オランダ、ユトレヒトにある「Central Museum Utrecht(ユトレヒト中央博物館)」は、1830年に市営の博物館として会館し、修道院を改築したその歴史を感じる外観が目を惹く。別館では、ユトレヒト出身の「ミッフィー」の作者ディック・ブルーナの絵本やグラフィックも展示されている。今回紹介するのは、本館の方で開催されている『The botanical revolution』。気候危機の時代、人間と自然との関係性に緊張感が漂うなか、その関係を根本的に見直そうとするアーティストの作品が集う。
本展のタイトル「botanical revolution(植物革命)」は、オランダの詩人、ヘーリット・コムレイが1990年におこなった「庭の概念と精神性や知的な論争における変化の近しい関係性」についての講演に由来。本展の参加アーティストがテーマとしているのは、人々に最も近い自然である「庭」。何世紀にもわたり多くの芸術家や作家、詩人、哲学者たちにより描写され、描かれ、定義されてきた庭から、人と自然との関係性を探る。
1970年代にすでに人間が自然にあたえる災厄に警鐘を鳴らしていた現代美術家、工藤哲巳(てつみ)の『Grafted Garden』は、プラスチックの花や植物をアルミニウムの幹に接ぎ木した廃プラスチックの庭によって、この暗い時代に希望の光をあたえる。オランダの写真家ヘンク・ヴィルスフートによる作品『Za’atari camp, Jordan, April, 2018.』には、家を失い難民キャンプにたどり着いた人たちがパーム油の空き缶で作った即席の庭が写されており、厳しい環境下でも庭に癒しを求めている様子がうかがえる。庭を持つことは富と特権の象徴とされる南アフリカ出身のアーティスト、ルンギスワ・グクンタは、芝生をガラスの破片でできた危険な風景として表現し、憩いの場としての庭とのコントラストを形成する。他にも、ヴァン・ゴッホなど著名な画家から現代アーティストの作品まで、さまざまな視点から表現される庭がユトレヒトに広がる。
アダムとイブが住んでいたとされる「エデンの園」から始まり、庭は、楽園として、憩いの場として、人々の一番近い場所に存在してきた。また誰でも簡単に自分自身を表現できるキャンバスのような存在でもある。自分の実家や、ご近所さんの家の庭はどうだろうか。ちょっと覗いてみたくなる。
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Text by Ayumi Sugiura
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