世界各地から何万人もがオンラインでプレイし、トーナメントバトルを繰り広げたeスポーツ…×〈数学〉。「私たちのゲームを通して、世界中の何万も生徒が、“オンラインでの数学大会”に勤んでいますよ」。
「教室で5分。遊び感覚で」eスポーツのように数学を学ぶ
エレクトロニック・スポーツ、通称「eスポーツ」市場の拡大が止まらない。eスポーツとは、コンピュータゲームやビデオゲームなどの対戦をスポーツ競技として捉えるもので、世界各地で大会が開催されている。世界中の何千何万何億ものファンがオンラインとオフラインで観戦し、世界での市場売り上げはおよそ978億円。今後オリンピックの種目になるかもしれないとも予想される。
学位として取得できるeスポーツ学科やeスポーツ奨学金を開設する大学も英米に登場。日本でも、小学館の小学生向け漫画雑誌による読者アンケートでは、興味のある職業にeスポーツの大会に選手として出場する「プロゲーマー」が第二位にランクインしていた。eスポーツは世界のZ世代が牽引するシーンだ。
そのeスポーツに、Z世代の教育関連のスタートアップも目をつけた。世界中で成績が下がっているある科目に、eスポーツスタイルを組み合わせて世界各地の生徒を熱くさせている。その科目とは、数学だ。同教科が得意とされていたフランスでも、数学レベルの低下が報告されている。「数学は、学校で習うなかで最も重要なスキルの一つですが、その成績は世界中で下がっています」。が、「いま、私たちのゲームを通して、世界中の何万も生徒が、“オンラインでの数学大会”に勤んでいますよ」。〈eスポーツ〉と〈数学学習〉を掛け合わせたオンラインサービスを提供するのは、エストニアのスタートアップ「99Math(ナインティナイン・マス)」だ。2018年に、当時19歳だったゲーム好きの創始者によって始動。数学を習う学生に向けてeスポーツスタイルの数学ゲームを提供する。対象は、小学校1年生から8年生(日本でいうと、中学2年生くらい)だ。
(出典:99math Official Website)
さて、そのeスポーツスタイルの数学とはいったいどんなゲームなのか。まず参加方法だが、いたってシンプル。スマホかタブレットで、「99Math」のウェブサイトへ。「足し算」や「引き算」などのゲームのコンテンツを選択し、あたえられたゲームコードを入力してゲームに参加。同じコードをエンターしたユーザーたちとともにゲームが開始される。クラス全員で同じゲームをスタートすれば、一斉にプレイすることも可能だ。最終結果として上位3名が表示される。「教室で5分でできる、遊び感覚な数学ゲームです」。ゲーム終了後は、それぞれの成績や進歩状況を分析し、すでに達成できている部分、これから重点をおくべき部分をデータとして教えてくれる。
また「マス・ゲーム・デイズ」というトーナメントも開設。世界中の学生がオンラインを通じて、リアルタイムで数学対戦ができる場だ。学年ごとにレベルがわけられ、各20分のゲームを3つこなす。昨年おこなわれたマス・ゲーム・デイでは、4,402の参加チーム数と2万2,000人以上の参加生徒が、6つのタイムゾーンと23ヶ国を越えて対戦した。
99Mathの発祥地であるエストニアでは、子どもたちの数学の理解力と成績は世界で一番だという。
「数学は、学校で教わることのできる中で最も大事なスキルです」
数学レベルが下がっている理由として、99Mathの創始者はこう話す。「学校での数学の教えられ方がおもしろくないし、Z世代にとってエンゲージしたいと思えるものではないと思います。紙上で繰り返し勉強することは、テクノロジー通な現代の子どもたちにとってはつまらないものでしかない」
この考えこそ、99Mathが目指す「テクノロジーを利用した新時代の“たのしい数学教育”」に繋がっているのだろう。なんなら数学の答えもグーグルで調べれば出る、というようなテクノロジー時代に生まれ育ったZ世代にとって、紙と鉛筆で方程式、機械を使わずに“暗算”というのは、ナンセンスな発想なのかもしれない。
「もし数学が、ゲームのようにおもしろかったら、次世代の子どもたちは、前世代をはるかに超えるパワフルな問題解決能力を得ることができると思います。もっとたくさんのエンジニアや科学者、宇宙飛行士が生まれるかもしれませんね」
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Eyecatch Image by Midori Hongo
Text by Aya Sakai
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine