60万円を払って人が殺到するジャングル「カル・ヤラ」。金を生む“理想郷”、謎のサステナブルタウン

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「世界でもっとも“モダン”なサステナブルタウンです」

その“村”が位置しているのは、北米と南米大陸の境にあるパナマのジャングル。電気・水道・ガスなし、食糧に住処も自給自足。スマホがなければ身動き一つできない現代人にとってそんな僻地、はっきりいってなにが“モダン(現代)”なのかさっぱり見当もつかない。だが、なんでも起業家や研究者、それに長期休暇中の学生たちが6000ドル(約68万円)もの参加費を払い“インターン”として、こぞって僻地を目指すという。

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James Connolly

コミューンではない? ジャングルに存在する「サステナブルタウン」

 首都パナマシティから車で1時間半の道のりを経て、3キロの狭い泥道を抜けると、ようやく姿を現わすのが、“世界でもっともモダンなサステナブルタウン”「Kalu Yala(カル・ヤラ)」だ(ちなみに、名前の意味はパナマの原住民の言葉で“神聖な村”)。

 ここは完全自給自足。電気はソーラー発電と水力発電、食事の8割は村で栽培された作物、水は自分たちの手でひいてきた湧き水。住人は18歳から25歳の若者が中心だ。そう聞くといわゆる“現代版ヒッピーコミューン”かと思うも、その実態は「コミューンではありません」。ジャングルの僻地に存在する小さな村はサステナブルライフの新たなカタチの実践であり、「教育プログラム」であり「ビジネス」でもあるというのだ。ただの脱俗スローライフではない。

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(出典:Kalu Yala Official Website

大工仕事にカリナリーアート。60万円の校外学習

 まず小さな村カル・ヤラの「教育プログラム」としての機能から。これは、学生たち自らが“村づくり”に参加し学ぶ、実践型教育プログラムだで、春・夏・秋学期ごとに“インターン(=いちカルヤラ市民)”として80人の学生が世界中から集い、10週間を共に過ごす。プログラムのコースは以下を選択できる。

・水道・電気などのインフラ整備(を草木茂るジャングルからカル・ヤラをつくりあげたのも先代インターンたち)。

・食料栽培のための農地開拓やサステナブルアグリカルチャー(持続可能な農業)、カリナリーアート(食材選びから、メニュー、仕込み、調理、サービング、食卓づくりまでを網羅)、ヘルス・ウェルネス。

・住居建築などのデザインシンキングや配管・配線などの工事スキル、エンジニアリング。

・コミュニティ開発やアントレプレナーシップ(起業家精神の育成)、地域の政治・文化を学ぶポリティカルサイエンス、カル・ヤラ生活をレポートするメディアクラス。

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(出典:Kalu Yala Official Website

 原始的なザ・村づくりから現代に必須のメディアコースまで横断、か。参加費用は6000ドル(約68万円)とかなり高額にも関わらず、毎回定員超えの大人気。その大半は、見る限り中流階級家庭育ちで高等教育を受けたテックサビーな若者たち。普段の都市生活とは真逆の僻地で体験学習するインパクトたるや…。実際卒業生に目を向けてみると、この経験を機にコミュニティ開発を真剣に学びたいという者から、カル・ヤラのサステナブルモデルを地元に持ち帰りたいと語る者までいて、ばっちり感化されている様子。卒業生の92パーセントが「同プログラムを友だちに勧めたい」と大絶賛だ。

「ヒッピーが嫌いです」。共同体でなく、あくまで“ビジネスモデル”

私たちはヒッピーが嫌いです、Let’s make some money(お金を稼ぎましょう)」。ジャングルの中で自給自足生活、イコール俗世と隔絶したヒッピーコミューンを目指しているように思えるが、カル・ヤラはきっぱり否定。あくまで彼らが目指すのは「4つの支柱からなるビジネスモデル」だ。

 4つの支柱とは、先出の「教育プログラム」に加え、2、カル・ヤラメンバーとともにサステナブルタウン生活体験できるキャンプサイトニューイヤーイベントなどの「観光業」3、毎年20戸限定で家の販売スタートした「不動産業」(ちなみに、スタート時の2019年度の20戸はすでに完売)。そして4がシリコンバレーからジャングルバレーへを目指す「アントレプレナーシップ」
「雇用を生まないと本当のサステナビリティとはいえない」と、カル・ヤラのアイデアやコミュニティ、オフグリッド*な環境に共感する起業家や卒業生を誘致。彼らが将来タウン内でスタートアップをはじめられよう、基盤づくりを視野に入れている

*電力会社が提供する送電網を引き込まず、代わりに自家発電などで電力消費を賄うこと。

サステナブルなコミュニティビジネスモデル、“複製”可能なのか

 教育プログラムでもあり、ビジネスモデルでもあるカル・ヤラ。その首謀者は、不動産畑出身のジミー・スタイス(35)という男。少年時代は、シムシティ(自分の街をつくるシミュレーションゲーム)に没頭した彼、「不動産関係の仕事を経験して思った。世界をもっといい場所にし、コミュニティーを結束させ環境を再建する方法があるのではと」。そんな着想から、故郷アトランタから何千キロも離れた地で、青々と草木が生い茂る575エーカーのジャングル(東京ドーム約50個分)を10年前に購入した。

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(出典:Kalu Yala Official Website

 シムシティに没頭した少年の街づくりは、20年以上の歳月の末、原始的な自給自足生活に現代のエンジニアリングとデジタルライフを利用し、徐々に輪郭を現してきている。しかし、“理想郷”において疑問点はつきもので、科学者や研究者、若者たちを集め、新たな思想を“啓蒙している”ようにみえるカル・ヤラを「カルトだ」と言う人もいるらしい。あくまでも「地球に優しいモダンなサステナブルコミュニティやビジネスモデルを、人々がこの先“複製”していけるかどうかを確証する」ための基盤モデルということで、カル・ヤラだけに止まらず世界にそのモデルを継承する、という意味でも“サステナブル”ではある、か。

 “世界でもっともモダンなサステナブルタウン”の輪郭が明らかになればなるほど、果たしてどこまでビジネスモデルとして機能するのかなど、グレーな部分もまた浮き彫りになる。モデル基盤ができるまで向こう5年は采配をとるという首謀者のビジョンを紐解くべく、HEAPSは現在取材交渉中だ。

Kalu Yala

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Text by Shimpei Nakagawa
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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