カウズ、ジョーダン、シュプリーム。ポップになりアートピースになりゆく「ガーナの棺桶」。現地の棺桶職人(73)と一問一答

「細部にまでこだわったデザインは、故人にとって、非常に特別」—棺桶職人、パァ・ジョー。
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ポップカルチャー化、アートピース化するガーナの“棺桶”。実際の製作や思うところ、どんな感じですか? ガーナの棺桶職人との、一問一答。

あかるい葬式と、デザインの幅が広がり続けるポップな棺桶

 バッテンの目が特徴のキャラクターKAWS(カウズ)のコンパニオンに、3年前に話題になったシュプリーム×ルイ・ヴィトンのコラボバック。廃れ知らずのナイキの人気スニーカー、エアジョーダンに、NBAの公式試合球を作るスポルディングのバスケットボール。

 所有物の自慢かって? いいえ、これらすべて棺桶のデザインなんです。あの遺体を納めて葬るためのお棺のデザイン。これらが「棺桶職人のインスタグラムアカウント」に作った棺として登場していたために、たちまち目を奪われてしまったわけです。ガーナの棺桶職人なのだが、ここに詳しく話を進める前に、ガーナの独特な葬式事情についても触れていきたい。おもしろいから。

 ガーナの葬式は一言で言うと、「楽しそう」。故人をおくりだす葬式がこんなんでいいんか? と思うほどのお祭り騒ぎ。筆者がガーナの棺桶職人やら葬式事情やらに興味を持ったのは、コロナ禍真っ最中だった今春のこと。鬱々たる心を踊らせてくれるものを探して、インスタグラムアカウントを飛んでいるときに出会った。「@coffin dance memes(コフィン・ダンス・ミームス)」。
 コフィンは棺桶、ミームはネット上で拡散されるネタ画像や動画の意。つまりこれは「棺桶を担いだダンサーを用いたおもしろ動画」となる。フィードにあがっているのは、ハプニング映像に「言わんこっちゃない」といった予想通りのオチがきたタイミングに、「待ってました」と棺桶ダンサーが登場するという30秒程度の動画。百聞は一見にしかず、まずは動画をご覧あれ。

・少年の頭上にある瓦を割るはずが、頭にモロ蹴りを入れてしまい、棺桶ダンサーズ登場。

・ラクダの背中に乗ったお母さん、バランス取れずに落下し、棺桶ダンサーズ登場。

・凶暴犬を煽っていたら、まさかの首輪が外れ追っかけ回され、棺桶ダンサーズ登場(犬仕様)。

・番外編。キックボードで大技中、スタンバっていたのに成功してしまい、棺桶ダンサーズ登場ならず。

 キャッチーな音楽に合わせ軽快なステップを踏む男たちの名は「ダンシング・ポールベアラーズ」。時に肩で棺桶を支え四つん這いで地面を這い、ときに膝で棺桶を支え大きく空に手を仰ぐ。3年前にBBCニュースで取り上げられたことを機に、その名を世界に知らしめた。棺桶ダンサーズとは動画用のネタではなく、ガーナに実在する。
 ガーナの葬式とは、アゲな音楽とイキなダンスで故人を祝福する、祭りを彷彿させるスタイル。ガーナでは「死後は新しい人生のはじまり」とされる。しんみりとした雰囲気のなか別れを悲しむのではなく、来世のためにあかるく死者を送り出そう、というわけだ。

 賑やかな葬式には、色とりどりの棺桶が登場する。棺桶ダンサーズが抱えているのは普通のシンプルあ棺桶だが、実際には「故人にあわせたオリジナル棺桶」がカスタマイズでオーダーされるのもまたガーナの伝統である。そのデザインの幅は広く、パンや寿司といった「食べ物系」に、ヒョウやカメレオンといった「動物系」、車やタバコといった「日用品系」が存在する。来世でも成就できるようにと、故人の人生にちなんだ棺桶を特注するのが一般的だそうだ。たとえば漁師なら魚介の棺桶、パイナップル農家ならパイナップルの棺桶、ジャーナリストならカメラの棺桶、といった具合。

 棺桶職人のインスタグラムには自身が作ってきたさまざまな棺桶の写真がポストされているのだが、そこに先ほどのカウズやらスニーカーやらシュプリームなどの「ポップカルチャー系」が登場している。生前の故人が好きなものを棺桶にするなら、近年のポップカルチャーが入り込んできてもなんら不思議ではない。そう考えると、棺桶職人は時代ごとの流行りなんかにもキャッチアップしながら「作って欲しい」に応えてきたのか…。特にソーシャルメディアの興りの以降は、オーダーも多様化しているだろう。
 と、ここでもう一つ気になるのが、フィードに「ちっちゃい棺桶」が度々登場すること。テーブルの上に置いてあったり、植物の横に置いてあったり、無論だが故人はそこに入っていない。オブジェのように飾ってあるのだ。近年のポップカルチャーのオーダーに、作品としての棺桶のオーダー。棺桶が、アートピース化している。
 世の流れ、変容するオーダーに応えてさまざまな棺桶を世に送りだしているのが、ガーナの首都アクラを拠点に活動するパァ・ジョーさん。上述したインスタグラムアカウントの職人で、16歳から棺桶を作り続ける御年73歳のベテランだ。実際のとこ、この近年の棺桶作り、どんな感じですか? と、一問一答を申し出た。

HEAPS(以下、H):パァさん、こんにちは。パァさんは有名棺桶屋の家庭に生まれ、いまではキャリア56年のベテラン棺桶職人です。

Paa Joe(以下、P):その有名棺桶屋とはわたしの父の店ではなく、叔父の店だった。叔父の息子が跡を継いで、わたしは1977年に自分の棺桶屋をひらいたんだ。

H:あぁ、そうだったんですね。それが「パァ・ジョー・コフィン・ワークス」。

P:うむ。将来は、息子ジェイコブが跡を継ぐ予定だ。


パァさん。

H:息子さんも棺桶職人なんですね。ガーナの葬式はその独特さゆえ、ユニークな棺桶を作る棺桶屋が多いと聞きました。現在ガーナには、いくつくらいの棺桶屋があるんでしょう。

P:わたしの住むアクラには、10から15のオーダーメイド棺桶屋がある。

H:アクラではオーダーメイド棺桶しか販売されていないんですか? それとも棺桶ダンサーズが担いでいるような、シンプルな棺桶も販売されている?

P:シンプルな棺桶も売られておるよ。

H:好みで選べるってわけだ。それぞれ大体おいくらなんでしょう。

P:シンプルな棺桶は約1,000ドル(約10万円)で、オーダーメイドは約1,500ドル(約16万円)といったところ。

H:へえー、思ったよりは差がない。日本では装飾のないシンプルなものから、檜を使用した豪華な彫刻を施したものまで、約4万円から200万円超えとピンキリです。とはいっても、オーダーメイド棺桶を注文するのは、お金に余裕のある層が多い?

P:オーダーメイド棺桶を注文するために、どの家庭も親族がきちんと資金を確保しているんだよ。だから、金持ちも貧乏人もどちらであっても、オーダーメイドの棺桶を購入することが多いさ。

H:オーダーメイド棺桶を注文するために親族が貯金とは。ガーナでは、こうしたオーダーメイド棺桶は故人の死にとってどういった意味が?

P:細部にまでこだわったデザインは、故人にとって、非常に特別。

H:棺桶の注文は、故人の死後に親族から? それとも自分の好みの棺桶で眠りたいと、生前に前もって本人が注文することもあるんでしょうか。

P:5パーセントは生前に本人から注文を受けるが、95パーセントが故人の死後に、家族・親族が決める。

H:月にどれくらいの注文が入るんでしょう。

P:まちまち。1、2件の注文が入る月もあれば、ゼロの月もある。

H:忙しい月だと、1人で作業するの、大変そう。

P:わたしには、息子ジェイコブを含む古い弟子が5人程いるんだ。だが、いまの若い世代にとって、わざわざ弟子入りして棺桶作りを学ぶことは難しいんじゃないかと思ってもいる。

H:パァさんの棺桶は木から手作りしているそうですね。そのプロセスは簡単ではないだろうし、習得までも時間がかかりそうだ…。ところで、パァさんの棺桶屋の特徴ってありますか?

P:わたしが作る棺桶のユニークなところは、細部までこだわり抜いて作っていること。木を掘り細部を作っていく作業が一番楽しい。お客にいいと思ってもらえるものを作ることが、わたしのポリシー。

H:ちなみに一基の棺桶を作るのに、どれくらいの時間がかかるんです?

P:デザインにもよるが、大体5週間から8週間といったところ。

H:根気の要る作業であることをお察しします。デザインも百様。漁師なら魚の棺桶、パイナップル農家ならパイナップルの棺桶と、故人の人生にちなんだ棺桶を注文するのが一般的なんですよね。今年、注文の多かったデザインを教えてください。

P:今年は、シンプルなデザインが最も人気の一つ。

H:そういえばインスタグラムでおもしろい動画を見ましたよ。割礼専門家のために作られたイチモツの棺桶を担ぐ葬式の動画。パァさん作?

P:わたしの作品じゃあない。昔の同僚が作ったもんだ。彼も自分の棺桶屋を持っている。

H:そうですか。あと米国の有名司会、コナン・オブライエン(江戸川コナンにライバル心を燃やし、『名探偵コナン』をいじり倒したことで知られる)の棺桶を製作していましたね。

P:あぁ、昨年、コナンがホストを務める番組『コナン』のために作ったやつだな。わざわざわたしの店まで来てくれて、実物を見たときは随分驚いとった。

H:本人、嬉しそうに棺桶の中に入ってましたもんね。

P:それ以来 、多くの海外メディアがわたしの元に取材に来るようになったんだよ。

H:パァさんの作品はパリのポンピドゥ・センター、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館、ニューヨークのブルックリン美術館などで展示されてきたそうで。

P:他にもアトランタのハイ美術館、ロンドンの大英博物館、カナダのロイヤルオンタリオ博物館でも展示されたんだ。

H:そしてここ数年で、バッテンの目が特徴のキャラクターKAWS(カウズ)のコンパニオン、3年前に話題になったシュプリーム×ルイ・ヴィトンのコラボバック、ナイキのエア・ジョーダンスニーカー、スポルディングのバスケットボールなど、ポップカルチャーを反映させた作品が目を引きます。一体どんな人たちが注文しているんです?

P:アートコレクターやディーラーから、彼らのギャラリー用にこれらの注文が来るんだ。

H:へえー。パァさんが初めて作った、ポップカルチャーにちなんだ棺桶ってなんでした?

P:ブルックリン美術館の展覧会用に作った、ナイキのスニーカー。

H:海外からアート作品としてオーダーが入るんですね。こうしてポップカルチャーを元にした注文が入った場合、まずはそれがどんなものかも自身で調べているんですか?

P:うむ、自分で調べる。だけど、製作過程で苦労することはあまりないな。

H:へぇ。ではポップカルチャー系の棺桶で、これまで作りがいのあった3つを教えてください。

P:カウズ、城、砦(とりで)。

H:(あ、カウズ以外ポップカルチャーじゃない…)ロサンゼルスの有名アートレコクターのステファン・シミチョウィズからの注文で、カウズのミニチュアを製作。実際にポップカルチャー界の著名人からの注文や反響を得ることについて、どう思います?

P:ガーナの棺桶がこうして西洋のアート界から評価されるのは、うれしいこと。

H:いまはポップカルチャーが人気のようですけど、他にも過去にもとある時期に急増した注文や流行った注文って、ありました? インターネットが普及した頃とか。

P:…。

H:(あ、回答なし…)えっと、気を取り直して。棺桶のミニチュアを作りだしたのは、いつ頃からなんですか?

P:ミニチュアを作りめはじたのは、80年代前半だったかね。理由は2つ。1つは埋葬時に棺桶の上に置く用として。もう1つは、わたしのスタジオを訪ずれて、なにかか持ち帰れるもんが欲しいという人が多くてはじめたんだよ。

H:数ヶ月前からはTシャツ販売も。世界中のファンが購入している。これはパァさんのアイデア?

P:ステファン(・シミチョウィズ)のアイデアだったんだ。 2017年に彼を訪ねロサンゼルスに行ったとき、彼はわたしらが棺桶作りだけでなく、もっと何か違うカタチでいろいろ(ガーナの棺桶を海外に発信することが)できると考えとってな。 わたし自身、ファッションやストリートブランドにも興味がある。

H:おぉ、56年作り続けてなお意欲的。ベテランのパァさんですが、ガーナの棺桶シーンにおいてどんな存在でありたいですか?

P:わたしゃぁ、すでにガーナのオーダーメイド棺桶界のゴッドファーザーであり、アーティスト!

H:はっ。愚問でしたね。現在、美術学生に棺桶の作り方を教えるためのアートギャラリーを建設中だと小耳に挟みました。完成後は、棺桶作り以外にどんなことを?

P:世界中の多くの棺桶アーティストの作品を展示し、(ガーナのオーダーメイド棺桶作りの技術を教えるための)プログラムなんかを企画したいと思っているんだ。

H:完成が楽しみですね。では最後に、パァさんは自分自身にどんな棺桶を作りたいですか?

P:ガハハハ!わたしが死んだあと、息子のジェイコブが決めてくれるだろ!

Interview with Paa Joe

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All images via Paa Joe
Eyecatch Image Graphic by Midori Hongo
Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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