティチュード(態度や振る舞い)になる。Tシャツ一枚を3万円以上で販売するのか、8,000円なのか、3,000円なのか。また、古着の場合は、そのブランドが古着の価値をどう捉えているのかも、価格は暗に語る、という。

古着の価値って、どれだけ古いかとか希少性とか、どのマテリアルを使っているか、だけじゃないと僕は思う。だから、うちではヴィンテージではないものも扱っている。市のボタニカルガーデン(植物園)のメンバーだけがもらえるTシャツや、このボアーズ・ヘッド(Boar’s Head)*のTシャツもそう。2年くらい前のものだから別に古くない。でもいい感じでしょ?」

*Boar’s Head: 1905年にニューヨークのブルックリンで設立された、デリカテッセンの肉、チーズを販売する家族経営の食肉卸業者。


Boar’s HeadのTシャツ。
 
 古着好きだが、「ヴィンテージ=年代物に価値を求める」とは異なるタイプであることを臭わせる。別に欲しければ誰でも手に入れられ、高くもない、適当に着られてかっこいいもの(服)が、かっこいい——、とは言っていないが、そういう心意気が垣間見られないこともない。

 と同時に、気になるのは、わざわざ「ニューヨークのローカル・スラングが含まれた古着T」を探して、見つけて、着ることに、どんなこだわりがあるのか、あるいは何をパブリックに伝えたいのか、である。

たんなる「センス」ではない理由も?

 先で述べたように、ケビンは「地元との繋がりを感じたかったから」と言っていた。よく行くデリやピザ屋の従業員のTシャツを手に入れ、着ることはそこに通ずるのかもしれない。だが、80年代や90年、2000年代の古着の場合、それを着て繋がることができるのは現在のニューヨークではなく、いまはなき過去のニューヨークである。一体、過去の、ひょっとしたら、まだ自分が生まれていない時代のニューヨークと繋がりたいという若者の想い、また、その過去の時代を纏った自分をパブリックにみせたい気持ちはどこから来ているのか。

 単純に「過去への憧れ」「ノスタルジックな想いから」というものあるだろう。または、50年、100年と続く家族経営の老舗店をサポートしたいという想いや、その意思表示をしたいのかもしれない。その店や企業がもう存在していない場合はどうなのか? CBGB(クラブ)ほどの知名度もない、地元の人しか知らない小さな食堂のTシャツを、そこへ行ったこともない若者が好んで着たがる理由について、一つ興味深い見解があったので紹介したい。 

 2014〜17年にマンハッタンのダウンタウンで、ニッチなヴィンテージショップ「La Petite Mort」を営んでいた、元オーナーのOJ氏。彼は、ここ10年弱の間に、ニューヨークへ移り住んで来たアーティストや、ファッションが好きそうな若者たちが、ニューヨークのキラキラしたラグジュアリーな部分よりも、労働階級のより泥臭い生活に興味を示し、実際に彼らが日常的に着ているアイテムを身につけたり、彼らが集まる食堂を好んだりする風潮について、ニューヨークタイムズ紙にこう語っている。

「ニューヨークのジェントリフィケーション*の話は深刻になる一方だからね」。高級化したニューヨークに新しく移り住む人たちは、否応なしに「ジェントリファイアー(ジェントリフィケーションに加担する人)」になってしまういま、昔ながらの地元の店や企業のTシャツを着ることで、「自分は、労働者階級や低所得者層を外へ押し出すジェントリファイアーなんかじゃないと思えたり、彼らなりのパブリックへのアピールの仕方なんじゃないかな」

*比較的低所得層が多く生活する地域に、上位の階層の人々が流入して住民の構成が変化し、地域の経済や社会、文化も伴って変化していく都市の再編現象のこと。地価があがり、元々生活していた住民が他の地域への移動を余儀なくされ、地域コミュニティが失われることが問題とされている。

 なるほど。ニッチで刺さる人にしか刺さらない、というと、どこか排他的で、選民思想のようなものを薄っすら感じていたが、若者が着る「ローカル・スラングが含まれた古着T」は、どうやらそれ一辺倒ではなく、そこに住んでいる地元の人への「私は敵じゃないです。仲間です」という歩み寄りのメッセージにも思えてくる。自分、まだニューヨーク浅いですが、「あなたと魂の番地、近いっす」と、そのTシャツは語っているのかもしれない。

Interview with Kevin Fallon





(隣の青年はFantasy Explosionの従業員)

Photos by Kohei Kawashima
Text by Chiyo yamauchi and HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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