「“メディアが報道しないかもしれないこと”を伝えないと」日本育ちの黒人の私が届けたい、目の前にあるBLMと人種問題

みんなが一番近づきやすい“黒人のリジーちゃん”として。私が伝えることを、身近に感じてほしい。
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黒人は差別されるもの、それが普通になっているのね。でもそれは「普通」じゃないの。普通じゃないし、私たちもただおんなじ、まったくおんなじ人間なのに、ただ肌の色が違うだけで、なんでこんな違う対応されなきゃいけないの、なんで命を失わないといけないの、なんで怖がられなきゃいけないの、って思うわけね。

「日本人のみんなに知って欲しい黒人差別について」。同タイトルでインスタグラムに投稿した動画は、200万回以上再生された。今年6月初頭のこと。白人警官によるジョージ・フロイド氏殺害事件が起き、ブラック・ライブス・マター(Black Lives Matter, BLM)の運動が拡大しはじめて間もない頃だ。動画のなかで涙ながらに冒頭の言葉を発するのは、Lizzy(リジー)。日本人の母親とナイジェリア人の父親をもつ日本生まれ日本育ちの22歳だ。高校卒業まで東京で暮らし、3年前に父の住んでいるニューヨークへ妹と移住、現在は現地の大学に通っている。


リジー。

ジョージ・フロイド氏殺害事件:

5月25日、米国ミネソタ州のミネアポリスで、ジョージ・フロイド(George Floyd)氏が4人の警察官に取り押さえられて命を絶たれた。白人警官の膝で首を抑えつけられたフロイド氏は、約9分間、「I Can’t Breath(息ができない)」「Mama(ママ)」を繰り返した。

一人の市民がその現場をビデオに撮ってSNSに投稿。それによって瞬く間に全世界の知るところなり、事件の同日にはBlack Lives Matter(ブラック・ライブス・マター、BLM)の抗議運動がはじまる。これまでに警察暴力で命を落としてきた黒人たちの名前も挙げられ、米国に敷かれてきた特権と搾取の構造への抗議運動へと展開。BLMは、人種と人権問題への抗議として、かつてない勢いと規模で全米、世界に広がっている。

Black Lives Matter(ブラック・ライブス・マター):

2012年、フロリダ州で黒人少年トレイボン・マーティンが白人警官に射殺された事件に対し、SNS上で#BlackLivesMatterというハッシュタグが拡散されたことに端を発する。その後、全米各地でおこっている警官による黒人への暴力に抗議するスローガンとして使用されている。
平和的な抗議が原則だが、街や公共物に火を放つ者や店に押し入る略奪と暴動など人種の別なく抗議活動の拡大に乗じた違法行為も多い。催涙ガスやゴム弾でそうした無法者も平和的な抗議者もジャーナリストも一緒くたに力で圧する警察の姿は連日報道されている。そうした報道の陰裏には、抗議や暴動などに巻き込まれて命を落とした一般市民もいる。報道される群衆の歩く道には、粛粛と生活を送る人たちがいるということを、見落としそうになる。

運動拡大から1ヶ月、そして2ヶ月が経ち、BLMは少しずつではあるが、各地でさまざまな変化をもたらしている。ジョージ・フロイド事件のあったミネアポリスでは、警察組織の解体、コミュニティ主導の組織の再建を発表。ニューヨークでも市警の21年度の予算も削減し、教育や社会保障へ充てると発表された。
全米各地で、植民地主義の歴史を讃える銅像は次々に倒され、黒人差別や奴隷の歴史を示唆する製品のロゴは改訂。企業やブランドは、いままで以上に人種やアイデンティティの平等に留意し、テレビアニメのキャラクターと声優の人種を同じにすることが提唱されるなど、エンタメ界でも動きがある。

リジーは、日本人と黒人のハーフとして日本で経験してきたことや、自身のアイデンティティの観点からの意見、またニューヨークで連日起こる黒人差別反対デモの様子などを、インスタグラムやユーチューブで積極的に発信。「まだ黒人差別が他人事だと思ってる人へ」「黒人差別の歴史を学ぼう!」「警察官が黒人を殺しても許される理由」「白人の特権とみんなの特権」といったトピックを、親しみやすい口調、わかりやすい説明で日本のネットユーザーに話しかけている。

各地のデモもやや落ち着きを見せてきた6月末。ヒープスはニューヨークの公園で、リジーと落ちあうことにした。最近のBLMの活動やデモの様子、動画制作で気をつけていること、なぜ日本の人たちにも届けたいのか、何を伝えたいのか、これからどう活動すべきかなど、彼女がいま思い感じ取っているBLMのリアリティを、夏の芝生のうえでじっくりと聞いた。


※※※

「みんなが一番近づきやすい“黒人のリジーちゃん”の話として、身近に感じて」

HEAPS(以下、H):BLMのデモが各地で始まって1ヶ月半になります。最近、なにか変化はありますか?

Lizzy(以下、リジー):デモの参加者はずーっと減りました。最近、コロナの自主隔離期間が終わって、お店もたくさん開いて働く人が増えてきたので。やっぱり、コロナの時がだったからこその団結力だったというか、みんな時間があってデモに行けたのです。とはいっても、「あ、参加者少ないな」とか「今日、デモ行くのやめようかな」とかは言わないし、ならない。「少ないけど、やろうね」という感じでみんなで歩く。いいなぁと思いますね。

H:デモの様子が変わる。するとまわりの反応も変わってきましたか?

L:少人数のデモ隊が交通の流れを止めて渋滞を作るので、ドライバーたちもイライラしはじめて、行進に向かって追突してくる車もありました。みんなで「きゃーっ」と言いながら避けつつ行進を続ける場面もあった。少数でも大多数に負けない熱はあるのですが、一方で社会からのプレッシャーは感じます。

H:リジーさんは、どういうきっかけでBLMの活動に関わるようになったのですか?

L:私、もともと「Black Lives Matter」という言葉を全然知らなかったんです。でも、その“状況”のことは知っていました。黒人たちが置かれた状況。それを知ってほしくって、日本で受けてきた差別の話を、2、3年前からユーチューブで話してみたりしてたんです。だから、自分としては今回のことでいきなり動いたというよりは「私、ずっと、言ってたんだよねー」という感じです。


H:そもそも黒人差別のことは、リジーさんのなかでの大きな関心であったわけだ。

L:そう。でも世間は見てくれなかったし、動画が少しバズったとしても、ほーんの少数のちっちゃいところで、でした。「なんで今回、黒人たちがこんなに動きはじめたんだ?」という質問に対しては「いや、黒人はいままでもずーっと訴えていたんだけど、まわりが耳を傾けてくれなかったのよ」って答えます。

H:いまにはじまったことではないと。

L:だから、今回いきなり「BLM」とみんなが叫び始めたときに、いま声に出せば、みんながもっと聞いてくれるんじゃないかと思ったの。みんなが一番センシティブになっているいまこそ、人種問題について耳を傾けてくれるときじゃないかなって。でもユーチューブではじめるほどのことじゃないかな、まずはインスタのみんなに軽くでも知ってもらえたらいいな、そう思って投稿した動画がすごく広がった。「あ、いまだ」と感じました。この波に乗ってめちゃくちゃ言えば、たぶんどんどん広がってくれるかもしれないって。

H:初めてBLMについて話した動画は、200万回再生された。コメントも1000以上寄せられて。すごい反響でした。

L:うん。サポートしてくれる人たちの数が段違いだった。やっぱ、日本のみんなも(BLMの問題について)ちょこっとなにかを感じていた、というか「なんなんだろう?」って感じていたからこそ、動画がもっと考えるきっかけになったような気がする。

H:この反響には、自分でも驚いた?

L:驚きました。日本の有名な人たちがたくさんシェアしてくれたんですけど、「まさか」でした。普通、渡辺直美さんみたいな方にDMで「シェアしてください」と言っても、してくれるはずないじゃないですか? それが影響力のある著名人の目にもとまってシェアしてくれたので、一気にフォロワーが増えました。みんな、「なんの話だろう」「聞きたい」と、私の声に耳を傾けてくれる人が集まってくれたんです。

H:まるで流行にのるように見事に反応が反応を呼んで、どんどん広がった。

L:そうそうそう。「流行じゃない?」ってよく言われるけど、その流行もあったからこそ、いまこのムーブメントも大きくなっていると思うの。たんなる流行とは違うというのも明白になっていると思う。SNSがあるからこその「波」という点も大事。広がり方が全然違う。

H:リジーさんの動画では、黒人差別の歴史や警察の権力、特権など難しいセンシティブなトピックでも、親しみやすい話し方で視聴者に明瞭に響くのかなあと思います。動画を制作する際に気をつけていることはありますか?

L:やっぱ、日本語の表現には気を使います。ほんの少しの言葉にも突っかかってくる人がいるのはわかっているし、それぐらい敏感なんだと思います。だからこそ、知らない人からいきなり「みなさん! 聞いてください」と言われても、そんなに心を開いて聞きませんよね。だからこそ(小さな声で)「こんにちわー」って謙虚な姿勢で切り出さないとダメ。

H:あの謙虚さは、きちんと考えたうえなのか。

L:「ヘイター(誹謗中傷を繰り返す人)」を作りたくないんです。日本社会の環境がヘイターを作りやすいとわかっているからこそ、「私は攻撃するつもりはありません」という意思を見せないと絶対にメッセージは伝わらないです。そして、アメリカの現実が日本にすぐ伝わらないのもわかっている、知っている、という姿勢を示すことも大切。「わかります、私もそこ(日本)で生まれ育った、あなたたちと同じ場所に居ました」という態度が、大事なんだだと思います。私自身すごく頑固なところがあって他人の話をいきなり素直に聞くようなタイプの人間じゃないから、余計に「いきなり言われても聞けない」のも理解できる。だから、どうやったらみんなにオフェンシブ(攻撃的)だと思われずに話を聞いてもらえるかを考えています。オフェンシブになったら絶対に伝わらない。発信の一語一句に慎重になっているわけではないけど、読み手や聞き手に対して攻撃的にならないように、気をつけています。

H:わかりやすく、なおかつ、正しい情報を伝えるために、リサーチなど準備もしっかり?

L:リサーチ、めっちゃしていますよ(笑)。一回目、二回目の動画を投稿してから視聴者が増えたから、少しプレッシャーも感じているし。いまみんな聞く耳を持っているから、ちょっとでも間違えたことを言ったら、みんな間違ったまま捉えてしまう。SNSってすごい難しいし誤解を招きやすい場所だと思うので。

H:普段やっている準備、どんなことを?

L:自分で話したいなと思ったことをノートに書く。たとえば、「“priviledge(プリビレッジ)”について話そうよ」と日本人に言っても、「なにプリビレッジって?」となる。「特権のことだよ」って言っても「特権って?」となる。そこを掘り下げなきゃいけないところからはじまるんです。なのでまずは、地元の日本人の知り合いに「これってこういうふうに言っていいと思う?」と意見を聞く。あとは同じトピックを話している別の人の動画を観て、「この人の言い方ムカつくな」とか「いいな」と参考にする。自分の動画を撮る前は、すごい考えます。

H:デモの動画一つとっても、水を配っている看護師のボランティアをドキュメントしたり、デモ=攻撃的ではない、平和的な側面も見せようとしている。日本では、暴動や警察による抑制など、BLMの過激な部分がより多く報道・拡散されていましたが。

L:リアルを見てほしいんです。みんな「暴動」のことしか見ていないところもある。暴動は最初の1週間ちょっとで終わったのに、私たちが続けているプロテストのことを暴動だと思っている。暴動は終わり、いま私たちがどういうことをしているか伝えているのに、昔のことばかり見てしまう。

H:だからこそ、BLMの違う側面を伝えたいということ。

L:目の前で起こっていること、既存メディアが「まさかこんなこと伝えなくていいだろう」と思っていることをいちいち伝えないと、リアルが伝わらない。ニュースでは、「デモで看護師たちが水を配ってます」ということは報道されない。報道されないから、デモ自体の雰囲気が伝わっていないんです。暴動の動画もいろいろあるのに、一番やばい動画が報道される。白人が暴動に参加している映像が流れないから、暴動しているのは黒人だけだと思っている人がいる。デモは平和ですよ、と伝えるにも「看護師さんが水を配っているくらい平和だよ」「子どもが来ているくらい平和だよ」という当然なことも教えていかないと伝わらない。みんなが一番近づきやすい“黒人のリジーちゃん”として私が伝えることを、身近に感じてほしい。

「『黒人差別はダメ!それ以外の何物でもない』という、◯と╳がしっかりある話」

H:話は少し変わりますが、リジーさん自身は日本の生活で、肌の色の違いで差別を受けたことがありますか?

L:えー? なんだろう…。バイトを探すときかなぁ。日本では外国人が働いていること自体がけっこうレアなことですよね。フツーじゃない。私が仕事を探している時も電話で名前を名乗った瞬間に、音がカタカナだから、「んっ? 純日本人じゃないかも」と思われている。そこで相手は「あ、わかりました」って、以後もう連絡は来ませんよ。「えーっ! なにも見てないじゃん!」って感じですよね。直接お店に顔を出して「バイトありますか?」って訪ねたときはまたひどくて、私の顔を見るや「いま、募集してません!」ですよ。明らかに私を見た目だけで評価して、自分たちの世界に入れないようにしている。
なかには、親切心からか「本当のことを言ってしまうと、もしかしたらお客さまを怖がらせてしまうようなことがあるかもしれないから、今回は申し訳ないんですけど…」みたいな説明をつける人もいて。これはやさしーく(差別を)やられている感じがしましたね。でも私も「そうですよねぇ。わかりました」って返事しちゃって。そういう卑屈な自分がまた辛かったです。

H:どうあがいても取れない、改善されない、社会に染みついた人種差別感情は日本にもある。

L:はい。ティーンエージャーのころは、自分が黒人であることが嫌で嫌で仕方なくて、差別を受けるたびにお母さんに泣きながら訴えていました。「なんで黒人の人と結婚したの? 私がいま、辛い目にあってるじゃん」て。するとお母さんも申し訳ない気持ちになってしまって…。これ、おかしいじゃないですか?

H:おかしいですよね…。今回のBLMに関して、リジーさんがいま伝えようとしている日本人がもつ人種差別への意識について、どんなことを感じますか。

L:日本以外の国の人たちを見ると、BLMにすぐさま反応して、感じたままを口にしている。日本人のなかには「ふーん、私たちには関係ない。でも、ある気もする。とりあえず、喋らないでおこう」みたいな人がとても多い気がして。


H:なかなか伝わらない、あるいは素直に納得できない人もいるのでは?

L:うん。最近あげた動画に関しても、すっごーい「ダメだこりゃ」という考えの人がいた。「いま、あなたが言っていることはこうだけど、実際はこうですよ」と教えようとしているのだけど、根本的に難しい感じの人で…。

H:具体的に教えてくれますか?

L:その人から来たメッセージを読みますね。

「白人の差別を許さないという姿勢を示すのはもちろんだが、黒人側も偏見を持たれるだけの犯罪行為や怠惰な生き方をして来てしまったことを自覚すべき。黒人も黒人に対して間違っている部分を指摘しなければならない。日本人がすべきことは、全人類は平等であるということを訴えるぐらいだと思う」「黒人がコロナでアジア人を理由なく差別したり暴力をふるってきたことも事実」

そう言われて、「うーーーん」「うーーーん」「そっかーーー」ですよ(笑)

H:反論しましたか?

L:反論というか、私の返信はこうです。

「全人類の平等はもちろんです。でも、黒人以外の人種の人は、イメージを勝手に持たれて、警察に殺されたり、政府から他の人種の人と同じような金銭的な手当てをしてもらえない、ってことはないと思います。その状況の中で、黒人のように不公平に扱われていない日本人が、『罪もないのにどこかで殺されるかもしれない』と毎日怯えなくてもいい日本人が『全人類の平等』というのは少し違うのではないかと思います」

H:相手もすかさず返してくる?

L:会話の“ラリー”がすごくて、3日ぐらい前から今日まで延々と続いています。私もなんか「(この人)ダメだなー」って思うんです。サポーターからは「そんな気にしなくてもいいよ」という助言もありましたが、いまこそ「気にしなくてはいけない」でしょ? この人が「ウゼー」って思っても、そう思っている最中に「あ、そうだったんだ」と気づかせたい。本当の情報が少しでも彼の頭に入って彼自身が変われるのであれば、言うべきだと思うんです。私、別に間違ったことを言っているわけではないし、「合っている」と信じて本当のことを伝えなきゃという気持ちは強いんです。

H:このやり取りはインスタ上でフォロワー全員に公開されているわけですね?

L:しっかり「公開」です。やり取りで、私もだんだんイラっとしてきているのをみんなが見ていて、「リジーちゃん、少し口調がきつくなってるよぉ」みたいな忠告をしてくれる人もいて、私も「気をつけまーす!」って。でも、私がいら立つ理由もわかってほしい。さっきのメッセージで「黒人は怠惰な生き方をしてきた〜」と言うときに、その言葉を向けている相手が黒人の私であるってこと、わかっているのかなあ。こうレスしました。

「私は日本でも差別されて来ました。もしもあなたの前を私が歩いたら、『偏見を持たれるだけの犯罪行為や怠惰な生き方をしている黒人』と思われてしまうのでしょうか?」

これだけ言っても、頑として学ぼうとしないんですね。人種差別に対する問題意識がない。ちょっと難しいなと感じながらもどうやったら伝えられるかなと考えています。「俺はこう思う、私はこう思う」じゃなくて、「黒人差別はダメ! それ以外の何物でもない」という、◯と╳がしっかりある話なのだから。

H:一方、最近では、人種やアイデンティティに関して意識がきちんとある若い世代は日本でも増えていると思います。それはリジーさんのまわりを見ても感じますか?

L:はい、すごく増えていると感じます。もともと「肌の色でそういうこと(差別)するのはおかしいと思っていました」という人もすごくたくさんいる。そのこと自体を発信する場所がなかったり、「まさかわざわざ『どの人種も肌の色も平等だと思います』と言わなくてもいいでしょ」という感じだったのかな、これまでは。

「3、4ヶ月後にBLMって言って、みんな立ち上がってくれるのかな?」

H:現在、アメリカでのBLM運動は、黒人以外の人種でも急速に拡大しています(取材は6月末)。ニューヨークの場合、白人の多い富裕層エリアでも抗議集会やデモが毎晩のように繰り返されていますね。間違いや無知を認め、制度に内包された差別主義を撤廃しようと叫んでいる。

L:(意識の高い)白人もたくさんいます。ところが「まわりに説得できる?」と聞くと「うーーん」と黙ってしまう人も大勢いるんです。「私は白人、でも理解しているよ。だから、ちゃんとデモにも参加するし、発言してみんなをサポートする」という彼ら彼女らに、私は敢えてこう質問するんです。

「じゃあ、あなたの友だちに頑固な白人至上主義者がいたとして、その人とあなたは本気で闘えますか?」

すると「うーーん」と言葉に詰まる人がまだいっぱいいます。そこにこの運動が、真の意味で拡がらない理由があると思う。

H:自分の問題意識としてなんとか学習して消化しているものの、他人と共有できない。

L:他人だけでなく、自分の親とさえ共有できない場合が多い。「お父さんたち、なにか古い偏見を持っている」って子どもは気づいている。いま、この時代に生きているから、わかるし気づく。ところが、親に対面してそれはなかなか言えない。「お父さん、厳しいからなあ」「お父さん、私が言ってもどうせわかってくれないだろうな」「お父さん、黒人はダメな人間、ってずっと言っていたからな」って考えが、立ちはだかる。

H:家族間でも、というかだからこそ。

L:「ねえ、お父さん、知ってる? 何で黒人がダメ人間なのか。何でそう言われているのか」ってお父さんに言える? と聞かれたら、私もやっぱ「いやぁああ…」みたいな感じに絶対なる。でも、問題は「そこ」なんですよね。

H:感覚が似ている同世代より、親といえど違う世代の人に伝えるのは難しい。

L:同様に、日本の人たちに伝えるのも難しいです。いま日本にも、BLMをサポートして声をあげてくれている人たちがたくさんいますが、彼らもやっぱり説得の問題で悩んでいて。どんなに周りの人に話しても「あぁ、ねぇ」みたいな感じで流れちゃう。周りが聞いてくれないことに対して、「そっかー」ってめげちゃう。まあ、そうですよねぇ。「だからぁ! ねぇ! 聞いてよ!」なんて強く出ると、絶対「ウザっ!」って思われるし。でも、それがバリアになっていて、そのせいで意識が変わろうとしない。
それに、個人的な体験なんかが入っていることがある。たとえば「だって俺、この前、竹下通り歩いていたら、黒人が怒鳴っているのを聞いたよ。めちゃ怖かったよ! なのに、黒人は怖くないって言うの?」とか「私も竹下通りで黒人たちがニセ物を売っているのを見ました。だから『そんな(犯罪者の)イメージを持つな』と言われても難しいです」とよく言われる。確かに悪いことをしている人もいる。ただ、そのスキンカラーと犯罪をイコールで結んではいけないんですよ。

H:まさにそのイコール感覚が、アメリカ合衆国で400年以上続いていて、いま一番焦点になっている問題ですよね。

L:そう。悪いことをする黒人は大勢いるし、彼らのことを特別に擁護するつもりは全然ない。だけど、その人たちと「色」とを繋げないでください。肌の色が黒いからという理由で、犯罪者扱いしないでほしい。おそらく無意識かもしれないけど、このイメージの連鎖はなんとかして断ち切らないといけないと思います。難しいんだけどね。

H:これからも、インスタやユーチューブなどを通して、活動をするつもり?

L:そうですね。試行錯誤しながら、です。どうやったらみんなの興味を引きつけておけるか? どうやって、みんなが学習する場を作ろうか? それをすごく考えます。1ヶ月前といまでは、サポートしてくれる人たちの顔ぶれもガラっと変わっている。当初は「リジーの話を、聞きたい聞きたい」って、ワーッと波のように押し寄せてきた。「とりあえず聞いてみようか」という人も含めて、1万人ぐらいいたかな。いま、熱心に話を聞く人は4000人程度です。

H:減ってしまいましたね。

L:「やっぱ減っちゃったか…」と思っている。だからこそ、これ以上減らしてしまったら、また変わんなくなっちゃうと思う。プレッシャーとはいわないけど、レスポンシビリティ(責任)は感じますね。せっかく、いまなら変えられるかもしれないのに。日本もすごく変わってきたし。でもなんか、「そこなんだよなー」っていうのがありますね。

H:どういうこと?

L:一番大事なことって「継続」なんです。自分でも「どうしよう?」っていま考えているところです。たぶんアメリカの黒人たちも「やったー! みんなが興味もってくれた!」と思ったけれど、3ヶ月後、4ヶ月後にBLMって言ってみんなが立ち上がってくれるのかなあ? と心配だと思います。正直、次第に薄くなっていく感じも見えているから。

H:それでも、リジーさんは“いま”を伝えつづけるしかない?

L:そう。リアルを伝えればいいかなと思っています。なにかにこだわるより、いまなにが起こっているかを正確に伝えたい。日本の人がその情報を知るだけでも、なにか変わるんじゃないかと思っています。

Interview with Lizzy

エノバハレ・リジー/Lizzy Enobakhare

東京生まれ。小中高と、東京で学生生活を過ごす。18歳の時に日本からニューヨークへ大学進学のため移住。現在は、マンハッタンにある大学に通いながら、モデルやユーチューバーとして活動。自身のインスタグラムでは、BLM以外にも、日本で目にするステレオタイプや、政治、環境問題、ファッションについて、日本語と英語で世界に発信している。

Instagram @cocoalizzy

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Photos by Kohei Kawashima
Text by Hideo Nakamura
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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