教会と女性、牧師と服。新しい仕事着が育まれ得たスウェーデンの教会

女性牧師のためにつくった仕事着が、男性の牧師にも求められるように。
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女性の仕事着を変えていく動きのなかで、「Casual Priest(カジュアル・プリースト)」に着目したい。同ブランドは、「女性牧師をエンパワメントするため」のアパレルブランドだ。

女性牧師の割合が、国の牧師全体の45パーセント以上をも占めるスウェーデン発。若き女性牧師からの「もっとカジュアルに心地良く着れる仕事着を作ってほしい」という依頼があったという。

男女平等の価値観はもちろん、同性愛者であることを公言している牧師もいるなど、進歩的な教会が多い。そこに誕生した「21世紀の牧師のための仕事着」について話を聞く。

(取材は2020年。当時コロナ禍、いっときぐっとやることが減った編集部は宗教についていろいろ探ってつくっていました。寝かせすぎていたまぼろしの宗教特集…を公開中)

「カジュアルだけれど、プロフェッショナルに見える」

 白いガウンのような祭服から、足下まで隠れる学生服のような黒い服。キリスト教の牧師がまとう服といったら、こんなイメージだろう。そんな伝統的なキリスト教聖職者のファッションに選択肢をもたらしたのが、カジュアル・プリースト。「現代の牧師や助祭たちのためのカジュアルウェア」をデザインする。

 創業は2002年。21世紀が幕を開けてまもないころ、スウェーデンの首都ストックホルムにあるアトリエで、デザイナーのマリア・ショーディンがはじめた。以来、じわじわと口コミで広がり、いまでは国内はもちろん、周辺のスカンジナビア諸国、欧州、北米、オーストラリアやニュージーランドなど、世界各国に3,000人以上の“牧師顧客”を持つ。

 名前こそクリスチャンを思わせる響きを持つマリアだが、多くのスウェーデン人がそうであるように「私はこれといってどの宗教も信仰していない」。そんな彼女が、牧師のための仕事着をつくるようになったのは、冒頭の通りだ。牧師である友人から「もっとカジュアルに心地良く着れる仕事着を作って欲しい」と頼まれたのがきっかけだった。友人は当時28歳。牧師の中では若手であった彼女にとって、仕事着は「カジュアルに着られる」だけでなく「プロフェッショナルに見える」のも重要な要素だったと振り返る。

 2000年代当時、女性用に作られた牧師の仕事着は「なかったわけではなかった」。スウェーデンでは、1960年代から女性牧師がいたからだ。ただ、それらは「男性用に作られたものを小さくしただけ」と言っても過言ではなく、「素材は硬く、着ると妙にガッチリして見える。上からジャケットを羽織るなどの重ね着もしにくく、また動きにくい」。こういった不満を女性牧師たちが持っているのを、マリアは友人の牧師を通して知ったという。

 心地よくカジュアルに着ることができて、動きやすくて、なおかつプロフェッショナルに見える牧師の仕事着——。「日頃、自分がよく着ていた黒のタートルネックに着想を得た」と話す。素材は、伸縮性や軽量性にすぐれたジャージー。身体にほどよくフィットするので「モダンかつスタイリッシュに着こなすことができる」と評判。最初に完成した7部袖の〈襟(えり)カラーつきのトップス〉は、いまなおベストセラーだ。


 

牧師の「襟カラー」の意味

 カジュアル・プリーストの服にはどれも襟カラーがついている。襟カラーとは、衣服の首周りにつけ襟を補強するつけ襟のこと。牧師の祭服にも通常ついていて、クレリカル・カラー、ローマン・カラーなどさまざまな呼び名があるようだが、いったいそれにはどのような意味があるのか。

 まずデザイン的には、襟カラーがあることで、牧師をややフォーマルかつプロフェッショナルにみせることができる。宗教的な意味合いとしては「首に輪状のものをつけることで神への服従を表わす」「主によって掛けられた頚木」など諸説。
 大まかにいえば、牧師という“神の言葉を民衆に教える役割”をあたえられた「(主に)選ばれし者の証」ということか。機能的には、襟カラーを着用することで「教会内で誰が見ても一目で『牧師』だとわかる」役割が大きい。それはいわば、警官や消防士の制服の役割であり、一目でゴールキーパーだとわかるサッカーの「背番号1番」のような役割でもあるようだ。

 ただ、プロテスタントの教会では、スニーカー&Tシャツ姿からスーツ姿まで、さまざまなファッションスタイルで仕事をする牧師がいるように、襟カラーは、宗派や教会、また業務内容によって差異はあるが「仕事着として常に着用しなければならないアイテムではなく、着用するかしないかは選択できる」場合が多い。

 カジュアル・プリーストの牧師顧客は、襟カラーつきの仕事着をすすんで着用する。顧客たちの中には、既婚者や子どもを持つ人も少なくない。教職者である時間と、それ以外の時間をわける意図で、襟カラーの着用を好む人もいるそうだ。
 だが、なにより「彼女たちが自身が牧師であること、そして、その役割や仕事に誇りに持っていること」が大きいのではないかと、マリアは話す。
 カジュアル・プリーストの服を10年以上愛用する牧師たちからは、このような声が。

「神の言葉や教えを伝える牧師という仕事は、集中力と精神力を要するもの。より質の高い仕事をするために、着心地が良く、自分に自信が持てる服を着ることは、とても重要なのです」

 スウェーデン外の顧客からは「『女性も牧師になれる』とはいえ、(教会は)長きにわたり男性中心だった世界」という。女性というだけで牧師だと認識されにくい環境、また正当なリスペクトを集めにくい環境では、上述の襟カラーが持つ“制服的な役割”が果たす意味は、当然大きくなる。

「同じものを男性用にも作ってください」。男性牧師の賛同者も増加

「女性牧師のエンパワメント」を目的に発足したが、現在は男性用のトップスも販売している。「8年ほど前に、男性の牧師から、『同じジャージー素材のトップスを作ってくれないか』というリクエストがありまして」。

 当初はそのリクエストに応えるか、少し悩んだという。すでに、”女性のためのブランド” として認知されていたからだ。しかし、興味を示していた男性牧師が、ブランドの『女性のエンパワメント』というメッセージに深い共感を寄せていたのを知り「作ってみようかと。女性のエンパワメントは、男性の理解なくしては成立しないものですしね」。

 顧客の男女比は1:9。圧倒的に女性が多いが「ここ数年の新規顧客には男性も多い」。なかには「こんなのは牧師が着るべき服ではないといった反対意見もある」が、若い男性牧師たちを中心に、徐々にモダンで着心地の良い仕事着にシフトする動きを感じているようだ。

教会も“woke(意識高く)”でリベラル。日本とも共通点多し、スウェーデンの宗教観

 
「世界で最もリベラルな国」のひとつとして知られるスウェーデン。国のオフィシャルサイトによると、スウェーデンの歴史や文化にはキリスト教、および教会が深く根ざしている一方で、「社会は極めて世俗的(セキュラー)」とのこと。その点は、文化的には神道や仏教の影響が大きい一方で、国民の信仰心は薄い日本とも類似点が多そうだ。

「世界で最も信仰の薄い国」ランキングで、スウェーデンは、中国、日本、エストニアに次ぐ第4位(WIN/GIA、 2008・2009・2015年)。それでいて、政教分離がなされたのは2000年と、比較的最近であるのが興味深い。2000年まで、スウェーデンは、ルター派のスウェーデン国教会の教えを国教としたキリスト教国だった。つまり、政教分離がなされていないキリスト教国だったけれど「リベラルで進歩的」という、希有な文化を持つ。
 実際、政教分離後のいまも国民の58パーセントがスウェーデン国教会のメンバーである。しかしながら、「信仰心がある」と答えた国民はたったの19パーセントというデータも。

 どうやら、スウェーデン教会自体も、極めて「woke(ウォーク)」な教会だったようだ。ウォークとは、「社会問題に敏感で、しっかり意識が向いている状態」のこと。

 たとえば、建国時から政教分離していたはずの米国では、未だ「中絶」を認めるか否かが大きな議論になっている。が、スウェーデンではおおむね当然の権利として認められきたゆえに「大きな議論になることがなかった」と、オフィシャルサイトに記されている。また、2009年に同性婚が合法化されるや否や、多くの教会が同性結婚式の開催を認めたとのこと。
 女性の牧師は、国の牧師全体の45パーセント以上をも占め、現在牧師になるための勉強をしている予備軍においては、女性の方が多いそうだ。今日のスウェーデン国教会では、教職者になることを希望する男性は「教職者の男女平等を認めなければ教職者になれない」との声もある。スウェーデン国教会は「信仰深くあること」と「進歩的であること」の両立を認めており、女性牧師たちは21世紀のキリスト教の牽引者として存在していることがうかがえる。

 それにスウェーデンでは牧師たちもアクティビズムに勤しむ。カジュアル・プリーストの服を着た牧師たちが「#priest for future(未来のための牧師)」と書かれたプラカードを持ち、気候変動や環境デモにも積極的に参加。「もちろん、彼女たちも私もグレタ・トゥーンベリの活動を支持しています!」

「キリスト教文化圏だけれど世俗的」「伝統は重んじるが進歩的」な国で生まれたカジュアル・プリースト。「牧師の服をモダンでクールなものに変えたブランド」との評価を集めてきたが、マリアには特に新しい需要を作ったという自負はない。あくまでも「存在していた需要に応えただけ」だという。もし、カジュアル・プリーストの服を着た女性牧師たちがモダンでクールに見えるのであれば、それは服だけが理由なのではない。「彼女たち自身がモダンでクールだからではないでしょうか」

Photos via Maria Sjodin (The founder of Casual Priest)
Text by HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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