ここ10年で、世界規模で急速な実践がすすむ「ヴァーティカル・ファーミング(垂直農法)」。LEDライトや水、栄養素などを用意し、室内外を問わない水耕栽培。縦(ヴァーティカル)に植物を育てられるとして、面積の限られた場所でも量を確保する栽培を実現してきた。
このシステムを、マリファナに応用したスタートアップがある。しかし、たんなるマリファナ版ヴァーティカル・ファームではない。彼らが世に送り出すのは、世界初、ロボットが栽培をすべて管理するという「全自動」室内マリファナファームだ。
AIが「全自動」でマリファナを水耕栽培
広大な土地はいらず、限られた敷地や室内で農業をおこなう都市型農業のヴァーティカル・ファーミング(垂直農法)。テクノロジーをうまく取り入れることで、天候に左右されることなく温室にて植物を栽培できるため、大都市の地下や、駐車場のコンテナなどにもヴァーティカル・ファームは出現し、その根を広げている。
同じく需要の増加が明白な「マリファナ市場」を、この都市型農業と結びつけたスタートアップが「シード(Seedo)」。医療大麻大国・イスラエル発。昨年には、完全自動化による家庭用の小型マリファナ栽培装置(見た目はミニ冷蔵庫)を開発、市場をリードし続けるハイテク企業だ。
家庭栽培装置用に導入した技術を“商業規模”に拡大しようと今年3月に発表したのが、人の手を一切借りずにマリファナを大量生産する「全自動マリファナファーム」、“世界初”を謳う。農業を基盤とするイスラエルのコミュニティ「キブツ・ダン」との提携により目下開発を進めている。
全自動マリファナファームといっても、だだっ広い畑でロボットがガシガシ働くわけではない。農場は、数段に積み重ねられたコンテナ。内部には空気中のバクテリア・ウィルス・カビを濾過するシステムが備えられており、清浄化された室内でロボットを使いマリファナを育てるという仕組みだ。さらに、マリファナ栽培に最適な温度を保つ空調システムも完備。ロボットアームが栽培に要する労働面を担当、それをカメラが監視し、管理者がその様子を複数のモニターで逐一確認できる。
こんな感じでコンテナ(マリファナファーム)が積み重ねられている。
コンテナ一つで「3年以内に、最低14トンの乾燥大麻」
俗に「weed(雑草)」と呼ばれるマリファナ。「Grow like a weed(雑草のようにぐんぐん成長する)」なんて決まり文句があるけれど、実際の栽培は、手をかけなくても強くたくましく育つ本来の意味での“雑草”とは異なる。寒暖差に弱く感染症に敏感、水をあたえすぎても根腐れし、栽培には手間暇と生産コストがかかるのだ。ラブ&ピースだけで育てるのはとうてい不可能…。また、合法化の拡大にともない清潔な栽培環境の必要性も高まっており、「農薬・溶剤などの過剰使用が、病気治療のため医療大麻を使用する患者への深刻な問題となる」との指摘も。
その点、シードの全自動マリファナファームは比較的安全だ。虫が侵入する心配がないため、害虫駆除の農薬も不要。気候や気象条件に左右されることなく、マリファナに最適な栽培空間を常に実現できる。従来の栽培方法では、マリファナの約10パーセントから20パーセントが病気に感染するのに対し、このコンテナでは5パーセント未満に減らすことができるという。
さらに、生産量も過去の比ではない。ある従来のマリファナファームでは、1,000平方メートルの敷地で年間600キログラムの大麻が生産されているが、シードの縦積みコンテナファームは同じ面積で年間2.4トンという驚異の量が生産できるという。「無農薬で商業規模、世界市場向けの高品質製品を保証できる」と胸を張るシードは、こうも豪語する。「各コンテナにて、1年で最低148キロの乾燥大麻を、3年以内に最低14トンの乾燥大麻を生産。それは、約27億円(2400万ドル)の推定収入の見込みとなる」。
前代未聞の“AIを駆使した商業規模マリファナファーム”が実現しそうなイスラエルは、世界で初めて医療用大麻が合法化された国の一つ。今年1月、オランダとカナダに次いで、世界で3番目の医療大麻輸出国にもなった。韓国、タイなどアジアでも続々と医療用大麻が合法化され、ますます需要が右肩上がりな世界のマリファナ市場で、都市型農業のヴァーティカル・ファーミングとAIを掛けあわせた「全自動マリファナファーム」が、今後市場を拡大させていくことは間違いない。
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Illustration by Kana Motojima
Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine