コーヒー産業における最も大きな環境問題といえば「使い捨てカップ」。たった一回、たった数十分使用しただけで捨てるなんて「資源の無駄遣い!」と、マイカップ、マイタンブラーを持つ人たちが増えている印象だった。だが、実際のところ、日常的にドリンクをテイクアウトしている人たちの中で「マイタンブラーを持参している人は全体の2パーセントにすぎない」。その問題に対し、新たなコーヒーカップ対策が生まれている。その名もカップクラブ(Cup Club)、これ、シティバイクのコーヒーカップ版と注目を集めている。そのアイデア、一体どんなものなのか。
マイタンブラー生活、忙しい現代人にはハードルが高かったか?
Photo by Honey Fangs
マイタンブラーを使ってエコ生活をはじめるには、まず「マイタンブラー」を手に入れる必要があるが、これは難なくクリアできるだろう。問題は、それを毎日持ち歩く習慣をつけること。
「日常的にコーヒーをテイクアウトしている人の中で、マイカップを持参している人は全体の2パーセントにすぎない」。英国のスタートアップ「カップクラブ(Cup Club)」の創始者サフィア氏はそう話す。マイタンブラーブームなるものは起こったものの“マイタンブラーを使ってエコ生活”を実践できている人は、現時点ではほんの一握りということだ。
私もかれこれ2年ほど実践しているが、物忘れが激しいこともあり、週に一度は持っていくのを忘れる(財布、携帯、家の鍵、その3つがあるかを確認するので精一杯だったり)。そして、「持ち歩く」というのが若干面倒なのだ。自宅から数ブロック先のカフェに行って帰るだけなら問題ない。だが、朝カフェでテイクアウトして出かけ、そのまま夜まで外出する日に、飲み終わって空になったタンブラーを一日中持ち歩くというのは、正直、億劫。バッグの中のスペースを食うのも喜ばしくない。
そんな自分の経験からいっても「マイタンブラーを持ち歩く」のを習慣にするのは、言うは易く行うは難しだと感じている。
タンブラーを持っていても実践できているのがコーヒー人口のたった2パーセントという事実からみても、「マイタンブラーを持ち歩く」というのは現代人のライフスタイルにあっていないのかもしれない。そこでサフィア氏は考えた。リユーズできるテイクアウトカップも「シティバイクのように、好きなところで借りて、好きなところで乗り捨てできればいいのでは」と。
リユースできるテイクアウトカップをみんなでシェア。「シティバイクのコーヒーカップ版」
出典:Cup Club Official Website
「シティバイクのコーヒーカップ版」といわれる「カップクラブ(Cup Club)は、使い捨てカップの代わりに、リユースできるテイクアウト用カップをみんな(有料会員制)でシェアするサービスだ。目的はゴミの削減。そのサービスの最大の特徴は、シティバイクのように好きな場所で借りて、好きな場所に乗り捨てならぬ、“飲み捨て”ができること。つまり、飲み終わったカップを持ち歩かなくてすむ。
街の様々なところにカップクラブ専用の回収ボックスを設置することで「会員は飲み終わったら好きな場所にポイっと返却すればよいだけ」。あとは、回収係がカップを回収し、洗って、提携するカフェやレストランに戻すという循環システムだ。これを「専用アプリと連動させて、GPSによる位置確認やモバイル決済システムを用いながら、各店舗の専用カップのストック数などを管理できたら」と話す。
カップクラブが提携するカフェでドリンクをオーダーすると「カップクラブにしますか、それとも紙のカップにしますか」とバリスタに聞かれ、カップクラブを選択すると、環境負荷の少ない植物繊維由来のカップで飲み物が提供される。リユース可能な専用カップの見た目はご覧の通り、通常の使い捨てカップと変わらない。現在、木質繊維「セルロースファイバー」や、様々なバイオプラスチックを試している最中だ。
コーヒーのテイクアウト率が最も高い国、日本?
Photo by Gary Chan
コーヒー産業における「使い捨てカップ問題」。北米では約500億個、これまでコーヒーよりもお茶を飲む習慣が根づいていた英国でも年間約25億個ものカップが使い捨てされ、ほとんどはリサイクルされることなく、廃棄されているという。
とはいえ、『リサイクル』と書かれたゴミ箱に分別して捨てているので、そこまで大きな環境負荷にはなっていないのではないか—。
「多くの消費者はそう思っているでしょう。ですが、実際リサイクルされているのは、そのほんの一部だけ。400個に1個程度なのです」。
市場に出まわっている多くの紙カップは、水が漏れないように内側にプラスチック樹脂のポリエチレンという素材が薄くラミネート加工されており、このポリエチレンと紙をわけなければリサイクルすることができない。「それ自体は可能ですが、コストと時間がかかるため、ほとんどはリサイクルされることなくゴミ捨て場へと運ばれている」という。また、「ほとんど紙でできているんだからすぐに分解されるでしょ? と思われていますが、実際は2、30年はかかります」と、この問題の深刻さを訴える。
ただ、こういった「実はリサイクルされてない」という事実は、昨日今日暴かれたものではない。以前から問題視されてきたことで、「使い捨てカップの代わりに、マイタンブラー」もその解決策の一つだった。だが、これがいまいち浸透していないのがいい例で、いくら環境負荷になるから(使い捨てカップの使用を)やめようといっても、便利さに慣れた現代人の生活習慣を、より手間のかかる方に変えるのは容易ではない。
エコと便利さを両立する「カップクラブ」のカップシェアリングという構想。シティバイクのように、利用者が増えれば増えるほど、貸し出し自転車の数(専用カップの数)とポート数(回収ボックスの数)が増え、より便利になり、さらに利用者が増え…それが環境保全に繋がるという好循環を築けるか。まずはロンドン市内の大学やオフィス内で実験し、来年1月より、サービス開始予定だ。
ちなみに、コーヒーのテイクアウト率が最も高い国は、、米国(45%)ではなく、日本(48%)だそうだ(CREST2016年調査)。理由は「忙しさ」と「ライフスタイルの欧米化」だとか。後者においては本家の欧米を抜いてしまっているというのがなんとも…。欧米が使い捨てカップから卒業しかけた頃に、日本も卒業に向けて動きはじめるのだろうか?
TIMO
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine