人種の異なる“二人”が愛し合うこと。21世紀の今、それは決してタブーであるべきではない。
「米国内はもちろん、世界的にみてもインターレイシャル(異人種)カップルは増えています。愛し合うことは美しく素晴らしいこと。しかし、“人種が異なる”ということを理由に…愛し合う二人の幸せを祝福できずにいる人たちが、まだまだ沢山いるのです」
そんな現実を目の当たりにし「憤りを感じた」と話すのは、米国南部アーカンソー州のフォトグラファーDonna Pinkly(ドナ・ピンクリー)。彼女は「その怒りと悲しみを原動力に、インターレイシャルカップルのポートレイトを撮りはじめた」という。
「愛し合うカップル」が浴びせられた辛辣な侮辱の文言
インターレイシャルカップルのポートレイト写真。その下には、手書きでそれぞれ一文が綴られている。
All She wants from you is a green card.
「その娘はただグリーンカード(永住権)が欲しいだけよ。」
Look at you taking another one of our Good Black Men.
「白人の男ってのはね、昔っから人のものを全部とっていく生き物なんだよ。」
There are other black girls out there.
「こんなに黒人の女性がいるのに…(なぜ白人女を選ぶの)?」
What’s wrong with American women? Do you not like American women?
「お前は“アメリカ人”が好きじゃないのかい?」
I told you a black women lived with a white man in that house!
「黒人女ってのは昔っから、白人様の立派なお家に住まわせてもらう生き物だものね。」
これらは、ポートレイトに写るカップルたちが実際に言われた「侮辱」。被写体たちは「その侮辱を許すことはできても、忘れることはできません」と訴える。写真から滲みでるカップルたちの「幸せ」とは対照的な辛辣な「侮辱」の一文。そのコントラストは痛烈だ。見る者の心に深く突き刺さる。
2014年5月より続く同プロジェクト『Sticks and Stones』。その目的についてドナはHEAPSにこう語った。
「For people to have more compassion, respect, and tolerance of one another」
(人々に、お互いへの共感とリスペクト、そして寛容する心を持つことを喚起したい)
そのメッセージをより鮮明に伝えるにはどうしたらよいか。それを考えた結果が、「写真には被写体たちのお互いへの愛をおさめ、そこに、対照的な彼らが受けた忘れられない辛辣な言葉、しかも手書きのモノを並列する」手法だったという。
「21世紀の若者たちが、まだ、他人種を受入れられずにいるなんて…」
They are disgusting.
「気持ち悪い。」.
もともとアーカンソー州を拠点に「20年間ほど、ずっと近所の子どもたちを撮ってきました」というドナ。幼少期から撮りはじめ、その子が成人し子どもをさずかり、またその子の子どもを撮るという「家族ぐるみのつき合い」も多い。同プロジェクトのきっかけも、そんな近所の女の子だった。
ある日、その白人の女の子からFacebookを通して「結婚しました」との連絡があった。相手は黒人男性。「素敵なウェディング写真でしたよ。愛し合う二人の気持ちが写真にあらわれていたことも手伝ってか、その写真はアートとしても印象的でした」。特に「二人の肌色のトーンのコントラストの美しさ」に写真家の感性が反応。「是非、二人の写真を撮らせてもらおうと思いました」
撮影は和やかに終わり、ドナは花嫁の母親と談笑していた。その際に改めて「本当に素敵な旦那さんと巡り会えて良かったですね」と伝えると、その母親が思わぬ言葉をこぼしたという。「あの子が幸せならいいけれど…。インターレイシャルの結婚は容易いものではないわ。周りからかなり辛辣な言葉を浴びせられているみたいで心配なの」。
一体どんなことを言われたのか。聞くと、写真を撮らせてくれた女の子はドナにこう明かした。
「私は白人の友達から “If you go black, they won’t touch you”(将来の伴侶に)黒人を選んだら、みんなあなたと距離を置くわよ。そう言われたわ」
歴史を振り返っても、米国南部は北部よりも保守的で、人種間の壁も分厚かった。だが「もう21世紀。未だに若い世代が他の人種と愛し合うことを受入れられずにいるなど、あってはいけないことだと思いました」。
都市部とは違う、米国南部の現状
年齢差、格差…。カップルになることや結婚するにあたっての、双方間の「差」。これが「人種の差」となると、その溝はさらに深い。
現代のアメリカは表向きには「人種の分け隔てなくみんな仲良し」ということになっている。実際に、ニューヨークのような都市部に住んでいるとインターレイシャルカップルも多く、ミックスの子どももよく目にする。若い世代になればなるほど特にその傾向は顕著だ。そんなわけでニューヨークでの日常生活で「人種の間の壁」を意識することはさほど多くはない。だが、南部在住のドナが撮る作品は「人種間の壁なんて過去の産物、と思うのはまだ早い」と警告を鳴らすかのようだ。
Wouldn’t you rather date someone your own race?
「同じ人種の人とつき合えばいいのに。」
白人と黒人、黒人とアジア人、アジア人と白人…、いろいろなインターレイシャルカップルに会う度にドナは「愛し合うことの力強さ」に驚かされるという。「そこに確かな愛があれば、どんな侮辱も乗り越えることができ、いつかは笑いにだってできる日がくるのだと教えてもらいました。つまり、愛は偏見や差別、どんなネガティブな感情にも勝る強いものなのです」。その確信は、彼女の作品からも滲みでる。
「私は彼らの心の傷跡をえぐるようなことがしたいのではありません。『愛し合うこと』を知らない人たちに、その力強さを伝えたいのです」。伝え続けることで、徐々に、絶対に、社会は変わると信じて。
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Photos by Donna Pinkly
Text by Chiyo Yamauchi