同郷の女性たちを撮る。似たような記憶、感情をつぎ込む時間。東欧カムガールたちのログアウト後の“私”を写した日々

「彼女たちがうれしいと思えばうれしいし、腹立たしいと思えば腹立たしい」
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「小さいころどんな家で育ったとか、近所のあたりをどう行き来していたとか、学校の先生にどう扱われてたとか、好きな芸能人は誰だったとか、将来の夢とか。彼女たちとは一緒に育ったわけじゃないけれど、どれも私と同じだった」

彼女たち、とは、画面越しに性的パフォーマンスをする東欧ウクライナのカムガールだ。

写真家アイラ・ルプは、ウクライナ出身。同郷で同じ世代の女性、同じような景色と経験をもっている。だからこその追憶とエモーショナルな時間のなかで、カムガールたちの姿を捉えた。

「自然と友だちになることが重要だった」

 窓辺に座り街を見下ろす女性、プールに浸かり一服する女性、丘の上で深呼吸する女性。どこか見たことのあるような被写体の佇まい、表情。写真におさまるのは、ウクライナに生きるカムガールたち。

 カムガールとは、ウェブカメラを介して性的パフォーマンスをライブ配信し、視聴者に課金させるウェブカムモデルのこと(したがってカムボーイもいる)。観賞するだけのポルノ動画と違い、アダルトライブチャットでは画面越しの相手とリアルタイムでやりとりが可能。より欲求を満たせるという。 2018年には、カムガールをテーマにしたサイコホラー映画『カムガール』がネットフリックスで日本でも配信されたことから、聞き覚えのある人もいるだろう。昨年はコロナの影響で撮影自粛を余儀なくされたポルノ女優や失業者などの多くがカムガールとなったこともあり、ポルノ産業において急成長を遂げたことも話題になった。

 カムガールの最大のハブの一つが東欧だ。アダルトライブチャット産業のメッカと称されるルーマニアと国境を接するウクライナにも、カムガールは多くいる。

 2019年、ウクライナ人写真家のアイラ・ルプ(31)は、約1年をかけ20代のウクライナ人カムガール6人(ウクライナ系アメリカ人含む)を捉えた写真プロジェクト『オンドリームス・アンドスクリーンズ(On Dreams and Screens)』をおこなった。カムガールを捉えたといっても、視聴者の舐めるような視線や欲求まる出しのコメントに応える艶かしい様子ではなく、“演じていないとき”の彼女たち日常を切り取った。

 カムガールになった理由や仕事への熱量は、各人各様だという。経済的理由からやむをえずはじめた者、「自分の体がどう見られるのかを知りたくて」興味本位ではじめた者。カムガールとしての地位を確立すべく必死に働く者、自信が持てた一方で孤独になりメンタルがズタズタになってしまった者。さまざまな思いからはじめ、さまざまな思いで続ける彼女たちの〈オフラインでのリアルな生活や考え、感情〉を探して。

「同郷で同世代で同じ女性同士。被写体とは友だちになり、近い距離で捉えた」というアイラに、撮影の日々を思い返してもらう。

HEAPS(以下、H):アイラはウクライナ出身で、現在はニューヨーク在住。東欧はカムガールの最大のハブの一つだと聞きました。

Ira Lupu(以下、I):アダルトライブチャットにログインすると、画面の向こう側にはたくさんの東欧の人がいる。その多くがウクライナ人とルーマニア人。「ウクライナといえば、「IT産業・麻薬取引・カムガール」なんて冗談まであるくらい。

H:被写体にカムガールを選んだのも、自然な流れだった?

I:正直、カムガールに関するプロジェクトをするとは思いもしなかった。ある日、友人の紹介で、自身のアルバムジャケット撮影用に写真家を探していたアーティストと出会った。彼女はカムガールでもあったの。それが被写体の一人、マリーナ。

H:マリーナは、カムガールとアーティストの二足の草鞋を履いていたんですね。

I:セックスワーカーとして働くことってどこの国でも難しいことで、ましてやアダルトライブチャットが違法で、保守的な価値観を持つウクライナでは特に。決して胸を張れる仕事ではないけど、マリーナは「カムガールで有名になる」と野心に燃えていた。そんな彼女の率直でオープンな性格に興味が湧いたのがきっかけで、プロジェクトを開始したんだ。

H:マリーナは、カムガールであることに肯定的で、意欲的な姿勢だったんだ。

I:彼女が制作したアルバムのなかにもカムガールとしての体験を反映した曲がいくつかあってね。印象的な歌詞といえば「I’m a camgirl, so what?(私はカムガール。だから、なに?)」。広告業界を目指したり医学生をしていたりと、さまざまな夢を抱えながら副業としてカムガールをしている子は多いけど、マリーナのように本業として真剣に取り組む子もいる。

H:マリーナとの出会いのあと、他の5人のカムガールとはどうやって知り合ったんでしょう。

I:休暇でウクライナに戻ったとき、友人たちにプロジェクトの話をすると「いい子知ってるよ」「あの子ならよろこんで参加すると思う」と、次々とカムガールを紹介してくれた。こちらから声を掛けずとも、知り合いづたいに自然とどんどん繋がっていったんだ。

H:6人のカムガールのなかには、直接の知り合いや、知り合いの知り合い、共通の友だちがいるなど、個人的に繋がりがある子っていました?

I:カムガールのなかには首都キエフ出身の子もいれば、私と同じオデッサ出身の子もいた。直接の知り合いはいなかったけど、アーティストコミュニティに共通の知人がいる子もいた。

H:どこの国でも、カムガールをする理由には、経済的な必要性やポルノ業界への興味なんかがあると思う。ウクライナの女性たちがカムガールをする理由も、同じ?

I:お金を稼ぐためにする子もいるし、自分の体がどう見られるのか知りたく興味本位でする子もいる。でも大半の理由は、やはりお金。視聴者のほとんどは欧米人で、顧客の8割が中年かそれより少し上の金銭的に余裕のある層だから。

H:はい。

I:マリーナの家族は貧しくて、家にシャワーがなかったせいで学校で笑われていた。アダルトライブチャットは、そんな彼女が初めてお小遣いを稼ぐことができた手段だった。おかげでダンス教室用の衣装を買えたし、いまではジムにもセラピーにも通えるほど金銭的余裕ができた。彼女は「もうやりたくないけど、(他で)お金を稼ぐことは簡単じゃないから」と、いまもカムガールを続けている。

H:ウクライナは家父長制が根強く残る国です。決して女性が働きやすい環境ではないのかと察します。

I:ウクライナはフェミニズムとはほど遠い国。女性の賃金は安いしフレキシブルな仕事も少ない。昨年のウクライナ女性の最低月収は、約300ドル(約3万円)。これはカムガールが一生懸命働けば1日で稼げる額。そういった面では、自宅で好きな時間に働けて、自分の頑張り次第で稼げるカムガールの仕事にはポジティブな要素がたくさんあると思う。

H:ウクライナには、カムガールが配信をおこなうための専門スタジオもあると聞きました。

I: なかには18歳未満の女の子が働く違法な地下スタジオもある。他にもカムガールには報酬の3割しか渡さず7割を取っていくスタジオや、「辞めたらヌード写真を家族や大学に送る」と脅すスタジオもある。実際に私の被写体の1人が自身のヌード写真を父親宛に送りつけられて、トラウマを抱えてしまった。
こうした悲惨な経験がある一方で、ポジティブな経験もある。別の被写体ターシャは、仕事が大好きでスターに登り詰め「カムガールの仕事以外になにをすればいいかわからない」と言い切る。だから一口にカムガールといっても、それぞれのストーリーは複雑なんだよね。

H:カムガールたちは、顧客である視聴者に対してどんな思いで向かい合っているのでしょうか。

I:アダルトライブチャットは、視聴者との繋がりとコミュニケーション能力が重要になる。カメラの前で美しく振舞ったりクレイジーなことができても、関係を築けなければ顧客は獲得できない。

ダーシャというカムガールは「画面越しの誰かに感情を抱いているふりをしなければならないことが、私は嫌い」と、顧客に愛着がないから関係を維持することは難しい。でも、たとえばターシャは彼氏がいても顧客を気にかけマメに連絡を取っている。アレックスは、彼氏に暴力を振るわれていたとき、顧客が親身になって寄り添ってくれたらしい。スクリーン越しでの顧客との関係には、こうした奇妙さとやさしさが混ざっている。

H:アイラがレンズ越しに見た、カムガールたちのオンラインとオフラインでの違いはありました?

I:6人全員のカムガール姿は見ていないけど、ターシャの場合、オンラインでの人格とオフラインでの人格はそれほど変わらない。彼女は常に情熱的でセクシーだから。でももちろん、みんながそうではない。

H:ウェブカム業界で働くということは、トラウマや精神的苦痛を抱えることもあると思う。彼女たちが抱える悩みとはどんなものでした?

I:被写体のなかでも特にオープンな子がいた。彼女はカムガールとしてのインスタグラムアカウントを持っているし、誰もが彼女のことを知っている。「顧客のことは友だちだと思ってる」とさえ言う。でも「現実世界で顧客にばったり会ってしまうという悪夢を見る」ともこぼしていた。

H:アイラが撮影したなかで、一番の思い入れのある写真を教えてください。

I:緑色の散らかった部屋で撮った、マリーナの写真。化粧は完璧で配信準備は万端なのに、視線や表情はどこか悲しげで、彼女の繊細な性格と感情的な部分をよく捉えていると思う。


マリーナ

H:心ここに在らずな雰囲気が伝わってくる1枚です。個人的に惹かれたのが「ANALOG GIRL IN A DIGITAL WORLD」とのタトゥーが彫ってある肌の写真。なにかの理由のために、不慣れなカムガールになったのかな、なんて想像してしまう。

I:そのタトゥーの子が、ターシャ。これはエリカ・バドゥの曲の歌詞で、撮影の数日前に彫ったんだって。彼女は、カムガールのライブ配信中の姿を撮らせてくれた子でもある。

H:撮影場所は自宅だったり自然のなかだったりしますが、被写体と話して決めた?

I:マリーナの場合、仕事で多くの時間を費やしていた自宅で撮影した。アニャの場合、幼少期を過ごした山で。当時の思い出が蘇ったとリラックスした様子になっていて、撮影にもってこいの場所だった。 ダーシャの場合、撮影日が1日しかなかったから、彼女が行きたいと懇願したオデッサの廃墟と化した療養所へ。こんな感じで会話や状況によりけりだったけど、ほとんどの場合は本人の意思で決め、自然の流れに任せた撮影だった。


アニャ

H:被写体の思い入れのある場所や生活の一部に一緒に同行して写真を撮るという行為に、彼女たちとの距離の近さが見える。同郷の同じ世代の女性同士だったからこその距離感というのはあった?

I:私は彼女たちより少し年上だし、まったくの同じ地元だとも限らないけど、同じ文化的な体験は共有していた。ソ連崩壊後の東欧の生活体験というか。彼女たちとは一緒に育ったわけじゃないけれど、小さいころどんな家で育ったとか、近所のあたりをどう行き来していたとか、学校の先生にどう扱われてたとか、好きな芸能人は誰だったとか、将来の夢とか、同じことが多かった。

H:共通した時代や文化の空気感を理解できるという感じでしょうか。実際に、行きつけの場所や趣味など、同じような体験をしている子もいましたか。

I:同じカフェや同じレイブパーティーに行ったことがあったりした。それに私たちはみな、同じような誤ちもたくさん犯した。そしてそれ以上に、ウクライナ人女性であるということを共通して体験している。

H:彼女たちとはどう交流を深め、どう過ごしたんだろう。

I:自然と友だちになることが重要だったんだと思う。とても長い時間を一緒に過ごしたから。典型的なドキュメンタリー・ジャーナリズムって「会って、しばらくの間だけ一緒に過ごし、写真を撮って終わり」でしょ。そのアプローチでは入り込めない瞬間を捉えることができた。実際、プロジェクトを通して、週に一度は連絡を取り合う仲になったし、私の誕生日には祝ってくれた。彼女たちのプライベートや抱えている問題を知ったからには「仕事上の被写体」と思えることはできなくて。

H:撮り手として、線引きをしたところなどはありましたか。

I:私にとって一番の懸念は、彼女たちのプライバシー。視聴者のなかには、カムガールのプライベートを詮索したがる人がいるから、いつも最初に「この写真はいつか世に公開するかもしれない」と話し、1枚撮るたびにその場で確認した。彼女たちがプロジェクトでどう取り上げられたいかに、常に注意を払う。本人が写真の使用を許可してくれたとしても、私が「この子は準備ができていないな、完全には理解していないな」と判断した場合は、どんなに美しい写真でも使用しない。

H:脆くて危うい人間の感情と正直に向き合ったうえでの、最大限の視覚表現。

I:これまで、ドキュメンタリー写真家たちが被写体に対して卑劣な扱いをしているのを見たことがあったんだ。私は絶対にそういうことをしたくない。彼女たちと時間を過ごしたのも、たんに写真が撮りたかったからではなく、純粋に彼女たちと時間を共有したかったから。彼女たちは、私のこういう思いを知ってくれていたんだと思う。だからこそ私たちは「モデルと傍観者」の関係を超えることができたんじゃないかな。 正直、このプロジェクトにこれほど“emotional investment(感情的な没入)”が必要になるとは思ってもなかった。

H:感情をつぎ込む、か。

I:このプロジェクトは、シャッターを押すだけのものではない。カムガールたちと時間を過ごし、どの写真をどこに公開するかまでのプロセス全体に対して、彼女たちの気持ちを気にかけることでもあった。いち人間としても、いち写真家としても、バランスを取ることが重要で…、なにかプロジェクトのなかで彼女たちがうれしいと思えばうれしいし、腹立たしいと思えば腹立たしい。とてもセンシティブなことなんだ。

Interview with Ira Lupu

Photos by Ira Lupu
Text by Yu Takamichi and HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine
The project has been supported by Tbilisi Photography and Multimedia Museum and Prince Claus Fund grant program

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