メディアも政治家も避けたがる“タブー”。「真実と笑いの10分間」いま、本当のことを伝えるのはコメディアンたちだ
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「今朝のセックス、最高だったわ。でも詳しくは話せない。だって私の文化ではタブーだから!」

花金の夜。ニューヨーク、満員御礼の地下コメディクラブで、ウェービーな黒髪をかきあげマイクを握るSuzie Afridi(スージー・アフリディ)。彼女は止まらない。「私はパレスチナ出身で旦那はパキスタン出身。最強のテロリスト夫婦でしょ?」

社会のタブーを面白おかしく持ちこむ彼女の話には「ピーーー」のモザイク音もきれいごとも一切ナシ。メディアや政治家たちが伝えない真実が、コメディアンたちがマイク握るステージにある。

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ムスリム、笑いを武器にもの申す

「僕は◯◯◯・ビン・ラーディン。名前を聞いたとたん、皆ドン引き。この名前の奴ら全員過激派だと思ったら大間違いだって!」 スージー同様、毒の効いた巧みな話術を繰り広げる若手コメディン。前座とは思えないほどのばかうけだ。

「イスラムって聞くと、いまぶっちゃけ悪いイメージしかないでしょ?」。笑い声が響く会場で、自身もムスリムのスージーの小声にドキッとした。彼女の言う通り、正直いいイメージはあまりなかった。

 そのステレオタイプってどこからきているかといえば、日頃ニュースを仕入れるテレビやネットなどのメディアなわけで…。それをさらに痛感するマイノリティのコメディアンたちが、この“ぶっちゃけ”コメディショー「Amreeka(アムリーカ:アラブ語でアメリカの意)」をはじめたというワケだ。
 月に1度、ムスリム、黒人、ゲイなどのマイノリティーコメディアンたちが集結し、アメリカで生活する葛藤、はたまたメディアや政治家が避けたがる話題をまくしたてる。どんなにふざけた内容でも、伝えるのはすべて真実だ。

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「5年前、ニュースを見るのを止めた」

 いつの時代も、真実やタブーを伝えるときに大きな役割を果たしてきたのは、エンターテイメントの世界だ。たとえば喜劇王、チャーリー・チャップリン。彼は映画『モダン・タイムス』や『独裁者』で、資本主義やナチス政権に対する批判や社会風刺をコメディで表現した。あるいは、ドラァグクイーン。ホモフォビアの時代においても、彼らは観客の興味を引くため、トランスジェンダーやゲイとしての生きづらさや社会の偏見を“ユーモラスなトーク”に絡ませ、むき出しの真実を届けてきた。興味のない大衆にも耳を傾けさせるのに、ユーモアという要素はいい仕事をする。

 もともとは税理士をしていた、というスージー。彼女は5年前にニュースを見るのを止めた。移民というマイノリティであるから、メディアには敏感で「情報操作にうんざりした」。

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 事実を隠蔽・歪曲するメディアに嫌気がさしたのと同じ頃、かけだしの彼女がネタ収集のために見はじめたコメディ専門チャンネルで、放映中のある人気政治風刺番組に気づく。笑いやユーモアを介して真実を伝えれば、観客も自然と耳を傾けている。それは、この番組の視聴率や話題性でも証明されていた。「コメディアンなら、メディアも政治家も明かさない“リアル”を伝えることができる」

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スージーのネタ帳。

人種差別に性差別…聞いてて辛くない、が大事

 笑ってくれる人がいて初めてショーになる。だからコメディは「ひとりじゃ成立しないアート」だとスージー。大切なのはコメディアンと観客の距離感とエネルギーのバランス、一方的じゃダメだ。それから信頼関係。したがって「ウケないからって、客をいじって笑いをとるコメディアンはお呼びじゃない」。

 黒人コメディアンは人種差別を、ゲイコメディアンは性差別を笑いに昇華する。面白いから聞く、笑ったから忘れない。楽しかったからまた来る。一方的に伝えるスピーチとも、コメディというショーはやっぱりここが大きく違うと思う。

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 スージーらのショーで、うまいなあと感心したのは、怒り・あるいは悲しみの真実を笑いに変えて、にくわえて、批判と毒吐きは「あくまでも自分の目線で」ということ。なので、テロの話でも移民の話でもなんでも主語は「“I”(わたし)」。我々はこう思ってるぞ!という移民たちの代弁ではあくまでもない。すべて個人事にすることで、敵を作らずに親しみを持たせることができる、という。皮肉も批判も、必ず自身のことにつなげて話す。

 彼女が、トランプを批判するときに言ったのはこう。「産後太りのせいで、太ももが破裂しそうなくらい拡張中で超悲しい。まるで、ぶくぶくと肥えてくトランプ政権みたいよね」

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ヒーローのいない中東に笑いを

「ボランティアで難民キャンプに行ったときに感じたことなんだけど。子どもたちにとってユーモアは、ただ笑わせてくれるものじゃない。人生の救いでもあるんじゃないかって」。
 
 スージーの出身である中東にヒーローはいない。ロールモデルは暴力を振るう男だ。そんな悲劇を見て育つ子どもたちには、怒りや悲しみを“笑い”に変えられるスキルを持ってほしい、と言う。「そうすれば、人生は楽しくなるから」。9歳になる息子を見つめてそう言った。

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 波乱の大統領選後、トランプ勝利で排外主義が蔓延。さらにヘイトクライム横行で荒れに荒れるアメリカ。 この流れに対し、スージーはただ「ダメ」とは叩きつけない。移民として積み重ねてきた豊富な人生経験と持論で、コメディアンとして一石を投じる。

 使う道具はおんなじマイク。が、真実を包み隠さず発信するのは、規制だらけのメディアでもきれいごとだらけの政治家でもない。抜群のユーモアでタブーさえも笑いに昇華し、聞き手に本当のことを小気味よく伝えるコメディアンたちだ。


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Suzie Afridi

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Text by Yu Takamichi, edited by HEAPS
Photos by Sako Hirano

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