スイスの古都ルツェルンは、山と川に囲まれた水の都。街には壁画や彫像が点在し、多くの芸術家から愛される。そんな美しい街にあるのがルツェルン美術館。ガラス張りの総合文化センター「ルツェルン・カルチャー・コングレスセンター」の上階にあり、風景画や1960年以降のモダンアートを中心に常設展示をおこなっている。今回紹介するのは、現在開催中の『Alles echt!』。ドイツ語で「すべて本物」の意だが、そのタイトルとは裏腹に、展示されるのは「すべて複製品」という皮肉。芸術の世界における「複製・模倣」をテーマにした展覧会だ。
複製や模倣というと、贋作や偽物を連想させるようであまり聞こえはよくないが、アートの歴史のなかでは古くから一つのテーマとして扱われている。古代から現代まで、アートは作品のお手本の連鎖だ。モダニズム以降、そして現代美術の先駆けマルセル・デュシャンがR・ムット氏という偽名で既製品の便器に署名を入れ、それを作品にしてしまったという時点から、アートにおける複製、模倣は大きな議題だ。ちなみに贋作とは、模倣した原作者の既存の作品を原作者の名前で世に出してしまうという“詐欺行為”が絡んだ作品のこと。既存の作品を模倣した作成者が自身の名前で発表すれば、それは“模倣品”となり、贋作とは一線を画す。
同展に並ぶのは、フランス人画家ルイス・べロードが描いたレオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』の複製品や、スイス人アーティストのニルス・ノバが撮ったアンディ・ウォーホルの肖像写真を模倣した作品、スイスのコンセプチュアルアーティスト、ウルス・リュティが描いた、ポップアートの代表画家ロイ・リキテンスタインの絵など。
「複製品を堂々と美術館に並べてもいいの?」と驚いてしまうが、一般的に著作権の保護期間は原作者の死後70年間。それ以降の複製は合法とされる。そのため1503年に描かれた『モナ・リザ』は案の定、世界中の画家がこぞって複製。最も複製された作品といわれ、先述のべロードももれなくそのうちの一人。「無名の作家の本物より、レオナルド・ダ・ヴィンチの複製作品を手に入れたい」という富裕層のアートコレクターのために、いまも世には傑作作品の複製品が日々生まれている。
開催期間は11月22日まで。
ProLitteris, Zürich
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Text by Rin Takagi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine