12月・1月のテーマは「懐かしの映画・ドラマで放たれた、登場人物の決め台詞」。大人ぶって意味もわからず観た映画、ビデオデッキの奥からほこりをかぶって出てきたドラマ…あのシーンで言っていた“あの台詞”を解剖する。
1、「Listen, you f**ers, you screwheads.(よく聞け、バカども、気狂いどもめ)」
—大都会、孤独な男の狂気を殴り描く『タクシードライバー』
ニューヨークは、いつどこにいても混んでる。人の足がもつれ合うように交差する街なのに、孤独な街でもある。ウソだろうと思うかもしれないけど、ほんとうなのだ。一歩外に出たら賑やかな群衆がいるのだけど、賑やかになれば賑やかになるほど、自分は大群から迷子になったイワシのような気持ちになる。
マーティン・スコセッシのど根性映画『タクシードライバー(Taxi Driver、76年)』。主人公・トラヴィスも孤独な男だった。ベトナム帰還兵で不眠症、その日暮らしのタクシー運転手をしながら、独りポルノ映画館に通う。だんだんと気がおかしくなっていき、ある日鏡に映る自分に向かって「You talkin’ to me? (俺に用か)」。映画史に残る不朽の独り芝居だ。そして、同シーンで続く「Listen, you f**ers, you screwheads, here is a man who would not take it anymore.(よく聞け、バカども、気狂いどもめ。俺はもう我慢はしない)」。「screwheads(スクリューヘッズ)」、直訳すると「ネジ頭」だが、俗語では「頭のおかしい、気狂い」の意味。「fuckers(あ、全部書いてしまった)」と同じくらいとても不品な言葉なので、実際に使うことはお勧めできないが。
2、「Can you dig it? Can you dig it?(わかったか? わかったか?)」
—カルト的人気を誇るストリートギャング映画『ウォリアーズ』
ボクシング映画の金字塔『ロッキー』や『レイジングブル』など、暑苦しいというか、汗臭い映画というのは一定数あるが、この映画でも漢(おとこ)の汗がほとばしる『ウォリアーズ(The Warriors、79年)』。
舞台は70年代のニューヨーク。さまざまな派閥のストリートギャングたちがわんさか出てくる。バイカーズ野郎のような「ローグス」や、野球バットが武器の「ベースボール・フューリーズ」、黒人だけの「グラマシー・リフス」、女だけのチーム「リジーズ」などなど。で、主人公はタイトルにもなっている上半身裸にベストの「ウォリアーズ」。敵ギャングから逃れ自分の縄張りに戻るまで、彼らは犯罪にまみれた汚いストリートやグラフィティだらけのサブウェイをくぐり抜ける。この映画の影響で実際にギャングの抗争や殺人事件が起きてしまったという、いろんな意味でヒリヒリが止まらない作品だ。
名シーンは、集会で中心ギャング「リフス」の大ボス・サイラスが叫ぶところ。ニューヨーク中のギャングの数は、警察の数よりも多い。だからお互いの派閥争いはやめて一丸となり、街を取り戻そうじゃないか、と訴える。そしてトドメの「Can you dig it? Can you dig it?」。「Can you dig it(キャン・ユー・ディグ・イット)?」は、「理解したか?」「わかったか?」の意味だ。小話だが、集会のシーンにいた1000人のエキストラには、実際のギャングメンバーもいたのだとか。
3、「My little droogies.(俺の仲間たちよ)」
—暴力、狂気、右目のつけまつげ。キューブリックの世界観『時計じかけのオレンジ』
彼ら不良少年たちが劇中で話す言葉は、原作者アンソニー・バージェス考案の造語「ナッドサット言葉」だ。英語のスラングとロシア語を混ぜこぜにしたものだという。このナッドサット言葉でアレックスが、仲間をこう呼ぶシーンがある、「my little droogies(俺の仲間たちよ)」。「droog(ドルーグ)」は、ちんぴら、ギャングの一員を指すスラングだが、ナッドサット言葉では、「友だち」と翻訳するのだ。
4、「Fear is the path to the dark side(恐怖は暗黒面への入り口だ)」
—説明不要の一大銀河系スペクタクル『スターウォーズ』
非常に言いにくいのだが、『スターウォーズ』を一度も見たことがない。見ておいた方がいいとは思いつつ、数十年。未だヨーダやアナキンはどこか遠い存在である。
スターウォーズマニアはもうこの台詞を知っていると思うが、スターウォーズ名言投票、心に響くあの台詞などで必ずといっていいほどランクインするのが、ジェダイ評議会でヨーダが若きアナキン・スカイウォーカーに説くこの格言(これが発せられたのは99年公開の『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』。スターウォーズの第1作目は77年『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』)。
「Fear is the path to the dark side. Fear leads to anger. Anger leads to hate. Hate leads to suffering.」。訳すと「恐れはダークサイド(暗黒面)に通じる。恐れは怒りに、怒りは憎しみに、憎しみは苦痛へ」。スターウォーズの舞台は「銀河共和国」という国家で、正義の心をもつジェダイ(騎士)が扱うフォース(不思議な力)をライトサイド、怒りや恐怖、憎悪や欲望に陥ったジェダイライトが扱うフォースがダークサイドと呼んでいる。誰でも感じる“恐れ”、これに打ち勝たないとどんどんダークな世界へとはまっていってしまうということだ。うーむ、深いぜ、マスター・ヨーダ。銀河共和国外、つまりここ地球でも、心の闇や人生や社会などの悪い部分(暗黒面)という意味で「dark side(ダークサイド)」は日常会話に頻出のボキャブだ。
5、「That’s a rather tender subject.(それは微妙な問題ですね)」
—セクシー&チープ感、B級フェティッシュな愛されミュージカルホラー『ロッキー・ホラー・ショー』
最初見たとき、クイーン(英ロックバンド)のフレディ・マーキュリーかと思った。同じ英国生まれの映画『ロッキー・ホラー・ショー(The Rocky Horror Picture Show)』の主人公は、ド派手なメイクにボンテージ姿で女装したフランクン・フルター博士。ドラァグクイーンのようなセクシーな彼は、トランスセクシャル星(性別のない星)から来た宇宙人らしい。
ある日、フランクン・フルター博士の古城では異星人の研究をしていたスコット博士がディナーに招かれていた。スコット博士は、甥のエディを探しに来ておりフランクン・フルター博士に「エディのことで話をしたいのだが」と切り出す。するとフランクン・フルター博士は「That’s a rather tender subject, another slice anyone?(それは微妙な問題ですね。もう一切れいかがですか)」と肉を切り、話題を変える。エディの件に関しては触れてほしくないといったようだが、実はフランクン・フルター博士、すでにエディを殺害していたのだった!(ということは、この肉ももしやエディ…?)!
「tender subject(テンダー・サブジェクト)」は、微妙な問題、ちょっと腫れものの話題という意味。おどろおどろしいキッチュでチープなホラー映画だが、いまでもミッドナイトシアターで上映され続けているロングラン・カルト作。ちなみにあのローリング・ストーンズのミック・ジャガーもフランクン・フルター博士役を演じたいと切望していたらしい。ミック・ジャガー版もみてみたかった。
そして中毒者が続出したあのドラマのセリフたち。
「You four-eyed pile of shit!(このクソメガネ野郎が!) 」
おたのしみに!
▶︎このクソメガネ野郎が!—『E.T.』『スタンド・バイ・ミー』青春の置き土産、80s名台詞を解剖。AZボキャブラリーズ
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Illustration by Kana Motojima
Text by Risa Akita, Editorial Assistant: Kana Motojima
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine