「僕らの世代に響くナゲット」ストレートにヘルシーです、とはアピールしない。Z世代チームのベジ肉ブランドのやりかた

僕らのナゲットは、「Kills you slower」。(他のナゲットに比べると、あなたの健康に害を及ぼすペースはゆっくりです)
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ストレートに“ヘルシーです”とはいわない。パッケージを含めたブランドのビジュアルには、あえてニワトリをドーンとみせる。代替肉を新しく打ち出す注目のブランドNuggs(ナグス)、「食品をソフトウェアのように扱う哲学」と「Z世代ならではのアイロニー」が活きた「僕らの世代に響くナゲット」とは?

「本物と見間違う」のはもう当たり前?ベジ肉市場のいま

 ミートレスミート、人工肉、植物由来のベジ肉(以下、ベジ肉で統一)を代表とする代替肉は、日本でもジワジワと話題になっている。5年ほど前は ”もどき肉” などといわれていたが、一過性のトレンドで終わることなく急速にその質をあげ、いまとなっては、ベジ肉は投資家が注目する一大産業に成長している。今後10年で、ベジ肉含む代替肉の市場は1000%伸びる(約15兆3,000億円規模規模に達する)可能性があるとのこと。

 近年のベジ肉動向で新たな変化とは、ファストフード・チェーンがこぞってベジ肉を取り入れはじめたことだろう。健康や菜食主義からもっとも遠いところにありそうなファストフード・チェーンが、この代替肉のブームに便乗している。たとえば、バーガーキングの「インポッシブル・ワッパー」や、ホワイト・キャッスルの「インポッシブル・スライダー」。どちらも、もともとあったオリジナル商品の肉を、「インポッシブル・フーズ」が提供するベジ肉に代えた商品だ(レビューなどをいくつかみたが、評判はなかなかいい様子)。 
 ベジ肉が一般消費者の間にさらに浸透していくことが必須のいま、新興ブランドもいくつも登場しているわけだが、中でもとりわけ、ベジ肉ナゲットの「ナグス(Nuggs)」が新しい時代を感じさせる。特筆すべきは、これまでのベジ肉とは逆をいく、アイロニーの効いたビジュアルとメッセージを効かせた世界観でのブランディングだ。

ベジ肉のナゲット。鶏を前面に出し、タグラインは「DON’T BE CHICKEN」

 植物由来のチキンナゲット。それだけであれば、珍しくはない。が、7億円以上の資金調達をし、上り調子のベジ肉ナゲットのブランドがナグスだ。
 ブランドのキャッチフレーズは、臆病者を意味するチキンと、肉のチキンをかけて「DON’T BE CHICKEN(ドント・ビー・チキン)」。チキンを使っていないナゲットですよ、をちょっとツイストして伝える。商品のパッケージやウェブサイトなど、ブランドのビジュアルには堂々ニワトリ(しかも写真)が登場。ウェブサイトもインスタグラムの投稿も、挑発的でありながら適度に脱力感とジョークを加味した、Z世代らしい世界観が徹底されている。
 それもそのはず、ナグスの創業者は19歳。レシピを開発したシェフを含めて、チームはみな20代前半。すでに市場をリードしてきた代替肉ブランドの「インポッシブル・フーズ」や「ビヨンド・ミート」のように、「ベジタリアン以外の人たちをも巻き込む、ベジ肉ブランド」を目指す一方で、「僕らのチームは若い。僕らが作っているのは、僕らの世代に響くナゲットです」と語り、その点で他ブランドとの違いを強調する。



(出典:Nuggs Official Website)

 彼らのいう、僕らの世代っぽい、とは何なのか。
 近年登場した新しいベジ肉ブランドの共通点には、それまで市場をリードしてきた古参のブランドとは、ビジュアルを含めた世界観が異なること。たとえば、20代による新興のベジ肉ブランド「Daring(ダーリン)」は、健康志向と遊び心を意識したミレニアル世代にはまりそうな世界観で、生理用下着のTHINX(シンクス)男性のセルフケアプロダクトhims(ヒムズ)のような、業界を横断して共通する「この世代といえば」のビジュアル(植物・パステルカラー、など)で打ち出している。
 ビヨンド・ミートやインポッシブル・フーズなど、いうなればベジ肉を浸透させていった第一波たちが、わかりやすく「環境」「植物性(グリーン基調を好む。ロゴに葉っぱを入れてみたり)」をストレートにアピールしていたのに対し、そのあたりを前面には出さない。また、ビジュアルだけでなくブランドのキャッチコピーも、先述のダーリンの「Chicken Out(チキン・アウト、”怖気づいて逃げ出す”と、チキンを使っていないをかけている)」や、ヴィーガンのスナックを販売するブランド「(ピッグ・アウト、”たくさん食べる”とポークレスであることをかけている)」など、ユーモアを効かせた点も共通項にあげられる。
 そのいずれをもさらに「僕らの世代(Z世代)っぽくした」のがナグスだ。ビジュアルもメッセージ性も徹底し「ちょっとダルそうだけど質は抜群です」「たのしくチルな雰囲気、だけど洗練されたジャンクフード」という感じ。
 こと、ナグスの“伝え方”はおもしろい。たとえば、カロリー約20%オフなど健康面に配慮していることを、ストレートに「ヘルシーです」とはアピールせず、「Kills you slower(他のナゲットに比べると、あなたの健康に害を及ぼすペースはゆっくりです)」と、あえてネガティブな表現。ここらへんが、ウェルネス信仰にあつく、真面目で「エクストラ・センシティブ・ジェネレーション」と呼ばれるミレニアル世代の感覚とはやや異なる。

バグを修正してバージョンアップ。もっとおいしいナゲットへ

 そして、それらブランドの世界観だけでなく、ナグスはプロダクトを扱う姿勢も独特だ。「僕らの哲学は、食品をソフトウェアのように扱うこと」だと述べている。ナグスの19歳の創業者ベン・パステルナークは、過去にITで起業している。14歳で作ったアプリが世界的に大ヒットし、15歳ではいまでいうメルカリのような、スマホから簡単に物の売買がたのしめる10代向けのフリマアプリ「フロッグ(Flogg)」を開発。当時、テクノロジーの分野でベンチャーキャピタルから投資を受けた最年少として注目を集めた。その後もアプリランキングで1位のヒットを飛ばす。フェイスブックの創始者の「マーク・ザッカーバーグの再来」と話題を集めたこともしばしば。これまでに大手紙の「もっともイノベイティブな/影響力のある10代」などにも何度も選出されてきた。
 テック界きっての注目の若き起業家が「次なる挑戦」に選んだのが、テックではなく「食」。しかも「ベジ肉だった」というのもあいまって、多方面から関心を集めているというわけだ。

 さて、彼らの「食品をソフトウェアのように扱う」とは。それは、スマホなどのように、ユーザーのフィードバックをもとにバグの修正や新たな機能の追加など、常にバージョンアップ(改善)を繰り返していく、こと。それは、今日オーダーしたナゲットと、来月、再来月にオーダーするナゲットのバージョンが同じだとは限らないことを意味する。

 事実、バージョンは昨年の試作段階を「1.0.」とし、“バグ” の修正とともにバージョンアップを繰り返している。今年の夏頃から9月末までは「1.3.1」であったが、現在は「1.4」へとバージョンアップしている。改善点を見てみよう。

・プロテイン量の増加
・脂肪分カット。前バージョンのやや油っぽい口当たりを改善。
・食品添加物の二酸化チタン(白色着色料)を除去。
・グルテンと糖タンパク質のひとつであるグリアジン、コンニャクエキスを使って、食感をより本物の鶏肉に近づけた。
・価格を20%下げた。 

 これらの情報は、ホームページやSNSアカウント上で公開されている。変わらぬ味を提供し続けることよりも、常にバージョンアップを目指す姿勢は、実にテック的発想だとも言える。
 最新バージョンへの反応でもっとも大きいものの一つが「グルテンを含んでいること」。前のバージョンはグルテンフリーだったのに対し、新バージョンは食感改善のためにグルテンが加えられている。これに「だったらもう食べられない」などのコメントがSNS上に書き込まれているが、ナグス側は「グルテンフリーバージョンも買えるよ。購入希望であればDMして!」と回答。こういったSNSを通じたオープンでカジュアルなコミュニケーションや臨機応変な対応力も興味深い。「食品をソフトウェアのように扱う哲学」が活きている。

 ビヨンド・ミートやインポッシブル・フーズなどの第一派がベジ肉の活路を広く開いたからこそ、いまできることがある。ミレニアル世代とも違う、自分たちの世代感を前面に出したアプローチ。そして、10代でのアプリ開発の起業で培ったプロダクトとユーザに向き合う哲学。
 先述したが、ナグスの開発のコアメンバーはいずれも20代であり、「全員インスタグラムで見つけた」らしい。そのうちシェフは、20歳でニューヨークのミシュランレストランに勤めた経験を持つ人物。今回は、ビジュアルやメッセージ性、プロダクトの扱いにおける「僕らの世代っぽさ」について考えたが、味そのものを含むおいしさへのこだわりについての考えと試行錯誤も気になるところ。これを聞くべく、現在シェフに取材要請中だ。

Eyecatch Graphic by Midori Hongo
Text by Chiyo Yamauchi and HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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