「たくさんの神話が存在しているところは好き」ヒンドゥー教の今日のリアル

宗教と信仰と、思うことだったり気持ちだったり。
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インドを代表する世界都市で、政治経済の中心地ニューデリーに住む女の子、シュレヤ・カツリ(Shreya Katuri)。マッチ箱(はい、あのマッチ箱です)が大好きな彼女は、「マッチ箱専門家」として、世界中のマッチ箱をもう10年近く収集している。曰く、そのアートやデザインに国民性や文化が表れていて、おもしろいんだって。たとえば母国であるインドのマッチ箱には、ブランドのロゴ、流行りの俳優の写真載っていたり、宗教的なシンボルが描かれていたりする。

シュレヤはヒンドゥー教徒だ。インドを中心に世界の10億人以上に信仰されている同教は、世界5大宗教のなかでもちょっと謎めいている。「牛を神聖なものとして崇拝する」というルールを耳にしたことがある人も多いんじゃないかと思う。ほかに戒律として、

・1日3回お祈りする
・罪を清める行為として、ガンジス川で沐浴する
・輪廻転生の思想から、牛以外の動物も殺してはいけない
・特定の宗教の祝日には、断食をおこなう
・自分と違うカースト(社会身分制度)の人と一緒に食事をしてはいけない

などなど。シュレヤによれば、ヒンドゥー教は「インドにとって大きな役割を果たしている。マッチ箱からもその匂いがする」らしい。趣味とも、生活ともヒンドゥー教と繋がっている彼女に、ヒンドゥー教徒としての日常から、宗教との向き合い方までメールでいろいろ聞いてみた。一つひとつに丁寧に答えてくれて、ありがとうね。

(取材は2020年。当時コロナ禍、いっときぐっとやることが減った編集部は、社会の根本的な価値観が変わりゆく予感のなかで宗教の現在地についての探究を進めていました。寝かせすぎていたまぼろしの宗教特集…を公開中)

——「熱心なヒンドゥー教徒の子も、ヒンドゥー教から仏教に改宗した子も、神さまを信じないって子もいる」マッチ箱専門家/ヒンドゥー教徒、シュレヤ

HEAPS(以下、H):国民の79.5パーセントがヒンドゥー教徒だというインドで暮らしていますね。ヒンドゥー教徒になる道は、選ばずとも?

Shreya(以下、S):ヒンドゥー教の家庭に生まれて。そのまま、ヒンドゥー教徒としての道を歩んでるって感じ。

H:やっぱり、ヒンドゥー教の家庭に生まれたら、ヒンドゥー教徒になるのことが多いのか。

S:多くの場合、ヒンドゥー教の家に生まれたら、ヒンドゥー教を信じることが多い。けど最近ではインドでも宗教や信条に対してオープンになってきつつあるから、違う宗教や信条を捜し求める人も増えている。無神論者だっているよ。

H:インドの宗教に対する考え方、時代とともにゆるくなっているとも聞きます。

S:私も正直、ヒンドゥー教の戒律を厳しく守るタイプっていうよりは、もう少し自由に信仰している、という感じ。

H:へえー。じゃあたとえば「寺院への参拝」とかは?

S:子どものころはよく連れていかれたけど、いまではめったに行かないかな。行くときがあるとするのならば、お祭りがあるときか、家族で行くときぐらい。

H:食の戒律についてはどうだろう。牛は神聖なものと捉えられているから、牛肉は食べてはいけないっていう戒律がある。

S:いや、食べたことあるよ。でも、味自体があんまり好きじゃないから、好き好んで食べない。

H:え!!

S:私の家族はみんな信仰深いヒンドゥー教徒なんだけど、(宗教的なルールを)私に強制したことはないの。だから食にしても、「なにを食べるか」はいつも私が選べた。

H:家庭ごとにかなり変わりそうですね。ヒンドゥー教で制定された祝日には断食しないといけない、と聞いたんだけど、これは?

S:戒律にしたがって断食する人はもちろんいる。あと、願掛けのために断食する人もいるよ。まあ、でも実際に断食するかどうかは個人の選択次第。私は断食もしないなあ。

H:ちょっと日本の自分の家族、親族を思い出しました。お正月やお盆にはお寺やお墓参りにいくけど、それ以外のときは特に意識しない、みたいな。罪を洗い流す行為としての“ガンジス川で沐浴”って、いまも日常的にする人が多いですか。

S:私はやらないんだ。小さいころに一度やったことがあるらしいけど。みんなが知っている通り、男性も女性も一緒に沐浴するんだよ。あ、でも、男女でわかれて対岸でする場合もあるけど。年齢制限はなし。子どもは保護者つきで。ガンジス川は、沐浴スポットとして一番人気で旅行者の団体もよく来るスポットだけど、ガンジス川以外の川でも体を清める聖水はある。

H:ちなみにガンジス川の水質汚染がすすんでいることは、他国でも報じられているよ。

S:ガンジス川のことを気にかけてくれてありがとう。そうね、どんどん汚くなっていく一方で。インド政府には、解決につながる措置をとってもらいたい。

H:ところでさ、「マッチ箱専門家」でもあるらしいね、IGみたけどさ。マッチ箱のラベルアートから、インドの歴史を分析しているっておもしろいねえ。

S:“専門家”って呼んでくれてうれしい!2013年に、大学の授業の一環で「インドのマッチ箱について」の論文を書いたの。それをきっかけに、マッチ箱の虜になった。

マッチ箱のラベルアートには、国民性やジェンダー、宗教など、さまざまな社会的な視点が潜んでいておもしろい。国によって全然違うよね。インドのマッチ箱には、宗教的なアイコンや国内のブランドのロゴが描かれていたり、流行りのインド人俳優の写真が載ってたり。自国のカルチャーのシンボルがラベルになっている。私のインスタにいくと、いろんなマッチ箱の写真があるよ。

H:世界遺産にもなっているタージマハルや、歴史上の人物、お祭り「チャリオット」などの宗教的なシンボルときて、サッカー界の花形選手バイチュン・ブティア!すごい、幅広い。。

S:小さなアートだけど、いろんなストーリーが詰まってるのよー。インドのマッチボックスの、あのなんともいえない色味と風変わりなフォント。大好き。

H:マッチ箱専門家は職業のかたわら?

S:うん、趣味の一環。平日は「Linkedin(リンクトイン)」で働いてる会社員。

H:休みの日はなにしてる?

S:出かけることが多い。友だちとカフェでコーヒー飲みながらだべったり。同世代はみんなそんな感じだよ。

H:友だちには、ヒンドゥー教徒も多い?

S:仲がいい子たちにはヒンドゥー教徒が多いかも。インドでも地域によって、キリスト教徒が多いところもあるし、イスラム教やシク教が多いところもある。インドにはとっても幅広い宗教があるから。私の周りにも、いろんな宗教を持った人々がいるんだけど、それっていいことだと思う。

H:うまく共存している?

S:人づきあいの基盤が宗教っていう人がいるのも事実だけど、私は宗教によって接する人を選んだりは決してしない。どの宗教を信じていたって、平等に扱われるべきであって。

H:うん。

S:どんな宗教を信じるかって個人の自由だと思う。だから、たとえ人が自分と違う宗教を信仰していたとしても、それに対して敬意を払えない、なんてていうのはダメ。どの宗教を信じていてもリスペクトしないとね。

H:オープンな宗教観だ。まわりでもそういう友だちがやっぱり多いの?

S:統計的なところはわからないけど、自分の信仰について一度立ち止まって考えてみたり、なにか答えを探している人もいる印象。私の周りでも、ヒンドゥー教から仏教に改宗した友だちもいるしね。神さまを信じないって子もいるし、熱心なヒンドゥー教徒もいる。

H:インド=ヒンドゥー教徒の国ではないね。

S:インド人に対するステレオタイプって、いまだに多くあるよね。
牛肉を食べない人たち、とか。特定のファッションや話し方とか。時は2020年! インドだって進化して発展している。

H:ちなみにヒンドゥー教の好きなところって、ある?

S:たくさんの神話が存在しているところ。

H:神話ってあの破壊の神「シヴァ」や商売の神といわれる「ガネーシャ(象の顔を持つ神)」など、インドの有名な神々のお話だよね。

S:そう。インドにはたくさんの神が存在するから、神の数だけお話がある。だから、インド神話を読みはじめたらキリがない!ネバーエンディング。

H:神話、さっと調べてみただけでも、おもしろそうなのがいくつか(笑)

【ガネーシャの誕生秘話】破壊の神シヴァとその妻パールヴァティーの息子、ガネーシャ。実は夫妻から生まれたのではなく、パールヴァティーが自分の垢(←!?)から作り出した。ある日、家に帰ったシヴァだが、この息子が誰だかわからず、すったもんだの喧嘩になり、首を切り落とす。自分の垢(←!?)で作った息子が夫の手で殺されてしまったことを知りパールヴァティーは嘆く。シヴァ、解決策として、手に入った象の頭を取りつけた。
【シヴァ、カーリーの下敷きになる】パールヴァティーの化身である、恐ろしい神カーリー。血に飢えた争い好きの彼女は、殺戮に成功すると勝利に酔い、踊る。踊りが激しすぎて世界が壊れそうだったため、夫のシヴァはこりゃいかんと、カーリーの足元に自分の身を投げうって、クッション役に。

けっこう、ハチャメチャなんですね(笑)。ちなみに神様はどれくらいいるのだろうか。

S:3,300万以上いるといわれている。

H:!!!

S:ヒンドゥーは多神教だから地域によって、人気の神さまが違うんだ。私の住むニューデリーの有名な神は、ガネーシャ、シヴァ、ラーマ(インドの叙事詩『ラーマーヤナ』の主人公、薔薇色の瞳を持つ英雄)、シーター(ラーマ王子のお妃さま)、クリシュナ(ヴィシュヌの化身で、ハンサムで有名)とかかな。

H:濃いキャラだらけ。

S:宗教はインド文化の大きな役割を果たしているといえると思う。宗教は体に染みついている。学校のカリキュラムも教科書も、宗教に基づいているところがあるし。
カースト制度も日常で見受けられる。下層階級の職業についている者を見下す傾向はあるよ、悲しいけど本当のところ。あとは、特定の年齢を過ぎる前に「女性は結婚するべき」みたいな考えもすごく残っている。これは、ヒンドゥー教徒やインドだけの話じゃなくて、アジアの国々にあると思うけど。

H:「ヒンドゥー教徒でいること」「宗教をもつこと」って、どんな意味がありますかね。

S:宗教をもつことは、いいことでもあるけど、慣習や信条などをよくよく見てみると、男尊女卑な考えや精神性がずいぶん残ってる。こんなこともきちんと気づいていけたらなって思うよ。

Interview with Shreya Katuri

Images via Shreya Katuri
Text by HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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