デモでメディアに名を馳せた男。反トランプな「デモ・セレブリティ」の狙い

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連日のように街のどこかで行われている「反トランプ」集会。そこに「必ず」といっていいほど出没しているのが、このトランプマスクの男、Elliot Crown(エリオット・クラウン)である。

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マスクをつけた彼の写真は、英紙『ガーディアン(The Guardian )』、米紙『ウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)』、CNN、Fox Newsなど、国内外問わず、数々のメディアに掲載されてきた。彼曰く、「メディアに撮られるにはコツがある」らしい。「デモ・セレブリティ」な彼の狙いとは?

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やたら写真を撮られるデモ・セレブリティ?

 2月の第3月曜日は米国の祝日「プレジデンツデー」。本来は米国の歴代大統領の功績をたたえる日。だが、今年は違った。

「今日は、Not my Presidents Day だ」。
「He is not my president !! (彼は私の大統領じゃない)」

 この日、セントラルパーク西側で行われた「反トランプ」デモ。1000近い人々が集まる中、メディアや群衆に囲まれ、やたら写真を撮られているスーツ姿の男がいた。

「チート・ジーザス*、こっち向いて!」

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 手作りのトランプ仮面を装着し、左手にイーグル(鷲)の鳥かご、右手にチートス(コーンスナック菓子で笑いをとる。
 この日のデモの写真には、必ず彼の姿が映るだろう。「メディアに撮られるコツを知っている」というこのおじさん、エリオット・クラウン。

*トランプのオレンジ色の顔がスナック菓子のチートスに似ていることと、彼を救世主のように崇拝する支持者を揶揄って、政治コメンテーターのリック・ウィルソンがツイッターでトランプを『チート・ジーザス』と呼んだことからミームになった。

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週に2回以上はデモに参加

「プレジデンツデー」から数日後の平日、私たちは彼自宅兼スタジオで、奇妙なマスクに囲まれながら午後のひと時を一緒に過ごした。

 マンハッタンのイーストビレッジにある彼のアパートの一階は、今風のお洒落なカフェ。「けっこう、良いとろこに住んでるなぁ」と思いきや、中に入って外観とのギャップに驚いた。激しく傾いている。床が、というより、壁もドアも、本棚及び並ぶ本も、すべてがピサの斜塔だ。そしてなぜか、狭いキッチンにバスタブが鎮座している。

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出迎えてくれたエリオット。

 

「ここには1982年から住んでいるんだ」というエリオット。月の家賃は「600ドル(約6万円)。昔は300ドル(約3万円)だったんだけどね」。ちなみに、上の階に住む新しい住民は、同じサイズのワンベッドルームで彼の3倍以上、「月に2000ドル(約21万円)も払っているみたい」という。地価が上昇し続けるニューヨークは「早く来たもの勝ち」だと誰かが言っていたが、こういう人に会うたびに「その通りだ」と思う。

 部屋には、先日のトランプのマスクのほか、自由の女神バージョンや、金の亡者バージョンなど、彼の創作物が所狭しと並ぶ。「このマネーマンのマスクをつけた参加したラリーではね、車から降りてきたバーニー・サンダースの目に留まったみたいで、彼はトコトコっとぼくの前まで歩いてきて、握手してくれたんだ」と嬉しそうに語る。

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 実は、トランプのマスクと鳥かごは彼の「最新作」だった。メディア露出が多くてっきり古いものだと思っていたが、作ったのは年が明けてから。1月20日の大統領就任式のワシントンD.C. での反トランプ集会に合わせて「5日間かけて」制作したそうだ。以来、2月20日までの一ヶ月間で「10回は使った」と話す。ということは、週に2回以上はデモに参加していることになる。

 マスクの材料は主に「紙」。お気に入りは、「アート制作用に使いたいっていうと、いつも無料でたくさんくれる」スーパーのダンボールやペーパーボックスだ。トランプの特徴的な髪型は、ホウキの穂先で表現。おもちゃの王冠はもらいもの、という。見たくもないトランプの顔を作るのは「嫌だったよ」とポツリ。

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デモにも笑いを

 初めてデモに参加したのは、高校生の時。反ベトナム戦争デモだった。以来「ぼくはずっとアクティビスト」だという。自作のマスクを作るようになったのは2001年から。ブッシュ政権への抗議運動だ。「友人にデモで目立つように仮面を作って欲しいって頼まれてね」。その時に友人たちと仮面をつけて行ったシニカルなコメディ劇の様子は、メディアに写真を撮られ、米国内だけでなく海外の新聞にも掲載された。

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 その時に気づいた、という。「コミュニケーションは一方通行じゃだめ」。アクティビストが言いたいこと、伝えたいことは、聴く側にとって「おもしろい」「もっと知りたい」と思えるものに編集する必要がある、と力説する。
 正しいことばかり言ってても「つまらない。インパクトのあるビジュアルがモノをいう時代に、一般人が路上でスピーチしてもねぇ。誰も立ち止まらない。じゃぁ、現代の人はどんな時に立ち止まると思う?」
 そう言って、数秒の間をおいたあと、彼はこう続けた。「写真を撮りたいとき、でしょ?」

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 より多くの人にメッセージを伝えたいのであれば「広告と同じ手法だね。僕はマスクやパペットを作るときは先に、どこで、誰に、何を伝えたいかを先に考える」。群衆の中で人々の関心を惹きつけるのに大切なのは、人目を引く「明るい色」「大きいもの」「誰もが知ってるキャラクター」、そして「ユーモア」だと語る。
 革命家チェ・ゲバラも、日本の革命家で幕末の志士の坂本龍馬も、どんなに過酷な状況下でも、ユーモアを忘れなかったと聞く。「社会を変えたいとき、笑いの力は大きいよ」という彼自身も、デモ活動は正義感だけでなく「楽しみながら」ゆえ、長続きしているのかもしれない。

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あの男(トランプ)の出現で良かったこともある

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 彼は通説だけではなく、メディアでは語られることが極めて少ない情報、いわゆる「陰謀論」にも詳しい。よく勉強されているのだろう、彼自身の言葉で、あれやこれやを説明してくれた。
 アメリカンドリームは愚か、未来が危ぶまれているいま、悲観的になろうと思えばいくらでもなれる。「けれど、あの男(トランプ大統領)の出現がもたらしたことで、一つだけ良かったことがある。それは、非常に大きな警鐘を鳴らし、みんなを目覚めさせたこと」。70年代からずっと、環境問題やヒエラルキー型の支配を前提にした政治制度、そのために生じる腐敗など、アメリカという国がすることへの不信感を訴えてきた筋金入りのアクティビストがいうだけに、その言葉には重みがあった。

 この日の夕方、彼はまた別の集会に参加する、と言っていた。この国は本当に終わっている、とぼやきながらも決して諦めてはいない。「そろそろ新しいマスクも作らなきゃね。もうトランプのは、もうかなり(メディアに)撮られたから」

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Photos by Sako Hirano
Text by Chiyo Yamauchi

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