ワイシャツの襟が白いから「ホワイトカラー(white-collar)」。作業着の襟が青いから「ブルーカラー(blue-collar)」。そして最近、新しい“カラー”が話題になっている。環境汚染や廃棄汚染問題に取り組む「グリーンカラー(green-collar)」というのも出てきたから、次は人気の「ピンク」カラー誕生か? そう思いきや…。彼らの名称は「ニューカラー(new collar)」。一体、どんな“襟”の色?
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テック業界のホープ、白と青の中間「ニューカラー」
「ニューカラー」とは、ズバリ名門IT企業「IBM(アイ・ビー・エム)」が提唱する新しい人材のこと。“ホワイトカラーとブルーカラーの中間”とも、“ミドルスキル・ジョブ”とも形容されている。
職種としては、クラウドコンピューティング(*1)、サイバーセキュリティ、自動車修理・整備員、調剤技師、歯科助手、医療助手など、サイエンス系のものが多い。そして、まず注目すべき点は、採用基準の柔軟性だ。「個人の能力(+専門的トレーニング)ー大学学位、あるいは実務経験」が採用基準、つまり、4年制大学を卒業していなくても、勤務経験がなくても、職業訓練学校のトレーニングを修了していたり専門知識さえあれば採用可ということなのだ。
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確かに以前から、いわゆるニューカラーの職種は存在していた。しかし、改めてここで“ニューカラー”と呼び直し、ニューカラー人材に注目する理由に「テック職の需要増加(*2)」がある。その背景には、マニュファクチュアリングから農業まで、さまざまな産業にデータ分析やクラウドコンピューティングが導入されている、という事実があるから。
*1 インターネットを経由して、ソフトウェアやサーバー、データベースなどのリソースを利用し作業するサービス。
*2 米労働省によると、現在国内のテクノロジー関連職には50万の空きがあり、たとえばサイバーセキュリティ職の空きは2020年には180万までになると予測されている。
このテック業界の“空き”にハマるのがニューカラー人材、ということ。学歴を持っていなくても、ユーチューブにオンライン講義に、と大学外の教育で専門技術や能力を身につけられる時代になった。疾風の如く成長するテクノロジーとその需要、求められる経済発展に「我が社の採用条件は、大卒・成績優秀・インターンシップ経験有」などと言っている場合ではない。
パソコン解体ギークも。「スキル>学歴」採用
学歴や職歴、個人的な推薦がなくても採用されるニューカラー人材。「スキル」ベースでの採用の必要性が注目されている。
事実、マイクロソフト社もスキルベースの採用やトレーニング、教育を促進するプログラム「Skillful(スキルフル)」に2500万ドル(約27億円)の補助金を提供している。IBM同様、学歴重視の採用に終止符を打とうとしているのか? 先進的なスキル採用をする大企業により、学歴なし・職なしが一流企業の正社員へなった実例も少なくない。
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元無職の男性(25)
母親の年金に頼る不安定な生活を送っていた。スーパーやファストフード店の接客業の面接を受けるも、就業経験のなかった彼は雇用に繋がらず。
彼にあったのは、パソコンを解体して一から作れてしまう「コンピューターオタク」の一面と、コミュニティカレッジ(2年制大学、短大)で専攻していた「ITの知識」。近隣のIBMの採用に応募し、いまでは同社のコンピュター・セキュリティアナリストとして勤務、年収は4万5000ドル(約496万円)だ。
元海軍の男性
高卒で海軍に入隊。従軍時代にはシギント業務(電子信号の傍受による情報収集活動)に携わっていた。退役後は、大学の学位はないが海軍時代のスキルを買われ、IBMのサイバーセキュリティ部門で勤務している。
元ピザ屋の女性(24)
ピザハットのマネージャーだった彼女。大学の学位もない。ラジオの宣伝で募集していた、職業育成プログラムTechHire(テックハイア)のソフトウェアプログラミングコースに申し込み、6ヶ月のトレーニングを経て(しかも400ドルの週給つき)、見事地元のソフトウェアカンパニーに採用された。
そのほかにも、店舗の清掃監督をしていた男性は、副業を通して得たテレビやコンピューター修理技術を職業育成プログラムで伸ばしフリーランスのテックサポートサービスを自営。年収は5万ドル(551万円)超えだという。
ブルックリンにもあるニューカラー養成学校
ニューカラーという新しい概念を生み出したIBM、向こう4年で2万5,000人のニューカラーを雇用すると目論んでいる。また彼らの職業訓練のためには、10億ドル(1098億円)を投資する予定と鼻息も荒い。
同社はすでにニューカラー育成学校の設立に着手しており、5年前にブルックリンに職業訓練学校「P-TECH(ピー・テック)」を創設していた。同校は高校と短大を組み合わせたような6年間のプログラムが特徴で、修了後にはIBMへエスカレーター式で就職する卒業生も多くいる。同校の根底には、大学に進学できない低所得者家庭出身の若者にSTEM(S=サイエンス、T=テクノロジー、E=エンジニア、M=数学)分野での就職を促す目的もあり、来年には20の分校を増設するという。
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IBMが過去2年で採用した新入社員のうち、約3分の1は“大卒”ではない。大手企業が、大学名や大卒かどうかを問わない採用をすすめている。ニューカラーはテック業界での新しい採用モデルを提案するだけでなく、若者の無駄のない大学進学・就職をも促してくれるはず。
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Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine