世界各地の「道」と「移動」に、僕らのメッセンジャーバッグの原点がある。“いつもの生活”から機能性を見極めるフライターグ、京都店オープン

「日本の銀座で見かけた”アイス・メッセンジャー”からは、とても大きなインスピレーションを受け取ったんだ」京都店をオープンするFREITAG(フライターグ)に聞く、生活のリアリティとバッグ作り。
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26年前、二人の兄弟がトラックの幌(ほろ)から作った「強度と撥水(はっすい)のメッセンジャーバッグ」は、いま、世界各地のさまざまな人の移動のパートナーとなった。雨の日も風の日も走行してきたトラックの幌には、数え切れない傷やシミが無数にあるが、それをすべて“持ち味”に「一つとして同じものはないメッセンジャーバッグ」という一品に変えたブランドが、スイス発の「フライターグ(FREITAG)」だ。創始者であるマーカス・フライターグ(Markus Freitag)とダニエル・フライターグ(Daniel Freitag)の兄弟に、その名前を由来する。

主に使う材料はたった3つ、使用済みのトラックの幌、自転車のインナーチューブ、そして車のシートベルト(今年100%リサイクルPET素材も使用しはじめた)。すべてが道路と関連するのも、バッグ作りの最初の着想が高速道路にあったからだろう。「強度が絶対で、雨に濡れてもへっちゃらのメッセンジャーバッグが欲しかった。でも、知る限り僕が住む街には売っていない。インターネットもないから、防水の素材も調べられない。だから、自分の家の前の、高速道路を走るトラックから着想を得たんだ」。トラックの荷台に取り付けられているシート状の幌(トラックタープとも呼ぶ)を使って、自分たちで、自分たちのためにメッセンジャーバッグを作った。1993年のこと。





高速道路を走るカラフルな幌のトラックと、フライターグ兄弟。
Photos ©︎FREITAG

現在は、世界中に54店舗を設け、400店舗以上のパートナー店を展開するまでに成長した同ブランド。2011年には、世界で9番目、アジアでは初となる直営店を、日本の銀座に1号店として誕生。ついで、渋谷、大阪に2・3号店。先日には、4号店を京都にオープンした。

さて、フライターグ兄弟の最初の着想は、普段目にする日常生活の「高速道路を走るトラック」だった。26年のバッグ作りには、26年の観察と好奇心がある。足を運んできた世界の「あらゆる都市の日常生活」から、どんな着想と発想を手にして、バッグを作り続けてきたのだろう。京都という新たな地に店を出すこのタイミングで、“都市生活の着想とバッグ作り”についてを聞いてみたい。来日中のマーカス・フライターグが渋谷店にいるとのことなので、少しお邪魔してきた。(記事末尾に、今回の京都店オープンを記念して、HEAPS読者プレゼントのお知らせがあります!)

***

HEAPS(以下、H):日本での4店舗目をオープンするとのこと、おめでとうございます。

Markus Freitag(以下、M):ありがとう!

H:それでは早速。最初のメッセンジャーバッグを作ってからこの26年で、フライターグは多くの都市に進出しました。それは、二人がその数の都市に足を踏み入れたということ。もともとが「家の前の高速道路を走るトラック」から着想を得た二人にとって、さまざまな都市での生活を目にすることこそ、大きな着想や発想に繋がったのではないかなと。

M:そうだね。そしてそれは、たとえばカラーなどヴィジュアルに生かすものではなく、そのバッグの機能や在り方を考えるために、それぞれの都市の「一人ひとりの生活の仕方」からインスピレーションを得るんだ。その街の人たちが、どのように生活しているのかを観察する。「どのように通勤・通学し」「どのように自分の物を持ち運んでいるのか」をよく見るということなんだ。


取材に応じてくれたマーカス・フライターグ(Markus Freitag)

H:なるほど。“その都市の生活”というとても大きな枠組みの中で、着目するのは「道」と「移動」に関するものなんですね。

M:お店の外に、カーゴバイクが置いてあったでしょ? あれは40年以上前から存在しているんだけど、昔はヨーロッパではまったく人気がなかったんだ。でも、いまではヨーロッパの北部ではほとんどみんなが所有しているものになったんだよ、特に家族のいる人には便利なんだ、物を運ぶのに特化している。僕たちのメッセンジャーバッグは、そういった自転車には乗っていない人たち、つまり普通の自転車に乗る人が使えるものとして作っている。「雨の日も普通の自転車に乗る人」。日々の移動というリアルなところから、機能性を考えていくための着想をもらうんだ。

H:確か、フライターグのメッセンジャーバッグは異なる大きさが作られていますよね。人々のリアルな生活を考えると、たとえば荷物が少ない日は小さめのメッセンジャーバッグがあったら便利。あとは、これは個人的な視点ですが、私は体が小さいので、雨風の強い日なんかは体が引っ張られないように小さいサイズがあるととても便利だなと感じます。

M:Dexter(デクスター)は小さいバージョン、通常のサイズ、さらに大きいサイズがあるよ。それから見て、このバッグはこうなるんだ。


H:おお、小さいかたちなのに、中に折りたたんである生地を広げれば大きくできるんですね! なんだかリュックのかたちにも見えます。

M:そうだね、だけどやっぱりメッセンジャーバッグとして使うんだ。メッセンジャーバッグがメッセンジャーバッグとして発展してきた理由は、その機能性にある。自転車に乗りながら、カバンの中の物をスムーズに取り出すことができるように、と。これがリュックだと難しいでしょ。でも、最近はリュックとしても使えるものが増えているよね、やっぱり両肩で背負った方が体の負担が少ないからなのかな(笑)



100%ペットボトルからできた生地も使用しており、これが幌とペットボトルを使用したバッグ。「将来は、さらに使用する資材を追加していきたいんだ」

H:なるほど。いまではどの都市でもメッセンジャーバッグを見かけるようになりましたけど、二人がはじめた頃はまだ新しいものだったんですよね。

M:メッセンジャーバッグそのものは、確かニューヨークに70年代くらいから存在していたんだけどね。僕らが1993年に創業した頃にも、やっぱりスイスやヨーロッパにはまだなくてね。そういうところでいうと、僕らのスタートであるメッセンジャーバッグ作りも、他の都市からすでにインスピレーションを受けているわけだ。

H:これまでに、「この都市でもフライターグはうけるんだ!」って意外だった都市とかはあります?

M:タイにたくさんのユーザーがいてくれたことかな。雨季の時期あるから、そういった理由でも受け入れられているのかもしれないなあ。

H:バッグの機能を考えていくうえで、人の移動や物の持ち運びを見るということですが、これまで訪れた都市で、特に興味深かった移動のシーンは何かありますか?

M:日本に初めて来たときの、銀座だね。

H:気になります。

M : まず、ヨーロッパも比較的小さめのバッグを持ち歩くんだけど、アジアではそれよりさらに小さいバッグを使う人が多いということも興味深いと思った。でも、何より大きなインスピレーションとなったのは、銀座にいた「アイス・メッセンジャー」たち。彼らは大きい氷のブロックを袋に入れて、お寿司屋さんやバーに持ち運んでいたんだ。氷専用のメッセンジャーバッグを使って。これにはビビッときた。「フライターグのいつもの素材を使って、同じ形で何か作ろう!」って。

H:さて、今回の直営店は京都に。日本でも歴史ある古都を選んだのは、どんな理由からだったんでしょう。

M:僕はね、ウソをつかないタチだから正直にいうけど、日本の都市の違いっていまいちわかっていないんだよ…(笑)。ただね、20年ほど前に京都を訪れたときに、素晴らしいトートバッグに出会ったという出来事が大きく背中を押したのかもしれない。それから、京都は外国人もそうだし、日本人も含めて“観に来る場所”だから、そこに店舗を持つのはいいことだと思う。



ターゲットの想定はしない。「自分だったら何が必要か」「自分だったら何を使いたいか」を考える。
チームやお客さんからのフィードバックを参考にしながら、試作品を作っていく。
うまくいかなかったりしっくり来なかったら何度も試して、中止することも。
時には「『自分たちがとても気に入った』という理由で、そのまま作ることもあるよ(笑)」。

H:今度、ダニエル(弟)にも同じ質問をしてみます(笑)。都市もそうですが、さらにその中でも“フライターグの店舗を持つ場所”として選んでいく基準はあるんでしょうか。

M:ショッピングがさかんな場所は、コストが高くなるからから、とか、雰囲気がマッチしないから選ばない、などはあるね。利益だけを考えれば逆にマイナスになる観点もあるけど、僕たちは利益を第一の目標にしていないから。フライターグとご近所になりたいと思ってくれそうなブランドがあるエリア、とかも大事だね。そんなふうに店舗の場所選びをしているよ。

H:なるほど。よいご近所になっていける、というのは、長い目でみてその街の一部になっていくのにとても大事な観点ですね。今回、京都限定のプロダクトなどは予定していますか?

M:まだないんだけど、僕のやりたいことリストに入っているよ。フライターグのお客さんは、いろんな店舗に来店してくれる人たちが多いし、ヨーロッパのお店全部行ったという人もいる。渋谷や京都だけにしかない限定商品を販売したいね。
今回の京都店の取り組みとしては、自分でプロダクトをカスタマイズして作るサービス*があること。生地をカットして自分のマイ○○を作れるんだ。これまでもイベントとして同様のことはやってきたけれど、お店に常設するのははじめて。


京都店。Photo by Daici Ano

Photo by Corsin Zarn
*制作できるモデルは1つ。トラックの幌(ほろ)の切れ端を選んで作る。

H:たのしそうです。どんなものが作れるんですか?

M: 基本的には小さいグッズを考えているよ。キーチェーンとか。時期によって作れるものも変わってくると思う。

H:ある時期はキーチェーンだったり、他の時期だと小さいバッグなどが作れるかもしれなかったり。

M:そうそう、どちらかというと、ちょっとしたお土産や記念に作れるものかなと考えている。でも実は、僕もまだ京都の店舗に行っていないからこれ以上はなんとも言えないんだ(笑)

H:何があるかは行ってみての、おたのしみということで(笑)。フライターグは広告などで宣伝しないぶん、その街でフライターグの魅力やストーリーを伝えてくれる人として、その直営店で働く人たちの独自の言葉はとても大切なんじゃないかなと。

M:フライターグそのものが、人から人のコミュニケーションで伝わっていくものだから、そういう広がりから繋がったり、ウェブサイトに公募したりして、うまく人が見つかっているんだよ、ありがたいことだね。僕たちは、僕らのプロダクトが決して安くはないことを承知で、学生さんにも買って使ってみて欲しいと思っている。だからこそ、お金を使っているのが広告ではなく純粋にプロダクトだという実感を持ってもらいたいんだ。僕らのバッグを使いたいと思ってくれる人たちは、バッグにお金を払うんであって、広告にお金を払いたいと思うわけじゃないよね。創業当初からは宣伝というものは変わってきているよ、いまではSNSもあるしね。

H:フライターグを使う人たちが、自分たちでフライターグを伝えていくというところでいうと、新たにはじまったS.W.A.P.(スワップ)というサービスもユニークです。ユーザーをデーティングアプリのようにマッチングして、使わなくなったお互いのバッグを交換できる。

M:これはね、ドイツのお店でやっていたコミュニティイベントだったんだよ。フライターグは長持ちするから長く使うユーザーが多いんだけど、時々違うバッグが欲しくなる。それで、ユーザー同士が集まってバッグを交換する小さなパーティーをやっていたんだよ。それをワールドワイドにオンラインで実現したのがS.W.A.P(Shopping Without Any Payment)なんだ。ビジネスに利益として還元されることはないけれど、僕らフライターグのメンタリティをよく体現してくれている。






渋谷店にて。作業場をのぞかせてもらった。

H:バッグがただのプロダクトというよりは、生活圏における一つのツールのように感じます。人と繋がっていくツールになっている。

M:そうだ、そのコミュニティという話で、フライターグはとても独特だと実感したことがある。SNSでそれぞれが自分の使っているバッグを投稿しているポストが多かったんだけど、僕らが公式に何かをする前に、ファンたちが自分たちで公園で集まっていたことがあって。こういうのって、普通は逆じゃない?

H:そうですね、まずはブランドがコミュニティを集めることが多いと思います。

M:そうだよね。通常は、まずコミュニティを作って、イベントをしたり時々まとめたりして、管理しないといけない。でも、フライターグはすでに小さなコミュニティがたくさんあった。僕らがやったのは、それを繋げたこと。日本でのコミュニティのはじまりも早かった気がする。おもしろいのは、そのコミュニティが投稿する写真には、その人たち自身が写っていないんだ。代わりに「それぞれのバッグ」が写っているんだよ。まるで、自分のアバターみたいだよね。

H:バッグが一つとして同じものがないフライターグだからこそ、アバターのように感じられるのかも。長く使うというのも一因ですね。

M: 長く使っているからこその話は、こんなのものあるよ。僕ら、トラックの幌からバッグを作って、そのバッグをまたトラックの幌として再利用する取り組みがあるんだ。“リ・リサイクル”だね。でも、使わなくなったバッグをもらうのはちょっと大変だったりするんだ。10年も使っているから、と断る人はもちろんいるし、汚れているし壊れているからと交渉してみても「このバッグはいまの奥さんと出会ったきっけなんだ(だから嫌だ)」って人もいて。彼らにとって、バッグはそれぞれの生活と密接な関係性があって、特別な存在なんだと感じたよ。



同じ素材を使用し続けながらデザインをしていくことは、26年間やってきてもいまだに難しい部分だ、とマーカス。
「何を解決するのか、がインスピレーションだ。何も問題がないのなら、あまりやることがないって意味だと思うから。何が好まれるかというよりは、何が欠けているのかを、プロダクトを考えていく上でのブリーフィングを書いて考えて、取り組んでいく」

H:日々の移動をともにするということは、日々、人生をともにしてきたということですからね。

M:フライターグのバッグと、人それぞれのいろんなアドベンチャーを経験しているから、“ただのバッグ”という存在じゃなくなるのかもしれない。手紙もたまに届くんだ。「フライターグのバッグを身につけていることからスーパーマーケットで会話をはじめて、いまでは子どもがいる」って。

H:いろんな土地の、さまざまな人を繋いできました。フライターグは、高速道路から着想を得て、さまざまな人の道を交差させているのですね。26年間で、都市の生活とバッグの関係において変わってきたこと、それから変わらないことを教えてください。

M:最近だと、小さめのバッグを使う傾向になっていると思うよ。荷物が少なくなっているからだろうね。でも、きっとまたその後に大きいバッグの流れになり、そのあとはまた小さいバッグの流れになる。そんな繰り返しになるんじゃないかな。ただ、さまざまな流れの中でも、これはいつでも一緒だよ。フライターグの素材は頑丈で撥水。だから、バッグは小さくても大きくても、毎日、どの都市でもどんな天気でも、いつも通りワークするんだ。

Interview with Markus Freitag


▶︎▶︎▶︎FREITAG STORE KYOTO
〒604-8113京都市中京区井筒屋町400-1
営業時間
月曜‐日曜 : 11時 ‐ 20時

HEAPS読者限定!フライターグのメッセンジャーバッグをプレゼント

HEAPSの読者限定2名さまに、本記事でも触れたFREITAG(フライターグ)の再生プラスティック製素材とタープ素材を使用したメッセンジャーバッグ(写真中、一番右)をプレゼントいたします。

【応募締め切り】2020年1月3日(金)

【応募方法】以下の応募フォームに必要情報のご記入をお願いいたします。当選者さまのみ詳細情報などを直接ご連絡させていただきますのでご了承ください。

▶︎応募フォーム

【注意事項】当選者さまには、HEAPS編集部よりメールにて、ご連絡させていただきます。ご返信をもって当選確定といたします。

Photos by Hayato Takahashi
Text by HEAPS and Hannah Tamaoki
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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