戦場フォトジャーナリストが、地元、母国、自分の心を見つめたら。60年の写真家生活・そこにあった“争い”と“日常”

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イギリス北西部の街、リバプール。この地で生まれたロックサウンドは“マージー・ビート”と呼ばれるが、その由来となったマージー川に面して建つのがテート・リバプール美術館。老若男女に現代アートを魅せるこの場所は、かつては、タバコや絹、お茶など、アジアからの豊かな輸入品が眠っていた港町の倉庫だったとか。今回紹介するのは、現在こちらで開催中の展示会『Don McCullin』だ。ロンドンの貧困から中東の紛争まで、足を止めることなく60年のあいだシャッターを切り続けてきたフォトジャーナリスト、ドン・マッカランの写真が200枚以上展示されている。テーマは「1960年代、70年代のリバプール、英国北部の都市たち」。分厚い灰色の雲がお決まりの街から届ける、レンズ越しの白と黒の世界。

1935年、ドン・マッカランはイギリス北部のフィンズバリー・パークにある、たった二部屋の地下アパートに生まれた。湿気に満ちた貧しい日々を送っていた幼少期に訪れたのは、第二次世界大戦による疎開と妹との離別。その後ロンドンに戻り、ギャングや殺人を犯した犯罪者とも生活を共にした。そして父親の存在を最も必要としていた時、彼は父親を亡くす。荒廃した生活のなかでマッカランの目は、荒廃した北ロンドンを見ていた。貧困と暴力というものを、確かに理解していたのだ。そんな彼が関心を向けたのは、産業空洞化の政策によって貧しいままにされていた人々の生活。この展示会では、1960年代から70年代にかけてのリバプールや他のイギリス北部の街、そこに息づく都市生活や産業シーンを捉えた写真が並ぶ。彼は、カメラを向けた先の人々の生活に、自らの少年時代を重ねていた。

1963年には、キューバ のミサイル危機に抗議し、強張らせた顔の警官らを前に一人シットイン*する人の背中。1971年には、北アイルランドで英国兵士を攻撃するカトリックの若者たち。1975年には、排気ガスが立ち込める鉄道線路を横断するカップル。カメラに映る人々の眼差しや肌の汗ばみから、それぞれの感情が浮かび上がる。マッカランが切り取る一つ一つのシーンは壮絶な時代の全体像ではなく、その時代に生きた人間の、とある日常の一瞬である。

※抗議のために非暴力で1人またはそれ以上でその場を占拠する直接行動。政治的、社会的、経済的変化を求めて行なわれることが多い。

展示されている写真は全て、マッカラン自身が自宅の暗室で印刷したものである。最高の作品に仕上げるために何度も写真と向き合うことで、彼は忘れられない人々や場所を再訪し、再び自身の心に刻みつけたのだろう。彼だけでなく見る人にとっても、それらの写真は時代の脈動を感じさせるもので、心に刻まれるはずだ。会期は9月5日まで。

Don McCullin Protester, Cuban Missile Crisis, Whitehall, London
1962 © Don McCullin

Don McCullin Catholic Youths Attacking British Soldiers in the
Bogside of Derry~Londonderry 1971 © Don McCullin

Don McCullin Consett, County Durham 1976 © Don McCullin

Don McCullin Near Checkpoint Charlie, Berlin 1961 Tate
Purchased 2012 © Don McCullin

Don McCullin Shell-shocked US Marine, The Battle of Hue 1968, printed 2013 ARTIST ROOMS Tate and National Galleries of Scotland. Presented by the artist 2014 © Don McCullin

Don McCullin Unemployed Men Gathering Coal, Sunderland 1972
© Don McCullin

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Text by Iori Inohara
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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