5日後。3月18日に初配信したベルリンのデジタルクラブ〈United We Stream〉脅威からシーンを守る迅速な動き、当事者の考えと思いは?

「Enter the biggest Club in the 🌍(🌍で一番大きなクラブへようこそ)」
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たった5日間。今年3月、パンデミックによってクラブが一斉閉鎖を余儀なくされてから、ベルリンのあるクラブ団体が世界最大の〈デジタルクラブ〉を作るまでに要した時間だ。
クラブカルチャーに支えられてきた街で、常日頃の強固なシーンの連帯ゆえに実現した数日間の裏を当事者に話を聞きながら振り返る。

世界トップレベルのクラブシーンを発信しつづけた、デジタルクラブ

 コロナウイルスのパンデミックによる打撃を直に食らったシーンの一つが、世界のクラブシーンだ。無数の人が1つのフロアに近距離で接するクラブは感染拡大の温床とみなされ、今年3月にはことごとく閉鎖。その状況下ではシーンを守るための動きが次々と起こった。たとえば、エレクトロニックミュージックを扱う音楽メディア「レジテントアドバイザー」がイニシアチブをとってはじまったキャンペーン「Save Our Scene」。日本でも、ライブハウスやクラブシーン、劇場など、営業停止となった文化施設に対する国による助成金を求めるネット上の署名活動「Save Our Space」が発足した。
 自力の対応に注目が集まったのがベルリンのシーンだ。3月13日のクラブ閉鎖を受け、「United We Stream Berlin(ユナイテッド・ウィー・ストリーム・ベルリン、以下UWS)」を立ち上げて3月18日には配信を開始。現地時間の夜7時から深夜0時まで、毎晩ベルリン各地にあるクラブからDJセットや、ライブミュージック・パフォーマンスをストリーミングで無料配信(アーティストのギャラはクラブが負担)。また音楽だけでなく、パネルディスカッションやプレゼンテーションなどもストリーミングする。クラブシーンが存続するための活動資金をオーディエンスからも募っている(うち8パーセントは難民支援団体など非営利組織に寄付されるという)。

 5日間で大勢を巻き込み、クラブシーンの存続にすばやい動きを見せたUWS。元来クラブシーンが盛んなことから団結力の高さが予想されるベルリンのクラブシーンだが、いかにして実現にいたったのか。デジタルクラブは、今後のクラブシーンを守るためにどう重要なのか。世界トップのクラブシーンを救うために立ち上がったデジタルクラブの、短くも濃いストーリーに迫るため、UWSを立ち上げた2つの中心団体を取材。ベルリンにあるクラブの8割〜9割を統率する「クラブコミッション・ベルリン」の代表ルッツ・レイクセンリング氏と、クラブシーンと政治にまつわる活動をおこなうアクティビスト集団「リクレイム・クラブ・カルチャー」の代表ローザ・レイヴ氏、双方に話を聞いてみた。

*6月には、メルケル政権1300億ユーロ(約16兆円)の景気対策にクラブに対する支援を含めることを明言した。
*法的に文化施設として認められていないクラブが多いことで政府の支援からこぼれるクラブが多いこと、今後も観光客数はすぐには回復しないことなど、依然としてベルリンのクラブシーンも厳しい状況に置かれている。

HEAPS(以下、H):クラブコミッションには、ベルリンにある250のクラブが所属しています。これは、ベルリンにあるほとんどのクラブに相当する数。歴史ある団体なのですね。

Clubcommission Berlin(以下、C):始まってもう20年だね。

H:ベルリン中のクラブが閉鎖してからまもなくしてUWSをスタートしたと聞きました。何日間かかったんですか?

C:5日間だよ。3月13日にクラブが閉鎖されて、18日に最初のストリームを開始したんだ。

H:とても早い。いかにして?

C:クラブコミッションという組織が、すでに存在していたというのはやはり大きいね。

H:先ほども創立から20年と言っていましたが、どんな団体なんでしょう?

C:ベルリンのクラブオーナーやプロモーターたちなどで構成された250以上のメンバーがいるんだ。クラブカルチャーを促進することが目的で、メンバーたちが(行政などの)決定権のある権力者たちとも街におけるクラブシーンについてディスカッションができるような支援もおこなっている。クラブカルチャーに関するキャンペーンやセミナー、ワークショップのような教育活動もおこなっている。

H:なるほど、すでにクラブシーンで強固な繋がりがあったからこその動きだった。

C:参加するアーティストやクラブからの大きな信頼を、過去20年かけて作ってきたからね。いまこの瞬間に作り出されたものじゃない。それにクラブシーンをまとめる団体としてコロナ危機への対策任務があったから、ベルリンで最初の感染者が出る前には動いていた。クラブコミッションは組織化された団体だから、ウェブサイトを設立したりテレビ局と共同で働くのは簡単なことだったと思う。

H:UWSのオンラインプラットフォームの製作にあたって、独仏共同出資のテレビ局「アルテ」やドイツの映像制作会社が技術を提供してくれたそうですね。UWSの立ち上がりの際には、関係者がワッツアップ(コミュニケーションアプリ)で20のチャットグループを作り、個別にやりとりしていたと聞きました。

C:その通り、みんなが持っているツール(ワッツアップ)を使うようにしたんだ、すぐにはじめられるから。ワッツアップを通して簡単に人と人を繋げた。グループごとに「一般的な(コロナ関連の)ニュースや新聞の記事」「政府による対策の最新情報」「寄付について」「ソーシャルメディアキャンペーン」といった異なる話題で会話していた。もちろんワッツアップ以外にも、ビデオ通話やEメールなどでもたくさんコミュニケーションを取っていたけど。



H:初日からいままで、どうでした?

C:すべてを説明できるかわからないのだけど…でも、結果を見てよ!数週間で2,500万人以上がプロジェクトに参加してくれた。いま(5月下旬)は45以上の都市が関わっている。ただただ大きくなっていて、みんなプロジェクトの一部になりたいと思ってくれている。クラブカルチャーを作ることで世界的に団結して、一緒に動くことができるんだよ。

H:発足から数ヶ月、パリやテヘラン、モスクワ、バンコクなど世界各地のクラブからストリーミングがおこなわれている。

C:そう。だからこのサイトを“ユナイテッド”と名づけたんだ。この危機的状況のなかで反発し合うことなく、一丸となることは大切だから。だから僕たちにとって、寄付によって(クラブ関係者のために)基金を集める活動も理にかなっていた。同時に、空っぽになったクラブのフロアから音楽を届けることはとてもユニークなことで、ラジオで経験できるようなことではないと思ったんだ。多くの人がクラブへ行けないなか、若い人たちや社会にクラブカルチャーを伝えることは大切だと思った。

H:ベルリンのクラブシーンを守るため、クラブコミッション以外にも立ち上がった団体はあるのでしょうか。

C:ベルリンのなかでももっとローカルに根ざした団体や政治的な組織はあるよ。でも、クラブコミッションはそういったすべてが1つになった、唯一の組織だと思う。世界的に見てもね。ここまで大きな組織は他にはない。

H:ターゲットである若いオーディエンス(視聴者)の反響はどうですか?

C:ポジティブな反応をたくさんもらっているし、「隔離のなかでもハッピーな気分になった」というコメントもある。たくさんの人たちが“一人パーティー”をしたり、スカイプやズーム電話を使ってたのしんでいるね。

H:コロナ発生前は、ライブストリーミングをすることは考えていなかったと思うのですが。

C:ノーノー!もちろんノー。ライブストリーミングはクラブカルチャーではないからね。正直言うと、ライブストリーミングは“テレビ製作”みたいな感じ。(ストリーミングを通して実際に)クラブナイトを体験できるわけではない。音楽を聴いてアーティストを視聴する、というものであって、(ダンスフロアでの)リアルな体験ではない。これは“ショー”なんだよ。

H:画面越しにオーディエンスが鑑賞するということ。

C:クラブカルチャーの根本は、人々を一つの場所に集めてアートやライブ音楽をたのしむこと。狭い場所で多くの人と近い距離で接することがつきもの。ウイルス拡大下では、物理的距離やルールなしにおこなうことは不可能だから、結果的に、クラブカルチャーの不自然な形しか残らないと思う。



H:あくまでも、実際に集まることのできない状況で一番クラブを楽しめる方法がUWSというわけか。さて、立ち上げにあたっては、ベルリンの団体リクレイム・クラブ・カルチャー(以下、リクレイム)と提携しています。リクレイムは普段どんなことをしている団体なんでしょう。

C:基本的には政治的なキャンペーンをやっている。クラブカルチャーと右翼政治の関係性や、音楽業界における女性やジェンダーの平等性に関する啓蒙活動など、さまざま。クラブコミッションには選挙で選ばれたメンバーが構成する理事会があるけど、リクレイムにはそういうのはない。もう少し、ゆるいネットワーク。でも、抗議運動をおこなったりして多くの人を動かすことのできる、とてもパワフルな組織だよ。

(Reclaim Club Cultureのローザ・レイブ氏も取材に参加)

Reclaim Club Culture(以下、R):コロナの前は、ベルリンのクラブカルチャーに関するイベントやキャンペーン、たとえば「クラブシーンの性差別についてのワークショップ」を開いたりしていました。ほかの都市のイニシアチブと活動もしたり。ここ数年は、アンチファシズムのデモに参加するため、クラブシーンの結束を固めていました。

H:UWSでは、どんな役割を果たしているんですか。

R:コロナ発生前から、ベルリンにあるクラブのなかには、地上げなどで長いあいだ存続の危機にさられているところもあります。それらのクラブを守るためのキャンペーンを平行してやっていました。あと、UWSの寄付金の一部が、難民救済のために送られることも、とても大切なことだと思います。

H:クラブシーンを救う運動が、政治的、社会的活動にも繋がっているんですね。

Rたとえば、もし家賃が上がってクラブが失われつつあったら。それは政治が私たちのシーンを侵略することになります。たとえば、もし右翼の団体が私たちの居場所やコミュニティを攻撃したら、政治が私たちの居場所を侵略することになります。

H:UWSは、コロナからクラブシーンを守るだけではなく、元からあった政治的、社会的、経済的な脅威からクラブシーンを守る動きも見せているのですね。政治といえば、ドイツではいち早くフリーランサーや芸術家、個人業者を支援するため助成金を提供する救済パッケージを導入しました。

C僕たちは政府と繋がっていてとても良い関係を築いているから、しっかり会話の機会を設けられるのは強みだと思う。いまの時期は、もちろんみんなが苦しんでいるときだから、僕たち(クラブシーン)だけに目を向けることはできないけど、僕たちになにが必要かなどの意見を聞いてきてくれる。


H:文化、特にクリエイティブシーンの価値を認識して支えてくれる政府っていいですね。

R:ベルリンの経済において、クラブがビッグプレイヤーであることは地方自治体の関心事ですからね。コロナを切り抜けたあと、利益至上主義な社会のシステムのなかでどう(クラブシーンが)生き抜いていくのかという問題が残ると思います。政治的、経済的な問題について継続的に議論するため、UWSとしてオンライン上のプラットフォーム「ユナイテッド・ウィー・トーク」を開始しました。サービスを売ったり利益を上げることよりも、人やコミュニティと繋がるより良い方法が必要だと思いますから。

C:こういったディベートは、僕たちがやりたかったことなんだ。今回の危機が社会にどう影響しているかについて話し合う機会を持つのは、興味深い。

H:UWSの参加DJにはサリー・Cやマーク・デパルスなど、いまのドイツのクラブシーンを引っ張るDJがいますが、実際ベルリンの音楽業界にいるフリーランスのミュージシャンやDJは、この状況でどう影響を受けているのでしょうか。

R:UWSのネットワーク内でもすごく悪戦苦闘している人をたくさん知っています。単発の“ギグ”をやって生きている彼らのような人たちにとって、この状況は経済的にも心理学的にも、容易なことではありません。似たような状況がバースタッフやプロデューサー、オーガナイザーのようなクラブカルチャーで働く人たちにもある。UWSはストリーミングでプレイできるDJやミュージシャンに、この状況のなかでもパフォーマンスをするチャンスをあたえていると思います。オーディエンスを増やすことは、ミュージシャンにとって大切なことの1つ。ミュージシャンはオーディエンスとともに成長しますから。特にテクノコミュニティは人とのやり取りがあるから生きられる。これは、DJの個人的な成長のために必要なコミュニケーションであるともいえます。

H:テクノコミュニティといったら、やはりベルリンが誇るべき文化シーン。

Rベルリンの壁が建てられたとき、さまざまな感覚が交わるなかで、クリエイティブな人々によってたくさんのスペースが作られた。この流れは、未だによく感じる。世界中から多くのわくわくするプロジェクトや人々がここ(ベルリン)に移ってきて、過去30年のなかで唯一無二のシーンの一部になった。私たちが生成してきた重要な音楽文化やコミュニティは救うのに値するものだと思います。

H:UWS発足後、世界各地では「セーブ・アワー・シーン」や「セーブ・アワー・スペース」などクラブシーンを守る動きが見受けられました。直接的ではなくとも、クラブシーン大国ベルリンのすばやい動きが世界をインスパイアした気がします。

C:ベルリンのクラブシーンは、ほかの国や都市ともよく繋がっているんだ。僕自身、昨年日本の観光協会で勉強したし、ニューヨークではナイトライフ課理事のもとで勉強したんだよ。クラブカルチャーは国際的に繋がっているものだと思うし、多くのアーティストは世界中を飛び回っている。世界のクラブ、ライブ会場にある問題はお互い似ているものなんだ。

H:コロナが徐々に明けてきたいまも、定期的にストリーミングをおこなっています。募金も続行中。

R:ベルリンだけで50万ユーロ(約6,020万円)以上の基金を集めました。正直、クラブを救うための十分な額にはほど遠い。しかしそれ以上にUWSは、多くのクラブやアーティストたちがクラブが閉鎖されている期間、自分の存在を見せる機会をあたえた。もちろん、どんなクラブイベントだって、ストリーミングに取って代わられるものではないし、そうなるべきではない。でもクラブシーンが(多くの人に)見てもらえる機会がないと感じたときに、シーンの表現のため大きなチャンネルを作るのは大きな安堵でした。集まった寄付金、そしてこれまでの3,000万人という数の視聴者が(クラブの)居場所を守ることに関心を示していることは、とても意味のあることだと思います。

H:クラブシーンなど文化的なコミュニティが普段から大きな規模で結束を強くすれば、予想だにしない危機が起きたときも、その文化を守る体制が整えられているということを、UWSの活動を通して学びました。

C:僕たちはさまざまなアーティストにリーチできる繋がりがあるから、これからももっとグローバルに、そして有名なアーティストも巻き込みながら成長していけると思う。そしてUWSというプラットフォームを使って、クラブカルチャーについての認識を醸成することができる。いま、文化的になにかを作っていくのはとても難しい時期であるけど、個人みんなや社会がUWSの活動をサポートしてくれること、それが重要なことだと思う。

Interview with Lutz Leichsenring of Clubcommission Berlin and Rosa Rave of Reclaim Club Culture

All images via United We Stream
Text by Aya Sakai
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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