10年ほど前、ある一本のドキュメンタリー映画が公開され、世界中の心を軽く火傷するほどに熱くさせた。マクドナルドで腹を満たしつづける男を追った『スーパーサイズ・ミー』でも、マイケル・ムーア渾身の『華氏911』でもない。『アンヴィル 夢を諦めきれない男たち』だ。
パンチの効いたデビューから大ヒットを飛ばせずに数十年経つも、メタル一筋人生しか送れないメタル親父バンド「Anvil(アンヴィル)」。映画は、人気を失っても健気な親父たちを包み隠さずに映し、その姿にみな心をヘドバンした。公開からちょうど10年経った今春、“夢を諦めきれない男たち”は、米国ニューヨークのブルックリンにて、小さなライブハウスで50人ほどの観客を前に、頑固にメタルの轟音を鳴らし、観客以上にたのしんでいた(ように見えた)。
時流に乗れないメタルオヤジたちの40年、“譲れないヘビメタ道”
オヤジとロックバンドは、磁石のN極とS極さながらにキュイィィンと惹かれあう運命だ。ロックがオヤジを熱くし、オヤジがロックを熱くする。ロックのなかでも激しく咆哮するのが、ヘビーメタルというジャンル。一度患ったらなかなか手強いメタルという冷めぬ高熱に、40年間ずっとうなされてきたメタルオヤジの兄貴分的存在が「アンヴィル」といえよう。
1978年。イギリスでは、アイアン・メイデンやジューダス・プリーストといったヘビーメタルバンドが活動していた(その少し前には、オジー・オズボーン率いるブラック・サバスが重厚なロックサウンドを轟かせ、ヘビーメタルの原型をつくったともいえるが)。一方、大西洋を隔てた北米では、メタリカ・メガデス・アンスラックス・スレイヤーというスラッシュメタル四天王は、まだ産声すらあげていなかった。そんなメタル興隆前夜に、カナダにひょっこり出現したアンヴィル。まわりの誰よりも早くヘビーメタルをはじめていた。
映画『アンヴィル 夢を諦めきれない男たち』では、ラーズ・ウルリッヒ(メタリカ)やスラッシュ(ガンズ・アンド・ローゼズ)、トム・アラヤ(スレイヤー)など、メタルロックの成功者たちが口を揃えて証言する。「アンヴィルのデビューは衝撃だった」「『俺たちも負けられねぇ』と奮い立たせてくれた」「彼らのライブは圧巻で、ぶっ飛んでいたぜ」。イギリスの高速スピード爆走ロックンロールバンド、モーターヘッドのレミー親分も「アンヴィルの奴らはみんないい奴ら」とたいそう可愛がったそうだ。でも、みんなはこうも思っていた。「アンヴィルはもっとビッグになるべきだった」。
そう。アンヴィルは「メジャーデビュー」や「世界的大ヒット」「空前の大ブレイク」とは皆無のバンドだった。デビュー当時はその早弾きスタイルで衝撃を走らせ、セカンドアルバムの『メタル・オン・メタル』はメタルのお手本というべきアルバムにもなり、後輩メタルバンドに影響をあたえたのは事実。しかしその後、決してスタジアムのアリーナを埋め尽くすような、世界的ビッグバンドにはなれず、うだつが上がらない。
その様子は映画でそのままに描かれているが、音楽活動を続けるため、ボーカル/ギターのリップスは給食配給センターで勤務し、ドラムのロブは建設作業で生計を立てる毎日。アンヴィル黄金期に共演したビッグなミュージシャンに再会するも顔を忘れられていたり、ヨーロッパツアーでは、ライブに遅刻し会場側と揉め、1万人収容の会場で待っていたのはわずか174人の観客。それでもめげずにアルバム作りに励むものの、レコード会社からは突き返され、と散々(ただ、日本ではデビュー当時からの根強いファンが多く、メタルフェス「LOUD PARK 06」では昼の回にも関わらず、満員御礼)。
映画公開からさらに10年経った今年、ブルックリンの外れのライブハウスにいたアンヴィル。年季の入ったメタル親父リップス(63)に、頑固に辿ってきた「譲れないヘビメタ道」を、大真面目に吠えてもらう。
アンヴィルのメンバー。左から、ドラムのロブ、ボーカル/ギターのリップス。ベースのクリス。
HEAPS(以下、H):実は昨年もニューヨークでのライブを見に行ったので1年ぶりです。現在、北米ツアー中、調子はどうですか?
Lips(以下、L):(大きなあくびをする)すまん、すまん、あくびが出てもうた。ツアーは、まあぼちぼちだね。「日本に行くぞ、ウォォォイェェァ!!!」みたいな興奮は、ない。
H:リップスの、“リップ”サービス、ありがとうございます。近いうち、来日する予定は?
L:今年の11月に、東京で2公演するよ(携帯を取り出して、会場の名前を見せてくれた)。
H:アンヴィル、日本に来るぞ、ウォォォイェェァ!!! 今日は、アンヴィルが40年のあいだ頑固に練り進んできたメタル道について聞きます。
L:オーケー。
H:そこ(楽屋のソファの側)に立てかけてあるのは、リップスさんの愛器「フライングV」(ギブソン社の有名なギターモデル)。ギターを弾きはじめたのは…。
L:10歳のガキの頃だ!
H:アコギじゃなくて、エレキ。
L:親父がある日エレキを家に持ち帰ってきた瞬間から、エレキにのめり込んでね。すべてを学びたいと思った。アコギじゃなくて。だから、ボブ・ディランやジョニ・ミッチェルなんかのフォークには興味がさらさらなかった。ローリング・ストーンズやビートルズがやっていたことを、とにかく知りたくてしょうがなかった。それから、彼らのルーツが50年代ロックンロールだと知って。そんな少年時代だった。
H:その頃、まだメタルは…。
L:そんなの、存在しなかった。
H:じゃあ、アンヴィルがメタル創設者のひとり。
L:ははは、まあそんな感じだね。メタル誕生に関わっていたとは思うけど。でも遡れば、メタルを発明したのは、ロックンロールを発明した人たちだ。チャック・ベリー、プレスリー、リトル・リチャード、バディー・ホリー。その後に出てきた、ジミ・ヘンドリックス、ジョニー・ウィンター、テッド・ニュージェント。みんな繋がっているんだよ。
H:そして、次第にアンヴィルにも繋がっていった。メタルの形成にどのように貢献したと思いますか。
L:ギターロック先駆者たちの信者になっただけだよ。ギターを初めて手にした66年以降、ジミヘンやヘビーなハードロックバンドが出てきた。レッド・ツェッペリンに、ブラック・サバス、ディープ・パープル。のちに“ヘビーメタル”と呼ばれる根っことなるバンドだ。彼らの音楽を追っていくなかで、じきに彼らの曲をコピーするだけでは成功しないとわかった。真似ばかりしても意味がない。自分の音のアイデンティティというのかな、“me”を作り上げないと。そんで、ロブ(ドラマー)と出会ったときから、すぐに自分たちの曲を書きはじめたわけ。ジミヘン、ブラック・サバス、ディープ・パープルを俺たちなりに解釈したんだ。
H:先駆のヘビーなロックをアンヴィル風に解釈してみたら、どんな“me”が生まれました?
L:たとえば、バスドラム1つのところを、2つに増やしてツー・バス*にしたり。もっとも、当時はなんの気もなく、自分たち流にただプレイしていただけで。巷でそんな音楽が“ヘビーメタル”と呼バれる前から、俺のバンド、アンヴィルは存在したんだよね。
*バスドラムを2個にセッティング。ハードロックやヘヴィメタルで多々使用され、特に速いテンポのスラッシュメタルに不可欠なスタイル。
リップスさん。
H:あと、アンヴィル風の解釈というところでいうと、みんなを笑顔にする大衆エンタメをステージに取り入れるところかなと思います。ステージ上をメンバーが走りまわったり、“大人のバイブ”を用いたギター芸だったり(笑)。バイブ芸もアンヴィルの発明?
L:あぁ、あれ…。はは。いまだかつて誰もやったことのないことを探していてさ。俺が思うに、人と違う個性や創造性を持たないと、音楽業界で成功することはない。画家だって同じだろう? レンブラントの絵は、誰が見たってレンブラントの絵だ。この前、フィラデルフィアの美術館でゴッホの絵画を見たんだけれど、一瞬でゴッホだとわかる。ゴッホは誰に教わったわけでもなく、誰かのスタイルを真似たわけでもない。作品からアイデンティティを生み出すんだ。
H:初期の頃から唯一無二な存在感を放っていたアンヴィルですが、スラッシュなどのギターヒーローや、メタリカ・メガデス・アンスラックス・スレイヤーの“スラッシュメタル四天王”に影響をあたえた。この偉業についてはどう思っていますか。
L:俺らはみんな、お互いの音楽を聴いてお互いに影響をあたえあったんだよ。
H:じゃあ、アンヴィルが他のメタルバンドにメタルを教えたということではない?
L:俺らの音楽を聴いて、彼らの解釈で俺たちの音楽の要素を取り入れたんだ。その昔、俺たちがブラック・サバスを聴いて、自分たちの音楽に取り入れたように。だから俺たちは、メタリカなどのメタルバンドの一部でもあり、ブラック・サバスやツェッペリンは俺たちの一部でもある。みんな繋がっているってことよ。
H:メタルというジャンルが確立していく最中に、アンヴィルはメタルの連鎖反応を引き起こしたというわけか。そういえば、アンヴィルは84年に西武球場で開催されたフェス「スーパーロック’84イン・ジャパン」で、ボン・ジョヴィやスコーピオンズといった人気バンドと一緒に来日しています。以来、日本のファンはアンヴィルの味方です。最近第三次ブーム中のクイーンもそうですが、海外バンドのなかには日本で大ブレイクするバンドが特定数いるけど、なぜアンヴィルは日本に愛されたのだろう?
L:興味深いことに、ロックミュージシャンにとって日本は特別な領域なんだよね。アンヴィルは独特なバンドだったから、日本で人気が出たんだと思う。日本でウケるためには、頭ひとつ抜きん出た個性派である必要がある。
H:その独特という部分では、リップスさんのそのしゃがれているのに軽快な「声」も一つの要素だと思います。リップスさんは以前ある雑誌のインタビューで「メタルにはいい歌唱力が必要だ。クッキーモンスターのような叫び声は歌声じゃない!」と言っていましたが(クッキーモンスターが叫ぶとは知らなかったぜ)。
L:ああ。他のバンドと差がつくのが、なによりもボーカルの声だ。ブラック・サバスやツェッペリン、ディープ・パープルもみんな特徴的な声のボーカルを擁している。一時期、メタルシーンであるバンドのシンガーが他のバンドで歌うというコラボがあったけど、ヘンテコなことになっていたよね。ボーカルの声には、それぞれに属する“家”(バンド)があるからさ。
H:自分の声については、どう思う?
L:こんな独特の声で生まれたことは、ラッキーだと思うよ。別に、世界一の美声の持ち主ってわけじゃないけど、他のバンドと一線を画す利点にはなる。レミー(モーターヘッドのボーカル。真のダミ声の持ち主で「喫煙はヴォイス・トレーニングの一環」という名言を残した)だって同じ。レミーにしか出せない声があったから、人気が出た。
H:レミーといえば、リップスさんはいつもライブのトークで、彼との思い出話をしますね。モーターヘッドのイギリスツアーで前座バンドとして巡業したときの話。ウォッカをしこたま呑んで、白いお粉をたくさん吸って、24時間分の記憶を失ったまま、翌々日ステージに立つという、まさに(?)メタルライフ。デビューから41年のあいだ、メタルライフは続行中です。
L:いま18枚目のアルバムを制作中だ。
H:メタル人気が下火だった90年代には、多くのメタルバンドが路線変更したりメンバーチェンジをしたり、ときにスローでソフトなサウンドも取り入れ迷走したりもしていましたが。アンヴィルは頑なに明快メタル一本ですね。オルタナティブ/グランジブーム真っ只中の97年には『ABSOLUTELY NO ALTERNATIVE(絶対に、オルタナティブはやらねえ)』とアルバムタイトルで宣言もしていますし。メタル以外の音楽を試したことはないですよね?
L:ないね。興味ない。
H:メタル姿勢でコンスタントにアルバムをリリースしていますが、アンヴィルは何かにつけてレコード会社との運が悪い。
L:なんでかな、まあ音楽ビジネスと馬が合わない。メタルがいよいよ全盛という時期に、アメリカのレコード会社が俺たちの最初のアルバム3枚を無償で譲ってくれればレコード契約するという、トンデモ要求を突きつけてきた。無償だぞ。当然マネージャーが断りを入れると、その後、業界から総スカン。1983年から87年の4年のあいだ、どこのレーベルとも契約を結ぶことができなかった。
H:スラッシュメタルが血の気を盛んにしていたメタル全盛期に…。意地汚い。
L:俺たちはしくじっていない。音楽業界がしくじったんだ。音楽業界は貪欲で自己中心的だ。崩壊している。いまだにね。だから自分で道を切り拓いていかないと。
H:頑固に明快なメタルを続けるため、映画でも描かれているように地元の給食配給センターでパートをしたり…。
L:違う、違う。もうそのパートは辞めた。13年前に。
H:え、もう辞めていた?
L:あの映画のおかげで、バンドの人気が返り咲いたんだ。だから、それ以来、フルタイムでアンヴィル。
H:ウォォォイェェァ!!! 真のサクセスストーリーになったのか…。パートをしながら音楽制作をする当時をいま振り返ってみると、どんな気持ちですか。
L:地獄のようだった。最悪だったね。でも、いいこともあった。最低限の生活はできたし、働いていたことで身体的にも健康を保てた。俺、もう63歳だよ。でも腹も出てないし。
H:メタルヘアも健在。
L:当時は、半日の仕事をこなして、あとは音楽活動の時間に充てていた。生活費を稼ぎながら、音楽も作れるようにして。もともと、音楽活動で稼ごうってのが嫌だったんだよね。音楽活動だけを生きていくための収入源として頼ってしまうと、音楽から芸術の要素がなくなってしまうような気がするんだ。俺は金を作るために芸術作品は作らない。芸術のために芸術作品は作るものだろう? だからいまも、金のために音楽はやっていない。
H:実は、昨年のニューヨーク公演で、ライブ終わりにリップスさんと私、話したんですが…。
L:覚えてるよ。
H:そのとき「アンヴィルは、CD音源よりTシャツの方が売れるバンド。でもTシャツを買ってくれるということはそのバンドが好きだということだから、バンドへの愛は変わらない」と。
L:うん。いまの時代、ネットやストリーミング配信が登場したことで、「CDが売れる」ことへの価値が薄れたよね。事実、リスナーも好きなバンドTシャツを着る方が、ある意味ユニークで個性がある。買ったCDを持ち歩いてみんなに見せびらかさないだろう? バンドのロゴが入っているバンドTシャツは、着ているだけで、自分の個性や性格を主張できる。
H:その理由もあって、私も夏はほぼ毎日バンドTシャツです。昨年観たライブもそうですが、アンヴィルのライブって、底抜けに明るいんですよね。細かいことや気取ったことを忘れて、腹の底から笑えるような。ステージ上のメンバーもフロアの観客も、同じ穴のムジナというか、ライブの時間は、ウルトラマンが地球上で戦える3分間というか。だから、アンヴィルのライブの醍醐味は、リップスのニカっという笑顔もそうだけど、お客さんの笑顔もなんです。
L:(ニカっという笑顔)
H:ヘビメタブームが過ぎたり、歳をとったりして、すでに多くのヘビメタバンドが生き絶えたなか、なぜアンヴィルはレコード業界に冷たくされても、茨の道を歩もうとも、ずっと地道にメタル道を進むことができるんでしょうか。
L:なぜかって、それはメタルが俺ら自身に喜びをあたえる行為だから。I LOVE IT. I LOVE DOING IT. 音楽業界は好きじゃないけど、だからってメタルを演奏することはやめられないだろう。ずっと続けていくのが、俺のスタイルなんだ。一本道しか見えない。メタルバンド以外の何者になろうという願望がないんだ。選択肢というより、それしかない生き方。
H:そこに理由はない?
L:ないね。それは「なぜ俺の鼻はこんな形なんだろう」という問いと同じなんだな。はは。答えは「それが俺自身だから」。俺の正体。理由はない。俺っていう人間の姿。
H:それは、相棒でドラマーのロブも同じ? 映画にあったように音楽制作中は激しくぶつかることもあるけど、40年以上連れ立っている、夫婦(めおと)のような関係ですが。
L:若造の頃に出会って以来、俺ら二人の好きな音楽は変わっていない。12歳からハタチくらいにかけてのめり込んだ音楽って、必ず残りの人生を共にしていく音楽になるから。
H:だから、世界のどこの国でも、親父バンドはアツい。10年前のリップスさんのように、生計を立てるため必ずしも好きとはいえない仕事をしながらも、空いた時間を見つけては、音楽仲間と楽器をピックする。
L:音楽は、青春であり、若返りの泉であり、生き血であり、自分の歴史の一片。どんなに年老いてもついてくる。それを諦めて失いたくはないよね。誰でも人生のどこかには、音楽と繋がっているライフステージがあって、若い頃にのめり込んだ音楽は、老いた自分の中に留めておきたくなる。手放したくないんだ。だから、60歳になっても週末にギターを爪弾いたりする。それが自分と“若さ”を繋ぎとめておくもの。いくら歳を重ねても、自分の歳はなかなか受け入れられないけど、音楽を演奏している最中は、年齢なんてなんの意味もなくなる。数字の概念なんてぶっ飛ぶんだよね。少年に戻る感じ。
H:40年ずっと少年、アンヴィル。バンドをはじめたときの夢はなんでしたか?
L:音楽で生計を立てること。何万ドルを稼ぐってわけじゃないぜ。食べていくのに困らないくらいのお金を稼ぐってこと。ギターを演奏するために、自分の音楽をするために、観客の前に立つために、その場しのぎの仕事に行かなくてもいいこと。この夢は、いまもまったくもって変わっていない。で、いまになって、その夢のままに生きているから。
H:40年研磨してきたメタルのへのヘビーな想いと、鉄のように強靭な忍耐の賜物。
L:忍耐力は、クソみたいな音楽業界に耐えるためのスキルだ。
H:アンヴィルにとって、メタルは、クソみたいな音楽業界と闘う“盾”みたいなもの?
L:そうだね。闘いだったね。俺たちには生き残るための渇望があった。心身両方のサバイブ。適者生存*みたいな。多くの人が、自己満足や勝利を即座に求めるだろう。で、それがすぐに獲得できないとわかると、じゃあ次って。これじゃ、幸せは見つからないよ。少なくとも俺の場合はね。俺は、成功してもしなくても、好きなことをする。自分の人生の時間でなにをするのか、人生をどう生きるのか。人生からどれだけのたのしみを勝ち取っていくのか。それだけのことだ。俺は金があってもなくても、好きなことをやっていたい。この地球で生きる限られた時間のなかで、どれだけたのしめるか。
*生存競争において、ある環境に最も適した生物が生存し得るという考え。
H:そろそろ、ライブの時間です。正直、84年の西武球場のような大きなスタジアムでまた演奏したいと思ったことはありますか。
L:大きなスタジアムで演奏できるかどうかなんて、どうでもいい。俺が思うに、本物のメタルの生き血が騒ぐ場所って、小さなライブハウスにあると思う。ファンと面と向かうとき、これがサイコーなんだな。
H:メタルは生き血。
L:メタルはただの音楽ジャンルじゃない。それ以上のものだ。生き方だ。うん。
H:いつの時代もどこの国でも、メタルを生き血として毎日を過ごすメタラーはいますが、やはり全盛期に比べると、正統派メタルは時代遅れな感じも否めません。ギターロック界は、全体的にマイナーコード気味というか。
L:そう言えるかもね。
H:でもメタル親父の代表格アンヴィルは、時流に逆らってもメタル。どうしてもメタル。
L:時々さ、古いものが新しいものになる瞬間ってのがある。たとえば、親父世代が聴かなくなった音楽をある日突然キッズが掘り起こして、新しい音楽として貪り聴いたり。
H:そんな未来のメタラーキッズのためにも、頑固なメタル親父のためにも。今夜も翌晩も、アンヴィルはメタルしか演奏しません。
Interview with Lips from Anvil
ツアークルーのジョン(23歳)。「父親がメタル好きでね。アンヴィルに会ってから、ツアーを手伝うようになったんだ」。
Photos by Kana Motojima
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine