「気持ちをあげてがんばらないとね!」観光客を失った街・NYCの土産屋さんと日々を振り返る。2021年、どうでしたか。

「お客がいなくても、店には来ていた」「毎日?」「もちろん。365日」
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コロナで打撃を受けたのは万人だが、世界中から絶えず人が集まるニューヨークで最も痛手を受けていた場所といったら「土産物屋」だろう。

2020年には、ロックダウンでほぼ客数ゼロとなってしまった土産物屋を報じる記事が相次いで出ていたが、今年はどうだっただろうか。観光都市ニューヨークの土産物屋の2021年を知るために、マンハッタンの真ん中で、35年ものあいだ商売を続けるお店に行ってきた。I❤️NYのメッカ・土産物屋は、I💔NYになってしまっていないだろうか。

2020年を乗り越えて。マンハッタン一等地で35年続けてきた土産屋

  ニューヨークのマンハッタンにて、ピザ屋やよろず屋、金物屋と同じ出現率を誇るのが土産物屋だ。「5枚で1ドルのポストカード」や「3つで10ドルのキーホルダー(やマグネット)」、NYPD(ニューヨーク市警察)やNYFD(ニューヨーク市消防局)のロゴが入ったパーカーやマグカップ、地下鉄マップがプリントされたTシャツ、歴代の大統領の人形、自由の女神やエンパイアステートビルディングの置物。
 どこに行ってもだいたい同じものが置いてある気がするが、価格設定はけっこう違ったりする(なので、自分が買った値段よりも安く売っているところを見つけると、だいぶショックを受ける)。また店によって、とても愛想のよい店主が迎えてくれるところもあれば、お客には無関心で無愛想に黙々と会計をするところ、押し売りのように不要なものを売りつけてくるところなど千差万別だ。

 さまざまな人格があるニューヨークの土産物屋のいくつかは、コロナ禍にやむなくシャッターを閉めた。それもそのはず、2019年には年間およそ6660万人ほどいた観光客が、2020年には67パーセント減の2230万人ほどになり、観光収入は73パーセント落ちこんだのだから。
 今年は、以前の半分ほどには増えると予測されていたが、完全回復までにはもう少し時間がかかるようだ。それでも、ホリデーシーズン目前の11月8日には米国はワクチン接種済みの外国人旅行者を受け入れを開始し、ヨーロッパをはじめとする8ヶ国ではニューヨークへの誘致キャンペーンが展開されたというというから、幸先はよい。

 昨年11月の時点で売り上げがほぼゼロになってしまったという土産物屋「Memories of New York(メモリーズ・オブ・ニューヨーク)」のことを思いだした。5番街とブロードウェイがちょうど交差するフラットアイアン地区(三角形のビル・フラットアイアンビルがあることで有名なところ)に35年ほど前から続く老舗の土産物屋さん。

 いくら外国人旅行者の受け入れが開始されたからといって、そんなにお客さんもいないだろうとたかをくくっていたが、約束の朝10時に行くと、レジには列ができている。もうすぐ75歳になるという、トルコ・イスタンブールからの移民の店主、アルパー・トゥトゥスさん(ミスター・トゥトゥス)は、今日も、お客さんに、感謝の印としてポストカードやらカレンダーやら、ペンやらをタダであげていた。ミスター・トゥトゥス、2021年、どうでしたか。


ミスター・トゥトゥス。

HEAPS(以下、H):今日は、朝からお客さんがひっきりなしですね。

Alper Tutus(以下、T):この前までは、こんなんじゃなかったね。

H:昨年11月に他紙の取材を受けたときは「お客がぜんぜん来ない」と話していました。それから1年経ちましたが客足は戻っていたのですか。

T:そうでもなかったよ。まだ渡航禁止*が続いていたからね。

*2020年初頭から、中国、英国、欧州諸国、インド、南アフリカ、イラン、ブラジルなど30ヶ国以上の国民の米国渡航が禁止されていた。

H:コロナの前は、それそうとうの人たちが来ていたでしょうね。毎日どれくらいの人が来ていましたか?

T:うぅぅん…。

H:数百人とか?

T:そうだねぇ…。スーパーマーケットみたいに、つねに人が出たり入ったりしていたね(笑)



H:パンデミックの最中、お客がほとんどゼロのときの日々を教えてください。

T:ゴーストタウンみたいだったよ。(パンデミックがはじまったときは)そりゃ、頭のなかはパニックだった。だけれど、平静をたもとうと努めた。ニューヨークが強い街だというのを知っていたからね。でも、コロナがはじまった最初の2ヶ月は、店を閉めていた。

H:お店を再開したあとは?

T:お客がいなくても、店には来ていた。

H:毎日?

T:もちろん。365日。

H:店員さんは、ほかにも来ていたのですか?

T:私だけ。ひとりぼっちだよ。閑古鳥が鳴いていたね。みんな、「(店を開けているなんて)クレイジーだ」と笑うんだ。私は、ニューヨークはタフな街だということを見せつけたかったんだ。それに働くのが大好きなんだ。

H:でも、お客さんはほとんど来なかったといっていましたね。なにをしていたんですか。

T:朝の8時には来て、2時間かけて掃除をしていた。

H:数千のアイテムが並ぶ土産物屋のお掃除、大変そうですね。たしかにお店にはホコリも見えないですし、陳列もピシッとうつくしい。

T:掃除は、一番大切なこと。座っている暇もなかった。

H:お店に一人いても、忙しくしていた?

T:夜の9時までお店を開けていた。神さまに祈り、できる限りのことをやっていたんだ。かんたんなことじゃないよ。

H:パンデミック中、お土産アイテムを買い求める人には、ニューヨークに以前住んでいた人やニューヨークがたんに好きな人たちがいたと聞きました。この街を活気づけようと、応援の気持ちも込めてオンラインの土産物屋さんでショッピングしていたと。お家時間が増え、パズルが売れ筋だったとも聞きました。
ミスター・トゥトゥスのお店にも、地元に住むニューヨーカーのお客さんは来ましたか?

T:いや、あんまり。ほとんどが、フロリダやテキサス、カリフォルニアなんかの国内のお客さんたちだったよ。彼らはとてもスマートな人たちだ。グーグルやイェルプ(ローカルビジネス向けの口コミサイト)、フェイスブックなどでこの店のことを共有してくれるんだ。



H:ミスター・トゥトゥスは、オンラインでの販売はやろうとしなかったのですか?

T:やろうとは思ったけどねぇ…。いまは正しいことをするだけ。つねに店をきれいにして、プロ意識をもって…。それが評判に繋がるからね。

H:コロナ中でも来てくれたお客さんたちは、どんなお土産を買っていくんですか。意外なアイテムが売れたり?

T:ポストカード、Tシャツ、マグカップ、 キーホルダー。

H:安定の定番土産。

T:これを見てよ。180くらいある。「ポストカード・ファクトリー」に…。

(何十年も使いつづけていることが容易にわかるボロボロのノートを取りだし、めくる。手書きの会社名と電話番号がびっしり並んでいる)

H:これらは、ミスター・トゥトゥスのお店にお土産物を卸している業者ですね。パンデミック中、彼らとの取引も中断?

T:連絡は取りあっていたよ。デザイナーたちとも。

H:デザイナー?

T:私の好きなデザイナーは、ジェイ・ジョシュア。韓国人のすばらしいデザイナーがいるんだ。メアリー・エリスも、家族みたいに仲の良いデザイナーだ。ほら、これがジェイ・ジョシュアの最新デザインのマグカップ。

H:ニューヨークのお土産アイテムを専門にするデザイナーたちのことか! 

T:競争がはげしい業界だよ。(ニューヨークのお土産デザインは)一つの産業になっている。

H:土産屋には、それぞれひいきの土産物デザイナーがいるんですね。

T:私は、自分が気に入らないもの、信頼できないブランド、興味のないアイテムは店には置かないんだ。この店の99パーセントがメイド・イン・USA。ユニークなデザイナーブランドで、メイド・イン・USAの質の高い、価格もリーズナブルなものしか売らないんだよ。

H:自分好みのデザインを手がけるデザイナーたちをどうやって発掘するのですか?

T:まあ、このビジネスに35年もいるからねぇ。ハハハ。彼らの方から私の方へ来てくれるんだ。どんなビジネスでも、つねにアップデートが欠かせないからねぇ。

H:ミスター・トゥトゥスの店も、最近なにかアップデートを?

T:今年はまだアップデートできていない。

H:来年こそは…!!

T:あとね、店の地下に商品が入った箱が300箱ある。

H:なんでそんなに?

T:地下のスペースを使って、1ドルから5ドルものだけを売るショップを開こうという計画があるんだ。毎日10、15、20箱くらいが配達される。

H:だからか。店の隅には未開封のダンボール箱がたくさんありますね。

T:あれらは、35年以来のつきあいのあるポストカードメーカーから買ったポストカードの箱だよ。2500枚くらいのポストカードが入っている。お客さんに、2、3枚あげるんだ。ちょっとしたおまけね、だけどよろこぶんだ。

H:さっき、ミスター・トゥトゥスがレジに立っていたところを見ていたんだけど、どのお客さんにも、もれなく、カレンダーやポストカードをあげていました。コロナ関係なく、移り変わりが激しいニューヨークで土産物屋さんを35年続けているのも、ミスター・トゥトゥスのあたたかいホスピタリティがあるからですね。

T:土産物商売を見くびっちゃぁダメだよ! どんなホテルに泊まったとか、なにを食べたとか、飲んだとかは忘れちゃうかもしれないけど、買った土産は忘れないから。土産屋は世界各地と繋がって、その街の評判をばらまいているわけだからね。

H:冷蔵庫に貼ってあるマグネットや鍵についているキーボルダー、小さなお土産が毎日目に入るだけでなんとなく旅行のことを思いだします。ここで急に生々しいことを聞きますが、コロナ期間中、このお店の賃貸料はどうしていたのですか。ここ、マンハッタンの一等地ですよね。

T:ジェフ・ベゾス(ご存知、アマゾン社の取締役会長で実業家)も、この角曲がったところに住んでいるよ。この店の毎月の賃貸料は、7万ドル(約800万円)。そして、30年の賃貸契約を更新したばかり。

H:そ、そんな高額な賃貸料をどうやって…。

T:いい質問だねぇ。この店舗のオーナーは、エンパイア・ステート・ビルディングも管理している大きな会社なんだけど、そのお偉いさんがね、「アルパーは」、アルパーというのは私の名前ね、「アルパーは大丈夫か」と携帯の番号を渡してくれて

(ミスター・トゥトゥス、ここで泣き出してしまう)

「困ったらいつでも電話しなさい」と言ってくれてね…。

H:大家さんがとても親身になってくれたと。家賃や賃貸料の高いニューヨーク、パンデミックを乗りこえたお店の裏に人情のある大家がいたという話をよく聞いたのですが、ここのお店もだったのですね。

T:ニューヨーカーは、いままでもいろんな壁を乗りこえてきた。9.11、ハリケーン・サンディ*、そしてコロナ。でも35年もこのビジネスをやっていると、ニューヨークは粘りづよい街だと言いはる自信があるんだ。未来は明るい、そうだと信じている。

*2012年に発生した大型ハリケーン。大都市であるニューヨークを直撃し、地下鉄等の浸水のほか、​交通機関の麻痺、ビジネス活動の停止を通じて経済・社会活動に影響​があった。

H:コロナから1年と9ヶ月、世界有数の観光都市の土産物屋は元気です。

T:家賃なんて、痛くもかゆくもないよ! We Need to Lift Up。気持ちをあげてがんばらないとね!

Interview with Alper Tutus




取材の際に、ミスター・トゥトゥス特製の『Memories of New York』ニュースレターをもらいました(なぜか2016年-17年度版)。お店がある、フラットアイアン地区や周辺界隈の「いま」「むかし」を写真やイラストともに綴じたもの。ヒープスが来年1月に公式ツイッター(@HEAPSMAG)でおこなう予定のプレゼント企画でも登場するので、ぜひ、ツイッターを確認してね。

Photos by Kuo-Heng Huang
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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