「キューバ」という国のことをどれくらい知っているだろう。
カリブ海に浮かぶ社会主義国家。ハバナシガーとして知られる葉巻に、ヘミングウェイが愛したモヒートやダイキリ、革命家チェ・ゲバラ。そして、ミルキーブルーの美しい海。
Image via matt northam
海があれば波もあり、いい波があればそこにはサーファーがいるはずだが。奇妙なことにその国にはサーフショップが一軒もないし、サーフィンが何だか分からない人だっているという。最高に美しい海を持つ国キューバでは、サーフシーンがまだ育っていないのだ。
いったいなぜ? いかんせんアンダーグラウンドなキューバのサーフシーンをひも解いてみる。
サーフィンが“アングラ”な海の国の謎
サーファーがサーフボードを抱えバスに乗り込むと、「そのボードは何かね?」と聞かれるほど、サーフィンが浸透していない国、キューバ。
理由としてはこの国では、サーフィンが公式に“スポーツ”として認識されていないから。
アメリカを敵対視してきた政府はサーフィンを「アメリカのスポーツ」と、さらには、スケートボードとともに「エクストリームスポーツ(※)」、「アマチュアスポーツ」とみなしているため、サーフィンがオフィシャルなプロスポーツとして真剣に取り合ってもらえることがなかった。
(※)速さ・高さ・危険さなどの「過激な(extreme)」要素を持った、離れ業を売りとするスポーツ
プロサーフィン団体がある島国の日本や、サーフ文化が音楽やライフスタイルと密接に結びついているサーフィン大国アメリカとは違い、国民の大半がサーフィン自体を知らないキューバでは、サーフシーンはアンダーグラウンド的な存在だ。
サーフボードはチーズおろし器で削る
首都ハバナのCalle 70(カジェ 70)など国内のサーフスポットに集まるサーファーは、100人にも満たない。が、熱狂的な若いサーファーたちの姿がある。海外のサーフィン文化に影響された波乗りたちだ。
彼らは、海外からやって来たサーファーが置いていった雑誌や映画、DVD、ビデオテープを目にし、波を自分のものとするプロサーファーたちの姿にシビれ、サーフィン学校もインストラクターもいない環境で、見よう見まねでサーフィンをはじめた。
Image via Brian Auer
キューバには、サーフショップが一軒もない。サーフィンに必要な道具はもちろんのこと、サーフボードすら売っていないのだ。
ではどうやってサーフィンをはじめたのか? ひと昔前までサーファーたちはサーフボードを手作りしていたそうで、ベニヤ板や捨てられた冷蔵庫のドアを持ち帰り、チーズおろし器やハンガーなどを使ってボードの形にシェイプしていた。
リーシュ(ボードから離れないよう足に括りつける紐)は、縄跳びの縄やリュックの紐などで代用、滑り止めにはロウソクのろうを使い、仕上げにアメリカのサーフボードブランドのロゴを真似して描き、自家製サーフボードの完成。脆いため1ヶ月ほどでガタがきてしまうらしいが。
Image via Michael Hänsch
いまでは、海外から訪れたサーファーたちから譲り受けたボードを仲間で使い回したり、知り合いがアメリカにいるサーファーは、ボードを送ってもらったりしているという。
それならサーフボードを輸入すればいいじゃないか、という話だがそれが容易ではない。
社会主義国家としてアメリカと対立した結果、キューバはアメリカからの物資輸入が制限されてしまった。そのためサーフボードだけでなく、マクドナルドやスターバックスといったアメリカ資本のチェーン店はなし、車もその昔輸入された70年代のアメリカ車やソ連製のクラシックカーが今も現役で走っている、そんな時間の流れが止まったような国なのだ。
Image via Gerry Balding
サーフィンすると逮捕される?
社会主義国家キューバの海では、沖の方へ行ってはいけない。亡命していると疑いをかけられ、逮捕されてしまう可能性があるからだ。
数十年前、違法ボートでキューバから一番近いマイアミへと密入国するキューバ人が絶えなかったため、海の上での行動は警察の目に止まり疑われてしまう。
サーフィンをしていると、警官から「何をしているのか。どこへ行くのか」と検問。サーフィンをしているだけだと説明しても「サーフィンってなんだ?」と言われてしまう始末(もとより、サーフボードで海を超えられるはずはないが)。
Image via eltpics
国内が難しいなら、海外に行く選択肢もあるのでは?と思うが、それはかなり大変なことらしい。キューバで渡航許可証を得るためには、たくさんの書類と取得費用を整えねばならないのだ。
たとえば、カリフォルニアにサーフィン旅行したいと思っても、カリフォルニアにいる知り合いの誰かが招待状を書きキューバ政府に送る必要があり、その他書類を提出し高額な取得費用(公務員の平均月収の8倍を上回る1万7000円相当)を払っても却下されてしまうことがザラにある。
インターネットの普及がカギ?
さまざまな障壁にぶちあたってしまうキューバでのサーフィンだが、サーファーたちは自国のサーフ文化を確立しようといま、着実に動きはじめている。
キューバで初めてできたサーフィン団体CubaSurf(キューバサーフ)はイベントや観光を通してシーンに活気を与えようと試み、The Asociación de Surfistas de Cuba(ディ・アソシエイシオン・デ・サーフィスタス・デ・クーバ)は、国のスポーツ振興協会にサーフィン学校を作ろうと働きかける。若者のあいだでのエクストリームスポーツや、音楽、アートシーンを盛り上げようとするグループ、Royal 70 Surf Havana Cuba(ロイヤル・70・サーフ・ハバナ・クーバ)もある。
Image via Courtney Nash
事実、キューバを訪れるサーファーの数も増えているのだとか。昨年、アメリカとの国交が正常化したため、これからさらにアメリカや他国からのサーファーたちがキューバの波に乗りに来て、現地のサーファーたちを刺激していくだろう。
さらに、「1時間使用するのにかかるネット代は平均月収の1割・ネット回線がとにかく遅い・ネット規制は中国より厳しい」など、とんでもなくインターネット後進国だったキューバだが、今年から
家庭用ブロードバンドサービスを首都ハバナの一部で開始するなど、ネット緩和が徐々に進んでいる。
Image via Owen Lin
ハバナの「WiFiパーク」
これまでは、やっとのことでユーチューブなどからダウンロードしたサーフィン動画をDVDやUSBに落として仲間内で回し見していたサーファーたちだが、これからはもっと簡単に他国のサーフシーンを見知りできるようになる。ネットを通じて「キューバ固有のサーフカルチャー・キューバのサーファーたち」を、世界に発信していくことだって可能になる。
これから世界を相手に波に乗りそうなキューバのサーフシーン。現在、キューバの女性サーファーにコンタクト中。取材にて若者を中心としたアンダーグラウンド・サーフシーンについて探っているので後続記事をお楽しみに。
—————
Text by Risa Akita