デーティングアプリとソーシャルメディアで培われたデジタル感覚は、「寄付」と相性がいい?いつもの生活に寄付を滑り込ませる新しいアプリ

興味があれば(寄付したければ)、右スワイプ。「ここに寄付したよ」とともだちにシェア。あたらしい寄付のかたち。
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右へ、左へ、スワイプ、と聞いて思い浮かぶのはデーティングアプリだろう。「右はイエス(興味あり)」「左はノー(興味なし)」というのは、もはや説明不要の現代文化。その文化と現代の感覚に、“寄付”を滑り込ませたらどうなるのか。

デーティングアプリやソーシャルメディアアプリで養われた「デジタル習慣」と「寄付」、その相性はいかに?

寄付への敷居が下がったいま「次にやることは?」

「現代人は、デーティングアプリ、ソーシャルメディア、送金アプリと、たくさんの時間をオンラインアプリに吸い取られています」。言い方を変えれば、「アプリを使って生活するのが当たり前」。その当たり前の生活に“寄付”も仲間入りさせようとするのが、昨年末に米国ボストンで誕生した、新しい寄付アプリ『ミリー(Millie)』。名前もこれだけでは寄付関連のアプリだとはわからない。
 ミレニアルズ起業家によって、ミレニアルズ世代に向けて作られた同アプリは、デーティングアプリのように、社会活動を行う非営利団体(以下、NPO)とユーザーをマッチングする。ユーザーは、NPOの活動内容や写真をみて、気に入れば「右スワイプ」し、寄付したい金額を選択するという仕組みだ。
 
 今日のミレニアルズ向けの商品は、「クイック(手軽)&イージー(簡単)」が合言葉。実際、米国では「手軽さ」や「効率性」をうたった寄付アプリが次々と増産されている。ただ、山ほど存在あるわりに、「寄付アプリと言えば、コレ」といったスタープレーヤーが少ないのが現状。あるいは 、スタープレーヤーが(まだ)いないから、続々と新規参入者が増えているのかもしれないし、そもそも、一社総取りのスタープレーヤーが生まれることを誰も望んでいないフィールドなのかもしれない。

 ミリーを含め、近年増えている寄付アプリは、NPOなどの組織のために、個人からお金を集める「ファンドレイザー」の役割を果たしているものが多い。これまでの仕組みとどう変わったかを図にすると、こんな感じだ。

従来の仕組み

ミリーなど、近年の仕組み

 インターネットを使った、個人と個人をつなぐP2P(ピアツーピア)の「ファンドレイザー」といえば、難病であるALS (筋萎縮性側索硬化症)の啓蒙と、研究を支援するための寄付募集を目的とした氷水をかぶる「アイスバケツチャレンジ」が有名だ。かれこれ4、5年前の話になるが、著名人から一般人まで、挑戦者から指名を受けた人たちが次々とファンドレイザーとなって参加し、その様子を撮影した動画がソーシャルメディアなどで拡散され、社会現象となった。
   
「以後、ソーシャルメディア上では、個人やグループがファンドレイザーとなって、周囲の人たちに寄付募集を呼びかけるやり方が広がっていきました。顔の見えにくい組織よりも、友人やクラスメイトからの呼びかけの方が、寄付への敷居が下がる。そういった、従来のもの(組織が直接個人に寄付を募る)とは異なる寄付のあり方が育まれていく様子を体感しながら育ったのが、私たちミレニアルズ世代です」と、ミリーの創始者レイチェル・クラウスナー氏。
 
 アプリで手軽に寄付をしたいという欲求の高まりを感じますか、と聞くと「市場調査結果をみても増えているのは確か。ですが、まだまだ改善できることがあると思います」と返ってきた。

「知り合いが呼びかけているから協力(寄付)した」といった寄付のカジュアル化。「それが寄付文化を醸成することに繋がったのは間違いないのですが、ランダムな呼びかけに数ドルの協力して終わり」。人からの呼びかけではカジュアルに寄付をするものの、受け身型の『一回ポッキリの寄付』が増えていた、という。「だから、人がもっと自発的にチャリティに参加して、参加したチャリティにその後も興味を持ち続けたくなる仕組みを作りたい」と、アプリ創設の動機について話す。

ミリーが目指すのは、

1、「ファンドレイザー」が次々と生まれたことにより寄付への敷居が下がり、人が「クイック&イージー」にチャリティに参加できる仕組みはできた。
2、寄付文化がある程度、醸成された。
3、だから「次は、寄付する人たちの自発性を育てよう」。

この「3」の段階である。日本の現状は、「1」の途中段階、まだ寄付への敷居を下げつつある状況であるのと比べると、ミリーのそれは2歩ほど先をいっていて、どんだけ意識高いんだ、という話なのだが、とりあえずアプリの仕様についてみていきたいと思う。

「一回ぽっきり」を、もっと頻繁に、より継続的なものにしたい

 ミリーの更新は毎週火曜日。週一回、ユーザーと3つのNPO団体をマッチングする。この更新頻度は、独自のアンケート調査の結果により導き出したという。デーティングアプリのように、半永遠的にスワイプし続けられるものだと、結局、寄付先を選択せずに終わってしまう可能性が高い。それよりは、最初から週に3つに絞って、その中からユーザーに一つを選んでもらう方が「アクション(寄付)につながりやすい」。確かに、選ぶストレスは少ないに越したことはないし、週に一回の頻度で、自分で選んだ団体に5ドル(500円)程度、いわば、“ラテを一杯誰かにご馳走する程度”の寄付であれば、多くの人にとって無理なく続けられそうだ。 
  
 現在、ミリーに登録するNPOの数は、75ほど(19年3月)。団体からの応募は一日に約5件ペースで届いており、その中から厳選しているという。審査の基準は、事業内容はもちろん、透明性の有無や、経済状態がサステナブルかどうか。また「実績のある大きな団体だけでなく、ニッチな社会問題に取り組む小さな団体の発掘にも力を入れている」。というのも、ファンドレイザーと個々の寄付が発揮する真価の一つが「小さな団体の支援の輪を広げる」からだ。

 団体とユーザのマッチメイキングの仕組みは、基本的にはオンラインデーティングと同じで、ユーザーの過去のスワイプ履歴、寄付先をもとに、アルゴリズムが好みのタイプを弾き出すという。とはいえ、一度、飢餓に苦しむ子供をサポートしたからといって、毎週、飢餓関連の慈善団体ばかりが出てくる、なんてことにはならないようにつくられているそうだ。
  
 ちなみに、なぜ火曜日更新かというと「ギビングチューズデー(#GivingTuesday:米国の感謝祭明けの火曜日を指し、12年より国際的な『寄付の日』として近年、定着しつつある)を、年に一回の行事ごとではなく、毎週、つまり日常的なことにする」のが狙いだからだそう。

寄付したことを「みせたい、知ってもらいたい」という欲望に寄り添う理由

 もう一つ、現代のデジタル感覚、生活習慣に寄りそうつくりとして、ミリーには、ソーシャル・フィード機能がある。
 自分の寄付行為を、他のユーザーに公開したり、他のユーザーが行なったリアルタイムの寄付行為を閲覧することができる。「いまはまだ改善中」だそうだが、目指すところは送金アプリ『ベンモ』のようなソーシャル機能。友人申請をし合い、繋がった友人のリアルタイムの寄付行為に「いいね」をしたり、コメントを残せるようにしたいと話す。

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 目下、取り組んでいるのは、「同じコミュニティ内のユーザー同士が寄付行為を閲覧しあえる機能のブラッシュアップ」。このコミュニティというのは、「大学」や、登録の際にユーザーが入力した郵便番号から絞り込んだ「在住エリア」を指す。
 ミリーの調査によると、ミレニアルズは地元の社会運動に貢献する傾向が高い。この機能により、ユーザーが、地元の改善に関する新たなNPOの活動を知ったり、同じ地元の、同じ社会問題に興味をもつ人と繋がるきっかけが生まれることを望んでいるという。
    
 社会を変えるために、困っている人を助けるために、金銭的な手助けを善行。「経験したことがある人も多いと思いますが、善行は気持ちのいいこと」だと、レイチェルはいう。寄付者の気持ちのよさが増進されれば「自発的な寄付の増加」が期待できる。そのために、ソーシャル機能はうってつけだ。せっかく(善行を)やるなら、人にみもらってなんぼ、などと無粋なことは言わないが、「せっかくなら、人にみてもらいたい、知ってもらいたい」という深層心理に寄り添う。
 
 おいしいものを食べたり、素敵な景色をみたり、新しい服を買ったりすると、人は写真を撮ってインスタグラムに投稿する。いい記事をみつけたり、書いたり、本を読んだり、映画を観たら、短い感想文を添えてツイッターに投稿する。すると、投稿をみた他の人たちが「いいね」をして、「いいな」「おもしろそう」とコメントを残す。自分の寄付が団体にどう働いたか、とは別に、自分の行為がすぐに評価されること、また周囲に作用していることがわかるのは、また別のやりがいだろう。

 この現代の拡散文化、および、スワイプ文化の中に「寄付」を忍び込ませてみたらどうなるか。繰り返しになるが、この新アプリの目的は「自然な形で、寄付者の自発性を育むこと」にある。意識の高いミレニアルズによる、意識の高い若者に向けた、意識の高い寄付サービスは、これから寄付文化をどのようにアップグレードしていくのだろうか。創始者の思惑通りにいくのかどうか、興味深く見守っていきたい。

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Illustration by Kana Motojima
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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