SNSで繋がる世界各地の「イスラム×クィア」。祖国と世界から疎まれたダブルマイノリティの反撃

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自分のアイデンティティに罪悪感を覚えていた。
ある晩クラブでみんなから袋叩きにされた。
もうこれ以上は居られないと、祖国から永遠に去る決意をした。

これらはみな、イスラム教徒でセクシャルマイノリティである「クィアムスリム」たちの言葉だ。

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「イスラム教徒」と「クィア」というふたつのアイデンティティを背負うダブルマイノリティ、クィアムスリムたち。

 一番重い処罰は「死刑」、そしてむち打ちの刑。性的マイノリティが犯罪行為になるイスラム社会では、彼らへの風当たりは弱まることを知らず、いまもなお非道な処罰が下されているのが現状だ。
 そこから逃れようと自由を求めて祖国から出た彼らを次に待ち構えているのは、社会からの強い偏見だ。イスラム教徒=テロリストだと、「イスラモフォビア(イスラム恐怖症)」な世間から色眼鏡で見られる。

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 イスラム社会の中でのクィアに対する憎悪と、世界からのイスラム教徒に対する偏見の間で肩身の狭い思いをし、世間の目から隠れるように暮らしてきたクィアムスリムたち。いま、自らに課せられてきたステレオタイプを打ち砕こうと、居場所を作り出そうと、若い世代がオンライン上で着々と動き出している。

クィアムスリムの過酷なライフストーリー

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マリ(アフリカの国)出身、ベルギー・ブリュッセル在住のRaissa(ライサ)。
「私がトランスジェンダーだということを幼少期から知っていた両親は、
いつもその事実をひた隠しにしていた。
来客が来ても、私は彼らの前に出してもらえない、そんな幼少期だった。
やがて大人になり性転換期にあったある晩、
クラブで20人を超える人に突然袋叩きにされた。
理由はただ一つ。私がトランスジェンダーだったから。
命からがら逃げてきたわ。もうマリにはこれ以上いられないと、ベルギーに渡った」

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イラン出身、トルコ・イスタンブール在住のShay(シェイ)。
「イスラム教でありながら同性愛者でもある僕。
ホモフォビック(同性愛者に対する偏見のある)なイランでは、学校でずっといじめに遭い、
いつも自分のアイデンティティを隠してきた。
もう耐えられないと、ある日祖国を永遠に去ることにした。
イランに住んでいたころ、僕のデーティングアプリのアカウントに一つのメッセージが届いた。
『ゲイであることをやめろ』、と。
居場所だけでなく、誰かに会う小さなチャンスさえ奪われたんだ」

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パリ出身のChristelle(クリステル)。
「キリスト教徒とイスラム教徒の両親のもとで育ったわ。
イスラム教を嫌悪する親族もいたから、
いとこは私たちの家にお泊りすらできなかったの」

 世間や家族から虐げられてきたクィアムスリムたちが自分たちのライフストーリーを包み隠さず赤裸々に語ったページがソーシャルメディアのTumblr(タンブラー)にある。
『Just Me and Allah: A Queer Muslim Photo Project(ジャスト・ミー・アンド・アラー:ア・クィア・ムスリム・フォト・プロジェクト)』、自身もクィアムスリムとして生きるSamra Habib(サムラ・ハビブ)によるフォトプロジェクトだ。

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Samra Habib(サムラ・ハビブ)

「クィアムスリムの人々に互いの存在を知ってもらうことのできる場所を作りたかった。イスラム教徒といえば“テロリスト”や“抑圧される女性”といったイメージを持たれる社会で、イスラム教徒としてそしてクィアとしても生きる人々の存在を世界に人に知ってもらいたい」

 そんな意志のもとカナダ・トロント在住の彼女が作ったのは、これまで居場所のなかったクィアムスリムたちにとってのオンライン上のプラットフォームであり、彼らのアイデンティティを世の中に開示する初めての場だ。

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 イスラム国家のパキスタンで生まれたサムラ。宗教過激派の攻撃により家族が殺されるような状況下にあったため、10歳の時に難民として家族とともにカナダに亡命する。
 現在はジャーナリストとして活動している彼女が、地元トロントのみならずパリ、ベルリン、ブリュッセル、ブルックリン、イスタンブールなど世界各国に点在するクィアムスリムたちのもとへ自分の足で赴き、彼らの姿を写真に収めインタビューとともにライフストーリーを伝えることは至極当然な流れだったという。

「“お前らはムスリムにはなれない”って非難されてきた。私たちがクィアだから。プロジェクトタイトルの『Just Me and Allah』は、“誰がなんと言おうと私はムスリムとして、そしてクィアとして生きていくんだ”というクィアムスリムたちの決意を込めたものなの」

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若きクィアムスリムたちの居場所はSNS

 
「多くのクィアムスリムたちにとって自分がクィアであるということをカミングアウトすることは危険なこと。クィアである以上、イスラム国家においてその身は法的に何も守られていないから」

 クィアであることは信仰に背くこと。社会からの厳しい排除を避け自身の性に嘘をつき“ムスリム”として生きていくのか、それとも神に嘘をつき“クィア”として生きていくのかの二択を迫られる。
 親世代のクィアムスリムは、社会に隠れるようにして生きる同胞の存在知ることすら困難だったという。

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 そこに一筋の光を差し込んだのがソーシャルメディアだ。デジタルネイティブ世代のいまの若きクィアムスリムには、タンブラーやインスタグラム、フェイスブックなど自分のアイデンティティを表現できる場がサイバー上にある。
 逆境の中にあっても自らのアイデンティティを確立し強かに逞しく生きる同胞の姿に感化され、世界のクィアムスリムたちはサイバー上で対話し「居心地の良い自分たちの場」を自発的に作り出していくのだ。

「このプロジェクトに参加したクィアムスリムたちはタンブラー・キッズ。みんなが簡単にアクセスできるからね。そしてこれを踏み台に、世界のクィアムスリムたちは各々でコミュニケーションの輪を広げていくの」

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 これまでこのプロジェクトがマスメディアによってセンセーショナルに扱われることを敬遠していた、というサムラ。
 だが自分がクィアムスリムコミュニティの代弁者であると自覚するとともに心境にも変化が生まれ、いまではコミュニティの未来のために先頭に立ち世界中にクィアムスリムの“声”を届けている。
 
「厳格な宗教社会」と「セクシャルマイノリティ」という二つの板挟みの中でも屈することなく強かに生き抜いてきたクィアムスリムたち。その存在すら知られないことがほとんどだった彼らだが、いま若い世代が世界に向けソーシャルメディア上で自分たちの存在をようやく提示するようになった。

 世界中にいる同胞とサイバー上で互いに刺激し合い、独自のコミュニティを形成していく。世界が持つ「イスラム教徒」に対する偏見とイスラム社会が持つ「クィア」に対する認識をこれから変えていくのは、デジタルネイティブ世代の若きクィアムスリムたちだ。

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Just Me and Allah: A Queer Muslim Photo Project

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All photos by Samra Habib
Text by HEAPS, editorial assistant: Shimpei Nakagawa

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