スマホで進化するブルーカラーの労働現場。デスクワーカー仕様のデジタルツール〈ブルーカラー版〉も続々

これまで “デスクワーカー仕様” だったデジタルツールを取り入れたら、ブルーカラーの労働環境はどう変わる?
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1日10時間以上パソコンの前に座るホワイトカラーに比べ、現場仕事のブルーカラーはパソコンから離れている時間が長い。そのためか、ブルーカラーたちの仕事環境は“デジタル”とは無縁であるような気がする。だが、彼らの労働環境はいま「スマホ」で改善されようとしている。

ブルーカラーのパソコン?スマホで労働環境改革

 現場労働者にとって、スマートフォンは現場の“パソコン”だ。筆者の知り合いのブルーカラーも、一日の大半を運転する車中や資材・機材を運んで外で過ごすので、調べものもメモもすべてスマホ建設労働者のデジタル機器使用に関する調べによると、彼らの79パーセントが一番触れるデジタル機器がスマホで、ラップトップやデスクトップの使用人口の2倍以上を上まわっている。米国の大手建設機械メーカー「キャタピラー」ブランドで“タフネススマホ”と冠される「CAT(キャット)」から、昨年、建設現場や農作業向きの耐衝撃、濡れた汚れた手でも操作可能な防水性、耐落下・防水・防塵などを搭載したタフすぎるスマホが発売されるなど、スマホと肉体労働現場のペアリングはなんら珍しいことでもない。

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 デジタルに不慣れなオヤジさん世代の肉体労働者にとっては慣れないかもしれないが、若者の従事者も増加するブルーカラーの世界はいま、労働環境を改善しようとデジタルをどんどん導入している。今回はブルーカラーたちのスマホで、彼らを肉体的にも生活的にも物理的にも助けているデジタルサービスを3つ紹介しよう。

“現場の怪我”を5分トレーニングで未然に防ぐ。スマホのなかのトレーナー

 米国において大きな社会問題の一つが「肉体労働者たちの現場での怪我」。勤務中に負傷率の高い職種は、消防士、看護師、貨物運送労働者、運搬業者、重機運転手だそう(…って、負傷率の低い職種をあげた方が早そう、米国労働統計局の調査)。この現場での怪我が増えると困るのはもちろん本人だけではない。怪我や病気によって欠勤した従業員による損失額*は、年間日本円にして約25兆円にもなる(米国疾病予防管理センターの調べ)。

*ここでは、労働生産性損失額。怪我、疾患によって働けなくなったことにより生産性が減少し、損失額となる。

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(出典:Worklete Official Website

 また、米国の雇用者たちの年間労災支払額は約9兆円(2012年)で、その多くが腰、肩、膝など筋骨格系の怪我。怪我をすれば本人も現場も、ひいては国も困るということで、ブルーカラーたちの労働環境の改善が進んでいるのだ。現場での怪我を未然に防ぐため、近年では人間工学*を応用して重い荷物も腰を痛めずに持ち上げられるベストやサポーターが開発されるなど、労働現場での怪我削減のための取り組みもなされている。

*人間が可能な限り自然な動きや状態で使えるように物や環境を設計し、実際のデザインに活かす学問。

 しかし。「人間工学の力だけでは不十分です。装置をつけても間違った体勢のままなら、怪我のリスクはまだまだありますから」とバッサリ斬るのが、肉体労働者のためのトレーニングアプリ「Worklete(ワークリート)」だ。「人間工学を用いるだけでは怪我を減らすのに限界があります。怪我を防ぐ特殊な器具があったとしても、労働者たちは(怪我のリスクのある)現場で働くことには変わらない。そこにきて、ワークリートの出番です」。ワークリートとは、未然に怪我を防ぐためのブルーカラー専用のトレーニングアプリ。2週間で完結する10のトレーニングを用意する。

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(出典:Worklete Official Website

 1週間目の〈基礎編〉では、写真や動画、クイズなどで基本的な現場での体の動かし方を学ぶ。動画ではフォークリフトを運転するときの正しい姿勢重たいウォーターボトル(18リットルだと約20キロ!)を運ぶときのテクニック、樽の転がし方、さらには倉庫ドアの開閉のコツなどを教えてくれる。1週間たった5分間のオンライントレーニングレッスンを受講するだけでOKだ。

「彼らがもし1日300回ボトルを持ち上げているのであれば、合計6トンの負荷になります」。これが1日だけでなく、週5日、1ヶ月20日行われるとしたら、無理な姿勢が招く肩や腰、膝の故障は当然だ。これをなるべく避けるために、働く前に知っておきたい知識をつけておくのが1週間目となる。

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重たいウォーターボトルの正しい持ち上げ方は「両足を肩幅まで開きつま先の方向は前方、
ヒップヒンジ(股関節を蝶番のように動かす)とスクワットの要領で膝を曲げる」といった具合。
(出典:Worklete Official Website

 2週間目は〈実地トレーニング編〉。このステージでは、シフトマネージャーが“チャンピョン”と呼ばれるリーダーになり、ワークリートのトレーニングコーチから指導を受ける。チャンピョンが現場を統率し、従業員たちに具体的な体の動かし方を教えて実践していく、という内容だ。トレーニングは、産業別、ロケーション別に何百ものシチュエーションに適した内容を用意。それぞれの実際の現場に適した実践がおこなえる。さらに言語も幅広く、中国語の方言・客家語でさえサポートされていることも驚きだ。つまり「カナダにいるフランス語のトラックドライバーのチームとテキサスにいるスペイン語の倉庫作業員チームには、異なるプログラムが提供されています」。

 トレーニングの進捗や個々の従業員の成果は、チャンピョンがダッシュボードでモニター・管理。「でも結局トレーニングがめんどうくさくなって、サボる人も出てくるのでは?」というこちらの勝手なる危惧も裏切り、ワークリートによるとトレーニングのエンゲージ率は95パーセントだという。

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(出典:Worklete Official Website

 2015年創業のワークリート、ネスレなど大企業も含めすでに2,000社が利用しているのにくわえ、今年に入って大手トラックリース事業会社ペンスキーも新規ユーザーに。先月は、6億円の資金集めに成功した。
 クライアントからは仕事場での怪我が50パーセント削減されたと報告があるなど、「アスリートのように労働する(ワーク+アスリート)」ブルーカラーのためのブートキャンプは、現場仕事のアスリートたちを日々鍛えているようだ。

ノンデスクワーカーのスラック?建設業でも重宝されるチームワークアプリ

 建設現場労働者や工場作業員のみならず、レストランやホスピタリティ系従業員などつねに動きまわっている「ノンデスクワーカー」にとって、業務連絡の伝達や共有は悩みのタネだ。
 ポストイットの発明で有名な3Mが、屋外現場のコミュニケーションツールとして雪でもハリケーンでもはがれない超粘着力のポストイットを開発したが、添付ファイルや写真データの共有、タスク管理など記録としてデジタルで保存しておきたい場合には向かない。

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(出典:Beekeeper Official Website

 チーム管理が容易いスラックやマイクロソフトチームのアプリを使えばいいじゃないかって?「いえ、それらはあくまで“オフィスワーカー”の生産性向上を目指して開発されました。私たちが特化しているユーザーは、“デスクトップ作業なし・時給制・会社のメールアドレスをもたない従業員”です」。ノンデスクワーカーのコミュニケーションプラットフォーム「ビーキーパー(Beekeeper)」ではEメールアドレスのサインアップやパスワードなどは不要。会社のQRコードをスキャンするだけでログイン可能なモバイルファーストとなっている。

 アプリの中身もかなり充実。ズラリとあげてしまおう。

・会社ごとにニュースやメンバーのポストが流れるストリーム
・個人・グループチャット
・社内の連絡先一覧
・通知センター
・給与明細
・シフト
・従業員の手引き
・社内アンケート
・休暇申請

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(出典:Beekeeper Official Website

 これらが一つのアプリで完結してしまう。パソコンでタブを複数開いて使いわけ…をしないスマホユーザーの彼らにうってつけだ。建設業の場合は、シフトマネジメント、グループメッセージ、プロジェクトアップデート、安全手引きの共有、リテールの場合は接客係の従業員とのコミュニケーション、商品のアップデート、在庫の到着通知、販売実績など、業界ごとの使い勝手も網羅している。
 2012年のスタートからこれまで500社以上(老舗ホテルのマンダリンオリエンタル、ヒースロー空港、ドミノピザ、米食肉大手のシーボードフーズなど)で導入されていることが、実用性の高さを物語っている。

ブルーカラーたちのリンクトイン。日雇い労働も〈ショートメッセージ〉で探す

 ブルーカラーたちのスマホには、ワークリートとビーキーパーのアプリとともにこんなショートメッセージが受信されているかもしれない。「明日、午前7時から午後4時まで、工事現場の仕事あります」。送り主は、“ブルーカラーたちのリンクトイン(LinkedIn)”こと「Work Today(ワークトゥデイ)」だ。

 リンクトインとはいまや、あらゆる産業で活用されている世界最大級のビジネス特化型SNS。ここでは職歴や現在のポジションなどを公開することで仕事上のコネクション作りや、興味のある会社をフォローして就職・転職活動、または採用担当者による候補者リサーチ・アプローチなどが行われている。しかし、そこに並ぶのは、テック系やクリエイティブ系、医療や法律、セールスやマネージャー職など、いわゆるホワイトカラーの技術職。「彼ら(ホワイトカラー)のためのクールなアプリはたくさんあるのにね」とワークトゥデイは、ブルーカラーの職探しもより簡単にしようと誕生。登録した雇用主と求職者を繋げる、いわば斡旋業者なのだ。人気の職種は建設、解体作業、倉庫管理。確かにリンクトインや他の求職アプリには見受けられないラインナップだろう。

 ポータルやアプリではなく、あくまでテキスト(ショートメッセージ)ベースのワークトゥデイ。同サービスにサインアップすると、毎朝携帯にメッセージが届く。こんな具合にだ。

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ワークトゥデイ:倉庫での仕事に興味がありますか? 

ロサンゼルスで時給12ドル。明日午前9時から午後6時。
興味があれば「はい(Yes)」、なければ「いいえ(No)」でリプライしてください。

労働者:はい。

ワークトゥデイ:倉庫での荷物運搬や梱包の経験はありますか?

労働者:はい。

ワークトゥデイ:予約しました!明日朝10時にXXXXXXストリート(住所)に来てください。
現場監督はジョンで、彼の電話番号は(XXX)XXX-XXXXです。

 登録したエリアに即して、その日や翌日にある日雇い仕事を、日時・給与・作業内容をショートメッセージしてくれるのだ。アプリにせずあえてテキストメッセージにした理由は、「一番エンゲージの高いコミュニケーションツールだから。あと、スマホをもっていない(つまりアプリをダウンロードできない)労働者も多いから」。もっともローテク(?)で大衆的な連絡ツールであるショートメッセージでその日限りの仕事を探すという簡潔さがウケてか、2016年のローンチから約1年で5万人のユーザー確保と、15万件のマッチングに成功した模様。ワークトゥデイが、テキストベースの日雇い探しを現在も継続中かは確認できなかったものの、同サービスが考案され2年が経過したいまでは、倉庫や物流センター、工場などでの短期仕事を斡旋するオンデマンドサービス「Wonolo(ワーノーロー)」や、写真や紹介文のプロフィールを用意するソーシャルメディアタイプの「BlueCrew(ブルー・クルー)」など、ブルーカラーの仕事探しの後発サービスが続々と登場。その意味でワークトゥデイは、ホワイトカラーが主な対象だった仕事探しサービスに、ブルーカラーをも含めた先駆けだったといえよう。
 
 ホワイトカラーのために最適化されたデジタルツールの“ブルーカラー版”も進んでいることから、ブルーカラーの労働現場の改善にスマホがだいぶ役立っていることがわかった。今後ますますスマホの使用が止められない、そして出ずっぱりでコンセントの確保が難しいブルーカラーのためにも、心おきなく使っても2日以上は余裕でもつ(だが軽い)、なんていうスマホのバッテリーも早く現れてほしい。

Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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