「住所のない町で待ち合わせ」自宅やカフェを自分たちでマッピング。サハラ砂漠の南ではじまる〈市民主導の地元地図アプリ〉

誰もが持っているスマホと電話番号で、住所不定なレストラン、店、自宅をマッピング。アフリカの人々の待ち合わせは、市民で作り上げるアプリで。
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友人宅までは住所を入力すれば経路が出てくるし、前に行った気に入りのレストランやカフェだって、たとえ忘れてしまっても検索をかければマップに出すことができる。だけどそれは、現在地と行き先のどちらもの「住所」があってのこと。なにを当たり前のことを言っているのだ、と思うかもしれない。しかし、世界には「通り」や「番地」が割りふられておらず、いわゆる正式な“住所”がない地域もある。

アフリカのセネガルも、“住所”がないエリアをもつ国の一つ。住所がなければ、たとえば「今夜、私の家にご飯を食べにきて」とお誘いしても、向かう道を伝えるのに一苦労。その状況で、とあるスタートアップがはじめたのが「自分たちで住所を登録しマップを作ろう」。アフリカの市民たちと、自ら作りあげるマッピングサービスを開発した。

待ち合わせは「マンゴーの木の隣」?グーグルマップが機能しないエリア

 日常はもちろん、仕事の出先や旅行中も手放せない。グーグルマップなどの「地図アプリ」は現代人にとって、ないと困るマストアイテムだ(方向音痴の筆者、地図アプリがある時代に生まれてよかったと痛感する日々)。目的地までの経路検索や位置情報の共有時に必須。そもそも、こうして地図アプリを活用できるのは「住所」があるからだ。番地なしの建物があるエリアでは、検索をかけても地図アプリは機能しない。国際連合開発計画によると、世界では40億人が住所を持っておらず、特にアフリカのサハラ砂漠より南の地域(サブサハラ)に、住所不定問題が多いのだという。

 住所不定には個人の家だけでなく地元の店も含まれる。そういったエリアには観光客もなかなか行かないだろうが、地元の人は困る。「〇〇シティの△丁目、◉番地」という、明確な待ち合わせができないからだ。では、アプリを使わずに、そのエリアの人々がどのように目的地にたどり着き、または友人と落ち合っていたのか。答えは「地元の目印を活用する」。バーや銀行など、地元のみんなが知っている建物を中心に位置を指示。「床屋さんのそば」「あそこの売店の奥」「マンゴーの木の隣」など、近隣住民の道案内をもとに、目的地を目指していたのだ。


(出典:NIMA Codes Official Website

「自分で家や店をマッピング!」市民主導の地図アプリを開始

 つい最近までそんなアナログな待ち合わせをしていた地域で、2018年末に「自分たちで住所を設定していこう」と地図アプリを開発したのがスタートアップ「ニマ・コーズ」だ。サハラ砂漠より南に位置し、住所不定のエリアのある国セネガルを拠点とする。住所のない個人の自宅や地元の店などの位置情報をユーザーが登録し、マッピングで地図を充実させていくサービスだ。「ニマ・コーズの主な目的は、アフリカ大陸に存在する“住所なし”問題に取り組むことです」とは、創立者のモウハマド氏。ではどうやってマッピングを? 住所を新たに作り出すのではなく、用いるのは「携帯の電話番号」。サブサハラでは、成人の70パーセント以上が携帯電話を所有するほど、携帯の普及率が高い(ピュー研究所、2017年)。ニマ・コーズは、誰もがもつ「電話番号」と「位置情報」を紐づけることを思いついたのだ。

 気になるマッピングアプリの使い方はこう。

1、アプリをダウンロード(無料)。

2、アカウントを作成。電話番号を入力し登録。

3、位置情報を追加するため、家やオフィス、学校など建物の正面写真を撮影。建物の名称や店の名前、プロフィール写真(任意)を入力。ニマ・コーズのシステムへ送信。

 これだけで、アプリ上にて自分の家や店の位置情報が登録可能。友人宅やレストランを検索したい場合は、友人やレストランの電話番号を入力するだけで、位置情報を知ることができる。「あなたが私の家に遊びに来たいとします。私は、あなたに電話番号を教えるだけでOK。私の携帯番号が、私の住所なのです」。



ニマ・コーズの「携帯電話で住所登録」は、教育水準や識字率の低いアフリカの国々の人々にとても便利。
位置情報を、文字ではなく電話番号で登録することで、識字能力に関係なく、誰もが簡単に利用できるからだ。
「僕たちは、文字や地図が読めない人たちのことも、しっかり考慮しています。そういった点で、他の類似マップアプリとは一線を画します」。
(出典:NIMA Codes Official Website

 現在、ニマ・コーズの登録ユーザー数は1万6,000人、検索数は10万件以上。セネガルでは、マップアプリの代名詞「グーグルマップ」、グーグル傘下のカーナビアプリ「ウェイズ」に次いで、トップ3の地図アプリに君臨中。さらにユーザーと位置情報提供者を繋げるチャット機能を追加したアップグレード版を引っさげ、今年末までにアフリカの15ヶ国にてサービスを拡大予定だ。

 アフリカでは配車サービスも活況になっているいま。米国の某配車会社はケニアの地図アプリ「OKHi」を用いてテスト走行を施行、ウーバーはコートジボワールとセネガルへの進出に加え、ナイジェリアのラゴスにてボートを使った運送サービス開始について検討中。市民主導の地図アプリは、こうした配車サービスなど、市民の生活の向上にも繋がる。

 住所がないエリアもあるアフリカという大陸で。友人宅をはじめて訪ねる。初めて行くカフェやレストランで仲間と落ち合う。アフリカの人々が自分たちで作りあげるマッピングサービスは、誰もが持っている電話番号で、みんなの出会いや待ち合わせを実現するのだ。

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Eyecatch Image by Midori Hongo
Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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